著者
高岸 美由貴 木南 莉莉
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-14, 2012-09

近年都市部においては、農村への移住に対する潜在的需要があるものの、実現に至らないケースも多いことから、国や地方自治体が様々な移住促進事業に取り組んでいる。本稿は埼玉県秩父市が実施している「ちちぶ空き家バンク」と「地域おこし協力隊」を対象として、関係機関に対する聞き取り調査とアンケート調査を基に、地方自治体によるIターン促進事業の実態と課題を明らかにした。分析の結果、事業は一定の効果をあげているが、ビジョンの不明確さから事業の活用が不十分な状況にあり、都市住民への効果的な情報提供の方法を検討する必要があるなどの課題が明らかになった。
著者
青柳 斉
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = 新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.71-81, 2005-03

中国長江中下流域における米主産地で、近年の生産・流通には以下のような特徴が見られる。第一に、早稲・|米の減少と中稲・粳米の増大である。とりわけ江蘇省で、90年代に|米生産から粳米の生産・消費に急速に移行している。第二に、但し、中稲が増えている中国南方の米主産地すべてで生じているのはない。例えば湖南や江西の中稲は|米であり、依然として粳米の生産・消費が増える傾向にはない。第三に、インディカ種の普及は、中国南方で80年代に急速に進展し、江西・湖南等の|米主産地においては、すでにほとんどの|米生産において雑交稲が普及している。最後に、最近の品種構成の変化は、近年の食糧販売の自由化政策によって促進されている。The rice-producing district down the valley of China CHANG JIANG has recently the following characteristics of the rice production and distribution. Firstly, in that rice-producing district, early variety of rice (indica type rice) has been decreasing and middle (of early and late) maturing rice (japonica type rice) has been increasing. Especially, JIANG SI changed rapidly from indica type rice production to japonica type rice production and consumption in 1990ages. Secondly, however its changing of rice variety has not spread throughout the rice-producing district of the southern CHINA. For example, Middle maturing rice in HUNAN and JIANGXI is indica type rice, and both districts still have not the trend to increasing the japonica type rice production and consumption. Thirdly, in 1980'ages, indica type rice breeds had developed rapidly in southern China, and hybrid rice has spread in the indica type rice-producing center such as HUNAN and JIANGXI. Lastly, recent changing of the rice variety structure is promoted by the policy of deregulating food-selling obligation..
著者
集治 善博 Shuji Yoshihiro
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.109-113, 2005-03

