著者
松永 好孝
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.49-54, 2019 (Released:2019-10-23)
参考文献数
8

〔目的〕本研究の目的は,膝蓋骨の遠位方向へのモビライゼーション後の膝伸展筋力の測定を行い,関節運動反射の影響を検討することである。〔方法〕膝関節疾患を有さない対照群および介入群20 名ずつを対象とした。対照群・介入群はともに1 時間の休憩をはさみ,2 回膝伸展筋力を測定した。介入群では,1 時間の休憩後に膝蓋骨遠位方向へのモビライゼーションを実施し,直後に膝伸展筋力を測定した。この結果より,両群の前後の膝伸展トルク体重比および膝伸展トルク増加率を算出し比較を行った。〔結果〕対照群の初回と休息後の膝伸展トルク体重比では有意差は認められなかった。一方,介入群の初回と介入後の膝伸展トルク体重比では有意差が認められ(p=0.03),膝伸展トルク増加率は11.4 ± 15.1%であった。〔結論〕今回の結果は,膝蓋骨の遠位方向へのモビライゼーションにより生じた関節運動反射が,大腿四頭筋における神経原性抑制を除去している可能性を示唆する。
著者
高﨑 博司
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.9-13, 2021 (Released:2021-04-16)
参考文献数
27

臨床推論の能力は徒手的理学療法の効果を左右する大きな因子である。臨床推論の枠組みは大きく分けて,medical modelとsigns and symptoms model(SSモデル)がある。Medical modelにおいては,病態解剖学的diagnosisの確立が,予後予測や治療を決める上で必須であると考える。一方で,SSモデルは病理解剖学的なdiagnosisを必要とせずに,パターン認識や臨床所見や症状に基づいた仮説演繹推論によって介入を計画し,反芻していく。SSモデルの臨床推論能力を高めることは,本邦における卒前・卒後教育で今後重視されていくと考えられる。そこで,本稿ではSSモデルの臨床推論能力を高めるのに有益であるstratified care modelを取り上げた。まず,stratified care modelとはなにかについて概説し,腰痛に対するKeele STarT Backスクリーニングツールについても簡単に紹介した。そして,stratified care modelにおける研究課題について概説した。
著者
半田 瞳 中村 雄一 半田 学 竹島 憲一郎
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.45-49, 2021 (Released:2021-11-11)
参考文献数
23

〔目的〕難治性の有痛性外脛骨に対し,Fascial Manipulation(以下FM)を実施したため改善効果を報告する。〔対象〕本症例はVeich分類Ⅱ型の有痛性外脛骨と診断され手術療法が検討された1症例とした。〔方法〕疼痛評価,足関節・後足部判定基準および歩行能力の評価を実施した。さらに,足部の形態測定としてアーチ高率および開張率を計測した。理学療法としてFMを実施した。〔結果〕足部の形態の変化はみられなかったものの,疼痛の軽減に伴い歩行能力が向上した。〔結論〕有痛性外脛骨に対する徒手療法としてFMは有用である可能性が示唆された。
著者
薄井 智貴
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-31, 2019 (Released:2019-04-22)
参考文献数
2

近年, 世界的に医療技術が発達する中,理学療法士の立場を見直そうという改革があった。その先頭に立った国がアメリカである。アメリカの理学療法教育は元来,学士,修士, 博士のプログラムが混在していたが,2015 年の改革にて博士レベルであるDoctor of Physical Therapy(DPT)のみとなった。現在ではイギリスやオーストラリアでもDPT プログラムは普及している。教育水準の向上に伴い入学条件は厳しくなったが,現場でのインターンシップや観察実習などプログラムは充実した。さらにアメリカの理学療法にはスペシャリストという資格制度が存在し,整形外科や小児科,スポーツなど自身の極めたい分野に特化することができる。さらにこの改革にてアメリカ全50州にて理学療法士が医師を介さず独自に診断や治療ができる権利(Direct Access)が認められ,各分野における理学療法士の社会的地位の向上が顕著になった。
著者
河西 理恵
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.15-19, 2019 (Released:2019-04-22)
参考文献数
6

