- 著者
-
真野 祥子
- 出版者
- 愛媛県立医療技術大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2006
学童期のADHD児を持つ母親を対象とし,マターナルアタッチメント形成プロセスの特徴について検討した。12人の母親に半構成的面接を実施し,児の行動と養育について母親自身の情動体験を含めて聞き取りを行った。ADHDの症状は母親のネガティブな感情を引出し,問題行動に直面するとネガティブな感情が生起し養育態度も厳格になりがちであったが,その一方で可愛いと思える様子の時にはポジティブな気持ちとなっていたように,アンビバレントな状態が特徴的であった。マターナルアタッチメントの状態は,ルールに沿った行動が求められる学校生活が開始されると悪化していた。この時期のマターナルアタッチメントは母子の生活史の中で最も悪い状態となるのであろう。ADHD児の母親は診断を肯定的に受け止めていた。診断後,母親は自責の念から解放され,本を読んだり親の会に参加し,疾患に関する知識を得ていた。その結果,問題行動が起こった時はその原因を冷静に考えることができ,行動の見方と養育態度も変化したと実感していた。また,診断後,ポジティブなエピソードは顕著に増加し,小学校入学後に大幅に増加したネガティブなエピソードは診断後に減少しており,小学校入学と診断は母親にとって転機であると言える。しかし,将来への不安は依然として大きなままであり,最終的には学校教育終了後,就職や結婚等の社会的自立について将来の見通しが持てず不安を抱いていた。