著者
野本 真由美
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.77, no.3, pp.265-269, 2015-06-01 (Released:2015-10-01)
参考文献数
15

従来の痤瘡治療は毛包漏斗部の角化異常および皮脂分泌の亢進に対する薬剤やアクネ菌に対する抗菌薬が中心に用いられている。しかし,再発を繰り返す難治性の患者は,治療に十分満足しているとは言い難い。また痤瘡は顔面に好発することから患者の心理負担も大きく,短期での治療効果がより一層求められる疾患と考える。十味敗毒湯に配合される桜皮には皮膚線維芽細胞からのエストロゲン産生誘導作用が報告されており,従来治療とは異なるアプローチが期待される漢方薬である。そこで従来治療では難治な尋常性痤瘡患者 122 例を対象に,短期治療を目的として,桜皮配合の十味敗毒湯を治療開始時から通常量の 1.5 倍量 (9.0 g/日)で 3 週間投与し,有用性を検討した。評価方法は患者の満足度を重視して,3 つの項目「①皮疹数の減少,②再発率の低下,③再発しても治癒までの期間が短い」のいずれかが確認された場合を「改善」とし,「改善」「不変」「悪化」の3 段階で判定した。その結果,79.5%の改善率が認められた。また他の漢方薬から変方した患者の改善率は 78.4%であった。なお本剤に起因すると思われる副作用は認められなかった。以上のことから,難治な尋常性痤瘡に対し短期間での治療効果を期待するには,薬剤の適正量を考慮することが重要であり,桜皮配合の十味敗毒湯を治療開始時に高用量で投与し,症状の改善に応じて適宜減量することが有用であると考えられた。
著者
土肥 孝彰 上田 勇輝 石井 律子 赤塚 正裕
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.48-56, 2012
被引用文献数
4

アトピー性皮膚炎(AD)治療時にスキンケアとして用いられる保湿剤(ヘパリン類似物質含有製剤,白色ワセリン,尿素製剤)および炎症の鎮静に使用されるステロイド外用剤(プレドニゾロン製剤)ならびにタクロリムス製剤の皮膚バリア機能に及ぼす影響を検討した。実験的モルモットドライスキンモデルを用いて,経表皮水分蒸散量(TEWL)および電子顕微鏡により表皮の角層/顆粒層境界域を観察した。ヘパリン類似物質含有製剤は基剤塗布と比較して有意にTEWL が低下し,皮膚バリア機能回復作用が認められ,尿素製剤,白色ワセリンおよびプレドニゾロン製剤と比較して皮膚バリア機能回復作用は有意に優れており,タクロリムス製剤と同程度であった。また,ヘパリン類似物質含有製剤塗布により,角層/顆粒層境界域で層板顆粒の分泌が盛んになり,層状構造物が多数認められた。さらに,<I>in vitro</I> にてラメラ液晶構造の形成促進作用を検討した。ヘパリン類似物質は著しく強いラメラ液晶構造形成促進作用を示し,タクロリムスも有意な促進作用を示した。以上,ヘパリン類似物質の皮膚バリア機能回復作用にはラメラ液晶構造の形成促進が関与しており,優れた水分保持機能と合わせ,乾燥症状主体のADにおいて,有用性は高いと考えられた。また,タクロリムス製剤はプレドニゾロン製剤と異なり,抗炎症作用だけでなく,皮膚バリア機能回復作用を有し,ADの寛解導入および維持療法に有用であることが示唆された。
著者
菊地 克子 小澤 麻紀 相場 節也 森田 栄伸
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.65-71, 2013

2009 年 11 月から 2010 年 5 月の間,東北大学病院および島根大学医学部附属病院を定期的に受診し外用ならびに内服治療によって症状が安定している 20 歳以上のアトピー性皮膚炎患者 40 例の顔面に対し,スキンケア指導とともにスキンケア剤を 8 週間使用した。担当医師は,試験開始時に患者に対し洗顔や保湿方法を指導し,スキンケア剤として乾燥性皮膚に対し開発された「ノブ <sup>®</sup> シリーズ」を使用させるとともに皮膚生理機能と QOL への影響を検討した。全例において 8 週間の継続使用ができた。1 例において塗布部位での紅斑と乾燥の軽度の悪化を認めたが,試験品との因果関係は不明であった。試験開始時および終了時に担当医師による皮膚所見を得て,さらに角層水分量,経表皮水分喪失量,皮表脂質量,テープストリッピングにより得た皮表角層細胞の細胞面積,角層中のセラミドおよびロリクリンなどを測定し,皮膚疾患特異的 QOL 尺度である Skindex-16 とともにそれぞれに有意な差を認めた。これらの結果から,医療治療によって症状が安定しているアトピー性皮膚炎患者に対し,適切なスキンケア (スキンケア指導およびスキンケア剤) が皮膚生理機能と QOL を改善することが明らかとなった。
著者
矢作 榮一郎 赤坂 江美子 加藤 正幸 生駒 憲広 馬渕 智生 田宮 紫穂 小澤 明
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.74, no.6, pp.599-603, 2012
被引用文献数
1

