著者
鈴木 南帆子 青柳 まゆみ
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.11-19, 2021-03

本稿では、立体・面・線など多様な表現方法を含み、それらの相互の関係性の理解の向上を図る触地図教材を作製し、盲学校の教員へのインタビュー調査を通して、その有効性について検討した。触地図教材は、建物とその周辺環境を対象とし、建物の立体・面・線の表現とその周辺環境の表現の4つの表現方法を含むものである。これら4つの表現方法はそれぞれの関係性をわかりやすくするため、すべて1つの地図盤の上で表現し、磁石による取り外しを可能にした。盲学校の教員へのインタビュー調査では、「変化がわかりやすい」「自分で教材を操作することで関係性がわかりやすくなる」などの意見があった。また、1つの地図盤の上にすべての表現方法を含ませるということについては、7名中5名の盲学校教員から、良いという評価が得られた。以上より、本稿で作製した教材は、地図の多様な表現方法やその関係性の理解を高めることに有効である可能性が示唆された。
著者
藤嶋 桃子 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.63-72, 2019-03

これまで聴覚障害者に属する「難聴者」という立場は,「聞こえにくい状況がありながらも健聴者の文化に所属する存在」,「健聴者やろう者というそれぞれの文化に属さない不安定な存在」などとして考えられてきたが,近年は,聴覚障害者が形成するアイデンティティの新しい概念として「難聴者」の存在が示唆されている。しかし,これまでの先行研究においてその詳細は十分に解明されていない。本研究では,聴覚障害者のアイデンティティ形成の研究に加えて,難聴者と同様に,二つの文化の所属に葛藤することが予想される国際児のアイデンティティ形成の研究をレビューすることで難聴者のアイデンティティ形成を検討するうえでの視座を得ることを目的として検討を行った。その結果,国際児にとって最も自然で安定的な「国際児としてのアイデンティティ」のように,健聴社会とろう社会の二言語二文化を習得し,両者の橋渡し的立場で生きる「難聴者としてのアイデンティティ」の存在が考えられた。
著者
岩川 奈津 佐野 真紀
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.67-76, 2018-03

障害のある当事者の生活史をインタビューにより聞き取り,その語りからエンパワメント過程を記述する試みがなされてきている。当事者の経験したエンパワメント過程の多様性を明らかにするためには,研究件数をより一層増やしていくことが望まれる。そのためには,障害のある人の生活史についての語りから,その人ならではのエンパワメント過程を記述するための分析方法が必要である。先行研究を比較検討し,M-GTAとエピソード記述法を実施し結果を組み合わせる分析方法を仮定した。この仮定の下,肢体不自由の当事者であるX氏に協力を得て,以前に収集していたインタビューデータを再分析した。その結果,複数の分析方法を組み合わせるほうが,単一の分析方法のみ実施するよりも,調査協力者のその人らしさを反映したエンパワメント過程の記述が可能となった。
著者
都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.19-27, 2018-03

我が国では,障害者差別解消法が2013年に制定され,2016年から施行されている。我が国の障害者高等教育が発展していく要件を考えていくために,米国の大学入試の現状と判例及び我が国の日本語能力試験と大学入試センター試験における配慮を示し,障害学生の大学入試の米国と我が国の現状及び展望を述べた。そして,日米比較の観点から我が国の展望として,1)高校からの接続を検討する,2)高校での学びの保障,3)入試時の配慮のモデル化,4)在籍率を増加する,5)セルフ・アドボカシーのスキルの修得,6)障害学生支援担当部署の設置の素地作り,7)障害の定義-法律は絶えず見直す,等を論じた。
著者
鈴木 花菜 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.37-45, 2021-03

