著者
田村 一軌 韓 成一 戴 二彪
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.37-46, 2015 (Released:2020-03-03)
参考文献数
20

日本で毎年様々な祭りが国内各地で開催されている。日本の祭りは,従来は宗教色の強い伝統行事というイメージが強かったが,1980 年代以降,都市コミュニティの連帯感を増強するために,多くの市民の参加を引き付ける娯楽性を重視する祭りが増えた。近年では,少子高齢化が進むなかで地方圏都市の商業・飲食サービス業の低迷状況が続いており,観光や商業振興の起爆剤として祭りの経済的な役割にも期待が集まっている。地方自治体は地域活性化における祭りの役割を重視しつつあるが,自治体の財政事情が厳しくなるなかで,祭り運営に対する積極的な関与が財政状況の悪化に繋がるリスクがあるとも懸念されている。 本研究は,北九州市における祭りの歴史と近年の開催動向,祭り運営の取り組みを紹介したうえで,同市の都市振興戦略における祭り開催の位置づけとその実際の効果を考察する。また,北九州ならびに類似の地方都市における祭り運営のあり方について若干の提言を行う。
著者
戴 二彪 Erbiao Dai
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-07, pp.1-30, 2014-03

本研究では,1980年以降の日本の地域別人口規模と年齢構造の変動を考察したうえ,47の都道府県を対象に,10年ごとのパネルデータと固定効果モデルに基づいて,1980~2010年の人口構造の変動による地域経済成長(一人当たり域内総生産GRDP伸び率)への影響を検証した。主な分析結果は次の通りである。(1)出生率の低下と長寿化の影響で,日本では総人口・生産人口(労働年齢人口)伸び率の減速と人口の年齢構造の変化が起きている。日本の人口高齢化は,欧米先進国より遅く開始したが,その進行スピードが非常に速い。2012年に総人口における65歳以上の高齢人口の比率(高齢化率)は24%を超えており,今までどの国も経験していない世界一の高い水準になっている。一方,15~64歳の労働年齢人口の同比率は,1990年のピークの69.5%から2010年の63.3%へと低下しつつある。(2)47の都道府県の間に,労働年齢人口伸び率の地域格差が存在している。2010年の統計データを見ると,雇用機会と所得水準の高い大都市圏や地方圏中核都市の所在県は,若年人口の転入によって,労働年齢人口比率が高くなるが,雇用機会・所得水準の低い地方圏の県は,若年人口の転出によって,労働年齢人口比率が低くなるという地域パターンが確認できる。ただし,労働年齢人口伸び率については,時期によって地域別動向が大きく変わる。1950~80年の期間に,地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模が非常に大きいので,三大都市圏の労働年齢人口の年平均増加率が地方圏を大きく上回る。同増加率が全国平均を超える地域は,すべて三大都市圏内の都道府県である。これに対して,1980~2010年の期間に,進行しつつある少子化の影響で,全国の労働年齢人口の年平均増加率は1950~80年の1.56%から0.09%へと大きく下落した。地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模もかなり縮小したので,東京圏1都3県の労働年齢人口の年平均増加率は依然として全国平均を上回っているものの,大阪圏や名古屋圏のほとんどの府・県は全国平均を下回っている。一方,地方圏の一部の県(地方中心都市を持つ福岡・宮城,東京圏に近い茨城・栃木,及び日本本土から離れている沖縄)の同増加率は全国平均を上回っている。(3)実証分析の結果によると,都道府県の一人当たりGRDP(一人当たり域内総生産)伸び率に対して,労働人口伸び率・労働年齢人口伸び率は,いずれも顕著なプラスの影響(即ち同じ方向の影響)を与えている。(4)日本の一人当たりGRDP伸び率は,地域の初期所得水準や地域の生産性に関わる諸要因にも影響されている。具体的に言うと,各期間の最初年の一人当たりGRDPは,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるとなっている。また,地域の産業集積の動向も,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に対して一定な影響を与えている。そのうち,生産性の低い農業(農林水産業)の集積係数の伸び率は,一人当たりGRDPの伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるが,機械類製造業(電子機械,精密機械,輸送機械,その他機械,など4セクター)と通信運輸業の集積係数の伸び率は,統計的に有意な影響を与えていない。上述した分析結果の内,(3)について最も注目すべきである。近年日本のほとんどの都道府県では,生産人口の伸び率はマイナスになっており,それによる一人当たりGRDP伸び率への影響も同じ方向(即ちマイナスの影響)になっていると考えられる。この意味では,日本の地域経済成長そして全国の経済成長をより健全な水準へ取り戻すためには,人口構造の変化によるマイナスの影響およびその対策を真剣に考えなければならない。今後,いかにして,外国人を含む各種専門人材が働きたい・創業したい・住みたい魅力的な都市・地域を作ることが,日本の経済成長を左右する大きな政策課題である。
著者
戴 二彪 Erbiao Dai
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-07, pp.1-30, 2014-03 (Released:2015-10-19)

