著者
鈴木 南帆子 青柳 まゆみ
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.11-19, 2021-03

本稿では、立体・面・線など多様な表現方法を含み、それらの相互の関係性の理解の向上を図る触地図教材を作製し、盲学校の教員へのインタビュー調査を通して、その有効性について検討した。触地図教材は、建物とその周辺環境を対象とし、建物の立体・面・線の表現とその周辺環境の表現の4つの表現方法を含むものである。これら4つの表現方法はそれぞれの関係性をわかりやすくするため、すべて1つの地図盤の上で表現し、磁石による取り外しを可能にした。盲学校の教員へのインタビュー調査では、「変化がわかりやすい」「自分で教材を操作することで関係性がわかりやすくなる」などの意見があった。また、1つの地図盤の上にすべての表現方法を含ませるということについては、7名中5名の盲学校教員から、良いという評価が得られた。以上より、本稿で作製した教材は、地図の多様な表現方法やその関係性の理解を高めることに有効である可能性が示唆された。
著者
都築 繁幸 神山 忠 吉田 優英 木全 祐子
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.109-119, 2016-03

子どもの認知特性に焦点を当てた授業は,どの子にも達成感が得られ,自尊心が高まっていくと考えられているが,定量的あるいは定性的な方法で十分に実証されてはいない。子どもの優位な認知特性を活用した授業づくりを推進していく基礎的研究として,大人の認知特性と支援の方略を定量的に検討し,その知見を特別支援教育支援員が授業に活用し,認知特性から考える授業づくりの在り方に関して検討を加えた。成人の認知特性のタイプと指導方略との関連を調査したところ,視覚優位と言語優位な認知特性と学習方略との間になんらかの関係が認められた。言語優位者は,言語で読んだものをイメージ化でき,視覚的な提示を言語に変えて理解できるために視覚型と言語型の学習方略に分かれたと考えた。この結果を踏まえて,支援員が学習支援を行った事例を示し,個々の子どもの認知特性に配慮した支援の工夫の重要性が述べられた。
著者
吉田 優英 植野 若菜 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究
巻号頁・発行日
vol.7, pp.45-58, 2011-02

漢字に苦手意識がある子どもに,書き写すだけの学習は苦痛であり,子どもが「やりたい。」,「できた。」と思えるような教材を考える必要がある。子どもの弱い能力を取り上げ,できないことをできるようにするのではなく,強い能力や好きなことを学習につなげる方が身につきやすい。そこで長所活用型指導方略とMI理論をマッチングさせて指導した。能動的に学習したことで,漢字の細部まで注意が向き,バランスの良い字がかけるようになった。様々な感覚を剌激して,自分で作るので,記憶に残りやすかった。家庭では,宿題の漢字練習を一人でできるようになった。このプログラムでは,間違いに焦点を当てずに,できるようになったこと,書けるようになったことを本人に実感させた。それが自信へとつながり,漢字への苦手意識は以前よりは少なくなった。週に2回行ったことにより,前回の記憶が残りやすかった。通級指導教室等で学習障害児に継続的にこのようなプログラムを実施すれば,漢字への苦手意識は改善されるのではないかと思われる。
著者
細井 晴代 増田 樹郎
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.131-140, 2015-03

自閉症児とその母親の関係は一般的に築かれにくい。自閉症児が侵襲的な世界にいることから〈安心〉を得にくく,甘えを発達させるのに時間がかかるからである。一方,母親は自らと同一視して子どもの行動の意味すなわち〈語り〉を読み取ろうとするものであるが,自閉症児の場合,その独特の感性から母親は子どもの〈語り〉を捉えにくく,子どもが〈わからない〉と感じがちである。それが母親に子どもの〈語り〉を理解しようとする姿勢を失わせ,母子の一体感を失わせる。「自己」は母親との一体感からつくられるため,自閉症児は「自己」が脆弱になり刺激に敏感になっている。母子の一体感を支援することが自閉症児の母子には必要である。そのためには,自閉症児の〈語り〉の意味を理解しようとする母親の姿勢を支えることが必要である。この姿勢から,母親が自閉症児の〈語り〉を理解し,自閉症児が〈安心〉できるかかわりをすることができる。同時に〈語り〉と向き合う方法が見えてくることで,母親も〈安心〉し,母子関係は改善していく。また,母子関係の維持には甘えが必要である。自閉症児療育での母子支援には,自閉症児の甘えに母親が気づけるような支援も必要である。
著者
藤嶋 桃子 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.63-72, 2019-03