聴覚障害児を育てる保護者にとって、早期からの教育機関による支援は必要不可欠である。庄司ら(2011)の研究では、人員不足や教育相談体制の未整備、人事異動による専門性維持の困難が乳幼児教育相談の課題となっていることが報告されている。また、これらの保護者支援の困難さについて、下司(2013)は難聴幼児通園施設に関する調査を行っているが、聾学校幼稚部における保護者支援の困難さや、保護者支援に対する具体的な対応がまとめられている論文は少ない。そこで、本研究では、全国の聾学校乳幼児教育相談担当者に調査を依頼し、保護者への具体的な支援方法、困難さ、担当教員の専門性、今後の課題について整理し、幼稚部の充実した保護者支援について検討することを目的とした。その結果、聾学校の幼稚部(教育相談担当を含む)の教員は、聴覚障害児を持つ保護者における心理的な不安や子育てに対する悩みを理解し、様々な支援を行っていることが明らかにされた。また、聾学校と医療機関の連携を進める努力を重ねていることがわかった。聾学校の幼稚部の教員は、幼少期の聴覚障害児に対する多様な指導・支援だけでなく、保護者に対しても多様な対応を取っていくことが課題とされる。
著者
水鳥 結希 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.55-62, 2019-03

本研究では,全国の聴覚特別支援学校(聾学校)高等部の進路指導に関する実態調査を行い,指導上の課題を検討した。調査結果に関しては48校から回答を得ることができた。聾学校高等部の進路指導では,生徒の多様な進路に合わせて,教員同士の研修会や状況共有,生徒指導,保護者への情報提供等が行われていることがわかった。進路指導全般の課題としては,生徒の進路の多様性の対応,教員の進路指導に関する専門性の不足,大学進学者の情報不足などが挙げられた。
著者
中根 悠 佐野 真紀
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-65, 2018-03

本研究は,ソーシャルワーク・アセスメントを実践するうえで核となる概念や方法が確立されていないまま,実践方法が展開されているという指摘に基づいて,先行研究の分析を通して現状におけるソーシャルワーク・アセスメントの意義と課題を考察することを目的とした。その結果,ソーシャルワーク・アセスメントの実施者はクライエントの主観的情報を含むあらゆる情報を収集・分析しているが,ケアマネジメントにならって使用されるようになったアセスメントツールでは,主観的な情報を書き起こすことができない,アセスメントを実施する際の援助者の主観をアセスメントツールでは考慮することができないという課題が明らかになった。そのため今後の研究では,アセスメント実施者の「技」の分析が必要になるということが示唆された。
著者
山下 玲香 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.29-36, 2018-03

本研究は,小学校4年生から6年生の児童を対象に休み時間の利用・過ごし方が行動様式にどのように影響しているのかを明らかにするために男女差や学年差の観点から検討した。A県内B市の小学校3校の4年生から6年生の児童,471名を分析した。その結果,行動様式尺度として「学級協力」,「友人関係の維持」,「遊びの創造」,「遊びの探求」の4因子が抽出された。そして屋外でのボール遊びや遊具,休み時間の関わりの対象,男女の混合,学年,遊び仲間の勧誘の要因が行動様式に何らかの影響を与えていることが示唆された。これらの要因に加え,男女差の要因が「友人関係の維持」において,学年差の要因が「学級協力」と「遊びの探求」において影響していることが示唆された。休み時間にこれらの要因が含まれる活動を取り入れて児童の運動意識が変容していくかどうかを検討することが今後の課題とされた。
著者
長田 洋一 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.9-17, 2018-03

本研究の目的は,自立活動の心理定な安定に焦点を当てた指導を通級指導教室で行っていくための心理劇の実施要件を明らかにすることである。対象児は,知的な遅れが認められる,通常の学級に在籍する小学5年女子と4年男子の自閉症スペクトラム(ASD)児2名である。心理劇は童話を用い,対象児の積極性を促進するために戦いの場面のある童話を授業者が予め選定し,筋書きに従って演じさせた。演じる姿をビデオ録画に収め,対象児に視覚的なフィードバックを与え,自分のポジティブな面を認識させた。その結果,1)ビデオ視聴時の反応は,両児童とも初期の段階は無反応な状態であったが,次第に表情や言語による反応を示すようになり,終盤には動作による反応も示すようになった。2)授業の行動では両児童とも自発性が高まった,3)学級担任の通常の学級での対人関係の評価が向上した。これらのことから自立活動に焦点を当てた指導として心理劇を通級指導教室で適用していくことの要件等が議論された。