著者
八田 達夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

この研究の目的は、通勤の時間コスト、通勤混雑による疲労コストを別々に金銭換算することにある。まず、通勤電車の混雑度の増大が疲労度の増大をもたらすことを効用関数に組み入れたMills型の都市モデルを構築した。次に、この都市モデル全体を解き、家賃及び地価関数の理論式を誘導型として導出した。この理論式では、家賃が都心からの距離と混雑度との関数となっている。この理論式を用いて2つの実証研究を行った。第1に、家賃関数を中央線沿線住宅地のデータに当てはめて、家賃と距離と混雑度との関数を導き、それを基に効用関数の混雑度に関するパラメーターを推定した。その際、中央線各駅間で混雑度が異なっていることを利用した。パラメータの推定結果を用いて通勤混雑の疲労コストおよび時間コストを算出した。第2に、混雑率の異なる東京の複数の私鉄およびJR路線沿線の各駅から、都心に通勤する際に要する時間と疲労のコストを測定し、金銭換算した。各路線間の混雑率の違いが大きいために、中央線のみのデータを用いた場合よりも、各地点の家賃と混雑率の関係をうまく説明することができた。中央線のみのデータでは、決定係数が0.5段階であったのに対して、複数路線の場合、0.85と高い値を得ることが出来た。この分析を基に、時間と疲労に関する効用関数のパラメータを推定し、それを用いて通勤疲労度、および通勤時間の金銭換算を行った。例えば、新宿までの通勤時間が30分である向が丘遊園では、片道の疲労費用が376円で、時間費用が322円であることが明らかになった。論文は、学術雑誌に投稿中である。さらに、1999年度応用地域学会全国大会で発表し、2000年の日本経済学会春期大会で発表する予定である。
著者
八田 達夫
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.19-36, 2014 (Released:2020-07-08)
参考文献数
4

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1 本当たりの発着数は,すでに日本一である。10 年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25 分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10 号の無信号バイパスの建設である。
著者
八田 達夫
巻号頁・発行日
2014-03

本報告は,北九州市の発展のために最も必要とされている国の規制改革を選択する事を目的としている。このため,まず,北九州の飛躍的な発展のためには,北九州空港を活性化し,北九州市を支店都市として復活させることが鍵であることを示す。その上で,北九州空港を活性化するために必要な 3 項目の国の規制改革を明らかにする。高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路 1 本当たりの発着数は,すでに日本一である。10 年後に発着数を約 30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。ところが博多駅から小倉駅を経由して 25 分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。北九州空港の利用者数を大きく増加させるために必要な方法は,①24 時間空港である北九州空港の夜間使用の活性化のための夜間空港使用料の引き下げ,②北九州空港・福岡市間を直結する高速バス定期便導入語バス会社間の競争促進によるバス料金の抑制,③小倉駅・北九州空根間の新幹線建設と博多駅・小倉駅間の新幹線特急料金の引き下げである。次に,この観点から,北九州空港活用のために有用な規制改革を分析した。第 1 に,北九州空港を活性化するには,夜間の空港使用料を引き下げる必要がある。これは,十分な政策的根拠があるのならば,空港法に基づく空港管理規則第 11 条による国土交通大臣の告示に基づいて引き下げることが可能である,本稿では,北九州空港の場合,夜間空港使用料を引き下げることを正当化する政策的な根拠があることを示す。第 2 に,北九州空港・福岡市間に多くの高速バス会社の参入を促すためには,福岡の各バス会社が権益を持っている福岡市のバスターミナルが,認可された使用料の下で開放される必要がある。確かに,バスターミナルは,自動車ターミナル法によって開放が義務づけられてはいるが,使用料の決定方式は自動車ターミナル事業者の届出に任されている。送電線が開放されているように,あらかじめ認可された使用料でのオープンアクセスをバス会社に義務付ける法改正が必要である。第 3 に,近い将来,博多駅と北九州空港とを直接結ぶ新幹線で利用されることになる際,博多駅・小倉駅区間の新幹線の旅客運賃を下げる必要がある。十分な根拠があれば,鉄道事業法第 23 条に基づく旅客運賃に対する国土交通大臣の改善命令によってこの区間の運賃の引き下げが可能である。博多駅・小倉駅区間の場合には,これを正当化する根拠があることを明らかにする。
著者
八田 達夫 保科 寛樹
出版者
公益財団法人 アジア成長研究所
雑誌
東アジアへの視点 (ISSN:1348091X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.01-14, 2020 (Released:2021-03-05)
参考文献数
9