徒手理学療法教育のグロ-バルスタンダードであるIFOMPT(International Federation of Orthopaedic Manipulative Physical Therapists)の教育戦略の特長は,高い教育目標の設定と目標達成のための最適なカリキュラム,および学習成果の評価方法まで一貫した基準を設けたこと,そして,これらの基準を遵守しているかを確認 するための定期的なモニタリングの実施により,IFOMPT が承認した教育機関であれば世界中どこでも一定で高水準の教育を受けられるシステムを確立したことである。また,近年,エビデンス重視の臨床実践が定着したことで, 現在の専門徒手理学療法士(OMPT)には実技能力だけでなく,臨床実践におけるエビデンスの批判的評価能力や高度なクリニカルリーズニング能力,研究論文を批判的に解釈し臨床応用できる能力など,EBP の実践に不可欠な さまざまな能力が求められている。
著者
浅田 啓嗣
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.33-38, 2019 (Released:2019-04-22)
参考文献数
6
被引用文献数
1

日本運動器徒手理学療法学会(JAOMPT) では,IFOMPT(International Federation of OrthopaedicManipulative Physical Therapists)の基準に基づいた国際認定セミナーを開催している。1988 年からKaltenborn -Evjenth International(K-EI)による国際セミナーを継続開催し,現在ではK-EI に限ることなく,IFOMPT の基準に沿った教育へとプログラムの充実を図っている。セミナーは大きく分けて基礎コースと上級コースに分けられている。基礎コースは49 日間,上級コースは34 日間のプログラムが設定されている。コースで習得するテクニックとして,関節モビライゼーション,関節マニピュレーション,軟部組織モビライゼーション,神経モビライゼーション,モーターコントロールトレーニングがある。効果的な治療を行うためには,正確な検査の下,仮説の設定と検証を繰り返し行う臨床推論能力,エビデンスを批判的に分析し臨床応用する能力が求められる。本コースではこの臨床推論過程と最新エビデンスの適用方法をシステマティックに学習することができる。
著者
鍋田 友里子
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.19-24, 2020 (Released:2020-04-20)
参考文献数
10

米国の理学療法の専門領域は細分化されており,ダンスはそのひとつである。近年ダンスを含むperforming arts が米国理学療法協会(APTA)の専門理学療法士養成プログラム(fellowship)の領域に加わった。筆者はニューヨーク州で理学療法士として多くのダンサーを診療してきた。この経験から,ダンス傷害を専門にするためには養成校卒業後の専門教育が重要であり,中でも整形徒手療法はダンス傷害の診療に有用だと考える。本稿では,2016 年帰国前までの筆者のダンス傷害診療の経験談を通して,米国の理学療法士の臨床活動とダンスと整形徒手療法の継続教育について言及する。
著者
河重 俊一郎
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.55-59, 2019 (Released:2019-10-23)
参考文献数
8

〔緒言〕局所性ジストニアに対する理学療法の方法および有効性について,一定の見解は得られていない。本報告は手指の局所性ジストニアに由来する症候に対して徒手療法が奏功した一例であり,その経験に加え局所性ジストニアの診断に至るまで時間を要した反省をあわせて報告するものである。〔症例〕40 歳代女性,把握動作時に母指・示指の屈曲に抑制が効かず,意図せず物を強く握りしめてしまうことを訴えて来院した。〔評価および介入〕特筆した理学所見がなく,病態解釈・治療に難渋していたが,ある時発生した疼痛に対し,大菱形骨のマニピュレーションを行ったところ不随意な手指屈曲動作の著明な改善が得られた。〔結論〕骨偏位や可動不全といった筋骨格系の異常が,局所性ジストニアに由来する症候を修飾する可能性が示唆された。
著者
前川 武稔
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.57-62, 2021 (Released:2021-11-11)
参考文献数
9

腰痛は有訴者が多く国民病といわれるが,そのうち病態原因を特定できるものは約15%といわれている。このような疾患における問題解決方法として,症状に対しメカニカルな負荷を加える際の症状変化のパターンによってマネージメントを決定する考え方が有用になる場合がある。今回,急性後弯変形を呈した腰痛患者に対しMechanical Diagnosis & Therapy(MDT)による評価と介入で改善が認められたので報告する。40歳女性が痛みのため腰椎後弯変形を呈し家族に付き添われ来院した。メカニカルな負荷をかけながら慎重に症状・所見の変化を観察し介入したところ,著明な改善が得られた。
著者
松永 綾華 三木 貴弘 近藤 貴弘 高﨑 博司
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.3-8, 2021 (Released:2021-04-16)
参考文献数
15

