著者
田島 悠史 小川 克彦
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.57-64, 2012

環境芸術学の分野で取り上げられるテーマとして、美術館外で展開されるアートプロジェクトがある。近年では、地域活性化などの動きと連動するものが急増している。アートプロジェクトは開催地、主催者、予算、作家のタイプ、規模など、さまざまな要素によって、その立ち位置は全く異なる。そのため、アートプロジェクトが地域活性化において、どの役割を担っているかを整理して、効果的な作品や企画の条件を明らかにすることが急務である。そこで、本研究ではアートプロジェクトで展開される芸術作品の役割として、地域メディアを提案する。さらに、地域メディアの役割を果たす芸術作品や芸術家の条件を明らかにする。本稿では、現在増えている「ボトムアップ地方型アートプロジェクト」に着目する。その上で、研究に際してはアートプロジェクトの現場に長期間滞在し、観察、鑑賞者や芸術家、関係者との発話の収集、アンケート調査を行った。その結果、地域メディアの条件として、人を参画させる点にあると結論付けた。具体的には、1)住民参加、2)人を含めた「環境」の芸術化、3)社会的アクティビティに対する実効性、4)地域メディアとしての芸術家、の四つを抽出した。
著者
本田 悟郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.80-86, 2012-11-24 (Released:2018-04-04)

本論では、今日のアートプロジェクトにみられる人々と芸術作品との関わりについて、理論的背景から考察を加えた。特に作品受容の理論のなかでも作品と鑑賞者の関係を捉えた二名の論述から検討をする。アメリカのジョン・デューイ(John Dewey/1859-1952)とイタリアの美学者ウンベルト・エーコ(Umbert Eco l932-)である。また、日本におけるアートプロジェクトの展開を踏まえ、筆者も協力し2010年に栃木県宇都宮市で開催された比較的小規模なアートプロジェクトを一事例に挙げ、考察の対象とする。本研究では、創造性が表現と鑑賞の両面において発揮されることを前提とするが、特に鑑賞においては、美的経験が作用しコミュニケーションが誘発される。このような特徴は通常の作品鑑賞よりもアートプロジェクトに顕著だと言えよう。本研究は、日常の生活と密接な今日のアートプロジェクトにおいて、作品鑑賞の意味がどのようなものに変貌したかを考察し、芸術作品の鑑賞やアートプロジェクトの創造的な価値を根拠づける理論的考察である。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.3, pp.1-8, 2003-10-22 (Released:2017-10-06)

本論は1970年代から1980年代初頭にかけて試みられた彫刻シンポジウムにおける彫刻余の共同制作に着目したものである。その成果物のいくつかは、彫刻というより造園作品といえるもので、ランドスケープデザインの観点から分析する価値がある。共同制作を支えた思想や手法を明らかにし、その成果について考察を行った。彼ら彫刻家がランドスケープの公共性に着目しつつ、一個人の個性に依存しないアノニマスな性質をもつデザインを目指したこと、複数の参加者の意志を統合するために、長時間をかけたディスカッションを行っていたことなどを明らかにした。これらは、ランドスケープデザインの質について考える上で有用な事実である。
著者
柴田 葵
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.48-56, 2012-11-24 (Released:2018-04-04)