これまで聴覚障害者に属する「難聴者」という立場は,「聞こえにくい状況がありながらも健聴者の文化に所属する存在」,「健聴者やろう者というそれぞれの文化に属さない不安定な存在」などとして考えられてきたが,近年は,聴覚障害者が形成するアイデンティティの新しい概念として「難聴者」の存在が示唆されている。しかし,これまでの先行研究においてその詳細は十分に解明されていない。本研究では,聴覚障害者のアイデンティティ形成の研究に加えて,難聴者と同様に,二つの文化の所属に葛藤することが予想される国際児のアイデンティティ形成の研究をレビューすることで難聴者のアイデンティティ形成を検討するうえでの視座を得ることを目的として検討を行った。その結果,国際児にとって最も自然で安定的な「国際児としてのアイデンティティ」のように,健聴社会とろう社会の二言語二文化を習得し,両者の橋渡し的立場で生きる「難聴者としてのアイデンティティ」の存在が考えられた。
著者
岩川 奈津 佐野 真紀
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.67-76, 2018-03

障害のある当事者の生活史をインタビューにより聞き取り,その語りからエンパワメント過程を記述する試みがなされてきている。当事者の経験したエンパワメント過程の多様性を明らかにするためには,研究件数をより一層増やしていくことが望まれる。そのためには,障害のある人の生活史についての語りから,その人ならではのエンパワメント過程を記述するための分析方法が必要である。先行研究を比較検討し,M-GTAとエピソード記述法を実施し結果を組み合わせる分析方法を仮定した。この仮定の下,肢体不自由の当事者であるX氏に協力を得て,以前に収集していたインタビューデータを再分析した。その結果,複数の分析方法を組み合わせるほうが,単一の分析方法のみ実施するよりも,調査協力者のその人らしさを反映したエンパワメント過程の記述が可能となった。
著者
都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.19-27, 2018-03

我が国では,障害者差別解消法が2013年に制定され,2016年から施行されている。我が国の障害者高等教育が発展していく要件を考えていくために,米国の大学入試の現状と判例及び我が国の日本語能力試験と大学入試センター試験における配慮を示し,障害学生の大学入試の米国と我が国の現状及び展望を述べた。そして,日米比較の観点から我が国の展望として,1)高校からの接続を検討する,2)高校での学びの保障,3)入試時の配慮のモデル化,4)在籍率を増加する,5)セルフ・アドボカシーのスキルの修得,6)障害学生支援担当部署の設置の素地作り,7)障害の定義-法律は絶えず見直す,等を論じた。
著者
大島 光代 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.75-84, 2014-02

言語・コミュニケーションの発達において音韻意識の獲得が重要であることが認識されるようになった。発達障害児は,ひらがな・カタカナ・漢字の読み書き・文章読解につまずきが見られ,音韻に対する気づきや音韻の認知(音韻意識)の習得が課題としてあげられる。従来では,音韻意識を取り上げ,言語指導プログラムに組み込んでいるものは,天野(2006)と小池(2013)のプログラムである。本稿では,知的な遅れが認められず,対人関係にも困難さがある発達障害児に音韻獲得をベースにした読み書き支援プログラムを開発していくための基礎的な研究として,音韻意識の獲得をめざした発達障害児の言語・コミュニケーションプログラムを試作するための要件等を検討した。
著者
市川 美智子 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.1-10, 2004-03

