著者
坂巻 哲也
出版者
バイオメカニズム学会
雑誌
バイオメカニズム学会誌 (ISSN:02850885)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.181-186, 2014 (Released:2016-04-16)
参考文献数
30
被引用文献数
2 2

ヒトにもっとも近縁な現生類人猿は,チンパンジーとボノボである.ヒトの直立二足歩行の進化を考えるとき,近縁な現生種の生態を知ることは,ヒトの二足歩行がはじまった起源と,その後に洗練される過程に働いた選択圧を考えるために重要である.この解説では,チンパンジーに比べ研究が遅れているボノボにおもな焦点を当て,両者の生態とロコモーションについて概観する.両者の社会と食物はよく似ている.二足姿勢はボノボの方がきれいに見えるが,これは幼形保有の副産物だろう.ボノボの湿潤林や水辺の利用,より乾燥した地域のボノボの生態は,今後の研究課題である.野生ボノボで観察される二足姿勢とその文脈についての素描も行った.
著者
坂巻 哲也
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第21回日本霊長類学会大会
巻号頁・発行日
pp.66, 2005 (Released:2005-06-07)

チンパンジー社会には、パントグラントと呼ばれる服従的発声によって知ることができる基本的な優劣関係(formal dominance)が存在し、オトナオスは同じ集団のメスやコドモからパントグラントを受ける。パントグラントは、複数のオスとメスが平和的に共存するために日々繰り返される挨拶行動と考えられている。本研究は、パントグラントが大声で交わされることの社会的意味を検討した。調査は、1999∼2000年の約1年間、タンザニアのマハレ山塊国立公園のチンパンジーを対象におこない、オトナメスがオトナオスと出会う場面のパントグラントを調べた。その結果、メスが複数のオスと出会う場面では、メスはすべてのオスにパントグラントを発するのではなく、その相手は主にアルファオスだった。また、パントグラントが起こる出会いは、一日の遊動生活の中で、休息後の移動時に頻繁だった。メスは最も優位なアルファオスと大声になるパントグラント交渉を持つことで、多くの個体とその場の社会的状況に関する認識が共有され、同一集団での共存が促進されることが示唆された。パントグラントの特徴ある発声には、交渉が起こったことを他個体に知らせる宣伝の効果があると考えられる。
著者
古市 剛史 黒田 末寿 伊谷 原一 橋本 千絵 田代 靖子 坂巻 哲也 辻 大和
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2010-04-01

ボノボ3集団と、チンパンジー2集団を主な対象として、集団間・集団内の敵対的・融和的交渉について研究した。ボノボでは、集団の遭遇時に融和的交渉が見られるが、その頻度やタイプは集団の組み合わせによって異なり、地域コミュニティ内に一様でない構造が見られた。チンパンジーでは、集団間の遭遇は例外なく敵対的であり、オスたちが単独で行動するメスを拉致しようとするような行動も見られた。両種でこれまでに報告された152例の集団間・集団内の殺しを分析したところ、意図的な殺しはチンパンジーでしか確認されていないこと、両種間の違いは、環境要因や人為的影響によるものではなく生得的なものであることが明らかになった。