著者
山田 旭
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.92-105,133, 1969

精神分裂病患者44名(男子30名,女子14名)および神経病患者25名(男子13名,女子12名)にM.M.P.I.及びロールシャッハ・テストを組み合わせて施行し,その結果を動力学的観点から見た症状類型と関連させて解釈することにより次の所見が認められた.M.M.P.I.を両疾患の患者群に施行した結果からは等しく分裂病とか神経症といってもその症状にいろいろの差がある如くM.M.P.I.の人格プロフィルの型は種々であって殊に例数のあまり多くない場合単に両群の平均プロフィルを求めただけではその疾患を代表する一般的なプロフィルを云々することは困難である.然し動力学的観点に立って両疾患における症状類型を陽性症状のニュアンス強いものとに分けると分裂病においても神経症においても前者の型のものは人格プロフィルが高く表れ後者の型においては低く表れる.これは分裂病的人格変化も神経症的人格変化もM.M.P.I.の上では等しく正常平均からの量的偏奇として示されるので新ジャクソン主義的立場で言うところの2つの機制が両疾患に於いて殆ど同じ様な状況でM.M.P.I.のプロフィル上の差異となって表れるのでこの点については分裂病と神経症の間にあまり差異は認められない.しかしロールシャッハ・テストにおいてPitrowskiのprognostic perceptanalytic signを両疾患について適用すると,分裂病においては人格の低下解体の程度の強弱に応じてサインの予測点が低くなるものと高くなるものとの間にかなり開きが出るのに対し,神経症においては殆ど全部が略々人格解体の少い予後良好な分裂病と同じような値を示し,分裂病の場合のように予測点が低く出るものがなかった.而して分裂病においては陽性症状,陰性症状のニュアンスの差による類型と人格解体の程度の強弱の差による類型の組合せから4つの症状類型を訳動力学的立場からその症状の説明を行い,更にそれ等の症状類型はM.M.P.I.の人格プロフィルの高低の差とPiotrowskiのprognostic perceptanalytic signsの予測点の高いか低いかということの組合せから精神測定的方法である程度推定できることを述べた.最後に神経症においては症状的に陽性症状のニュアンスの強い型と陰性症状のニュアンスの強い型とに分けた2類型の各々についてEichlerのanxiety indexを適用した所,不安のもつ2つの発生機制に応じて不安指標の項目のうち或ものは前者の型に高くあるものは後者の型に高いというように項目のもつ意味に応じて,かなり明確に2つの群に分かれることは認められた.擱筆に際し,御校閲を賜った石橋俊実教授に厚くお礼申し上げます.また終始指導をいただいた佐藤愛講師に深く感謝いたします.(この論文を石橋教授開講10周年記念論文として捧げます.)
著者
依田 新 大橋 正夫 島田 四郎
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.1-9,64, 1969

小学校へ入学したばかりの1学級の児童に担任の教師が個別に面接して, 好きな友達と嫌いな友達の名前を無制限にあげさせた。こうして毎月1回3年生の終りまで合計36回にわたって学級内の友人構造を調査した。これを主として数量的に分析した結果次のことが明らかとなった。<BR>(1)好きな友達としてあげる人数の平均は第1回では1人以下であったのが次第に増加し, 終には3人を越すようになつた。あげた嫌いな友達の数はそれより稍少いが, 大体類似の傾向をたどつて増加する。<BR>(2)好きな友達として女子が指名するのはほとんど最初から女子が多いが, 男子が男子を多くあげるようになつたのは2年生の3学期に入つてからである。とれに対して嫌いな友達としてあげるのは, 男女ともはじめから男子が多い。<BR>(3)多数から集中的に選ばれるスターは, 「好きな友達」ではほとんど女子, 「嫌いな友達」ではほとんどが男子である。両方ともその地位はかなり安定しているが, 特に前者はそれが顕著である。<BR>(4)本研究の年齢範囲では選択行動の一貫性は発達に伴って増大しているとはいえない。しかし積極的選択の方が拒否的選択よりも常に高い。<BR>(5)好きな友達の相互選択の量は一般に男子同志より女子同志の間の方が多く, 又次第に多くなるが, 異性間のそれは2年生を山とし3年生ではかえつて少くなっている。又相互依存の程度は次第に高くなって行く。相互に嫌い合つている組の数には性による差がなく, 又異性間のそれは3年生に急増している。<BR>以上のごとは一般に言われているよりも早く既に1年生頃から性的対立がみら札それが3年生にはかなり顕著になることを一貫して裏づけているように思われる。しかもそれはまず女子の方の側から現れ, ややおくれて男子の方にも現われることを示している。しかしこれは本研究の資料が面接調査によるものであるということに幾分関係があるかもしれない。
著者
詫摩,武俊
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, 1968-12-15