側音化楫音障害を呈する男児に対して,構音指導,発音指導,動機付け,機能訓練及び耳の訓練を関連させた指導計画のもと,側音化傾向にある/ʃi/, /tʃi/, /dʒi /音を取り出して指導を行った。第1期では,動機付け,口唇・唇の運動訓練,耳の訓練,母音口形指導,/ʃi/音の発音指導を行った。第2期では,口唇・舌の運動訓練,発音指導を中心に行った。発音指導は,単音の指導から始め,複数音節,単語,文章へと徐々に進めていった。また,音の定着を図るため,単音表出の回数や速さを変化させた。第3期では,音の定着の強化を図った。構音検査では,第1期には50単語中14単語・15音節であった誤りが,第3期末において50単語中5単語・6音節にまで減少し,側音化構音は徐々に改善していった。側音化構音障害は,治療が非常に困難とされているが,本児の改善していった経過を分析する中で,今後の指導指針,指導の在り方を検討した。
著者
鈴木 花菜 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.37-45, 2021-03

聴覚障害児を育てる保護者にとって、早期からの教育機関による支援は必要不可欠である。庄司ら(2011)の研究では、人員不足や教育相談体制の未整備、人事異動による専門性維持の困難が乳幼児教育相談の課題となっていることが報告されている。また、これらの保護者支援の困難さについて、下司(2013)は難聴幼児通園施設に関する調査を行っているが、聾学校幼稚部における保護者支援の困難さや、保護者支援に対する具体的な対応がまとめられている論文は少ない。そこで、本研究では、全国の聾学校乳幼児教育相談担当者に調査を依頼し、保護者への具体的な支援方法、困難さ、担当教員の専門性、今後の課題について整理し、幼稚部の充実した保護者支援について検討することを目的とした。その結果、聾学校の幼稚部(教育相談担当を含む)の教員は、聴覚障害児を持つ保護者における心理的な不安や子育てに対する悩みを理解し、様々な支援を行っていることが明らかにされた。また、聾学校と医療機関の連携を進める努力を重ねていることがわかった。聾学校の幼稚部の教員は、幼少期の聴覚障害児に対する多様な指導・支援だけでなく、保護者に対しても多様な対応を取っていくことが課題とされる。
著者
水鳥 結希 岩田 吉生
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.55-62, 2019-03

本研究では,全国の聴覚特別支援学校(聾学校)高等部の進路指導に関する実態調査を行い,指導上の課題を検討した。調査結果に関しては48校から回答を得ることができた。聾学校高等部の進路指導では,生徒の多様な進路に合わせて,教員同士の研修会や状況共有,生徒指導,保護者への情報提供等が行われていることがわかった。進路指導全般の課題としては,生徒の進路の多様性の対応,教員の進路指導に関する専門性の不足,大学進学者の情報不足などが挙げられた。
著者
阿井 淑乃 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究
巻号頁・発行日
vol.7, pp.25-36, 2011-02

本研究では,第1学年の通常の学級の算数科授業におけるADHD児の学習行動を分析した。同一の授業内で「運動」のある活動時と「運動」のない活動時でADHD児の行動を比較した。いずれのADHD児も「運動」のある場面の方が「話題にそった行動」が多く見られた。また,どちらの児童も教師が「運動」の指示をしているとき,「話題にそった行動をする」ことが多かった。これは,「運動」のある活動を取り入れ,授業に変化が出ることで,ADHD児の集中力が持続したためだと考えられた。「運動」のある活動を行う場合,例えば,一斉に朗読をするなどの活動ではなく,板書を写したりプリントの問題を解いたりする時,課題が終わったら何をするのかを事前に伝え,空白の時間を作らないこと,机間指導により一人一人の様子を注意深く見ること,やるべきことが分かっていない児童や集中できていない児童に声をかけること,「「運動」の指示」を出すときは,注意を促してから話し始めることが重要であることが示唆された。
著者
原 郁水 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.79-84, 2017-03

本研究は,小学5年生を対象に帰属スタイルがレジリエンスにどのような影響を及ぼすかを検討した。 レジリエンスは,未来志向,興味関心,感情調整の下位尺度からなる小学生用レジリエンス尺度を使用した。困難場面として友人トラブル場面と学業失敗場面の二つの場面を取り上げ,原因の所在(内-外)と永続性(一時的-永続的)の点から帰属スタイルを捉えた。その結果,1 )子どもの帰属のスタイルの分布においては,χ2検定の結果,有意差が認められ,偏りが認められた。場面に関わらず原因の所在において内的に帰属するものが多いことが示された。2 )原因の所在と永続性を独立変数,レジリエンスを従属変数とした二要因の分散分析を行ったところ, 友人トラブル場面では未来志向とレジリエンス合計において帰属の永続性の要因に主効果が認められた。学業失敗場面では興味関心とレジリエンス合計において帰属の永続性の要因に主効果が認められた。 これらのことから今後,レジリエンスを高める授業を行っていく際には,帰属スタイルの永続性の要因に着目していく必要があることが示唆された。
著者
岩川 奈津 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.55-66, 2017-03

