- 著者
-
小川 秀司
伊谷 原一
- 出版者
- 日本霊長類学会
- 雑誌
- 霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
- 巻号頁・発行日
- pp.47, 2005 (Released:2005-06-07)
タンザニアにおけるチンパンジー(Pan troglodytes)の生息地の現状について報告する。
1960年代に行われた調査によると,東アフリカのタンザニア西部にはヒガシチンパンジー(Pan t. schweinfurthii)がタンガニイカ湖に沿って,ゴンベ国立公園・リランシンバ地域・マハレ国立公園からカサカティやフィラバンガを経てチンパンジー分布の東限であるウガラ川に至る地域一帯(カロブワ地域・マハレ国立公園・ムクユ地域・マシト地域・ウガラ地域)・ワンシシ地域で生息しているとされていた(Kano, 1972)。われわれは1994年から2003年までにタンザニア各地で聞き込み調査やベッドセンサス等の広域調査を行い,これらの地域には現在でもチンパンジーが生息していることを確認してきた。またルクワ南西部のルワジ地域においてチンパンジーの新たな生息地を発見した(Ogawa et. al, 1997)。
しかしながら,現在タンザニアの国立公園以外の地域では,木材利用のための特定樹種の伐採とそのための道路の拡張,他国からの難民や道路沿いに移住してきた人達による畑の開墾・薪炭燃料確保のための樹木の伐採・チンパンジーや他の動物を対象とした密猟,鉱山会社による鉱物資源の調査等,様々な人間活動が活発に行われている。そのため,チンパンジーの生息密度や生息状況はこれらの人間活動から多大な影響を受け,チンパンジーの生息環境は悪化しつつあることが予想される。タンザニア西部の乾燥疎開林帯におけるチンパンジー存続の可能性を探り,早急に対応策を講じることが望まれる。