The twin study method is considered to be the most reliable one in order to study hereditary and environmental influences upon the development of intelligence. Six kinds of group intelligence tests were given to 543 MZ and 134 DZ twin pairs. The results obtained from these tests and their sub-tests told that MZ twins had higher degree of comformity than DZ twins. The evidence indicated heredity control for some function that determined intelligence test scores, though some differences were seen in the power. The following subtests showed a strong heredity influence : 1. a test that required rapid mental activities 2. a test taht involved verbal remembrance 3. a test that involve numbers and calculation 4. a test that involved recognition of the figure place in various forms. On the other hand a test that had something to do with past experiences showed less strong heredity influecne. These results might enable us to approach to the sub-functions taht constitute general intelligence.
著者
塩川,武雄
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, 1958-10-30

Atomic and Hydrogen bombs are being tested in the Pacific Ocean, and part of the radioactive fallout from the experiments in Bikini atoll came down upon the Daigo Fukuryu Maru, a fishing boat of Yaizu City, and caused the death of Captain Aikichi Kuboyama, which was sensationally reported by newspapers and other means of mass communication. People were astounded at the danger of radioactivity, and have come to express unusual attention to the event. The author's intention in the present paper is to compare the interest taken by, and the influences produced on the youth living in Yaizu City of Shizuoka prefecture who were directly and strongly affected by the event, and those of the youth living in other parts of prefecture, whose knowledge about the event is rather indirect, though much closer than that of those living in other districts of Japan. The method taken by the author is that of questionnaire, which was carried out by home-room teachers of various grades of schools. In order to make the conditions even, the author asked the teachers to give their students only one set of examples and not to give any other misleading directions. The examinees were students from the second to the ninth grades. The number of questions was twelves, and the answers were anonymously submitted. The investigation has revealed that the Atomic and Hydrogen bomb experiments are giving young people terrors and uneasiness, their conception and understanding about the experiments are considerably high, and that they are greatly interested in the event. The make-up of their attitudes is mostly due to gossips of the grouwn-up and to mass communication media. It has been also found that those living in Yaizu feel the matter closer to themselves than those living in other parts, that the higher their academic grades are, the more profound their conception appears, and that boys are more interested than girls. Very few agree with this kind of experiments, and most of the subjects believe that the tests should be forbidden, or expelled for the permanent peace of the world and the everlasting welfare of the human race. The author believes that it is of great interest and of worth to give the same type of inquiries to the youth of those countries which have made these dengerous experiments and those of other countries, and to compare the result with that presently attained.
著者
植木,理恵
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, 2002-09-30

本研究の目的は,学習方略との関連から高校生の学習観の構造を明らかにすることである。学習観を測定する尺度はすでに市川(1995)によって提案されているが,本研究ではその尺度の問題点を指摘し,学習観を「学習とはどのようにして起こるのか」という学習成立に関する「信念」に限定するとともに,その内容を高校生の自由記述からボトムアップ的に探索することを,学習観をとらえる上での方策とした。その結果,「方略志向」「学習量志向」という従来から想定されていた学習観の他に,学習方法を学習環境に委ねようとする「環境志向」という学習観が新たに見出された。さらに学習方略との関連を調査した結果,「環境志向」の学習者は,精緻化方略については「方略志向」の学習者と同程度に使用するが,モニタリング方略になると「学習量志向」の学習者と同程度にしか使用しないと回答する傾向が示された。また全体の傾向として,どれか1つの学習観には大いに賛同するが,それ以外の学習観には否定的であるというパターンを示す者が多いことも明らかになった。
著者
古籏,安好
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, 1968-03-31

