著者
譲矢 正二
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.45-48, 2019 (Released:2020-05-20)

変形性膝関節症とは、軟骨の退行変性であり、疼痛と可動域制限が主症状である。整形外科疾 患の中でも頻度の高い疾患であり、我々理学療法分野においても度々遭遇する疾患である。 変形性膝関節症治療の目的は、いかに疼痛の軽減を図るか、それに可動域の維持・改善が要求 される。 治療法としてはまずは、触診や動作にて関節の動きをよく観察することであり、またその疼痛 がどの部位でどの程度の痛みが出現するかを確認することが大切である。その時、可動域の制限 が関節の軟部組織によるものか、それとも関節そのもの、いわゆる関節包内によるものかを確認 することが、理学療法を進める上で極めて重要であり、軟部組織の緊張であれば、軽いストレッ チ運動や膝の屈伸運動いわゆる骨運動を数回繰り返し行うことで改善することがある。しかし、 関節包内による拘縮の場合は、関節包内運動いわゆる関節の遊び運動が重要であり、関節面に対 する引き離しや滑り運動を中心に行う。 そこで今回、変形性膝関節症に対する関節包内運動を中心に実技を加えその一部を紹介する。
著者
宮本 俊和
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.9-16, 2016 (Released:2020-05-20)
参考文献数
32

低周波鍼通電療法は、スポーツ分野で広く応用されている。鍼治療は、スポーツ動作の繰り返しによって生じる慢性のスポーツ障害の治療、スポーツ外傷・障害の予防、コンディションの維持など薬物療法より適応範囲が広い。 低周波鍼通電療法は、1970年代に鍼麻酔法として中国で紹介され、それ以降、諸外国で鍼鎮痛のメカニズムが研究されるようになった。また、骨格筋に対する研究では、一過性の筋疲労による筋力や筋持久力の低下を早期に回復することが報告されている。動物実験では、①筋損傷の修復を早める、②筋萎縮の進行を抑制する、③浮腫を抑制する効果があるなど、組織学的にも検証されつつある。スポーツ外傷・障害に対しては、大学スポーツ選手の外傷・障害の効果、腰痛に対する効果、肉離れに対する効果などが報告されている。このように低周波鍼通電はスポーツ分野で広く用いられている。 私たちは、スポーツ外傷・障害の低周波鍼通電療法を行なう際に、周波数を以下の3つに分類して治療を行っている。 (1) 1〜3 Hzは、筋肉が単収縮する周波数で筋の緊張緩和や神経痛などに用いる。また、疼痛閾値の上昇、免疫機能を高めるためには、合谷穴—孔最穴、足三里穴—三陰交穴など手指や足趾が収縮するような刺激をする。電流量は筋肉が収縮する程度の強さとする。通電時間は、通常15分程度とするが、鍼麻酔などによる全身の痛覚閾値の上昇を期待する場合は30分行う。 (2) 30〜60 Hzは、筋肉が強縮する周波数で筋疲労の軽減や腱炎などに用いる。アキレス腱炎や筋腱移行部に起こった肉離れなどで用いる。間欠的な刺激をする場合が多い。電流量は刺激した筋肉または腱が強縮する強さとする。持続的刺激以外に間欠的な通電刺激を行うことが多い。通電時間は15分程度とする。 (3) 100〜120 Hzは、筋収縮は起こらないが通電局所に刺激を感じる周波数である。関節部の痛みなどの局所鎮痛や腫脹の軽減などに用いる。電流量は、刺鍼部に刺激を感じる程度とする。持続的刺激以外に間欠的な通電刺激を行うことが多い。通電時間は15分程度とする。 本稿では、スポーツ外傷・障害の治療法を紹介するとともに、運動後の免疫力低下に及ぼす効果について紹介する。
著者
山口 智
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.9-16, 2019 (Released:2020-05-20)
参考文献数
19

