著者
原田 大 内野 滋彦 瀧浪 將典
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.147-154, 2014-03-01 (Released:2014-03-19)
参考文献数
29

ICUでは一般病棟以上に積極的なチーム医療活動が必要不可欠であり,その一員を担う薬剤師の役割も重要となっている。また厚生労働省も,薬剤師は医薬品の管理責任者としてのみならず,処方内容を含めた治療計画への積極的な関与を行うよう指針を発表している。このような背景より,現在報告されている文献から情報収集し,ICUに薬剤師を常駐させる必要性について考察した。ICUにおける薬剤師の介入によって,医療費削減,薬剤関連エラーの減少,死亡率の減少などの効果が多くの文献において報告されており,薬剤師は医療経済への貢献だけでなく,安全な医療の提供や患者転帰にも大きな影響を与える可能性が示唆された。本邦においても,ICUに薬剤師を常駐させ,日々の診療に積極的に介入を行えば,その臨床的意義は大きいと考えられる。
著者
内野 滋彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
雑誌
INTENSIVIST (ISSN:18834833)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.280-281, 2011-04-01

まず,問題です。血圧(BP)に関するありがちな会話: 動脈圧ラインでBP 90/45(58)mmHgの患者を診て, 「あれ,血圧90しかないの? 低いね。ちょっと実測してみて」 自動血圧計で測定すると,102/50(59)mmHg。 「なんだ,100あるじゃん。じゃあ大丈夫だね」 さて,このなかに間違いはいくつあるでしょう? … この問題の答えの1つは,自動血圧計non-invasive blood pressure(NIBP)を“実測”と呼んでいる点である。この言葉,日本中で使われているかどうかは知らないが,少なくとも関東地方ではよく耳にする。“実際に測定”しているのは動脈圧ラインだと思うのだが,いったい誰が実測という言葉を使い始めたのだろうか? のっけから脱線してしまって申し訳ない。本コラムの主題はNIBPについてではなく,血圧の考え方についてである。ちなみに,この問題の答えは“実測”を含め4つある。まだわからない方は以下を読んでほしい。
著者
坂木 孝輔 内野 滋彦 宮城 久仁子
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.241-248, 2019-07-01 (Released:2019-07-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

医療の著しい進歩によりICUを生存退室する患者は増加しつつあるが,一方でその多くに精神機能障害がみられ問題となっている。近年,その罹患要因としてICU滞在中の患者の記憶が関連していることが明らかになってきた。患者の記憶は,事実の記憶,感情的記憶,妄想的記憶に分類され,特に妄想的記憶はICU生存者の26〜73%にみられ,忘れられ難く,不安やうつ,posttraumatic stress disorder(PTSD)などの精神機能障害やQOLの低下,復職率の低下への関連が示唆されている。記憶に対する援助として,ICU滞在中の記憶を適切に構築すること,記憶の再構築を援助し妄想的記憶を残さないことが重要であると考えられているが,さらなる研究が求められている。不快な記憶は長期に患者を苦しめることを理解し,ICUを退室した後も患者が体験を語れる機会を提供し,フォローアップをしていく必要がある。
著者
江木 盛時 内野 滋彦 森松 博史 後藤 幸子 中 敏夫
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-26, 2009-01-01 (Released:2009-07-25)
参考文献数
30
被引用文献数
2 1

過去に報告された無作為化比較試験(randomized controlled trial, RCT)で有効であるとされた治療法が,その後に行われたRCTで否定されることがある。その原因として,過去のRCTが有意差の得られやすい条件で施行されていることが挙げられる。RCTは,この条件を踏まえた上で考察することが重要である。その三要素として,(1)subgroup analysis, (2)single center open label study, (3)early terminationが挙げられる。(1)Subgroup analysisは,統計学的検討回数を増やすことで,(2)single center open label studyは,ホーソン効果と治療の浸透性により,(3)early terminationは,random highと統計学的検討回数の増加により,偽陽性の確率を高める。これらの手法を用いて得られたRCTの結果は,慎重に吟味する必要がある。
著者
浅野 健吾 内野 滋彦
出版者
一般社団法人 日本外科感染症学会
雑誌
日本外科感染症学会雑誌 (ISSN:13495755)
巻号頁・発行日
vol.15, no.3, pp.238-241, 2018-06-30 (Released:2018-09-12)
参考文献数
19