障害者のエンパワメントに寄与する支援のあり方を検討するためには,社会福祉領域におけるエンパワメント概念の全体的な枠組みと障害種別のエンパワメントの内容を検討する必要があると考えた。社会福祉領域におけるエンパワメント概念の全体的な枠組みを検討し,具体的な内容を示しながら,障害種別のエンパワメントの内容を検討した。エンパワメントは複雑な内容をもち,定義を一つに決めることができない面がある。エンパワメントを理解するためには,複数の定義の統合が有効である。障害者のエンパワメントにおける支援者や当事者のあり方は,エンパワメント・アプローチとセルフ・エンパワメントの二つの側面からエンパワメントを捉える枠組みが適していると考えられた。エンパワメントの定義を捉える上で基本となる性質とエンパワメントを専門職と当事者という視点から捉える枠組みを示した。エンパワメントの障害種別の内容を検討した。特定の障害があるからといって,その人が経験したエンパワメントの内容がすべてその障害種特有のエンパワメントの内容とはいえず,障害者のエンパワメントの内容を分析する観点として重要であることを述べた。
著者
都築 繁幸 神山 忠 吉田 優英 木全 祐子
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.109-119, 2016-03

子どもの認知特性に焦点を当てた授業は,どの子にも達成感が得られ,自尊心が高まっていくと考えられているが,定量的あるいは定性的な方法で十分に実証されてはいない。子どもの優位な認知特性を活用した授業づくりを推進していく基礎的研究として,大人の認知特性と支援の方略を定量的に検討し,その知見を特別支援教育支援員が授業に活用し,認知特性から考える授業づくりの在り方に関して検討を加えた。成人の認知特性のタイプと指導方略との関連を調査したところ,視覚優位と言語優位な認知特性と学習方略との間になんらかの関係が認められた。言語優位者は,言語で読んだものをイメージ化でき,視覚的な提示を言語に変えて理解できるために視覚型と言語型の学習方略に分かれたと考えた。この結果を踏まえて,支援員が学習支援を行った事例を示し,個々の子どもの認知特性に配慮した支援の工夫の重要性が述べられた。
著者
岩田 吉生 青柳 まゆみ
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.47-56, 2016-03

本研究では,大学の全学共通科目における特別支援教育関連科目の開講状況を調査し,講義内容・形態,指導上の工夫,課題等について検討することを目的とする。尚,研究Ⅰは,日本教育大学協会・全国特別支援教育研究部門の会員が所属する大学71大学(国立大学52大学,私立大学19大学)を対象とし,「特別支援教育に関する講義」の開講状況に関して,「教職に関する教育科目」または「教職に関する教育科目以外」で必修化している国立大学は,40校中22校(55.0%)に上り,国立大学の半数以上で,特別支援教育に関する講義が必修化されていることがわかった。研究Ⅱは,国立大学の3大学の教育学部を対象に,国立総合大学の教育学部における特別支援教育関連科目の開講状況について調査した。その結果,3大学で,特別支援教育を専門とする専任教員によって必修または選択の特別支援教育の講義が開講されていた。特別支援教育が主専攻ではない学生たちも特別支援教育の基礎を学び,理念・教育制度,指導・支援の方法等の理解を深めていることが明らかにされた。
著者
中根 悠 佐野 真紀
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.59-65, 2018-03