日常の鍼灸臨床で膝関節痛を有する患者を取り扱う頻度は高く、その大半が退行性病変である 変形性膝関節症(膝OA)やoveruse syndrome であるスポーツ障害が大半を占めている。膝OA の 疫学では有症状患者数は約800 万人と言われ、超高齢化社会において年々増加している。 膝OA の病態は、軟骨の変性に起因し、関節周囲の筋緊張や筋腱付着部の循環障害が疼痛の原因 とされている。患者の症状の経過や理学検査を十分実施し、病態の把握や適応の有無などを鑑別 し必要に応じて専門医に診療を依頼することを忘れてはならない。 当科における膝OA の鍼灸治療は、膝関節周囲の筋腱付着部や靭帯、神経、関節裂隙などの圧痛 部位などを基本とする病態に基づく組織選択性であり、こうした部位への鍼灸治療で疼痛の改善 やQOL の向上を期待する。圧痛や筋緊張の改善と鍼治療の効果は正の相関を示し、関節の変形の 程度により、その効果に差異が認められた。また、軽度膝OA に対する鍼治療効果は疼痛の軽減と QOL の向上に寄与することも示唆された。 膝OA に対する鍼灸治療の効果については、海外から優れた論文が報告されていることから、 OARSI にてその有効性が示された。しかし、最近国内外において、こうした有効性が疑問視され ており、整形外科専門医との共同研究など、質の高い臨床研究を推進しなければならない。
著者
和田 恒彦 全 英美 宮本 俊和
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.65-71, 2017 (Released:2020-07-07)
参考文献数
9

【目的】間接灸は火傷の可能性もあり温度特性について把握しておく必要がある。しかし先行研究 では1秒未満の詳細な温度変化を検討したものは見受けられない。そこで台座灸、温筒灸、棒灸 の温度特性について検討した。 【方法】4㎜厚のシナベニア板上に置いた1㎜厚のアメゴムシート上に熱電対を施灸部位直下(0.00 ㎜)、直下から外方3.75㎜、7.50㎜、15.00㎜、30.00㎜、45.00㎜の6点に設置し、温度インターフェ イスを介してパーソナルコンピュータに温度データを取り込んだ。棒灸は、熱電対からの高さ20 ㎜と100㎜とした。0.55秒間隔で600秒間計測し、各灸6回測定した。 【結果および考察】平均最高温度は台座灸55.9±5.0℃、温筒灸64.3±3.3℃、棒灸の高さ20㎜は 51.2±4.7℃、 100㎜は30.1℃±3.3℃だった。最高温度までの時間は、 台座灸160.7秒、 温筒灸154.5秒、 棒灸の高さ20㎜は126.7秒、100㎜は182.5秒だった。台座灸の温度曲線は漸増的に温度上昇後、 頂点付近は弧を描き、なだらかに温度下降をした。温筒灸は、台座灸よりも急激に温度上昇し、 頂点付近で少しゆるやかになり頂点から急激に下降した。棒灸の高さ20㎜は、漸増後、頂点はゆ るやかな弧をえがき、非常になだらかに直線的に温度は下降、高さ100㎜は非常になだらかに温度 上昇し、直線的に推移した。台座灸、温筒灸では施灸部外方7.5㎜以遠ではほとんど温度上昇がな かった。台座灸では最高温度付近で急激な温度変化があることがわかった。各種間接灸を使い分 けることにより、異なる刺激を与えることができる可能性が示唆された。 【結語】高頻度の温度計測および施灸周囲の温度測定によりこれまで不明だった台座灸、温筒灸、 棒灸の温度特性をとらえることができた。
著者
徳竹 忠司 佐々木 皓平
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.79-83, 2019 (Released:2020-05-20)
参考文献数
5