セプザイリス®は AN69ST膜からなる持続透析膜である。高いサイトカイン吸着能による治療効果が期待され,本邦では 2014年に敗血症に対して保険収載されているが,これは実際の患者への効果を必ずしも証明するものではない。そこで今回,セプザイリス®の効果に関する既存研究を検証し,臨床での使用が妥当であるかを考察した。セプザイリス®に関する研究は動物実験や in vitroでの研究が多く,とくに敗血症を対象とした臨床研究は限られている。加えて,治験の研究も含めてこれらの臨床研究には問題点も多く,予後改善効果を証明するに至っていない。敗血症に対してセプザイリス®使用を推奨する根拠は乏しいと思われる。
著者
原田 大 内野 滋彦 須田 奈美 北村 正樹 瀧浪 將典 川久保 孝
出版者
一般社団法人 日本集中治療医学会
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.293-295, 2014

ICUでは診療科を問わず様々な疾患をもった患者が入室し,病状も刻々と変化するため,様々な理由により投与中の薬剤が廃棄されている。本研究では,薬剤の廃棄理由とその総額について調査を行った。2週間の調査より廃棄総件数382件,廃棄総額262,525円が確認された。診療科別廃棄件数・廃棄金額は心臓外科が最も多く,薬品別廃棄総額はカルペリチド,デクスメデトミジンが上位を占めていた。また,廃棄理由は「治療方針の変更」が最も多かった。本研究により,ICUにおける注射薬の廃棄原因や具体的な廃棄金額が明らかとなった。今後,日々の診療にICU薬剤師が積極的に関与することで,ICU患者の薬剤費を削減できる可能性が示唆された。
著者
福島 東浩 内野 滋彦
出版者
メディカル・サイエンス・インターナショナル
巻号頁・発行日
pp.285-289, 2014-04-01

ICUにおいては,一般的に面会制限が行われている。その理由は,主に感染,業務の負担増加,適切な医療環境が乱されることなどへの懸念が考えられる。しかし,実際にどの程度の根拠があって面会制限が行われているのか,この点について検討された研究は驚くほど少ない。 そこで本稿では,これらの懸念と面会との関連性や,面会時の対応についてガイドラインなどのわずかな情報を参照しながら,考察してみたい。 Summary ●多くの国々のICUでは面会の際に時刻や時間,年齢などを制限している。 ●面会に制限を設ける理由は,感染や業務の負担増加,適切な医療環境の維持が乱されることへの懸念が挙げられるが,それらを示す報告はほとんどない。 ●患者だけでなく家族の立場にも考慮し,面会制限の緩和・解除を広げるべきである。
著者
森松 博史 内野 滋彦
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.3-8, 2003-01-01 (Released:2009-03-27)
参考文献数
28
被引用文献数
1

1983年にPeter A. Stewartが提唱した酸塩基平衡に関する新しいアプローチは近年さまざまな分野に応用され始めている。彼のコンセプトのなかでは,(1)水素イオンは水の電離状態によって容易に変化し,(2)これを決定するのはPaCO2, strong ion difference (SID), total weak acidの3つである。水素イオンや重炭酸イオンはこれら3つの因子のバランスによって決定される。アルブミンは酸性化因子として働き,塩素イオンはSIDを変化させることにより酸塩基平衡に重要な役割を果たす。このアプローチを用いることにより,これまで理解が困難であった生理食塩水による代謝性アシドーシスや人工心肺中のアシドーシスがより容易にまた正確に理解できる。Stewart approachによりわれわれの酸塩基平衡に対する理解が深まると信じる。
著者
小林 秀嗣 内野 滋彦 遠藤 新大 岩井 健一 齋藤 敬太 讃井 將満 瀧浪 將典
出版者
The Japanese Society of Intensive Care Medicine
雑誌
日本集中治療医学会雑誌 (ISSN:13407988)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.609-615, 2012

【目的】急性肺傷害に対するシベレスタット投与は,欧米での研究で長期予後の悪化が示された。当施設は2007年より使用を原則中止し,今回この治療方針の変更が敗血症性急性肺傷害の予後に影響していないかを検証した。【方法】2007年1月前後21カ月間に,敗血症性急性肺傷害の診断で24時間以内に人工呼吸を要した成人ICU症例を前期群64例,後期群36例で比較した。【結果】両群の患者背景に差はなかった。シベレスタットは前期群54例(84.4%),後期群4例(11.1%)に使用された。28日ventilator free days,ICU滞在および入院期間,院内死亡率に有意差はなかったが,人工呼吸期間は後期群で有意に短かった。院内死亡率に対する多変量解析では,前期群に比べ後期群のodds ratioが0.269(<I>P</I>=0.028)であった。【結論】シベレスタット使用中止で敗血症性急性肺傷害の予後は悪化しなかった。