本稿では、「彫刻シンポジウム」(Bildhauersymposion/sculpture symposium)の初期(1959年から1970年まで)の歴史を記述し、シンポジウムの理念と担い手の変遷について論じることを目的とする。彫刻シンポジウムは、冷戦構造下のヨーロッパの政治状況を背景として、1959年ザンクト・マルガレーテン(オーストリア)の石切り場で誕生した芸術活動である。1956年のハンガリー動乱を背景に、58年に彫刻家カール・プラントルが制作したモニュメント「境界石」が、彫刻シンポジウムを生む直接の契機となった。プラントルは、新時代の彫刻のあり方として、「石切り場における芸術」を提唱し、さらには芸術家のエゴイズムを克服しうるユートピア的な共同体を、彫刻シンポジウムの中に見出す。彫刻シンポジウムは、次々と他地域に飛び火し、1960年代には国際的な芸術運動としての様相を呈するに至った。マルガレーテン、フォルマ・ビバ、リンダブルンなどの.主要な彫刻シンポジウムは、彫刻家同士の創造性を触発し、世界各地で新たなシンポジウムを生み出す孵化装置としての役割を果たした。それと同時に1960年代半ばから、彫刻シンポジウムにおける主体と目的に根本的な変容が見られ始めた。作家主導からパトロン(行政・企業など)主導へ、創作プロセスの重視から完成作品の恒久設置に力点が置かれるといった傾向が見られるようになる。シンポジウムの多様化にともなう理念の揺らぎ、シンポジウムそのものへの本質的懐疑など、60年代にはシンポジウムに対するあらゆる批判・議論が噴出することになった。彫刻家たちによる1970年の2つのプロジェクト-都市計画「ステファン広場」と環境造形「日本の溝」は、このような諸問題に対する作家からの応答としてなされたものであった。
著者
近藤 晶
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.39-42, 2013-10-26 (Released:2017-10-06)

筆者はこれまで、Web上でのインタラクティブなコンテンツを制作するため、WebカメラとActionScript3.0を使用してきた。このWebデザイン業務で培った技術や知識を応用し、福井市の地域活性化プロジェクトなどでインタラクティブアート作品の制作・展示を行っている。最初の作品は単純なプログラムであったが、機能の追加・修正を行った結果、Webデザインで使用される技術を用いた制作手法に一定の可能性を確認することが出来た。以上のことから、2011年に行われたシンサカエ・ナイト・ミュージアムと2012年に行われた上味見雪まつり前夜祭の制作研究報告を行う。本論文では二つの作品に使用したプログラムの概要とそれにより可能となった視覚表現について説明すると共に、鑑賞者の行動の変化について報告を行う。
著者
橋本 忠和
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.9-16, 2009

身近な環境を造形物で異化する美術の授業を行おうとした時、活動に同意しない児童が出てきた。これは、環境を異化する必然性が見いだせなかったことが原因と思われた。そこで、本論では、クリスト&ジャンクロードのザ・ゲーツプロジェクトにおける環境を異化する必然性についての分析を手がかりに、児童が主体的に環境を異化する造形活動について考察する。近年、都市・地方を問わず、生活環境の中で造形活動を行う取り組みが盛んに行われている。そこでは、造形活動が環境を異化することで、身近な環境への気づきをもたらし、人間と環境が関わる意味を増幅して引き出していると思われる。しかしながら、ザ・ゲーツプロジェクトが実現に25年を要したように、環境を異化する造形活動は日常生活に制約や心理的不安を与える場合もあり、その活動を行う必然性について住民に説明して理解を得るのに、多くの時間と労力を必要とする場合がある。それは、児童が行う環境を異化する造形活動においても同様と思われる。すなわち、児童が身近な環境を異化する必然性を見いだすことができなければ、主体的な環境への働きかけは行われないと思われる。そこで、まず、「一貫性」、「分かりやすさ」、「複雑性」、「ミステリー」の4つの観点で、ザ・ゲーツプロジェクトにおける環境を異化する必然性について分析した。そして、その分析を手がかりに児童が主体的に環境を異化するために、どのような要素で造形活動を構成すればよいのかについて考察した。さらに、その要素を生かした授業実践例の開発に取り組んだ。
著者
八木 健太郎 竹田 直樹
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.9-12, 2006

