- 著者
-
伊藤 奈保子
- 出版者
- 日本印度学仏教学会
- 雑誌
- 印度學佛教學研究 (ISSN:00194344)
- 巻号頁・発行日
- vol.68, no.3, pp.1257-1263, 2020-03-25 (Released:2020-09-10)
- 参考文献数
- 17
マカラ(Makara)には諸説あるが,インドの文献を源流とする海や渦と関連したワニに似る海獣として知られ,インド,バールフットの門の欄楯をはじめ,ジャワ島,スマトラ島にも確認できる.本論は現地の作例を網羅的に紹介し,インドネシアでのマカラの様相の明確化を目的におく.マカラがあらわされる箇所は大きく4つに分類できる.①寺院の建物入口の門等,上部に飾られるトーラナの左右,門の柱の下部左右(図1),②寺院の階段,一番下段の左右両端(図2・3),③寺院の排水溝(図4),④石造像・鋳造像等の光背(図5・6)である.まず,①については,寺院入口上部や横壁の窓等の上部にキールティムカが彫刻され,トーラナ左右に外向きの顔が設えられる.寺院入口の柱一番下のマカラも,同様に左右顔を外向きに置かれる.口内には鳥や獅子,シャールドゥーラか?などが設えられる(図1・2).②は,①よりも姿が大きく,中部ジャワ地域では,細い目,象の鼻,耳を有したワニのような口に鋭い牙が特徴で,鼻先の花の芯からは花綱があふれ,それを口内の獅子や天人などが受け止める形状をとる.スマトラでは,全体に装飾過多となり,手を有し,口内には武器を手に執る戦士があらわされ,守門的な意味あいが考えられる.マカラの形状の変化は,同時期の他の尊像と同様に,インド美術の影響から土着化がすすみ,装飾過多となってゆく傾向が読み取れる.③は寺院の雨水等の排水用で,マカラ口内に円形の筒等が設えられる.②にもみられるが,ヤクシャが両手で下から持ちあげる作例もみられる(図4).④については石造・鋳造の尊像,光背に確認ができる.ヒンドゥー教,仏教(密教)の宗教を問わず用いられ,特に,光背の残存率も高い金剛界大日如来に多くみられることが特徴といえよう.また①②④はチャンディ・ボロブドゥール『華厳経』「入法界品」レリーフに彫刻されており,8世紀末頃には形式が確立していたと推察される.