著者は、これまで牛と人間の関係に関する一連の研究を行ってきた。特に、従来この分野の研究において用いられてきた調査方法は、近づく人間に対する牛の反応すなわち受動的な反応であると考えられる。一方、一般に牛の日常管理に携わる中では、搾乳牛が自発的に人間に接近したり接触したりするのを経験する事も多い。これらの行動は、牛が自発的に人間に関わろうとする性質であると考えられるが、このような観点から牛の人間に対する行動を調査した研究は少ない。さこで、今回は、搾乳牛の人間に対する行動を、能動的なものと受動的なものに分け、同時平行的に調査する研究を実施した。新潟大学農学部村松ステーションの搾乳牛16頭を用いた。牛の能動的対人行動の測定として、ひとりの人間が放牧地の定点に腰をおろし、その間に人間に対して近づく、においを嗅ぐ、鼻で接触する、舐める・擦り付けるなどの行動をビデオカメラで撮影した。一方、受動的対人反応は、同じひとりの人間が放牧地を歩き回り、正面から近づき目前に停止した状態になったときの各個体の反応をビデオカメラに記録した。結果はつぎのとおりである。能動的対人行動としては、直前を通過する、接触可能な距離に近づく、人間のにおいを嗅ぐ、鼻で接触する、舐める・擦り付けるといった行動がみられた。全体としては、通過や近づく割合が大きく、接触をともなう行動の頻度割合は40%程度であった。これを個体ごとにみると、全体の頻度に大きな個体差があるだけでなく、その出現割合にも大きな個体差がみられた。一方の、受動的対人反応としては、少し(手の届かない距離に)逃避する、顔面を背ける(位置の変化はない)、無反応、においを嗅ぐ、鼻で接触する、舐める・擦り付ける等の反応が見られた。みのうち無反応の頻度が最も大きく、全体の約半分を占めた。接触をともなう反応は全体の2割程度に留まった。その頻度や出現割合には個体差が大きかった。また、反すう時や食草時には無反応の割合が多く、佇立休息時には何らかの反応を示す割合が高かった。各個体の能動的対人行動と受動的対人反応を数値化し関係を調べたところ、両者には正の相関関係があるが、必ずしも強いとは言えなかった。そこで、両者に共通して見られた反応である、嗅ぐ、鼻で接触する、舐める・擦り付けるの3つの項目の相関を求めたところ、嗅ぎと鼻での接触では相関が小さく、舐め・擦り付けでは有意な正の相関関係がみられた。このように、搾乳牛の能動的対人行動と受動的対人反応は総じて関連しあっているが、やや異なった意味をもつ性質であるとも考えられた。Cattle are not only passivity to the human, and they act voluntarily. Many researchs of the relations of the cattle and human were only passivity behaviour. So, voluntary behaviour was examined to a human of the milking cows, and relation with the passivity behaviour was studied. Behaviour to one human, like thier nanny, of 16 milking cows of Niigata university Muramatsu Station were examined. The behaviour which cows showed voluntarily was examined to a human being who sat on the pasture. And, the behaviour which cows showed were examined to a human who stood up in thier imminence. Furthermore, relation between the voluntary behaviour and the passivity behaviour of each individual were examined. As a voluntary behaviour, crossing, approaching, smelling, licking and it rubbing to the human were seen. Though various behaviour was done toward the human, it came at all and near, and the individual if it was not was in the active individual, too. And, as a passivity behaviour, avoiding, touching with nose, licking and it rubbing the human were seen. As for the cattle, half of nothing reacted to about at passive opportunity. The correlation of the synthetic evaluation of the voluntary behaviour of each individual and the passivity behaviour wasn't necessarily strong. But, it was rubbing and licking, and well both corresponded well. The nature which avoided the more active nature which acts voluntarily and a human being was extracted as a result of the factor analysis. In other words, a cattle has the nature that let's involve not only passivity but also a human being actively.
著者
大竹 憲邦 伊藤 紗織 後藤 大輝 小野 雄基 末吉 邦 大山 卓爾 Ohtake Norikuni Ito Saori Goto Daiki Ono Tomoki Sueyoshi Kuni Ohyama Takuji
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.49-55, 2017-02

植物工場における溶液栽培システムは天候に左右されず、高品質の野菜を四季を通じて栽培・収穫できる。しかし施設の稼働には高いエネルギーを必要とするため、販売価格に反映していまい、普及を妨げる要因の一つとなっている。そこで本研究では溶液栽培の培養培地から化学電池により電気エネルギーを取り出し、さらに溶出した金属イオンを植物に養分として吸収させるために、最適な金属板の組み合わせについて検討を行った。亜鉛またはマグネシウムおよび鉄(各15×45×1.0 mm)を化学電池の電極として、ホウレンソウ水耕培地中での電圧を測定した。亜鉛- 鉄の組み合わせでは、金属板浸漬直後では1金属対あたり0.35V を示したが、培地pH の上昇とともに電圧は減少し、2日後には1金属対あたり0.2V 程度となった。化学電池設置2日後の培養液中には亜鉛が溶出し、植物体に亜鉛が高濃度に蓄積し、化学電池を設置しない対照区と比べ乾物重が減少した。マグネシウム- 鉄の組み合わせでは、金属板浸漬直後では1金属対あたり1.0V を示したが、培地pH の上昇とともに電圧は減少し、2日後には1金属対あたり0.5V 程度となった。培養液中にはマグネシウム濃度がやや高い値を示したが、植物体のマグネシウム濃度には大きな影響はなく乾物重も対照区と同様の値を示した。従って、作物水耕培養液から電気エネルギーを取り出すときには、電極としてマグネシウム- 鉄を用いると、生育にも影響せず比較的高い電圧が取り出せることが示された。To use hydroponic plat culture solution for chemical battery, the suitable metals for the electrodes were investigated. The electrodes equipped with iron and zinc or iron were soaked in the culture solution and voltageand plants (spinach) growth were investigated. One pair of Fe-Zn (each volume; 15×45×1.0 mm) electrode made 0.35V during first several hours, then the voltage was gradually decreased and finally reached 0.2 V after 2 days.Two days after culture with chemical battery with Fe-Zn, Zn2+ concentration in culture medium was increased and Zn was highly accumulated in both shoots and roots. The dry weight of plants equipped without electrodes.This might be caused by excess Zn2+. Using the Fe-Mg as electrodes made 1.0V at first several hours, and then the voltage was also decreased and finally reached 0.5V. However, any excess symptom on plant, mineral concentration change in plant and dry weight differences between normal and chemical battery application werenot observed when using Mg as electrode. In conclusion to make chemical battery equipped with hydroponically plant culture it was recommended to use electrode as Fe-Mg pair from the point of view of both plant nutritionand electromotive force.
著者
中津 弘 長嶋 直幸 本間 航介 永田 尚志 Nakatsu Hiromu Nagashima Naoyuki Honma Kosuke Nagata Hisashi
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.11-15, 2016-02