「人口成長率の低下は生産性(1 人当たりGDP)の成長率を下げる」という因果関係は, 広く信じられており,地方への人口分散政策や外国人単純労働者受け入れ政策の与件とされ ていることが多い。この命題は,労働力投入の増大による集積の経済がもたらす生産性増大 効果が強く,その効果が,労働の限界生産力逓減の法則による生産性低減の効果を超えるこ とを,暗黙の内に前提としている。 本稿では,この因果関係が実証的に成り立っていないことを明らかにする。具体的には, OECD 加盟国,およびOECD にASEAN 加盟国・中国・インドを加えた各国の,1961~ 2019 年間のデータを分析対象として,次を示す。(1)この全期間において,人口成長率と1 人当たりGDP 成長率との間に,統計的に有意な正の相関関係は成り立たない。この間を10 年ごと・20 年ごとなどに分割したどの期間についても,同様である。(2)本稿で分析した大 多数のサンプルグループにおいて,統計的には有意でないものの逆の関係が回帰分析では観 察される。(3)特定の期間と国グループの組み合わせでは,負の関係が統計的に有意に成り 立つ。これらの事実は,一般に広く信じられているほどには集積の利益が強くないことを実 証的に示している。 「人口成長率の低下が生産性の成長率を下げる」という因果関係は,実証的に検証されて いないという事実は,広く政策担当者に認識されるべきであろう。
著者
八田 達夫 Tatsuo Hatta
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014, pp.1-23, 2014-10

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1本当たりの発着数は,すでに日本一である。10年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。 ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10号の無信号バイパスの建設である。
著者
八田 達夫 Tatsuo Hatta
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
vol.2014-13, pp.1-23, 2014-10

高度成長期以降,全国の中枢都市のほとんどが人口を伸ばした。しかし鉄道時代から航空時代に転換した時点で,ジェット機対応空港を持っていなかった北九州市の人口は,例外的に縮小した。それに対して,ジェット機対応空港を持つ福岡市は,中枢都市としての自然な発展を遂げた。 しかし福岡空港の混雑が限度に達している。滑走路1本当たりの発着数は,すでに日本一である。10年後に発着数を約30%増大する滑走路の増設工事が予定されているが,それ以上の増設は地形的に見込めない。 ところが博多駅から(小倉駅を経由して)25分で到着できるようになる北九州空港を活用することによって,福岡市は今後も伸び続けていける。一方,北九州市はこの空港の発展によって,支店都市としての機能を回復できる。 北九州空港を発展させる第一歩は,①空港・福岡市間を直結する高速バス定期便の設置と,②空港と北九州都市高速道路とを結ぶ国道10号の無信号バイパスの建設である。
著者
柴田 弘文 SAXONHOUSE G DENOON David INTLIGATOR M DRYSDALE Pet 韓 昇洙 PANAGARIYA A MCGUIRE Mart 井堀 利宏 猪木 武徳 福島 隆司 高木 信二 舛添 要一 八田 達夫 安場 保吉 佐藤 英夫 PANAGARIYA Arvind CHEW Soo Hong HON Sue Soo
出版者
大阪大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1988

安全保障問題の近年の急変転は目をみはるものがある。当国際学術研究の第1年目は東西冷戦下で資本主義と社会主義の二大陣営の対立から生まれる安全保障上の緊張とそれを突き崩そうとする潜在的な両陣間の貿易拡大の欲求が共存するもとでの安全と貿易の関係を探るべくスタ-トした。ところが第2年目には、ベルリンの壁の崩壊と共に東西の対立が氷解し、自由貿易の可能性が拡大して、もはや安全保障に対する考慮は必要なく、この研究課題も過去のものになったかとさえ見えた。しかし、東西の対立の氷解が直ちに全ての対立の霧散に向かうものではなかった。民族間の局地的対立はかえって激化し、更に貿易でなく直接支配によって原油資源を確保しようとする試みは湾岸戦争を引き起こした。世界の政治の経済の根本問題が貿易と安全保障の問題と深く関わっていることを最近の歴史は如実に物語っている。本研究課題が世界経済の平和的発展の為の中心的課題であることが再度認識された。しかし貿易と安全保障の相互関係の分析に正面から取り組んだ研究は少ない。分析のパラダイムがまた確立されていないことにその理由がある。従って当研究では基礎的分析手法の開発を主目的の一つとした。先づ第一に柴田弘文とマックガイヤ-の共同研究は安全保障支出によって平和が維持される効果が確率変数で与えられるとして、安全保障支出がもたらす一国の厚生の拡大を国民所得の平時と有事を通じての「期待値」の増大として捉えて経済モデルを開発した。このモデルは例えば国内産業保護策と、安全保障支出は代替関係にあることを示唆することによって、貿易と安全保障の相互依存関係の理論的分析の基礎を提供することになった。柴田は更に備蓄手段の大幅な進歩から有事に当たっての生活水準の維持のためには全ての国内産業を常時維持することよりも安価な外国商品を輸入し、有事に備えて備蓄することの方が、効率的である点に注目して、安全保障費支出、国内産業保護、備蓄の三者の相互関係を明らかにする理論を構築した。更に柴田はパナガリヤと共同研究を行い、貿易と安全保障支出及びそれらが二敵対国の国民厚生に及ぼす効果を説明する理論を構成した。井堀は米国の防衛支出のもたらす日本へのスピルオ-バ-効果の日米経済に及ぼす影響についてのマクロ経済学的分析を行った。安場は東南アジア諸国の経済発展がアジア地域の安全保障に与える効果を研究した。佐藤は貿易と安全保障が日米の政治関係に及ぼす効果を国際政治学的に分析した。オ-ストラリヤのドライスデ-ルは近年の日本の経済力の著しい増加が太平洋地区にもたらす効果を分析した。八田はチュ-の協力を得て安全保障のシャド-プライズについての数学的理論を構築した。第2年目に基本理論の深化を主に行った。パナガリアは1990年9月に再び渡日して柴田と論文「Defense Expendtures.International Trade and Welfare」を完成した。更にチュ-ス-ホングは8月に来日し、柴田と共同研究を行い「Demand for Security」と題する共同論文の執筆を開始した。本研究の研究協力者である岡村誠は農業問題と安全保障の関係の分析を行って論文を執筆した。第3年目には理論の応用面への拡張に努力した。猪木は国の有限な人的資源を民需から軍需活動に移転することから起こる経済成長への負の効果と、軍関係機関での教育がもたらす人的資源の高度化から生まれる正の効果を比較する研究を行なった。井堀利宏は貿易関係にある二国間の安全保障支出を如何に調整するかの問題について理論的分析を行い論文を完成した。この三ヶ年に亘る日米豪の研究者による共同研究の結果、今まで国際経済学者によって無視され勝ちであった安全保障と貿易の相互維持関係を分析する基礎となる重要な手法を幾つか確立すると云う成果が得られたと考える。世界経済の安定的な発展のためには貿易と安全保障の相互関係についての深い理解が不可欠である。この共同研究課題で得られた知見を基礎として、更に高度な研究を続行することが望まれる。
著者
佐々木 芙美子 八田 達夫 唐渡 広志 Fumiko Sasaki Tatsuo Hatta Koji Karato
雑誌
AGI Working Paper Series
巻号頁・発行日
no.2014, pp.1-15, 2014-03

