著者
曽田 修司
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.25, pp.27-40, 2018-01

2016年以来、コンサート等のチケット転売問題が、社会的な注目を集めている。このうち、個人の事情に起因する転売のニーズヘの対応は、公式転売サイトの設立によってほぼ解決が可能である。残る課題は、主催者側が依然として抽選制によるチケット販売方式にこだわっているためにファンがチケットを人手しづらい状況を作り出していること、その結果としてネット上のオークションサイトで異常な高値でチケットが転売されていること、さらに、組織的な営利目的の転売業者の大規模な参入により転売の利益が音楽業界以外に流出しているという構造的な問題の解決である。本論考では、これらの複合的な課題を総称してチケット高額転売問題と呼ぶ。音楽業界の収益構造における収入源の主力が、CD・レコードの販売や音楽配信などからライブ・コンサートに移行しつつある現在、チケット高額転売問題は、音楽業界が業界をいかに成り立たせ、新たな才能の発掘や音楽環境の整備など、将来に向けてどのように持続可能性を高めていくかという問題と直結している。これまでのところ、チケット転売を抑えるための方策として「本人確認」を厳格化することがしばしば行われているが、このやり方では、チケット購入者の側の「ルールの遵守」義務が前面に押し出され、もっぱら購入者のモラルが問題とされるのみで本来の課題の所在が明確になっていない傾向が見られる。 本来は、社会における公正とは何かという観点から、供給者(コンサートの主催者)の側で需給のバランスをどう取って極端な需給ギャップが生じないようにするかという視点からの適切な制度設計が望まれる。また、善良な音楽ファンを経済的負担と心理的負担のダブルバインドに陥らせないような効果的方策の導人を業界全体として早急に検討することが必要である。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-24, 2010-03

旅館主が地域振興に大きく貢献した例は別府の油屋熊八など全国に数多く存在するが,油屋など一\n部の例外を除き必ずしも伝記等で事跡が解明されているわけではない。その背景には旅館業の多くが家業として個人経営の形態で運営され情報公開されることも少なかった事情もあろう。\n今回取り上げた日本三景の一・松島の旅館主・大宮司雅之輔の場合,ご子孫が遺品たる書画骨董等\nの一切を瑞巌寺宝物館ほかに寄贈され,学術的な調査を経て数次にわたり同館で特別展を開催されて来たという希有な事情にあった。本稿では同館のこれまでの研究成果や『松島町史』等に依拠しつつ,大宮司が地元の観光振興を願って運輸業を中核とする地元企業の多くに役員・大株主等として積極的に関与した企業者史的側面を明らかにしようとした。\nまず松島軽便鉄道では執行役員による仮装払込が発覚して免許失効,次に松島電車では経営不振の\nため債権者に軌条・車両等を競落され運行停止に陥るなど,彼が関与した企業の多くは期待された成果を生まなかった。相次ぐ不首尾にもかかわらず,彼はその後も松島を中心とする陸海の各種運輸業への関与を止めようとしなかった。一面で浮世絵等の収集家でもあった彼は独自の考え方に基づいて美術商から大量の書画を買い続けたという。関与した松島軽便鉄道,松島電車等はいわば習作の部類に入るわけだが,最後に本命視した宮城電気鉄道(現仙石線)は仙台と直結する本物の観光路線として成功を収めた。彼が損失も覚悟の上で最後まで地域の公益企業に関与をし続けた根底には明治末期宮城県から松島公園の委員を嘱託された際に開陳した彼の宿願たる松島振興策があったものと考えられる。なお地元銀行の再生等に私財を投じて尽力した大宮司の銀行家としての今一つの重要な側面の解明は別稿にゆずりたい。
著者
河村 英和
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.34, pp.137-157, 2022-08

高度経済成長期の1960~70年代は、ホテル建設ラッシュで数々のホテルが日本各地で誕生したが、その屋号の命名には、ある種の傾向や規則性があり、ホテルの所在地の町名に「観光」「グランド」「ニュー」などの特定の単語を組み合わせることが多かった。町名や国名をホテル名に含める場合、それに相応するホテルの格式も命名の動機も、ヨーロッパのホテルと日本のホテルでは全く異なっている。そもそもヨーロッパの典型的なホテル屋号の派生期から、日本では一世紀近く遅れて同名の屋号が普及したので、同タイプの命名法のホテルでも、建設時のコンセプトやデザインにも日欧で大きな違いがある。本稿(パート1)では、18~19世紀ヨーロッパのホテルの屋号の命名法の歴史を踏まえ、国名の入った屋号や、「ロイヤル」と「国際」を含む屋号の傾向と派生期を日欧で比較する。なお、「ニュー」「グランド」「観光」「ビュー」「パーク」「プラザ」「パレス」等を含むホテルの名については次稿(パート2)以降で扱う。
著者
小川 功
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.27, pp.1-29, 2019-01

