著者
熊谷 圭二郎 河村 茂雄
出版者
日本学級経営心理学会
雑誌
学級経営心理学研究 (ISSN:24349062)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.64-73, 2015 (Released:2021-02-09)

本事例は,無気力で不登校傾向を示す男子高校生に対して教育相談担当として関わり,援助を行った事例である。この男子生徒が無気力に振る舞うのは,意欲の低下という原因だけではなく,そうすることで他者との関わりによる心理的傷つきを防衛するという目的と,無気力に振る舞うことで母親からの管理・統制に抵抗し,自己決定感を得ようとする目的があることが予想された。そこで報告者は勇気づけと学校行事を活用することで,援助を行った。その結果,リレーションの形成,自分の行動の目的についての洞察と自己受容,行事への参加・貢献という流れを経てクラスへの所属感を高め,少しずつ学校生活に対する意欲を取り戻していった。このことから防衛と力の誇示を目的として無気力に振る舞う生徒に対する援助として斜めの関係を意識しながら,今できていることを指摘し,勇気づけることは有効な方法であることが示された。また,学校行事への参加・貢献は集団から「受容されている・受け入れられている」「必要とされている・役に立っている」という2つの感覚をもたらし,所属感を高めたことが示された。以上から本事例のような無気力を示す生徒に対する勇気づけと学校行事の活用は,効果的な援助方法の一つであると考える。
著者
深沢 和彦 河村 茂雄
出版者
日本学級経営心理学会
雑誌
学級経営心理学研究 (ISSN:24349062)
巻号頁・発行日
vol.9, pp.7-17, 2020 (Released:2021-02-09)

本研究では,通常学級においてインクルーシブ教育への対応が求められるようになった現在,インクルーシブ教育にマッチした学級経営に必要な教師の指導行動を明らかにし,学級経営の指針を得るために教師の自己評定による「インクルーシブ指導行動自己評定尺度」を作成することを目的とする。聞き取り調査により得られた指導行動を基に作成した原尺度を公立小学校の学級担任教師528名を対象に調査したところ,520名から有効回答が得られた。因子分析の結果,3因子12項目の尺度が作成され,信頼性,妥当性の確認がなされた。インクルーシブな指導行動として,「全体対応」,「架け橋対応」,「個別対応」の3つの指導行動が明らかとなり,その発揮には,教師の経験と知識理解の程度が関連していることが示された。
著者
河村 茂雄
出版者
日本学級経営心理学会
雑誌
学級経営心理学研究 (ISSN:24349062)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.1-8, 2016 (Released:2021-02-09)

学級担任制度をとる小学校の学級担任を対象にして,学級集団づくりに困難さを感じている教員たち,良好に展開できている教員たちに半構造化面接を行い,学級集団づくりのプロセスのどこにつまずいているのか,うまくいっている要因は何かを抽出して,Zimmerman (1998) の「初歩と上達した自己調整学習者の自己調整の下位過程の比較」を参考に,学級集団づくりのつまずき,学級集団づくりのポイントを明らかにすることを目的とした。なお,自己調整とは,教育目標の到達を目指す自己調整された思考,感情,行為のことをいい(Zimmerman et a1.,1996),本研究においては,学習者は学級担任であり,学習は年間の学級集団づくりの取組である。結果,学級集団づくりが良好に展開できている教員たち(Aタイプ)と,学級集団づくりに困難さを感じている教員たち(Bタイプ)には①予見段階,②遂行段階,③自己内省段階3つの段階における自己調整学習の仕方に明確に相違が認められた。
著者
苅間澤 勇人
出版者
日本学級経営心理学会
雑誌
学級経営心理学研究 (ISSN:21868751)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-64, 2016

2013年9月の「いじめ防止対策推進法」の施行後,地方及び学校のいじめ防止基本方針の整備が進んでいる。しかし,その後も各地でいじめによる自死が続いており,有効ないじめ対応策の実施が課題となっている。いじめの対応は未然防止と早期発見,早期対応(事案対処)が必要であり,これらが適切に行われない場合に重大事案に発展してしまう。本稿では,いじめ対応チームによるいじめ解消を目指した事例を報告する。本事例の対象校は高等学校である。対象校では2006年に「いじめ対応マニュアル」が制定されている。本報告は,いじめ対応マニュアルに基づいていじめ対応チームを招集して行われた最初のいじめ対応の事例である。本事例では,いじめと疑われる行為の発見後から,いじめ被害生徒と加害生徒に事実確認を行った。次に,いじめ解消を目指していじめ対応チームも含めて謝罪会を行った。同時にいじめ防止対策を再検討して,学校全体にいじめ再発防止策を実施した。そのような実践から,いじめ対応マニュアルといじめ対応チーム,謝罪会の有効性について考察した。さらに,いじめ行為の認定の難しさなどを指摘した。