著者
集冶 善博
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.103-108, 2005-03

筆者は、これまで様々な行動から搾乳牛の個性を検討する一連の研究を実施してきた。同時に、筆者は牛が人間に対して示す反応(対人行動)に関する研究も行ってきた。そこで、今回は、対人行動が、搾乳牛の個性を考える上で、どの程度重要であるかを検討するための研究を行った。村松ステーションの搾乳牛17頭の行動を調査した。搾乳牛の人間に対する行動を2つの側面から検討した。従来行ってきた牛舎に繋がれている牛に人間が接近あるいは接触しそれに対して牛が示す受動的な反応を記録する方法を放牧地においても実施した。これとは別に、放牧地において牛が自発的に人間に接触する行動を調査した。さらに、搾乳牛の身づくろい行動と社会行動も調査した。これらの結果を因子分析によって解析することによって、搾乳牛の個性を形成している要因を検討した。また、その個性における対人反応の重要性について検討した。観点を変えると、身づくろい行動は自己に、対人反応は人間に、さらに社会行動は同種の他個体に対する行動である。つまり、牛の行動の対象として、自己と人間と他個体の3つが存在することになる。そこで、搾乳牛の興味の対象としての人間の存在についても検討した。結果はつぎのとおりである。放牧地では、17頭のうち10頭が人間に対して自発的に接触した。その頻度には大きな個体差があり、全く接触しない個体もみられた。また、放牧地では、牛舎内で繋がれた状況での受動的反応に比べて個体差が大きかった。これらは、放牧地のような空間では、自発的には人間に関わらないという選択の余地があるためと考えた。また、牛の人間に対する行動の個体差は、身づくろい行動や社会行動のそれより大きかった。各個体の身づくろい行動、人間に対する行動、社会行動の計17項目の調査結果を因子分析したところ、第1因子は行動の対象に積極的にかかわっていこうとする性質、第2因子は人間に対する親和性、さらに第3因子は社会的優位性であると判定された。道に、身づくろい行動すなわち自己を対象にした行動は個性を形成する主な要因ではないと考えられた。このように、搾乳牛の個性において、人間に対する行動は非常に重要であることが明らかになったが、因子分析の結果を総合的に考えると、人間は搾乳牛にとって積極的に探査もしは接触してみる対象、好奇の対象である可能性もあると思われた。The importance of the behavour to the human in the behaviour of the milking cattle was examined. 17 milking cows of Niigata University Muramatsu Station were investigated. The behaviours to one human, like a nanny, in the inside of the cowshed and in the pasture were examined. Responses to the behaviour which the human did to the cows were examined, and numerical value turned in the cowshed. The behaviour which cows showed to the human voluntarily were examined in the pasture. The grooming and social behaviour of the cows were examined in another opportunity. A factor analyzed those results. The individual which licked a human was in the individual as well which it was in and which didn't touch it at all in the pasture. Scores in the pasture aligned with in the cowshed comparatively well. But, inthe pasture, there were cows which avoid a little from the human. Therefore, originally behaviour toward the human of the cows should be investigated in the pasture. The individual differences of the behaviour to the human were bigger than the grooming and the social behaviour. The first factor was thought about with the curiosity as a result of the factor analysis. The second factor was affinity to the human. The superiority or inferiority in the herd and aggresiveness were the third factors.
著者
高岸 美由貴 木南 莉莉
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-14, 2012-09

近年都市部においては、農村への移住に対する潜在的需要があるものの、実現に至らないケースも多いことから、国や地方自治体が様々な移住促進事業に取り組んでいる。本稿は埼玉県秩父市が実施している「ちちぶ空き家バンク」と「地域おこし協力隊」を対象として、関係機関に対する聞き取り調査とアンケート調査を基に、地方自治体によるIターン促進事業の実態と課題を明らかにした。分析の結果、事業は一定の効果をあげているが、ビジョンの不明確さから事業の活用が不十分な状況にあり、都市住民への効果的な情報提供の方法を検討する必要があるなどの課題が明らかになった。
著者
青柳 斉
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = 新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.71-81, 2005-03