本研究は違法駐輪対策として自治体が取りうる3つの政策、すなわち、①駐輪料金の引き下げ、②駐輪場の拡大、③撤去率の引き上げの効果分析を行う。具体的には、駅前に乗り入れる自転車のうち違法駐輪される割合を駐輪場料金,撤去活動水準,駐輪場収容可能台数などに回帰して政策変数の有効性を検討した。本研究では,山手線・中央線沿線(東京都)の40駅でそれぞれ集計されたデータを利用した。本稿では、違法駐輪数が多かった時期である2001年のデータを用いる。本研究の分析により、例えば高円寺では、1000万円の追加費用を違法駐輪対策としてかけた場合、料金を下げれば81台、撤去率を上げれば136台、駐輪場を増設すれば96台(その際に公共用地を利用すれば200台)、放置自転車が減ることが明らかになる。
著者
八田 達夫 海蔵寺 大成 竹澤 伸哉 唐渡 広志
出版者
政策研究大学院大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2005

八田:東京のオフィスビルの容積率緩和がもたらす発生交通量の増大が引き起こす東京主要道路の混雑率の増加を測定し、その金銭換算を行った。さらに、これを容積率緩和のもたらす便益の増大と比較した。海蔵寺:「土地市場におけるバブル崩壊のメカニズム」を研究した。次ぎのことがわかった。(i)バブルは、限られた地域の土地(丸の内周辺など)に投資資金が集中し、地価分布の歪みが拡大してゆく現象であること、(ii)少数地点の地価が極度に高騰してゆく結果、利用可能な投資資金の大半が限られた土地に吸収されてしまい、高値を維持できなくなることからバブル崩壊が起きること、(iii)バブルの崩壊は、土地価格分布のジニ係数の時間的変化をモニターすることで予測可能であることがわかった。竹澤:2005年から2006年は、スポーツ設備における不動産開発とJREITに関する予備的研究を行い、学会で発表した。また、不動産開発プロジェクト等のデータベース(Bloomberg,PACAP,Deloitte-Touche,等のデータベースを使用)の構築を完成させた。さらにJREITに関する分析が完了し、論文"Beneficiary Rights in the Japanese REIT Market"(Nobuya Takezawaと共著)日本ファイナンス学会の2007年度大会で発表した。また、同論文のアップデート版が、アジアファイナンス学会で2008年7月横浜にて発表することになった。さらに、ウエスタン経済学会から、論文"Default Analysis of Golf Courses in Japan"の研究発表の許可を得た。唐渡:1991年から2001年の期間を対象にしてGISのポリゴンデータより土地利用変遷をデータ化した。これを利用して、事務所および住宅家賃関数の推定を通じて都心部の土地利用の非効率性の費用を計測した。また、用途変更パターンを観察しWheatonらの再開発定理を検証した。マンション価格のrepeat sales dataを開発し、品質変化の調整をおこなった不動産価格指数を測定した。代表的な価格指数Case&Shiller型の問題点である、住宅の経年変化による指数推定値のバイアスを取り除くための計量経済学的手法を提案した。不動産価格のマイクロな構造を分析するためのヘドニック・アプローチの理論と応用についてとりまとめた。さらに空間計量経済分析により地価関数の空間相互依存性を検証するための検定手法を提案した。