著者
池谷 直樹
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.279-291, 2020 (Released:2020-12-01)
参考文献数
42

本論では, 都市建物群を想定した単純建物群内に位置する建物を対象として実施された室内外気流の数値流体解析データベースを分析し, 複雑な屋外気流が通風時の室内気流の時間平均分布や時間変動に与える影響について考察した。 屋外建物群の配列方法として二条件, 開口方向として二条件を組み合わせた四条件を対象として, 周辺建物の配列状況と開口位置の影響について分析し, 以下の結論を得た。 建物群の配列条件は, 屋外周辺の時間平均気流分布に大きな影響を与えるが, 換気建物の開口位置の違いは, 屋外気流へほとんど影響しない。一方, 開口位置の違いが室内の時間平均気流分布に及ぼす影響は大きい。また, 室内気流には高周波の変動はほとんど見られないもの, 建物スケールの数倍となる比較的ゆっくりした屋外変動が室内気流変動にも影響することで, 室内気流と屋外気流の時間変動の間に大きな相関が観られる。さらに, 壁面差圧に基づく推定換気量に比べて, 実際に開口を通過する換気量は過小となる。加えて, 開口部の平均風速がない開口条件においても, 開口部での気流の流入出による非定常換気が生じる。以上のことから, 都市建物群内に存在する建物の換気量推定における周辺気流場の時空間変動を考慮することの重要性が明らかとなった。
著者
篠原 直秀 二俣 みな子 蒲生 昌志
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.115-124, 2009 (Released:2012-06-01)
参考文献数
20
被引用文献数
1 1

2006年の冬に,インターネットを通じて家具や家電製品等の各室内における保有量の調査を行った(回答数1035世帯)。将来的に放散量データと合わせて曝露評価を行うことを念頭に,世帯単位の保有数ではなく,用途(行為)別の部屋ごとの滞在時間や家具/家電製品の保有数を回答してもらった。保有数は,ある行為(“食べる”,“くつろぐ”,“寝る”,“趣味/勉強をする”)を行う部屋における保有率/保有数の整理を行った。“寝る”行為は,寝る時のみに使用する部屋で行われることが多かったが(65%),“くつろぐ”行為は,その他の行為も同じ部屋で行われることが多く(77%),特に“食べる”行為と同じ部屋で行われることが多かった(66%)。“食べる”時のみに使用する部屋で保有率が高いものは,テーブル(91%),いす・座いす(89%),食器棚(89%),換気扇(53%),冷蔵庫(78%),調理機器(47%~77%)があり,“くつろぐ”時のみに使用する部屋で高いものには,ソファー(58%),テレビ(89%),エアコン(80%),じゅうたん・ラグ・カーペット(68%)が挙げられる。また,“寝る”時のみに使用する部屋ではベッド(49%),洋服ダンス(68%),衣装ケース(61%)が高く,“趣味/勉強をする”時のみに使用する部屋では机(74%)といす・座いす(78%),本棚(76%),パソコン(65%)の保有率が高い。また,いくつかの家具/家電製品では,保有率に有意な地域差もみられた。これらの情報は,家具等からの放散量データと組み合わせることにより,ある家具/家電製品による化学物質への曝露濃度を推計することができ,化学物質の代替や使用量の低減効果が推定可能となる。
著者
原 邦夫 森 美穂子 石竹 達也 原田 幸一 魏 長年 大森 昭子 上田 厚
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境学会誌
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.97-103, 2007
被引用文献数
2

