著者
森下 正修 本島 優子 Masanao MORISHITA Yuko MOTOSHIMA
出版者
京都府立大学福祉社会学部福祉社会研究会
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
no.4, pp.41-51, 2004

本研究では、親が子どもについて日常的に抱いている発達への期待と、子どもに対する叱る行為、および子どもの行動実現の三者の関係について検討した。設定された7領域の行動のすべてにおいて、当該行動についての親の発達期待が高いほど子どもの行動実現も進んでいることが明らかとなった。ただし、親の発達期待の高さは叱る行為の増加には必ずしもつながらないこと、また叱る行為の持つ行動実現への効果はほぼ認められないかもしくは負の影響を及ぼすことが示された。こうした結果から、親が子どもに対して抱いている素朴な発達期待は、ある行動ができないことを叱るという行為を媒介せずに、他の何らかの意識的・無意識的な方法を通じて、子どもの行動の獲得を促進させることがわかった。
著者
河野 高志
出版者
京都府立大学
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.91-105, 2007-03

現在ケアマネジメントは、介護保険サービスの提供方法として知られるようになってきたが、そこにはいくつかの間題が指摘されている。そこで本論文では、ケアマネジメントの登場と発展について、アメリカ・イギリス・日本を比較してみることで、各国のソーシャルワークとケアマネジメントの関係性を考察する。そこから、日本のケアマネジメントの問題はソーシャルワークの視点の欠如に起因していることを指摘する。また、ソーシャルワークの歴史のなかにケアマネジメント的機能があったことを明らかにすることで、ケアマネジメントをソーシャルワークのひとつのアプローチとして位置づける必要性を論じ、さらにソーシャルワークにおけるケアマネジメント・アプローチの基本的枠組みを提案する。そして最後に、ケアマネジメント・アプローチの実践展開に向けた課題と今後の展望をあげ、ソーシャルワークの立場からケアマネジメント研究を行う意味を述べる
著者
小沢 修司
出版者
京都府立大学
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.2-11, 2000-06

1980年代以降、戦後「福祉国家」体制の動揺のなかでさまざまな再編、見直し論議が盛んに行われてきている。本稿では、ベーシック・インカム構想を取り上げ、その系譜の説明、類似の提案である負の所得税、参加所得、社会配当との比較検討などを行いつつ、アンチ「福祉国家」の租税=社会保障政策論として、自由主義者から社会主義者、エコロジストやフェミニストなど幅広い立場から多くの関心を集めている根拠を探っている。ベーシック・インカム構想が支持されているのは、人々を性別分業にもとづく核家族モデルから解き放ち、資力調査に伴うステイグマや「失業と貧困の罠」から解き放ち、不安定度が強まる労働賃金への依存から解き放ち、労働の人間化や自主的市民活動の広範な発展に寄与することが期待されているからである。ただ、労働と所得の切り離しの是非、公務労働の役割についてなど今後解明されるべき論点も残されている。
著者
津崎 哲雄
出版者
京都府立大学
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.37-60, 2006-03

19世紀末から1930年代の英国において、救貧法下の救貧委員・地方政治家・下院議員・労働党党首として貧窮者・失業者・労働者の生活向上に尽したジョージ・ランズベリの生涯を鳥瞰し、救貧制度改革・セツルメント運動(および慈善組織協会活動)・非戦平和運動における彼のユニークな貢献を検討する。救貧制度改革ではワークハウス処遇改革・王立救貧法調査委員会少数派報告・ポプラリズムへの貢献、セツルメント運動ではその社会階層性批判、非戦平和では「福祉と平和」のための非戦平和運動に果たした希有な役割、を検討し、英国ソーシャルポリシー・ソーシャルワークの歴史記述に新たな視点を提供している。
著者
今西 順一 Jun-ichi Imanishi
出版者
京都府立大学福祉社会学部福祉社会研究会
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
no.2, pp.50-63, 2001

本論文は、現行法制度の原則である民刑分離の下で、どのような制度が最も効果的に、犯罪被害者の財産的損害の回復を行うことが可能なのかを考察したものである。1章では、被害回復の方法の基本となる、民事手続においての被害回復について述べる。この方法は被害者が加害者に対して、(1)民事裁判を提起するか、(2)示談を成立させることが考えられる。しかし、これらの方法は損害回復の実効性に乏しいものである。というのも、加害者が無資力の場合、被害者は為す術がなく、泣き寝入りせざるを得ないからである。2章では、わが国の「犯罪被害者等給付金支給法」について述べる。この制度は犯罪被害者に対して、国家が見舞金を支給するというものである。ただ、この制度はその性格上、被害者の損害を補填するものではない上に、財源を税金によっているため、被害者救済の範囲も自ずと限界がある。3章では、実効性の高い損害回復制度として、犯罪者からの没収・追徴財産、罰金等を基とした、被害者救済基金のわが国への導入の可否について述べる。この制度はわが国でも実行が容易で、かつ効果的な被害者救済を行うことが可能と考える。
著者
小沢 修司
出版者
京都府立大学
雑誌
福祉社会研究 (ISSN:13471457)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.40-49, 2001-07

ベーシック・インカムの持つ所得と労働を切り離す側面に焦点をあて、資本主義社会において所得保障と労働(賃労働)が結びついていることの意味をA.ゴルツの所論によりながら検討し、ベーシック・インカム保障が大幅な労働時間短縮とワークシェアリング、就労支援政策や自発的な社会貢献活動の活性化政策と結合することが重要であるが、就労を所得保障の条件とするようなワークフェア政策とは一線を画すべきであることを論じた。次いで、消費論からみた所得と労働の関係性も検討し、労働時間の短縮によってゆとりある生活を行うことが、加速化する消費主義の熱を冷まし「浪費と働きすぎの悪循環」(ショア)というもう一つの所得と労働の関係を人間化することにつながることを論じた。