本研究では,1980年以降の日本の地域別人口規模と年齢構造の変動を考察したうえ,47の都道府県を対象に,10年ごとのパネルデータと固定効果モデルに基づいて,1980~2010年の人口構造の変動による地域経済成長(一人当たり域内総生産GRDP伸び率)への影響を検証した。主な分析結果は次の通りである。(1)出生率の低下と長寿化の影響で,日本では総人口・生産人口(労働年齢人口)伸び率の減速と人口の年齢構造の変化が起きている。日本の人口高齢化は,欧米先進国より遅く開始したが,その進行スピードが非常に速い。2012年に総人口における65歳以上の高齢人口の比率(高齢化率)は24%を超えており,今までどの国も経験していない世界一の高い水準になっている。一方,15~64歳の労働年齢人口の同比率は,1990年のピークの69.5%から2010年の63.3%へと低下しつつある。(2)47の都道府県の間に,労働年齢人口伸び率の地域格差が存在している。2010年の統計データを見ると,雇用機会と所得水準の高い大都市圏や地方圏中核都市の所在県は,若年人口の転入によって,労働年齢人口比率が高くなるが,雇用機会・所得水準の低い地方圏の県は,若年人口の転出によって,労働年齢人口比率が低くなるという地域パターンが確認できる。ただし,労働年齢人口伸び率については,時期によって地域別動向が大きく変わる。1950~80年の期間に,地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模が非常に大きいので,三大都市圏の労働年齢人口の年平均増加率が地方圏を大きく上回る。同増加率が全国平均を超える地域は,すべて三大都市圏内の都道府県である。これに対して,1980~2010年の期間に,進行しつつある少子化の影響で,全国の労働年齢人口の年平均増加率は1950~80年の1.56%から0.09%へと大きく下落した。地方圏から三大都市圏への若年人口の純転入規模もかなり縮小したので,東京圏1都3県の労働年齢人口の年平均増加率は依然として全国平均を上回っているものの,大阪圏や名古屋圏のほとんどの府・県は全国平均を下回っている。一方,地方圏の一部の県(地方中心都市を持つ福岡・宮城,東京圏に近い茨城・栃木,及び日本本土から離れている沖縄)の同増加率は全国平均を上回っている。(3)実証分析の結果によると,都道府県の一人当たりGRDP(一人当たり域内総生産)伸び率に対して,労働人口伸び率・労働年齢人口伸び率は,いずれも顕著なプラスの影響(即ち同じ方向の影響)を与えている。(4)日本の一人当たりGRDP伸び率は,地域の初期所得水準や地域の生産性に関わる諸要因にも影響されている。具体的に言うと,各期間の最初年の一人当たりGRDPは,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるとなっている。また,地域の産業集積の動向も,都道府県の一人当たりGRDP伸び率に対して一定な影響を与えている。そのうち,生産性の低い農業(農林水産業)の集積係数の伸び率は,一人当たりGRDPの伸び率に統計的に有意なマイナスの影響を与えるが,機械類製造業(電子機械,精密機械,輸送機械,その他機械,など4セクター)と通信運輸業の集積係数の伸び率は,統計的に有意な影響を与えていない。上述した分析結果の内,(3)について最も注目すべきである。近年日本のほとんどの都道府県では,生産人口の伸び率はマイナスになっており,それによる一人当たりGRDP伸び率への影響も同じ方向(即ちマイナスの影響)になっていると考えられる。この意味では,日本の地域経済成長そして全国の経済成長をより健全な水準へ取り戻すためには,人口構造の変化によるマイナスの影響およびその対策を真剣に考えなければならない。今後,いかにして,外国人を含む各種専門人材が働きたい・創業したい・住みたい魅力的な都市・地域を作ることが,日本の経済成長を左右する大きな政策課題である。
著者
薛 進軍 園田 正 臼井 恵美子 萬行 英二 安達 貴教 厳 善平 戴 二彪 本台 進 柳原 光芳 杉田 伸樹 岑 智偉 南 亮進 Li Shi Knight John Xin Meng Cai Fang Wei Zhong Vakulabharanam Vamsi
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2011-04-01

中国は高度成長を続け,世界第二の経済大国となった一方で,巨大な所得格差が存続し,住民のデモや少数民族の暴動も頻発し,社会が不安定な状態にある。また,安い労働力で支えられた高度成長は,急速な賃金上昇と労働不足でブレーキがかかり始めている。これらの問題は,国際経済,特に日本経済にも大きな影響を与え始めている。こうした問題は,労働移動に関するルイスの転換点,所得分配に関するクズネッツの転換点と密接な関係をもち,経済転換期における典型的な現象としてとらえられる。本研究は,中国で実施されたパネル調査のミクロデータに基づいて二つの転換点を検討し,転換点の中国経済への意義と国際経済への影響を分析する。