2002年2月に校舎の改装工事の終わった小学校の教室にただちに入室した小学生女子が化学物質過敏症を呈した。転校後に症状が改善したため,教室内空気質が主な原因とみられた。本研究の目的は,ホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化の特性を明らかにし,学校の改装についての改善策を示すことである。<BR>我々は対象の校舎改装後小学校の教室内のホルムアルデヒドおよびVOCsの気中濃度を2002年の3月から2か月ごとに2年間測定した。アルデヒドは2,4-DNPH捕集-HPLC法,7VOCs成分(日本の厚生労働省が規制している11成分の内のトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,<I>p</I>-ジクロロベンゼン,テトラデカンおよびフタル酸-<I>n</I>-ブチル)はTenaxTA捕集-加熱脱着-GC/MS法を用いた。総VOCs濃度はトルエン濃度換算して求めた。対象の教室の総VOCs濃度は,外気の濃度の数倍であり,教室内にVOCsの発生源があったことを示唆した。また,2年間の結果は物理化学的な性質に応じてホルムアルデヒドおよびVOCs濃度の経時変化は3様に分かれることを示した。すなわち,(1)1年目の夏に最高濃度を示し急激に減衰した物質として,トルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレン,(2)2年目の夏にのみ高濃度を示した物質として,ρ-ジクロロベンゼン,(3)夏に1年目および2年目ともに高濃度を示す二峰性の濃度変化を示した物質として,ホルムアルデヒド,テトラデカン,フタル酸ジ-<I>n</I>-ブチル,に分類された。これらの結果は,塗料に含まれるトルエン,エチルベンゼン,キシレン,スチレンは最初の夏で急速に揮発し,家具や内装材に含まれるホルムアルデヒドおよびフタル酸ブチルは低濃度ではあるが高温多湿の夏に毎年揮発することを示した。以上のことから,我々は学校での改装工事は少なくとも休みの前半に行い,とくに暑い夏に揮発させることを推薦した。
著者
林 大貴 長岡 優輝 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-24, 2017 (Released:2017-06-01)
参考文献数
17

メタノールはこれまで生活環境中の空気汚染物質として,あまり注目されてこなかったが,自動車用燃料や燃料電池の水素源として新たな用途が広がりつつあり,生活環境中にメタノールガスが拡散する可能性が指摘されている。二酸化マンガンは室温でホルムアルデヒドと反応し二酸化炭素を生成することから,空気清浄材料の成分として実用に供されている。この二酸化マンガンが常温でメタノールガスをホルムアルデヒドにまで酸化できれば,ホルムアルデヒドの酸化分解と同様に常温常圧下で二酸化炭素にまで無機化できる可能性がある。そこで本研究では,物性の異なる4種類の二酸化マンガン粒子とメタノールガスの反応性を密閉式試験で調べた。その結果,室温において試験容器内の気中メタノール濃度は著しく減衰し,その減衰速度は二酸化マンガン粒子の比表面積に依存的であった。同時に気中二酸化炭素濃度の有意な増加が観測され,二酸化炭素への転化率は結晶構造に関係した。また反応容器中に中間体として極微量のホルムアルデヒドおよびギ酸種の生成を認めた。このことから,二酸化マンガンがメタノールガスに対しても常温酸化分解活性を有することが明らかとなった。
著者
橋本 明憲 高橋 俊樹 松本 健作 鵜崎 賢一
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.147-161, 2012 (Released:2012-12-01)
参考文献数
17
被引用文献数
1 1

家庭に於ける花粉除去手法として最も普及しているのは空気清浄機である。SubGrid-ScaleモデルとしてCoherent Structure Modelを用いたLES,粒子挙動シミュレーション,及びその解析や可視化を行う自作ソフトウェア群Computational fluid dynamics and Aerosol Motion Property Analysis Suite(CAMPAS)を開発し,縦5 m横5 m高さ2.5 mの室内床面中央に配置した前面吸気上面排気型の空気清浄機による,スギ花粉挙動を解析した。その結果,このモデルの空気清浄機は,室内に一様分布させた花粉の4割程度しか吸入できず,5割強の花粉を落下させてしまうことが分かった。また,空気清浄機の吸気面以外の面である側背面や,部屋壁面に花粉が衝突し,落下しやすいことが明らかになった。空気清浄機の吸気面前方領域に存在する花粉は吸入しやすく,また,後方領域の花粉も排気により再度上昇させることで吸入できることが判明した。空気清浄機が吸入しやすい,吸気面からの方位角θや仰角φが存在する。この角度の値は吸排気モデルに依存すると考えられる。従って,空気清浄機の吸排気仕様を変化させ,花粉を吸入できる領域を拡大することで,花粉除去率のさらなる向上が期待できる。
著者
笈川 大介 高尾 洋輔 村田 真一郎 竹内 弥 下山 啓吾 関根 嘉香
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.113-121, 2011
被引用文献数
2 3