鉄道網が拡大する明治20年代から明治30年代までの私鉄勃興時代に、特定の企業や信仰を背景とせず、旅館業者同士の緩やかな結合による共済組織で「定宿帳」(同盟旅館の名簿類)を発刊した「一新講社」と「大日本旅館改良組」の形成過程を分析した。さらに同種の「日本同盟大旅館会本部」が刊行した時刻表『旅行独案内』と「全国漫遊の独案内とも云つべき有益雑誌」の『大旅館雑誌 旅客之楽園』の内容をごく少数の残存号を発掘して紹介した。明治31年10月発行した創刊号は一ヵ月前同一団体で創刊した時刻表の姉妹編ないし別冊特集といった性格を有する。鉄道に関する特異なまでの詳述傾向は『大旅館雑誌』発行所主事・赤井直道「漫遊者大中居士の実地視察感悟に因て起稿」した個人的嗜好によるものと判断した。最後に『大旅館雑誌』に掲載された「大旅館」がどのような旅館であったのかを数量的に検証し、京都・奈良・金沢の古都等での掲載旅館群のその後の栄枯盛衰の軌跡を探索した。
著者
曽田 修司
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.25, pp.27-40, 2018-01

2016年以来、コンサート等のチケット転売問題が、社会的な注目を集めている。このうち、個人の事情に起因する転売のニーズヘの対応は、公式転売サイトの設立によってほぼ解決が可能である。残る課題は、主催者側が依然として抽選制によるチケット販売方式にこだわっているためにファンがチケットを人手しづらい状況を作り出していること、その結果としてネット上のオークションサイトで異常な高値でチケットが転売されていること、さらに、組織的な営利目的の転売業者の大規模な参入により転売の利益が音楽業界以外に流出しているという構造的な問題の解決である。本論考では、これらの複合的な課題を総称してチケット高額転売問題と呼ぶ。音楽業界の収益構造における収入源の主力が、CD・レコードの販売や音楽配信などからライブ・コンサートに移行しつつある現在、チケット高額転売問題は、音楽業界が業界をいかに成り立たせ、新たな才能の発掘や音楽環境の整備など、将来に向けてどのように持続可能性を高めていくかという問題と直結している。これまでのところ、チケット転売を抑えるための方策として「本人確認」を厳格化することがしばしば行われているが、このやり方では、チケット購入者の側の「ルールの遵守」義務が前面に押し出され、もっぱら購入者のモラルが問題とされるのみで本来の課題の所在が明確になっていない傾向が見られる。 本来は、社会における公正とは何かという観点から、供給者(コンサートの主催者)の側で需給のバランスをどう取って極端な需給ギャップが生じないようにするかという視点からの適切な制度設計が望まれる。また、善良な音楽ファンを経済的負担と心理的負担のダブルバインドに陥らせないような効果的方策の導人を業界全体として早急に検討することが必要である。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.31, pp.19-32, 2021-02

我が国では、人口政策としての少子化政策が先行し、その中で家族政策としての子育て支援政策が注目されるようになった。安倍政権下の少子化政策は、従来の「子育て支援」及び「働き方改革」に加えて、「結婚・妊娠・出産支援」を新たな内容として「希望出生率 1.8」の実現を掲げている。待機児童問題は保育所においては減少傾向にあるが、放課後児童クラブでは今後の課題となっている。子どもの貧困対策のうち就学援助には所得制限があり、支援を必要とする家庭は支援を受けていることを知られたくないという気持ちがあったり、申請が必要な個別的な子どもの貧困対策には、制度の周知が難しかったりという課題がある。給食費の無償化には、子どもの貧困対策を個別的な対策から普遍的な子育て支援策に転換し、直接子どもに給食を現物給付するという意義がある。子供の貧困対策大綱は、学校を地域に開かれたプラットフォームと位置付けて、スクールソーシャルワーカーやスクールカウンセラーが機能する体制の構築を目指している。貧困家庭の子供たち等を早期の段階で生活支援や福祉制度につなげていくためには、配置するスクールソーシャルワーカーの増員を急ぎ、勤務もフルタイムにすることが求められる。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.32, pp.19-30, 2021-07