中国長江中下流域における米主産地で、近年の生産・流通には以下のような特徴が見られる。第一に、早稲・|米の減少と中稲・粳米の増大である。とりわけ江蘇省で、90年代に|米生産から粳米の生産・消費に急速に移行している。第二に、但し、中稲が増えている中国南方の米主産地すべてで生じているのはない。例えば湖南や江西の中稲は|米であり、依然として粳米の生産・消費が増える傾向にはない。第三に、インディカ種の普及は、中国南方で80年代に急速に進展し、江西・湖南等の|米主産地においては、すでにほとんどの|米生産において雑交稲が普及している。最後に、最近の品種構成の変化は、近年の食糧販売の自由化政策によって促進されている。The rice-producing district down the valley of China CHANG JIANG has recently the following characteristics of the rice production and distribution. Firstly, in that rice-producing district, early variety of rice (indica type rice) has been decreasing and middle (of early and late) maturing rice (japonica type rice) has been increasing. Especially, JIANG SI changed rapidly from indica type rice production to japonica type rice production and consumption in 1990ages. Secondly, however its changing of rice variety has not spread throughout the rice-producing district of the southern CHINA. For example, Middle maturing rice in HUNAN and JIANGXI is indica type rice, and both districts still have not the trend to increasing the japonica type rice production and consumption. Thirdly, in 1980'ages, indica type rice breeds had developed rapidly in southern China, and hybrid rice has spread in the indica type rice-producing center such as HUNAN and JIANGXI. Lastly, recent changing of the rice variety structure is promoted by the policy of deregulating food-selling obligation..
著者
大竹 憲邦 伊藤 紗織 後藤 大輝 小野 雄基 末吉 邦 大山 卓爾 Ohtake Norikuni Ito Saori Goto Daiki Ono Tomoki Sueyoshi Kuni Ohyama Takuji
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.49-55, 2017-02

植物工場における溶液栽培システムは天候に左右されず、高品質の野菜を四季を通じて栽培・収穫できる。しかし施設の稼働には高いエネルギーを必要とするため、販売価格に反映していまい、普及を妨げる要因の一つとなっている。そこで本研究では溶液栽培の培養培地から化学電池により電気エネルギーを取り出し、さらに溶出した金属イオンを植物に養分として吸収させるために、最適な金属板の組み合わせについて検討を行った。亜鉛またはマグネシウムおよび鉄(各15×45×1.0 mm)を化学電池の電極として、ホウレンソウ水耕培地中での電圧を測定した。亜鉛- 鉄の組み合わせでは、金属板浸漬直後では1金属対あたり0.35V を示したが、培地pH の上昇とともに電圧は減少し、2日後には1金属対あたり0.2V 程度となった。化学電池設置2日後の培養液中には亜鉛が溶出し、植物体に亜鉛が高濃度に蓄積し、化学電池を設置しない対照区と比べ乾物重が減少した。マグネシウム- 鉄の組み合わせでは、金属板浸漬直後では1金属対あたり1.0V を示したが、培地pH の上昇とともに電圧は減少し、2日後には1金属対あたり0.5V 程度となった。培養液中にはマグネシウム濃度がやや高い値を示したが、植物体のマグネシウム濃度には大きな影響はなく乾物重も対照区と同様の値を示した。従って、作物水耕培養液から電気エネルギーを取り出すときには、電極としてマグネシウム- 鉄を用いると、生育にも影響せず比較的高い電圧が取り出せることが示された。To use hydroponic plat culture solution for chemical battery, the suitable metals for the electrodes were investigated. The electrodes equipped with iron and zinc or iron were soaked in the culture solution and voltageand plants (spinach) growth were investigated. One pair of Fe-Zn (each volume; 15×45×1.0 mm) electrode made 0.35V during first several hours, then the voltage was gradually decreased and finally reached 0.2 V after 2 days.Two days after culture with chemical battery with Fe-Zn, Zn2+ concentration in culture medium was increased and Zn was highly accumulated in both shoots and roots. The dry weight of plants equipped without electrodes.This might be caused by excess Zn2+. Using the Fe-Mg as electrodes made 1.0V at first several hours, and then the voltage was also decreased and finally reached 0.5V. However, any excess symptom on plant, mineral concentration change in plant and dry weight differences between normal and chemical battery application werenot observed when using Mg as electrode. In conclusion to make chemical battery equipped with hydroponically plant culture it was recommended to use electrode as Fe-Mg pair from the point of view of both plant nutritionand electromotive force.
著者
青柳 斉
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.64-70, 2007-03
被引用文献数
3