新潟県佐渡島東部の丘陵地の中で、森林内の放棄棚田を復元しているキセン城地区の鳥類について繁殖期の調査を行った。3回の調査で計30種の鳥類を確認し、ヒヨドリが最も優占していることが明らかになった。他方、島内の山麓谷戸に多いカワラヒワやスズメは観察されなかったが、森林内に点在する農地的なパッチ状生息地であることや、人家集落が近傍に存在しないことがその要因であろう。過去60年程度で棚田が激減したこの地域の中で、このような環境の保全管理が行われているキセン城の鳥類群集は、山麓部のものとは異なる特徴を有していると考えられた。We conducted bird surveys in Kisenjo, on a hilly region on Sado Island, Niigata, Japan, from April to June, 2015. We counted birds at four fixed-radius points, and recorded all bird species that occurred in this site. 30 species of birds were recorded, and the Brown-eared Bulbul (Hypsipetes amaurotis) was the most abundant species. The most of the land in the vicinity of the study site is forested, with only few patches of small open spaces such as rice paddies and wetlands, as majority of cultivated lands have been deserted in past six decades. There are no residential areas, and some fallow lands have been restored as wetlands in the study site in recent years. This patch-matrix structure appeared to exclude some bird species from the site, like the Oriental Greenfinch (Chloris sinica) and Eurasian Tree Sparrow (Passer montanus) that are abundant on lowland edge habitats on Sado Island. The result of this study suggests that such habitat management could produce a unique bird community.
著者
森井 俊廣 門口 隆太 小松 元太 松本 智
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.99-107, 2011-03

砂層とその下部に礫層を重ねた単純な構造の土層地盤では、互いの層の土粒子の大きさあるいは間隙サイズに伴う保水性の違いにより、砂層と礫層の境界面の上部で降下浸潤水が保水され、集積する。境界面に傾斜をつけると、集積水は傾斜方向に流下していくため、境界面はあたかも不透水性の障壁として機能し、それ以深の領域への水の浸入が抑制される。また、境界面に沿って流下した水は、末端で集水することにより、貴重な雨水資源として捕獲することも可能である。砂層と礫層を重ねた単純な土層地盤にみられる浸潤水の遮断・捕獲の機能を、土の毛管障壁あるいは土のキャピラリー・バリア(Capillary barrier of soil)と呼ぶ。傾斜したキャピラリー・バリアのもつ浸透抑制機能を利用すれば、地盤に浸透した降雨水を表層部で効果的に捕捉し、地盤深部への浸潤を低減できるため、地山斜面やため池堤防斜面などの斜面すべり防止技術への展開が可能となる。一方、キャピラリー・バリアを地表面の近傍で平面上に敷設すれば、土壌水を根群域に保水できるため、節水かんがいが可能となる。このような土のキャピラリー・バリアがもつ応用展開の可能性に着目し、まず、土のキャピラリー・バリアの技術的特徴を紹介したのち、野外実験および圃場実験にもとづき、傾斜したキャピラリー・バリア地盤における雨水遮断機能ならびに水平状に敷設したキャピラリー・バリア地盤における節水かんがいの可能性を調べる。
著者
上原 るり香 神田 美沙 森井 俊広 Uehara Rurika Kanda Misa Morii Toshihiro
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.175-180, 2009-03