14の腰椎不安定性の臨床症状の有無を問うLumbar Spine Instability Questionnaire(LSIQ)は,認知行動療法に比べてモーターコントロールトレーニングの方が治療効果が高くなる者の予測に役立つという報告がある。そこで本研究では,国際的な質問紙票の異文化適応ガイドラインに準拠してLSIQの日本語版を作成することを目的とした。仮日本語版作成までの過程では,LSIQの表現で不明確な箇所があり,LSIQの元となった2006年のデルファイ法研究の記述を元に一部改編し,各質問の内容を失わずにより日本語として理解しやすく自然な表現を心掛けた。腰痛関連の愁訴をもつ30名によるパイロットテストを行った結果,意味が分からないというコメントは420(30人×14質問)回答中1件であり,パイロットテストで使用した原稿が最終的な日本語版LSIQとなった。最終的に,腰痛を持つ幅広い方が理解できる日本語版LSIQが作成され,今後の研究での活用が期待できる。
著者
薄井 智貴
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.27-31, 2019

<p>近年, 世界的に医療技術が発達する中,理学療法士の立場を見直そうという改革があった。その先頭に立った国がアメリカである。アメリカの理学療法教育は元来,学士,修士, 博士のプログラムが混在していたが,2015 年の改革にて博士レベルであるDoctor of Physical Therapy(DPT)のみとなった。現在ではイギリスやオーストラリアでもDPT プログラムは普及している。教育水準の向上に伴い入学条件は厳しくなったが,現場でのインターンシップや観察実習などプログラムは充実した。さらにアメリカの理学療法にはスペシャリストという資格制度が存在し,整形外科や小児科,スポーツなど自身の極めたい分野に特化することができる。さらにこの改革にてアメリカ全50州にて理学療法士が医師を介さず独自に診断や治療ができる権利(Direct Access)が認められ,各分野における理学療法士の社会的地位の向上が顕著になった。</p>
著者
一色 史章
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.59-65, 2020 (Released:2020-10-27)
参考文献数
9

理学療法士業界において,諸外国への留学および協力が増加したことは記憶に新しい。しかし,今後COVID-19 の猛威が諸外国へ渡る足枷となることは,様々な面から想像することは容易である。欧米諸国には,過去に多くの日本人理学療法士が足を運び,学んだものを日本に持ち帰り発展させてきた歴史がある。筆者自身,日米の理学療法士免許を所有し,日米の大学,大学院を経験し,今もなお米国において臨床に従事しながら日本の外来整形外科クリニックにおいてエグゼクティブアドバイザー業務を行っている。その経験から日米の教育と臨床の違いを比較することにより,今後世界に羽ばたく理学療法士の一助となり,日本の理学療法に発展に寄与できれば幸いである。
著者
有家 尚志
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.49-53, 2020 (Released:2020-10-27)
参考文献数
6

英国では,理学療法士の卒後教育としてのプログラムが充実している。なかでも,大学院教育は体系だった形として存在し,海外の学生も柔軟に受け入れている。医療専門職として卒後も継続的に成長していくことが,免許の更新や,職場での昇進にも反映される仕組みがとられている。筆者は,英国での就労を前提とした留学計画を立てて進学した。そこで今回,英国の大学院および免許登録に関する概要について述べる。
著者
押本 理映 横田 裕丈
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.73-77, 2019 (Released:2019-10-23)

米国で出会った,徒手療法のInstitute of Physical Art(IPA)のショートコースを受講した。IPA によって開発されたシステムは,Functional Manual Therapy®(機能的徒手療法)と言い,患者自身の運動を用いてモビライゼーションを行う特徴がある。また,mechanical(機械的・構造的),neuromuscular(神経筋),motor control(運動制御)の3 要素を重視しており,評価や治療においてこれらを統合したアプローチ方法を学ぶことができる。本稿ではIPA のコースを紹介するとともに,海外でコースを受講し感じたことを述べる。
著者
三根 幸彌
出版者
日本徒手理学療法学会
雑誌
徒手理学療法 (ISSN:13469223)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-26, 2019 (Released:2019-04-22)
参考文献数
11

日本の理学療法は発展途上であり,海外から積極的に学ぶ必要がある。また,根拠に基づく臨床実践の重要性 が世界的に叫ばれる中で,国際的な視野を持って仕事・生涯教育に臨むということは重要である。本稿では,2014 年に筆者が南オーストラリア大学大学院の筋骨格系・スポーツ理学療法修士課程で学んだ経験をもとに,留学のため の準備,カリキュラムの特徴,コース修了後の展望について述べる。本課程に限らず,熱意のある本邦の理学療法士 がこれから積極的に海外に出て学んでほしいと願っている。