集団行動の諸要因の相互関係を公式化するためのカギは集団参加性にある。そこでまずこの概念について取り扱い,その3因子である連帯性・勢力性および親和性の相互関係を分析的に考察した。ここで用いた技法を集団行動の3変数すなわち集団生産性・集団凝集性および集団参加性の相互関係の分析にも適用した。この技法は重相関と重決定係数を算出し,変数相互の相対的寄与量をみることによって,相互関係を見とおすというものである。これによって,若干の成果を得た。その主要な点は次のようである。 (1)集団凝集性と集団参加性はともに課題遂行に有意の相関をもつことが示されたが,相対的寄与量からいえば,凝集性よりも参加性により重みがあることをより明確にできた。 (2)集団参加性は,平等的集団での場合には階層的集団よりも生産性に関連が深くなる。平等的集団では,階層的集団よりもいっそう相互作用が積極的かつ効果的で,課題遂行に寄与し,課題遂行と参加性との対応がより大きい。しかし平等的集団でも知能水準の下位群の場合には,そういう傾向はそれほど明確に示されないので,課題遂行と参加性との対応にはある限界があるだろう。 (3)3つの変数のおのおのが,相互に他の2変数によって推定される割合いは,課題Iの方が課題IIよりもおよそ大きくなる傾向がある。この要因は,成員の目標達成のための手段的相互依存関係の程度にあると考えられる。一般には,課題の困難を増すにつれて協同の度合いを高めなければならないが,課題Iは課題IIよりもこのような協同事態により適切なものとなっていることを示す。 (4)こうして,協同・競争の集団を力学的な活動体系とみる考え方を実証しえたと思われるが,3変数の相互関係の基本的な様相(configuration)からは,協同と競争の集団間に差はみとめられない。 しかし,集団成員のパーソナリティ特徴は,集団過程に劣らず重要である。集団過程とパーソナリティの相互関連を検討することが,今後の課題となる。これは他の機会に発表したいと考えている。
著者
山名,裕子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, 2002-12-25

本研究での目的は,均等配分が幼児期に成立するのか,またするならば,どのような発達的な変化があるのか検討することであった。12個のチップを数枚の皿に配分させていく個別実験には,3歳から6歳までの幼児288名が参加した。主な結果は以下のようなものであった。(1)年齢の上昇に伴い正答率は上昇し,選択される配分方略が変化した。(2)どの年齢においても,チップを何回にも渡って皿に配分する数巡方略が選択されていたが,その方略を正答が導くように選択できる人数は,年齢の上昇に伴い増加した。この方略は従来指摘されていた方略であったが,(3)1個あるいは複数個のチップをそれぞれの皿に一巡で配分する一巡方略と,配分されない皿が残っている空皿方略が本研究で明らかになった。(4)また一巡方略の中でも特に配分前に皿1枚当たりのチップの数を把握する「単位」方略が明らかになった。この単位方略は数巡方略ほど,年齢の上昇との関係が明確ではなかった。
著者
肥田野,直
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, 1987-09-30
著者
河野,義章
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, 1988-06-30

The purpose of this paper was to investigate the effects of the affiliative cues of teachers and the test anxiety of children on the task performance. Two undergraduate students were trained for two different types of teacher role: either using level of high affiliative or low affiliative cues. They were then requested to give the instruction regarding the answering of the Cording Test for WISC-R in the four classes of second graders. The two instructors interchanged their positions. The results confirmed that children taught under high affiliative condition performed higher than those under low affiliative condition, either found high or low in test anxiety. The attitude scale which was completed after the task indicated that the children under high affiliative condition showed higher positive attitude toward their learning task and their teacher as opposed to those under a low affiliative condition.
著者
及川,昌典
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, 2005-12-30

近年の目標研究によって, 意識的な目標追求と非意識的な目標追求は, 同じような特徴や効果を持つことが明らかになっている。しかし, これら2つの目標追求が, どのような状況で, どのように異なるのかは明らかではない。本研究は, 抑制のパラダイムを用いて, 教示による意識的抑制と, 平等主義関連語をプライミングすることによる非意識的抑制との相違点を明らかにするために行われた。実験1では, 非意識的に行われる抑制においては, 意識的に行われる抑制に伴う弊害である抑制の逆説的効果が生じないことが示された。教示により外国人ステレオタイプの記述を避けた群は, 後続の課題で, かえってステレオタイプに即した印象形成を行うのに対し, 非意識的に抑制を行った群では, そのような印象形成は見られなかった。実験2では, 非意識的な抑制は, 意識的な抑制よりも効率的との想定を基に, 相対的に抑制に制御資源が消費されないだろうと予測された。抑制後に行われた自己評定においては, 意識的抑制群においてのみ, 強い疲弊感が報告されていたが, 後続のアナグラム課題においては, 意識的抑制群も非意識的抑制群も同様に課題遂行が阻害されており, 両群において消費される資源量には違いがないことが示された。抑制意図と行動, それに伴う意識の関係について論じる。
著者
山名 裕子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.446-455, 2002
被引用文献数
2