症例 1 : 62 歳,女性。1990 年頃から顔面,前胸部に皮疹が出現した。臨床および病理組織学的所見から,汗管腫と診断した。サリチル酸ワセリン,活性型ビタミン D<sub>3</sub> 誘導体,アダパレンのそれぞれの外用により臨床的治療効果を比較した。そのうち,アダパレン外用部位では,約 4 週間後に皮疹の平坦化と個疹の減数を認めた。症例 2 : 70 歳,女性。2009 年頃から外陰部に皮疹が出現した。徐々に個疹は増数し,疼痛が出現した。臨床および病理組織学的所見から,汗管腫と診断した。ステロイド外用療法では改善がなく,アダパレンの外用療法を試みた。その結果,皮疹の平坦化と疼痛の改善を認めた。両症例で外用療法開始約 1 ヵ月後に再度生検を施行したところ,病理組織学的に管腔構造の減少を認めた。汗管腫に対する治療の一つとして,アダパレン外用療法の臨床的有用性が示唆された。
著者
竹内 藍子 菅野 重
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.70, no.6, pp.597-600, 2008
被引用文献数
1

69歳,女性。初診の8ヵ月前より右耳輪下部に強い疼痛を伴う紅色結節を自覚していた。初診時,右耳輪部に小豆大で熱感のある,中心に痂皮を伴った紅色硬結を認めた。数回の切除を施行するも明確な病変の病理組織所見は得られず,切除後も再出を繰り返していたが,4回目に切除した病理組織所見で,真皮のリンパ球を主体とした炎症細胞浸潤と毛細血管の拡張・増生,フィブリノイド壊死を認め,chondrodermatitis nodularis chronica helicis(CNCH)と診断した。自験例では右側臥位で寝ることが多く,持続的な圧迫がかかり,本症の誘因になったと考えられる。また,治療方法について文献的考察をふまえて報告する。
著者
金丸 志保 井上 知宏 室井 栄治 持田 耕介 成田 幸代 日高 利彦 瀬戸山 充
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.145-148, 2013-04-01 (Released:2013-06-24)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

77 歳,女性。31 歳時関節リウマチを発症した。72 歳時よりエタネルセプトの投与を開始したが無効のため,75 歳時よりアダリムマブへ変更し投与を開始した。初診の 1 ヵ月ほど前より左頬部にドーム状に隆起する表面平滑な直径 1 cm の紅色結節が出現した。皮膚生検にてメルケル細胞癌と診断され,当科に紹介された。診断後,アダリムマブの投与は中止した。拡大切除,術後放射線治療を施行し,術後 3 ヵ月の現在,再発を認めていない。生物学的製剤の長期使用に伴う免疫抑制状態によりメルケル細胞癌を生じた可能性を考えた。
著者
三好 経子 高須 博 宮田 聡子 矢口 厚 太田 幸則 勝岡 憲生
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.603-607, 1998-10-01 (Released:2010-10-15)
参考文献数
19
被引用文献数
1

46歳, 男性。骨髄線維症で北里大学医学部附属病院血液内科入院中に, 下腿に有痛性の隆起性紅斑が生じ同院皮膚科受診となった。初診時, 左下腿外側上方に拇指頭大で紅色の浸潤を有する結節性の紅斑が認められた。右下腿伸側から内側にかけては小児手拳大, 暗紅色の消退傾向にある浸潤性紅斑が認められた。その後も同様の紅斑が下腿や前腕などに出没した。無治療で経過観察していたところ, 初診から約1ヵ月半後に右下腿伸側に胡桃大, 暗紫紅色で軟らかな出血性の紅斑が再発し, その組織像では, 真皮中下層から脂肪織にかけて, 瀰漫性および巣状を呈する多数の好中球と出血が認められた。生検部位は直ちに難治性の潰瘍となったが, ステロイド剤の内服と局所処置の徹底により上皮化した。紅斑はその後も増悪·寛解を繰り返し, 皮膚病変と骨髄線維症の病勢とに相関があり, 自験例の紅斑は, 骨髄線維症に関連して生じたものと考えた。ステロイド治療の継続により皮膚病変はしばらく寛解期が継続していたが, 骨髄線維症の進行と肺炎の合併により死亡した。