2020年3月、新型コロナウイルスの感染症対策のため、学校の臨時休業が急きょ要請され、学校給食もなくなった。格差は、災害をはじめとする非常時に、より深刻に現れる。コロナによる臨時休校下において、学校給食には子どもの食格差を小さくする機能があったことが顕在化した。コロナ禍・災害などの状況下では、給食を提供できない・給食費を払えないという状況も生じ、影響の長期化に伴い子どもの生活の格差も拡大する。 コロナ不況以前から、公立小中学生の15.2%が就学援助により学校給食費の支援を受けている。就学援助制度は生活保護制度と比べても一般に知られておらず、支援が必要な家庭が制度を使えていない場合がある。就学援助のように対象者を選別する支援は、予算の制約を受けやすく、制度の周知も難しく、支援を受ける人に恥ずかしい気持ちを抱かせるスティグマ(負のレッテル)の問題がある。「周囲の目が気になる」というスティグマの存在は、就学援助制度が申請による給付であるという制度の限界である。 近年、全家庭を対象とする子育て支援としての給食費補助制度を設ける自治体が増えている。給食費は年間4万円を超え、子どもの学校に関する出費のうち相当な割合を占めている。給食費の無償化も広く検討されるべきである。学校給食の無償化は、選別主義による就学援助による支援を、普遍的な現物給付に転換する効果がある。
著者
折原 由梨
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.8, pp.19-46, 2009-09

本論文では、「おたくの消費行動の先進性を実証し、今後の消費動向を見通して行くこと」を目的とする。「おたく」の定義は、「主に学問として体系化されていない特定の分野・物事に熱中し、そのことにこだわりを持つ人」である。また「単に消費するだけではなく、表現や創作を行う人」とする。また「先進性」とは、消費するだけではなく創造的に情報発信することを意味する。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.34, pp.25-37, 2022-08

家庭の収入状況や保護者の健康状態が子どもの食習慣に大きな影響を与えている。そのため、困難を抱える家庭や子どもにとって、学校給食は非常に重要である。コロナ禍による子どもの食への影響も大きい。給食費未納は子どもの貧困の重要なシグナルである。未納の問題を、保護者としての責任感や規範意識とだけで片付けてしまうのではなく、不登校や虐待などと同様に貧困の兆候としてとらえるべきである。公立小中学生の7人に1人が、子どもの就学を経済的に支援する就学援助制度を利用している。制度の認知度の低さやスティグマの存在などから、この制度を利用していない家庭も相当数ある。子どもの貧困に対して、給食無償化が果たす役割は大きい。現状の就学援助による個別的な給食費などの支援は、給食無償化により普遍的に全員に実施されることが望ましい。給食費も教育を受けるために必要不可欠な支出である。今後さらに、教育無償化に向けて社会の関心が高まり、財源が確保されることが必要である。
著者
宮崎 正浩
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.34, pp.5-23, 2022-08

コンゴ民主共和国東部など紛争地域においては、企業は、深刻な人権侵害など、重大な悪影響に手を貸すことになったり、巻き込まれたりする危険にも晒されている。OECDは2011年に「紛争地域および高リスク地域からの鉱物の責任あるサプライチェーンのためのデュー・ディリジェンス・ガイダンス」を制定し、企業が紛争地域における人権侵害や紛争に手を貸してしまうことを回避するための枠組みを提示した。これを受け、米国及びEUでは、企業が使用する紛争鉱物が紛争地域において軍事組織に対し資金又は利益を与えていないかをデュー・ディリジェンスを用いて調査し、その結果を公表することを義務化する法規制が導入された。日本においては、法的措置は導入されていないが、企業の社会的責任(CSR)として紛争鉱物に関する調査が行われている。 本研究は、OECDガイダンスを基にした米国とEUの法規制が導入されることによって、コンゴ東部において紛争鉱物に係る人権侵害などにどのような影響を与えたのか、今後日本としての紛争鉱物に対しどのように取り組むべきかを明らかにすることを目的とする。 本研究では、紛争鉱物に関する米国とEU 規制の概要、これらに関する先行研究の概要をレビューした後、日本企業の紛争鉱物に対する取り組みの調査を行い、その成果を基に考察した。 日本では、紛争鉱物に関する法規制はなく、企業の社会的責任として自主的な取り組みがされているため、日本企業は欧米企業に比較して取り組みが遅れている可能性がある。このため、日本企業の紛争鉱物に関する取り組みを欧米企業と比較して客観的に評価するとともに、日本において紛争鉱物に関するデュー・ディリジェンスを法的義務化することを含め、今後の対策についての検討が強く望まれる、と結論付けた。
著者
鳫 咲子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学マネジメント学部紀要 = JOURNAL OF ATOMI UNIVERSITY FACULTY OF MANAGEMENT (ISSN:13481118)
巻号頁・発行日
no.27, pp.31-49, 2019-01

就学援助の現物給付化を提案する前提として、就学援助制度の現状について述べ、就学援助の課題と限界を指摘したい。これらを踏まえて、大規模災害時に所得要件が緩和されて普遍化に近づいた就学援助の効果と限界について述べる。また、学校給食費の無償化には、主として経済的な基準が設けられている就学援助による給食費支援を、誰もが受けられる制度として普遍化、現物給付化する意義が大きいことを述べる。