土の毛管遮断機能(キャピラリー・バリア)を利用することにより、地盤に浸透した降雨水を表層部で効果的に捕捉し、斜面末端に流下させることができる。これにより、地盤深部への雨水浸潤が低減し、土の強度の低下あるいは自重の増大を抑制することができる。この雨水浸透抑制効果により、自然地山斜面やため池堤防斜面を対象とした斜面すべり減災技術の開発が可能となる。本研究では、キャピラリー・バリアの基本性能を確認するため、圃場斜面に砂層と礫層の2層構造の地盤を造成し、キャピラリー・バリアのもつ雨水浸透に対する抑制効果を調べた。キャピラリー・バリアの表層部は砂層である。雨滴衝撃による表面浸食が起きやすく、性能が短期間に劣化する可能性が大きいため、植生被覆による法面保護が必要となる。本研究では、合わせて、植生斜面における土中水分動態の観測を行い、降雨浸潤の抑制に及ぼす植生被覆の相乗効果についても調べた。圃場で造成した砂層と礫層の層構造地盤における土中水分動態のモニターにより、雨水浸透に対するキャピラリー・バリアの抑制効果を確認することができた。また、植生被覆により降雨の斜面浸透が効果的に抑制されることから、キャピラリー・バリアとの相乗効果を定量化していくことが今後の重要な課題となることを指摘した。これにより斜面減災技術の実務性は格段に増すと期待される。Capillary barrier is a simple soil layer system which is composed of a fine soil layer underlain by a coarse soil layer. Water infiltrated into soil is halted just above a boundary surface between the fine and coarse soil layers due to a physical difference in water retention characteristics of both layer soils. When the boundary surface between soil layers tilts, water retained flows along the boundary surface, and a downward movement of infiltration water into the soil below the boundary surface is restricted. Waterproof by the capillary barrier with a tilted boundary surface decreases rainwater infiltration into soil, and keep a soil slope stable because of small deterioration of soil strength due to wetting as well of small increase of soil mass. This special and attractive feature leads to a possible adoption of the capillary barrier as effective measures for slope protection of natural soil or embankment. In the study soil moisture contents were measured in sand soil layer underlain by gravel layer constructed in a natural sand slope. After a trench about 50cm wide was excavated in the natural sand slope, gravel was compacted into the layer of 10cm thickness in the trench, and then the sand excavated was put back and compacted into about 20cm thick layer. Inclination of the boundary surface between the soil layers was 20 degrees. The sand is classified into Sand with less-5% fine and coarse fractions, and the gravel is siliceous with typical particle size of 4 to 7mm. Dielectric probes ECH2O were employed to measure volumetric moisture contents at 15, 10, 5 and 1cm above and 1cm beneath the boundary surface between the soil layers. The volumetric moisture contents in the soil were measured during four months together with precipitation. The results showed effective waterproof by the capillary barrier of soil.
著者
高岸 美由貴 木南 莉莉 Takagishi Miyuki Kiminami Lily
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-14, 2012-09

近年都市部においては、農村への移住に対する潜在的需要があるものの、実現に至らないケースも多いことから、国や地方自治体が様々な移住促進事業に取り組んでいる。本稿は埼玉県秩父市が実施している「ちちぶ空き家バンク」と「地域おこし協力隊」を対象として、関係機関に対する聞き取り調査とアンケート調査を基に、地方自治体によるIターン促進事業の実態と課題を明らかにした。分析の結果、事業は一定の効果をあげているが、ビジョンの不明確さから事業の活用が不十分な状況にあり、都市住民への効果的な情報提供の方法を検討する必要があるなどの課題が明らかになった。In recent years, although there is potential demand over migration to farm villages among urban residence, it does not result in realization in many cases in Japan. It is for the reason that, the country and the local government are tackling various programs for urban-rural migration promotion. Based on the interview and the questionnaire survey, this paper targeted Chichibu City, Saitama Prefecture to clarify the actual condition and the subject of the I-turn promotion programs by local government. As a result of analysis, although the programs were achieving certain effects, the necessity of examining the method of the effective information dissemination to city residents became clear.