1980年代のアメリカで進んだパブリックアートの変化の過程とその要因を明らかにすることを目的とする。議論の出発点として、初期のパブリックアート導入の枠組みを整理し、近代建築を背景とする巨大な抽象彫刻というアメリカにおける典型的なパブリックアートのイメージが形成された背景を示した。次にそうした作品に対する社会的な議論を分析することでその問題点を整理し、その後の新しい取り組みの基盤と枠組みとして、場所の特つ物理的特性だけでなく社会的特性を考慮する必要性と、作品に対する議論が公共性を獲得する要因となりうることを示した。さらにこうした問題点を解決することを目指して行われた取り組みについて分析した。その結果、パブリックアートが変化した要因として、冷戦時における政治的宣伝という役割を終えたパブリックアートが、社会から新たな公共的な役割を求められるようになったこと、美術作品の自律性に対するアーティストの側の姿勢が変化したことという二つの要因があることを明らかにした。
著者
土屋 和男 塩見 寛
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.9-16, 2002-10-21 (Released:2017-10-06)

火の見櫓は、昭和20年代から40年代頃には、全国にくまなく建設されたが、現在では漸次撤去されている。火の見櫓には景観資源としての可能性が認められる。すなわち、集落の景観構成上、要所に位置していることが多く、一景観要素としても、頭頂部等に特徴的な意匠を見せ、地域のランドマークとなっている。本論では、静岡県内を主たる対象地域として火の見櫓の現況を示し、かつてコミュニティがつくりあげ、どこにでも存在した環境造形として火の見櫓をとらえなおし、その造形的側面からの可能性を考察した。調査の結果、火の見櫓は静岡県内に約1000基残存している。これらを、立地と景観および形態的な特徴とから考察した。火の見櫓は同じ造形をもつものがほとんどなく、それらはタイプとそのヴァリエーションという2つのレヴェルにおいて、差異を生みだすしくみが見られる。火の見櫓の造形を通した可能性としては、次の2点からその活用を提案した。1) まちづくりのきっかけ その数の多さから、小さな地域単位での環境史を伝える遺産としてその造形を考えること。2) デザインにおける差異考察の資料 その造形の多様さから、環境に応じた個性とは何かを考えること。
著者
竹田 直樹 八木 健太郎
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.77-84, 2013-10-26 (Released:2017-10-06)

本研究は、都市空間に進出したサブカルチャーコンテンツの類型化と整理、ならびに、こうした事例の人々による受容形態の類型化と整理を試み、サブカルチャーコンテンツの都市空間における性質の一端を考察するものである。フィクショナルな物語として製作され、受容されてきたサブカルチャーは、これまで、現実世界とは無関係な存在であった。だが、その受容者は、このところ現実世界をそのフィクショナルな物語に沿う形で、読み替えてとらえるようになっている。ついには、その読み替えは現実世界に、実体のある彫像や建築や環境や施設となって設置、建設、保全されるようになり、現実世界は書き換えられている。都市空間に進出したサブカルチャーは、単なる余暇の娯楽にとどまらず、日常の生活に深く浸透した、新たな信仰の対象とも言える地位を確立しつつあるのかもしれない。
著者
八木 健太郎 竹田 直樹
出版者
環境芸術学会
雑誌
環境芸術 (ISSN:21854483)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.65-70, 2010-03-31 (Released:2017-10-06)

日本のパブリックアートは自治体の彫刻設置事業として始まった。これは世界的にも先駆的であったが、こうした日本のパブリックアートがその後どのように展開し、変化したのかを明らかにすることが目的である。アメリカにおける状況とも比較しつつ、彫刻設置事業以後のわが国のパブリックアートを巡る制度やプロジェクトを類型化し、その変化過程を示した。その結果、わが国においてはパブリックアートをめぐる議論は比較的乏しかったものの、1980年代から90年代にかけて、彫刻設置事業としてのパブリックアートが持つ問題点を解決するための興味深い変化が現れていることが明らかになった。1)都市開発事業と密接な関係を築き、都市や建築空間と一体となることにより都市の付加価値向上を実現する、2)彫刻などのアート作品を恒久的に設置する事業から、期間を限定してテンポラリーに作品を展示するプロジェクトへ移行する、3)作品の制作あるいはイベントの企画・運営を通して地域社会と密接な関係を構築する、という三つの変化の方向性が明らかになり、ほぼ同時期にアメリカにおいて見られたパブリックアートの変化とはまた異なる独自の展開を見せていることが示された。