米の農協マーケティングの展開は、需要量に応じた生産目標数量配分方式の普及に加えて、外食産業の消費増や消費者の米需要の多様化によって促進されている。そのため、米の主産地では、業者の多様なニーズに即応できる集荷・販売方式や、多様な価格帯に対応した販売政策の導入がマーケティングの手法として重要になってきた。但し、農協マーケティングの展開形態は、産地の立地条件や直面している市場条件の特徴によって異なる。魚沼みなみ農協は、高級銘柄米産地における農協マーケティングの先進事例である。当農協は、専任の営業担当者を配置して、有機米等の独自販売を拡大している。そして、高級銘柄米としての品質保証のために、品質評価にもとづいて生産者に栽培改善を指導している。但し、品質評価に基づく区分集荷や生産者に対する報奨制度は導入していない。その理由は、当農協のマーケティング戦略が、高級銘柄米「魚沼コシヒカリ」を「主食」としてではなく、「特産物」として安定的な販路を拡大することにあるからである。
著者
新美 芳二 阿部 誠 野水 利和
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.29-33, 2005-08

無加温ビニルハウスで栽培したオオミスミソウは開花したあと前年に形成された葉を展開したあと,根茎先端でクラウン形成を始めた.クラウンはまず鱗片葉を形成し,花芽は4月中旬頃に鱗片葉の基部に初めて観察された.鱗片葉形成および花芽分化は7月下旬まで求頂的に続き,花芽数はクラウン当たり7個となった.その後一部の花芽が枯死し,開花直前の3月下旬のクラウン当たりの生存花芽数は約4個前後であった.4種類の温度に設定した照明付インキュベーター(16h明期/8h暗期,PFD 20-30μmols-1・m-2・sec-1)で栽培した株では,15℃恒温条件下で栽培した株で花芽分化・発達が最もよく,花芽数が最大となった.Four year-old H. nobilis plants cultivated in a non-heated polyethylene house began to develop a new apical bud (crown) on the top of rhizome after flowering and leaf development. The bud formed scale leaves, followed by development of flower bud in the axils of each scaly leaf. Flower bud was observed late in April for the first time, and the initiation and development of bud scales and flower buds continued acropetally to late July. About 5 to 7 flower buds per crown were formed until late August, and then a few flower buds wilted. About 4 flower buds per crown existed late in March. When plants were cultivated in the incubators at different temperatures under a 16 photoperiod with fluorescent lamps at a PFD of 20-30μmols-1・m-2・sec-1, the initiation and development of flower buds were stimulated best at 15℃ compared to other temperature conditions.
著者
中津 弘 長嶋 直幸 本間 航介 永田 尚志 Nakatsu Hiromu Nagashima Naoyuki Honma Kosuke Nagata Hisashi
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 = Bulletin of the Faculty of Agriculture, Niigata University (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.11-15, 2016-02

新潟県佐渡島東部の丘陵地の中で、森林内の放棄棚田を復元しているキセン城地区の鳥類について繁殖期の調査を行った。3回の調査で計30種の鳥類を確認し、ヒヨドリが最も優占していることが明らかになった。他方、島内の山麓谷戸に多いカワラヒワやスズメは観察されなかったが、森林内に点在する農地的なパッチ状生息地であることや、人家集落が近傍に存在しないことがその要因であろう。過去60年程度で棚田が激減したこの地域の中で、このような環境の保全管理が行われているキセン城の鳥類群集は、山麓部のものとは異なる特徴を有していると考えられた。We conducted bird surveys in Kisenjo, on a hilly region on Sado Island, Niigata, Japan, from April to June, 2015. We counted birds at four fixed-radius points, and recorded all bird species that occurred in this site. 30 species of birds were recorded, and the Brown-eared Bulbul (Hypsipetes amaurotis) was the most abundant species. The most of the land in the vicinity of the study site is forested, with only few patches of small open spaces such as rice paddies and wetlands, as majority of cultivated lands have been deserted in past six decades. There are no residential areas, and some fallow lands have been restored as wetlands in the study site in recent years. This patch-matrix structure appeared to exclude some bird species from the site, like the Oriental Greenfinch (Chloris sinica) and Eurasian Tree Sparrow (Passer montanus) that are abundant on lowland edge habitats on Sado Island. The result of this study suggests that such habitat management could produce a unique bird community.
著者
渡邉 千香 木南 莉莉
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.11-19, 2006-08
被引用文献数
1