本研究は,ソーシャルワーク・アセスメントを実践するうえで核となる概念や方法が確立されていないまま,実践方法が展開されているという指摘に基づいて,先行研究の分析を通して現状におけるソーシャルワーク・アセスメントの意義と課題を考察することを目的とした。その結果,ソーシャルワーク・アセスメントの実施者はクライエントの主観的情報を含むあらゆる情報を収集・分析しているが,ケアマネジメントにならって使用されるようになったアセスメントツールでは,主観的な情報を書き起こすことができない,アセスメントを実施する際の援助者の主観をアセスメントツールでは考慮することができないという課題が明らかになった。そのため今後の研究では,アセスメント実施者の「技」の分析が必要になるということが示唆された。
著者
山下 玲香 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.29-36, 2018-03

本研究は,小学校4年生から6年生の児童を対象に休み時間の利用・過ごし方が行動様式にどのように影響しているのかを明らかにするために男女差や学年差の観点から検討した。A県内B市の小学校3校の4年生から6年生の児童,471名を分析した。その結果,行動様式尺度として「学級協力」,「友人関係の維持」,「遊びの創造」,「遊びの探求」の4因子が抽出された。そして屋外でのボール遊びや遊具,休み時間の関わりの対象,男女の混合,学年,遊び仲間の勧誘の要因が行動様式に何らかの影響を与えていることが示唆された。これらの要因に加え,男女差の要因が「友人関係の維持」において,学年差の要因が「学級協力」と「遊びの探求」において影響していることが示唆された。休み時間にこれらの要因が含まれる活動を取り入れて児童の運動意識が変容していくかどうかを検討することが今後の課題とされた。
著者
長田 洋一 都築 繁幸
出版者
愛知教育大学特別支援教育講座・福祉講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.9-17, 2018-03

本研究の目的は,自立活動の心理定な安定に焦点を当てた指導を通級指導教室で行っていくための心理劇の実施要件を明らかにすることである。対象児は,知的な遅れが認められる,通常の学級に在籍する小学5年女子と4年男子の自閉症スペクトラム(ASD)児2名である。心理劇は童話を用い,対象児の積極性を促進するために戦いの場面のある童話を授業者が予め選定し,筋書きに従って演じさせた。演じる姿をビデオ録画に収め,対象児に視覚的なフィードバックを与え,自分のポジティブな面を認識させた。その結果,1)ビデオ視聴時の反応は,両児童とも初期の段階は無反応な状態であったが,次第に表情や言語による反応を示すようになり,終盤には動作による反応も示すようになった。2)授業の行動では両児童とも自発性が高まった,3)学級担任の通常の学級での対人関係の評価が向上した。これらのことから自立活動に焦点を当てた指導として心理劇を通級指導教室で適用していくことの要件等が議論された。
著者
都築 繁幸 長田 洋一
出版者
愛知教育大学障害児教育講座
雑誌
障害者教育・福祉学研究 (ISSN:18833101)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.131-143, 2016-03 (Released:2017-03-28)

過去10年間で学会誌や大学の研究紀要等で掲載された論文のうち,小学校で行われた対人関係の向上に向けた支援という観点から限定的に分析した。27編を分析対象とし,通常の学級,通級指導教室,特別支援学級のそれぞれの場所でどのような介入が行われたかを検討した。その結果,次のような傾向が認められた。通常の学級全体の場では,第一次的な介入が多く見られた。クラスワイドな支援を行う利点としては,同じ学級の中に似たような行動上の問題を抱えた児童が複数人いる場合に有効であり,対象児以外の児童にとっても有益であることが示された。第二次的な介入や第三次的な介入を行っていく場所が通級指導教室や特別支援学級であるが,第二次的な介入として小集団SST指導を実施していることが多く,個別システムによる第三次的な介入はほとんど行われていなかった。効果の面から見ると「クラスワイドな支援」は他の児童や学級全体の改善および対象児童の集団参加や他児との環境調整に有効であり,「機能的アセスメント」,「コンサルテーション」,「校内支援体制」は対象児童の不適切行動の減少と適切行動の増加に有効であり,「認知行動療法」は対象児童の自尊心の高揚に有効であった。通級指導教室の小集団SST指導は小集団内での仲間関係の形成に有効であり,特別支援学級における小集団SST指導は,自発性の促進に有効であることが示された。今後,介入を効果的に行っていくためには,対象児童の行動問題の種類や改善の目標によって効果が上がると思われる技法を採択していくことが示唆された。