著者
田中 伊織
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道立水産試験場研究報告 = Scientific reports of Hokkaido Fisheries Experimental Station (ISSN:09146830)
巻号頁・発行日
no.62, pp.41-55, 2002-03 (Released:2011-03-05)

北海道西岸域で北海道ーサハリン系ニシンが示した分布域の変化および再生産量の変動に海洋環境がどのように関わってきたか1897年から2000年までの一世紀を超える記録がある沿岸水温を環境指標にして調べた。桧山地方の漁獲量との関係から、古くから予想されていたニシン漁場の北偏現象と海況との関係について、水温環境が変化することで分布域が変化することが本研究で明らかとなった。年級別累積漁獲尾数との関係から、卓越年級の発生頻度は標準化水温に対して低温側で高く、高温側で低くなる確率分布関数として表現されるという仮説が導かれた。このことは、水温が制御因子の一つとなっている生態系の構造が、水温という外力の変化に対して卓越年級の発生頻度が変化するように系全体として作用していると理解された。今回の解析から、北海道ーサハリン系ニシンが示した資源量変動の歴史に大気ー海洋相互作用による水温の長期変動が強い影響を与えていることが結論された。
著者
佐野 稔
出版者
北海道立水産試験場
巻号頁・発行日
no.70, pp.95-98, 2006 (Released:2011-03-05)

北海道北部日本海の稚内市抜海沿岸におけるミズダコの繁殖期を明らかにするために、2003年6月-2004年6月まで毎月1回、たこ函で漁獲されたミズダコを収集した。雌の卵巣指数、輸卵管球指数は、11-12月と3月に上昇した。これら個体は、輸卵管球に精子を有していたので、産卵前の成熟した雌と考えられた。雄の精莢嚢指数は10-12月に上昇し、精巣指数は10月に上昇した後11-12月に減少した。11-12月の全ての個体で精莢を有していたため、成熟して活発な交接行動を行っていた雄と考えられた。本研究で明らかになった繁殖期は、既報の礼文島周辺海域における繁殖期に含まれた。
著者
虎尾 充
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道水産試験場研究報告 = Scientific reports of Hokkaido Fisheries Research Institutes (ISSN:21853290)
巻号頁・発行日
no.83, pp.27-36, 2013-03

1997~1999年の5~7月に網走湖内で稚魚ネットを用いてワカサギの採集を行ない,湖内分布と発育様式を検討した。採集されたワカサギは全て仔魚期(Phase A~F)の個体であった。ワカサギ仔魚は発育初期に河川流入域付近に比較的高密度に分布していたが,湖内加入後は速やかに湖内全域に分散すると考えられた。分散後の分布密度や発育段階組成は一様ではなかったが,特定の時期や水域に集中する傾向は見られなかった。仔魚密度指数は1997年級が574個体/曳網で最も高く,1998年と1999年はそれぞれ177個体/曳網と190個体/曳網でほぼ同程度であった。発育速度は1997年級群が最も低かった。
著者
虎尾 充
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道水産試験場研究報告 = Scientific reports of Hokkaido Fisheries Research Institutes (ISSN:21853290)
巻号頁・発行日
no.81, pp.131-139, 2012-03

網走湖におけるワカサギ天然魚の初期発育を形態的・生化学的な指標を用いて検討した。形態的には発育段階の移行期である全長12mm,33mm,42mm,54mmに体型の変曲点があると考えられた。RNA/DNAおよびタンパク質/DNA比の変化から,網走湖産ワカサギは仔魚期には盛んな細胞分裂が中心の増殖的成長,仔魚期から稚魚期への移行期には細胞の大きさが増大する肥大的成長,稚魚期以降は増殖・肥大的成長が中心の成長様式を持つと推定された。特に顕著な形態的・生化学的な発育段階の変化が認められた脊索屈曲期(Phase D)は食性転換が認められる時期と対応しており,形態形成・生理的な発育段階・食性移行の関連性が推測される。
著者
宮腰 靖之 永田 光博 安藤 大成 藤原 真 青山 智哉
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道水産試験場研究報告 = Scientific reports of Hokkaido Fisheries Research Institutes (ISSN:21853290)
巻号頁・発行日
no.83, pp.41-44, 2013-03

2003~2005年の5~6月,北海道オホーツク海側東部の網走沿岸で刺網,釣り,表層曳網により魚類を採捕し,サケOncorhynchus ketaあるいはカラフトマスO.gorbuscha幼稚魚の捕食の有無を調べた。サクラマスO.masou,ソウハチHippoglossoides pinetorum,クロソイSebastes schlegelii,コマイEleginus gracilisの4種がサケあるいはカラフトマスの幼稚魚を捕食していた。Nagasawa(1998)は日本沿岸におけるサケ幼稚魚の魚類捕食者を9種記載しているが,ソウハチ,クロソイ,コマイの3種は含まれておらず,これら3種については本報告がサケあるいはカラフトマスの魚類捕食者として新たな記載となる。
著者
宮園 章 奥村 裕弥
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道立水産試験場研究報告 (ISSN:09146830)
巻号頁・発行日
no.73, pp.31-34, 2008-03

2006年9月に噴火湾の表面泥中の硫化物(AVS-S)の水平分布を調査した。硫化物濃度(>0.2mg-S/g-乾泥)の高い泥は湾奥部の水深70-90mの等深線の間に分布した。高い硫化物濃度は有機物量の多いエリア(強熱減量>10%)にみられた。1979年の調査結果と比べると、硫化物量が0.2mg-S/g-乾泥を越えたエリアと強熱減量が2.0%以上のエリアはともに半分程度の面積に縮小していた。これらの結果は前田らによって提唱されている仮説「過剰に養殖されているホタテガイの糞粒は噴火湾の底質悪化を招いている」を支持しない。
著者
佐藤 敦一 竹内 俊郎
出版者
北海道立水産試験場
雑誌
北海道水産試験場研究報告 = Scientific reports of Hokkaido Fisheries Research Institutes (ISSN:21853290)
巻号頁・発行日
no.80, pp.25-31, 2011-12
被引用文献数
1

マガレイのDHA要求に基づいた形態異常防除技術の実用性を評価するために試験を行った。4種の栄養強化剤(市販品3種、高純度DHAオイル、計4区)で処理したワムシをふ化後15~25日齢まで給餌し、その際栄養強化アルテミア(各区共通)も給餌した。26日齢~稚魚期までは強化アルテミアのみ給餌した。形態正常率および生残率は、DHA要求に対応したワムシを給餌した場合、対応していない場合と比べて顕著に高くなった。市販栄養強化剤でもDHA要求量に対応するように調製すれば、DHAオイルで強化した時と同様に、形態異常魚の出現を1割以下に抑制できることを実証した。これらは、DHA要求に着目した形態異常防除技術の実用性が高いことを示している。