上海市は経済成長の著しい中国の中で最も経済発展を遂げた都市の一つであると同時に、「都市部住民最低生活保障制度」を全国に先駆けて導入するなど、積極的に貧困問題を取り組む都市でもある。本稿は、上海市における多様な貧困対策のひとつである「糧油補助制度」に焦点を当てて分析を行った。「糧油補助制度」の受給者および制度を実施する担当者への聞き取り調査や一般市民へのアンケート調査を通じて「糧油補助制度」の認知度・効果・問題点などが明らかになった。まず、一般市民を対象としたアンケート調査回答者のうち約3割の者がこの制度を知っていると答えた。また、「糧油補助制度」の受給者はこの制度が栄養状況の改善に役立ったと評価する一方で、補助額の基準や補助対象者の特定などの適正さや正確さへの改善を求めていることが明らかになった。Shanghai is not only a city which has reached the highest speed of economic development among the cities of China where economic growth is remarkable but also a city which has introduced "Security System for Urban Minimum Standard of Living" in advance of the whole country. This research focused on "Food Assistance System" that was one of the various counter-poverty policies in Shanghai. The recognition level, the effect, and the problem etc. of "Food Assistance System" were clarified through taking interviews and questionnaire survey both to the recipients and executers of the system and general residents in Shanghai. About 30 percent of those who answered the questionnaire survey replied that they knew this system. However, the improvement on the propriety of standard for assistance and the accuracy of specification for recipients were requested both by the recipients and executers of the system while this system was evaluated to be useful to the improvement of poor people' s nutrition condition
著者
高橋 能彦 佐藤 巧 伊部 歩
出版者
新潟大学
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.58, no.2, pp.97-102, 2006-03

新潟特有の冬季低温寡照条件で、2004年秋から2005年春にイチゴ「越後姫」を温室ハウスで高設促成栽培し、灯油燃焼式の炭酸ガス発生機を用いて炭酸ガス施肥効果を検証した。炭酸ガスは日の出から5時間施用し、1月から3月の午前9時から12時までの平均炭酸ガス濃度は約1,500cm3 m-3であった。炭酸ガス施用でイチゴの硝酸吸収が促進されて葉色は濃く推移した。炭酸ガス施用区の累積収量は炭酸ガス無施用の対照区より17%増収した。規格別収量では炭酸ガス区で20g以上の大型果実が多くなった。また、炭酸ガス施用で果実糖度は有意に増加し、対照区より1.0~3.5度高くなった。以上、新潟の冬季気象条件で炭酸ガス施肥によるイチゴの増収および品質向上効果が認められた。The present study was made to investigate effect of CO2 application to strawberry cv. "Echigo-hime" for green house forcing culture in Niigata region, that the climate condition is low temperature and low amount of solar radiation in winter. Experiment was conducted from autumn 2004 till spring 2005 in Niigata University Shindoori Station. CO2 gas was applied from sunrise for 5 hours, and the average concentration was about 1,500 cm3 m-3, in the period in Jan. to Mar. in a.m. Leaf color CO2 treated plants was higher than the control, due to the active NO3-N absorption. And total yield increased about 17% compared with the control. CO2 treated plants had much harvest of big fruits of 20g or more. The sugar content (Brix) of fruits was higher about 1.0-3.5 degrees by CO2 treatment. Conclusion, CO2 application to strawberry was effective technique in that winter conditions as Niigata region.
著者
森井 俊廣 門口 隆太 小松 元太 松本 智
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.99-107, 2011-03

砂層とその下部に礫層を重ねた単純な構造の土層地盤では、互いの層の土粒子の大きさあるいは間隙サイズに伴う保水性の違いにより、砂層と礫層の境界面の上部で降下浸潤水が保水され、集積する。境界面に傾斜をつけると、集積水は傾斜方向に流下していくため、境界面はあたかも不透水性の障壁として機能し、それ以深の領域への水の浸入が抑制される。また、境界面に沿って流下した水は、末端で集水することにより、貴重な雨水資源として捕獲することも可能である。砂層と礫層を重ねた単純な土層地盤にみられる浸潤水の遮断・捕獲の機能を、土の毛管障壁あるいは土のキャピラリー・バリア(Capillary barrier of soil)と呼ぶ。傾斜したキャピラリー・バリアのもつ浸透抑制機能を利用すれば、地盤に浸透した降雨水を表層部で効果的に捕捉し、地盤深部への浸潤を低減できるため、地山斜面やため池堤防斜面などの斜面すべり防止技術への展開が可能となる。一方、キャピラリー・バリアを地表面の近傍で平面上に敷設すれば、土壌水を根群域に保水できるため、節水かんがいが可能となる。このような土のキャピラリー・バリアがもつ応用展開の可能性に着目し、まず、土のキャピラリー・バリアの技術的特徴を紹介したのち、野外実験および圃場実験にもとづき、傾斜したキャピラリー・バリア地盤における雨水遮断機能ならびに水平状に敷設したキャピラリー・バリア地盤における節水かんがいの可能性を調べる。
著者
上原 るり香 神田 美沙 森井 俊広 Uehara Rurika Kanda Misa Morii Toshihiro
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.175-180, 2009-03