【はじめに】鍼治療における、治療計画の立案には様々な道程がある。POS 的思考に基づいた臨床 推論を行い、愁訴の責任部位の病態を把握し、刺激方法を検討する行為もその中の一つであると 考える。身体診察による情報収集に加えて既存の知識を活用し、患者の抱える問題の解決に当たる。 今回Travell らによって体系化された筋筋膜性疼痛症候群とトリガーポイントの概念が愁訴改善に 有用であった症例を体験したので報告する。【症例】59 歳 女性 【主訴】右膝関節周囲の痛み 【現 病歴】50 歳代前半から歩行時・階段昇時に右膝関節周辺に時々違和感が出現していた。痛みでは なく、日常生活や仕事に際し支障もなかったため放置していた。58 歳時に深くしゃがむことが多 くなった頃から膝関節周辺の違和感が強くなり、痛みとして認識するようになった。歩行時には 時間や距離が長くなると膝関節周辺の痛みは必発していた。当科初診の1 ヵ月程前から座業時に も膝周辺に痛みが出現するようになり、歩行時痛も以前より短時間・短距離でも出現するように なったため、受診歴のある整形外科を受診した。X 線検査の結果、膝関節に特別な問題はないが 股関節の変形が以前より進んでいるとのコメントで、パップ剤を処方された。1 週間ほど前から右 大腿下部後面外側・膝関節外側面・下腿外側上部に疼痛が発生しパップ剤にても寛解しないため 同僚の紹介で当科受診となった。【理学的所見抜粋】右膝関節に関する痛みの誘発試験は全て陰性 であり、大腿部・下腿部の筋圧痛はなし。右股関節の回旋制限がみられ、小殿筋前部・後部線維 の抵抗負荷にて膝周辺に違和感の再現。小殿筋の圧迫による膝関節部の違和感の再現。【評価】小 殿筋トリガーポイントからの連関痛 【治療】右小殿筋 鍼通電 1Hz 15 分 【結果】初回の治療で膝 周辺の痛みは寛解し、以降同様の治療にて主訴は消失した。
著者
安野 富美子 坂井 友実
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.25-33, 2017 (Released:2020-07-07)
参考文献数
12

閉塞性動脈硬化症(arteriosclerosis obliterans, 以下ASO)は、四肢動脈に動脈硬化が進行し、狭 窄あるいは閉塞が生じ、その環流領域に循環障害を呈する疾患である。本症は超高齢社会の到来 と生活習慣の欧米化による食生活の問題や運動不足、ストレスの増加などから今後益々の増加が 予想されている。 ASOの主症状は、冷感、間欠跛行で、重症化すると安静時痛、潰瘍や壊死も起こってくるが、 いずれも下肢動脈の循環障害に起因した症状である。 本症に対する治療は重症度によって異なる。Fontaine分類のⅠ・Ⅱ度では、主として保存療法が 行われるが、効果がみられず、外科的処置が行われることもある。 一方、鍼治療は末梢循環障害の改善に効果があるとされているが、器質的疾患である ASOに対 しても鍼治療の効果があるのか、またその適応範囲と作用機序の一端を明らかにするために行っ た我々の研究について紹介する。 鍼治療の効果を検討した対象は、ASO患者21例(Fontaine分類Ⅰ度1例、Ⅱ度17例、Ⅲ度2例、 Ⅳ度1例)で、鍼治療は、低周波鍼通電療法を主とした。評価項目は、冷感、間欠跛行距離、ペ インスコア、ABPIとし、鍼治療開始前と17回目の鍼治療前の時点で評価した。また、鍼刺激前 後の生体反応として、下肢の皮膚温測定(サーモグラフィ装置による計測)と血漿CGRP値の測 定を行った。 その結果、Fontaine分類のⅠ・Ⅱ度の症例では、冷感の改善、間欠跛行距離の延長、歩行時の疼 痛の軽減がみられた。Fontaine分類Ⅲ・Ⅳ度の症例では、症状の改善は得られなかった。ABPIは、 すべての症例で変化がみられなかった。鍼刺激による、時間経過に伴う下肢末梢の皮膚温は有意 な変化を示し、鍼刺激開始15分後から、抜鍼後15分後にかけて刺激前値に比し、有意な上昇を 示した。血漿CGRP値は、鍼刺激15分後に刺激前値に比し有意な増加がみられた。 以上のことからASOに対する鍼治療はFontaine分類Ⅰ度・Ⅱ度に効果的であり、その機序とし て末梢血管を拡張させ、循環を改善させることを示した。このことからASOに対する鍼治療の適 応は、Fontaine分類Ⅰ度・Ⅱ度と考えられた
著者
山口 智
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.35-42, 2016 (Released:2020-05-20)
参考文献数
16