東日本大震災により多くの住民が避難生活を余儀なくされている。避難者の生活を一時的に安定させるため,約72,000戸の応急仮設住宅(以下,仮設住宅)が宮城県,福島県,岩手県などに建設されている。一方,国外の災害において,仮設住宅に避難した住民が高濃度ホルムアルデヒド曝露により健康被害を受けた事例がある。宮城県では国土交通省の指示に基づき,仮設住宅の供給メーカーに対して1発注につき1戸(50~60戸に1戸)の割合で住宅性能表示制度に定める特定測定物質5物質(ホルムアルデヒド,トルエン,キシレン,エチルベンゼンおよびスチレン)の室内濃度測定を課し,仮設住宅の空気性能の管理に務めている。しかしながら法定5物質以外の物質が室内空気を汚染する可能性があり,詳細な化学物質調査が必要である。そこで筆者らは,宮城県の協力のもと,2011年6月20日に宮城県内1地区の仮設住宅5戸,6地点を対象に室内空気中化学物質濃度の現地調査を行った。対象物質はアルデヒド・ケトン類3物質,揮発性有機化合物43種類およびTVOC(Total Volatile Organic Compounds)濃度とした。その結果,法定5物質を含む室内濃度指針値の設定されている物質は,測定点全てにおいて指針値以下の濃度レベルであった。しかしTVOC濃度は1700~3000μg/m<sup>3</sup>で暫定目標値の4倍~7.5倍であり,指針値の設定されていない化学物質の寄与が高かった。
著者
筏 義人
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.33-44, 2007-06-01 (Released:2012-10-29)
参考文献数
36

最近, 気管支喘息のようなアレルギー疾患が先進国を中心に増え続けている。その原因は必ずしも明らかではないが, 推測されている大きな原因は,最近の急激な室内環境変化である。すなわち, 住居の気密性と断熱性が高まるとともに, 室内冷暖房設備の機能が向上した結果, 室内にダニやカビが年中住みついてしまったのである。それまでは, 高温多湿期という限られた期間しかダニやカビは住居内に生息できなかった。アレルギー疾患のアレルゲンとして最も可能性の高いダニアレルゲンが常に居住空間内に存在するために, アレルギーの発病頻度が高くなったという次第である。その結果, 室内環境からダニの糞やペットの毛などを含むハウスダストを排除しようという試みが国の内外において活発に進められている。わが国においては, 以前から畳やフトンの天日干しと叩き, 床の雑巾拭き, 掃除機がけ, などがダニの排除に実施されてきた。最近では, 先端技術を利用した方法も用いられている。本解説においては, 特にわが国で, 最近, 開発されたダニの排除法とその効果を調べた結果を最近の文献に基づいて紹介する。
著者
吉田 俊明
出版者
一般社団法人 室内環境学会
雑誌
室内環境 (ISSN:18820395)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.141-154, 2010 (Released:2012-06-01)
参考文献数
48
被引用文献数
1

α-ピネンは,多くの脂肪族及び芳香族炭化水素と同様に日本の住宅内の空気汚染に関与する主要な化学物質である.本研究では,α-ピネンの2つの異性体(+)-及び(-)-α-ピネンのラットにおける体内動態をそれぞれ薬物動力学的に解析し,ヒトにおける経気道吸収量を外挿した.ラットを入れた閉鎖系曝露装置内に一定量のα-ピネンを注入後気化させ,ラットへの吸入による装置内濃度推移を調べ,薬物動力学的に解析した.得られた結果から,一定濃度のα-ピネンに一定時間曝露されたラットにおける吸収量を推定したところ,異性体間で差は認められなかった.ラットにおける炭化水素類の経気道吸収量について過去に我々が得た結果と比較すると,同一の曝露濃度下においてα-ピネンはn-ヘキサン,n-デカン,トルエン,キシレン,エチルベンゼン,スチレンなどよりも吸収されやすく,1,2,4-トリメチルベンゼンと同程度であると推定された.ラットから得た結果及び日本の住宅における各物質の室内濃度に関する過去の調査結果をもとに,居住者(体重60 kg)におけるα-ピネンおよび各炭化水素類の吸収量を推定した.16時間の在宅時間中のα-ピネン吸収量(住宅内濃度中央値4.4 μg/m3において31 μg)は,トルエンに次いで多かった.また,各物質による空気汚染の著しい住宅居住者のα-ピネン吸収量(住宅内濃度1.8 mg/m3において13 mg)は他の物質の吸収量よりもはるかに多く,米国環境保護庁(EPA)の提案するα-ピネンの無毒性量(NOAEL)から算出した耐容一日摂取量(TDI)と同レベルであった.