土の毛管遮断機能(キャピラリー・バリア)を利用することにより、地盤に浸透した降雨水を表層部で効果的に捕捉し、斜面末端に流下させることができる。これにより、地盤深部への雨水浸潤が低減し、土の強度の低下あるいは自重の増大を抑制することができる。この雨水浸透抑制効果により、自然地山斜面やため池堤防斜面を対象とした斜面すべり減災技術の開発が可能となる。本研究では、キャピラリー・バリアの基本性能を確認するため、圃場斜面に砂層と礫層の2層構造の地盤を造成し、キャピラリー・バリアのもつ雨水浸透に対する抑制効果を調べた。キャピラリー・バリアの表層部は砂層である。雨滴衝撃による表面浸食が起きやすく、性能が短期間に劣化する可能性が大きいため、植生被覆による法面保護が必要となる。本研究では、合わせて、植生斜面における土中水分動態の観測を行い、降雨浸潤の抑制に及ぼす植生被覆の相乗効果についても調べた。圃場で造成した砂層と礫層の層構造地盤における土中水分動態のモニターにより、雨水浸透に対するキャピラリー・バリアの抑制効果を確認することができた。また、植生被覆により降雨の斜面浸透が効果的に抑制されることから、キャピラリー・バリアとの相乗効果を定量化していくことが今後の重要な課題となることを指摘した。これにより斜面減災技術の実務性は格段に増すと期待される。Capillary barrier is a simple soil layer system which is composed of a fine soil layer underlain by a coarse soil layer. Water infiltrated into soil is halted just above a boundary surface between the fine and coarse soil layers due to a physical difference in water retention characteristics of both layer soils. When the boundary surface between soil layers tilts, water retained flows along the boundary surface, and a downward movement of infiltration water into the soil below the boundary surface is restricted. Waterproof by the capillary barrier with a tilted boundary surface decreases rainwater infiltration into soil, and keep a soil slope stable because of small deterioration of soil strength due to wetting as well of small increase of soil mass. This special and attractive feature leads to a possible adoption of the capillary barrier as effective measures for slope protection of natural soil or embankment. In the study soil moisture contents were measured in sand soil layer underlain by gravel layer constructed in a natural sand slope. After a trench about 50cm wide was excavated in the natural sand slope, gravel was compacted into the layer of 10cm thickness in the trench, and then the sand excavated was put back and compacted into about 20cm thick layer. Inclination of the boundary surface between the soil layers was 20 degrees. The sand is classified into Sand with less-5% fine and coarse fractions, and the gravel is siliceous with typical particle size of 4 to 7mm. Dielectric probes ECH2O were employed to measure volumetric moisture contents at 15, 10, 5 and 1cm above and 1cm beneath the boundary surface between the soil layers. The volumetric moisture contents in the soil were measured during four months together with precipitation. The results showed effective waterproof by the capillary barrier of soil.
著者
高岸 美由貴 木南 莉莉 Takagishi Miyuki Kiminami Lily
出版者
新潟大学農学部
雑誌
新潟大学農学部研究報告 (ISSN:03858634)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.1-14, 2012-09

近年都市部においては、農村への移住に対する潜在的需要があるものの、実現に至らないケースも多いことから、国や地方自治体が様々な移住促進事業に取り組んでいる。本稿は埼玉県秩父市が実施している「ちちぶ空き家バンク」と「地域おこし協力隊」を対象として、関係機関に対する聞き取り調査とアンケート調査を基に、地方自治体によるIターン促進事業の実態と課題を明らかにした。分析の結果、事業は一定の効果をあげているが、ビジョンの不明確さから事業の活用が不十分な状況にあり、都市住民への効果的な情報提供の方法を検討する必要があるなどの課題が明らかになった。In recent years, although there is potential demand over migration to farm villages among urban residence, it does not result in realization in many cases in Japan. It is for the reason that, the country and the local government are tackling various programs for urban-rural migration promotion. Based on the interview and the questionnaire survey, this paper targeted Chichibu City, Saitama Prefecture to clarify the actual condition and the subject of the I-turn promotion programs by local government. As a result of analysis, although the programs were achieving certain effects, the necessity of examining the method of the effective information dissemination to city residents became clear.