本学における東洋医学部門の経緯は、1984年に第二内科の一部門として開設され、以来30年間にわたり医科大学において鍼灸医療の診療や研究・教育に従事してきた。特に学内の専門診療科と共同で診療や研究を推進し、伝統医療の科学化に着手している。 当科外来に他の診療科より依頼があった患者の頻度は、66.1%と来院患者の3分の2以上を占め、診療各科との連携が年々充実してきている。依頼診療科は、末梢性の顔面神経麻痺を専門とする神経内科や神経耳科が上位にランクされている。こうした依頼患者の疾患別出現頻度は、Bell麻痺が最も多く、次いで緊張型頭痛、肩こり症、非特異的腰痛、脳血管障害、Ramsay Hunt症候群等が高い。 末梢性顔面神経麻痺の原因は、Bell麻痺とRamsay Hunt症候群がその大半を占め、その他外傷や腫瘍、全身性疾患等である。評価法には、40点法(柳原法)やHouse-Brackmann法が広く専門医に活用されており、また、予後判定には電気生理学的検査であるENoGが最も重要視されている。 当科における鍼灸治療の方法は、多くの臨床研究の成果より病期や病態(麻痺の程度)によりそれぞれ治療法を選択している。発症早期は顔面神経を目標とした経穴に置鍼している。麻痺発症後2週間で麻痺の程度が軽度であれば顔面神経を目標とした鍼通電療法(1Hz, 10~15分)、麻痺の程度が重度であれば表情筋を目標とした置鍼、及び非同期鍼通電療法を実施している。さらに、後遺症の予防や治療に対しても非同期鍼通電療法を早期に開始している。 このように、専門診療科と連携し早期に鍼治療を開始することで麻痺の改善を早め、また、現代医療でも難治とされている完全麻痺や後遺症に対しても概ね期待すべき効果が得られている。一方、顔面神経を目標とした鍼通電刺激が予後判定に有用な手段となる可能性も示唆された。
著者
林 健太朗 粕谷 大智
出版者
一般社団法人 日本東洋医学系物理療法学会
雑誌
日本東洋医学系物理療法学会誌 (ISSN:21875316)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.105-113, 2018 (Released:2020-05-20)
参考文献数
32

【目的】末梢性顔面神経麻痺(以下 麻痺)患者の後遺症は、患者のQuality of Life(以下 QOL)を 著しく低下させる。そのため、後遺症の出現が予想される患者に対してはその予防や軽減を目的 に発症早期からリハビリテーション(以下 リハ)が行われている。リハの介入の中で表情筋に対 するマッサージは日々の臨床で多用されている。そこで、本研究では我が国の麻痺患者に対する マッサージの文献レビューを行い、目的・方法・効果に焦点を当て、現状と意義および課題につ いて検討した。 【方法】データベースは、医中誌Web Ver.5 を使用し、検索語はその統制語である「顔面麻痺」、 「Bell 麻痺」、「帯状疱疹- 耳性」の同義語のうち関連する検索語と「マッサージ」とした。調査日 は2018 年6 月20 日、調査対象期間は限定せずに行った。同時に、ハンドサーチも行った。対象 論文は、包含基準・除外基準に基づき選定した。 【結果】検索の結果、医中誌Web23 件、ハンドサーチ3 件、合計26 件が抽出された。そのうち対 象論文の条件を満たす11 件について検討した。マッサージの目的は、後遺症出現前は予防、出現 後は軽減を目的に行われていた。方法は、主に前頭筋・眼輪筋・頬骨筋・口輪筋・広頸筋などの表 情筋に対して、頻回の筋を伸張するマッサージが行われていた。マッサージは他の治療法と併用 されていた。評価は、柳原法、Sunnybrook 法、House-Brackmann 法、Facial Clinimetric Evaluation Scale などが用いられており、マッサージを含めたリハの効果として、後遺症の軽減、QOL の向上 が報告されていた。 【考察・結語】麻痺患者に対するマッサージは、病期に応じて後遺症の予防や軽減を目的に、他の 治療法と併用することにより後遺症の軽減、その結果としてQOL の向上に寄与できる可能性が示 唆された。特に麻痺患者のQOL を著しく低下させる要因である顔面のこわばり感などの違和感に 対してマッサージを行い一定の効果を挙げていることは、この領域における手技療法の意義が考 えられた。一方で、マッサージの方法、効果の検討に関する課題も明らかとなった。