- 著者
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光谷 拓実
- 出版者
- 奈良国立文化財研究所
- 雑誌
- 基盤研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 1997
9年度、10年度と2年度にわたって採取した標本17本分は、心材部に続く辺材部(白太ともいう)がすべて失われており、その正確な枯死年代を求めることのできない形状のものばかりであった。年輪年代の結果は500年前後と1000年前後を示すグループに分かれた。そこで、失われたであろう辺材部の年輪数を推算してみると、500年前後を示すグループは600年を境に前後した枯死年代が、もう一方の1000年前後示すグループは1100年を境に前後した枯死年代が考えられる。ここで、過去に発生した大地震の古記録を見てみると、西暦599年と1096年に大地震が発生している。あくまでも推定ではあるが、調査した湖底木はこの2度の地震で急斜面に生育していた巨木が地滑りとともに、芦ノ湖の湖底に移動し、逆さスギが誕生したものと思われる。2年度にわたる調査結果を見ると、まず第1に湖底木の年輪年代から見て、この地域を襲った巨大地震は約500年の周期が考えられる、第2は、C^<14>年代法で推定していた年代(西暦350年頃、西暦900年ごろ)がいずれも約200年ほど新しくなることが明らかになり、C^<14>年代法の信頼度をクロスチェックできたことになる。本研究で得られた結果は、今後の箱根地域での地震予知を考える上で、貴重な年代情報を提供できたことになろう。現在、芦ノ湖を誕生させた神山の泥流中に埋没していたヒノキ材の年輪解析を進めている。これらの年輪年代が確定すれば、芦ノ湖の誕生した年が判明するであろう。