本研究での目的は,均等配分が幼児期に成立するのか,またするならば,どのような発達的な変化があるのか検討することであった。12個のチップを数枚の皿に配分させていく個別実験には,3歳から6歳までの幼児288名が参加した。主な結果は以下のようなものであった。(1)年齢の上昇に伴い正答率は上昇し,選択される配分方略が変化した。(2)どの年齢においても,チップを何回にも渡って皿に配分する数巡方略が選択されていたが,その方略を正答が導くように選択できる人数は,年齢の上昇に伴い増加した。この方略は従来指摘されていた方略であったが,(3)1個あるいは複数個のチップをそれぞれの皿に一巡で配分する一巡方略と,配分されない皿が残っている空皿方略が本研究で明らかになった。(4)また一巡方略の中でも特に配分前に皿1枚当たりのチップの数を把握する「単位」方略が明らかになった。この単位方略は数巡方略ほど,年齢の上昇との関係が明確ではなかった。
著者
有川,誠
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, 1998-03-30

This study intended a research on the types of naive mental models junior high school students used in order to understand electric heating, and also to research the possibility that their models might change from unscientific models to scientific models after scientific experiments performed by students. We found 11 types of naive models, which could be divided into two categories : "scientific models", and "unscientific models". The majority of the subjects showed "scientific models" at the time of the study. After the experiment, many subjects having unscientific models as their naive models, changed to scientific models while those who had scientific models in the begining supported models with increasingly scientific sophistication. On the other hand, it was proved that one of the naive models could not be easily changed by the experiment. The above research showed that the experiment proved generally effective in changing student's naive mental models to more scientific ones.
著者
橋本,剛
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.48, no.1, 2000-03-30

教育場面においても対人関係の否定的側面が精神的健康に及ぼす影響は重大な問題であると考えられる。本研究では(1)社会的スキルと対人ストレスイベント(ストレッサーとなり得る対人関係上の出来事)の関連, (2)対人方略(他者との関わり方/スタイル)と対人ストレスイベントの関連, (3)対人方略と社会的スキルの関連, を検討することを目的とした。分析対象は大学生計200名(男性105名, 女性95名, 平均年齢19.38歳)であった。分析の結果, 社会的スキルは対人劣等とは負の関連を持つという仮説は支持されたが, 対人摩耗とは正の相関を示すという仮説は必ずしも支持されなかった。また, 社会的スキルの対人ストレス緩衝効果は示されず, 部分的に直接効果が示された。対人方略と対人ストレスイベントの関連については, 内省傾向が否定的影響力をもつことが確認された。対人方略と社会的スキルの関連については, 対人関係の深化を回避する傾向が社会的スキルと負の関連を持つことが確認された。最後にこれらの知見を受けて, 今後の課題などが議論された。
著者
植阪,友理
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, 2010-03-30

自己学習力の育成には,学習方略の指導が有効である。中でも,複数の教科で利用できる教科横断的な方略は,指導した教科以外でも活用できるため有用である。指導された学習方略を他の教科や内容の学習に生かすことは「方略の転移」と呼べる。しかし,方略の転移については,従来,ほとんど検討されてきていない。そこで本研究では,方略の転移が生じた認知カウンセリングの事例を分析し,方略の転移が生じるプロセスを考察する。クライエントは中学2年生の女子である。非認知主義的学習観が不適切な学習方法を引き起こし,学習成果が長期間にわたって得られないことから,学習意欲が低くなっていた。このクライエントに対して教訓帰納と呼ばれる学習方略を,数学を題材として指導し,さらに,本人の学習観を意識化させる働きかけを行った。学習方法の改善によって学習成果が実感できるようになると,非認知主義的学習観から認知主義的学習観へと変容が見られ,その後,数学の異なる単元や理科へ方略が転移したことが確認された。学習方略を規定する学習観が変容したことによって,教科間で方略が転移したと考えられた。また,学習者同士の教え合いが多いというクライエントの学習環境の特徴も影響したと考えられた。
著者
外山,美樹
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, 2000-12-30

本研究の主要な目的は,自己認知と精神的健康の関連を探ることであった。そこでまず,青年(大学生,専門学校生)を対象にしてポジティブ・イリュージョンならびにネガティブ・イリュージョン現象を確認し,その結果に基づいて,自己認知尺度を設定した。本研究でのポジティブ・イリュージョンならびにネガティブ・イリュージョン現象は,外山(1999)の結果と同様であった。また,自己認知が精神的健康と結びついていることが示され,自己高揚的な認知をしている人々は,精神的により健康な生活をおくっていることが明らかにされた。自己を平均的だとみなす認知をしている人は,被調査者集団においてネガティブ・イリュージョンが見られた側面においてのみ,自己高揚的な認知をしている人と同様に精神的に健康であった。しかし,被調査者集団においてポジティブ・イリュージョンが見られた側面においては,自己を平均的だとみなす認知をしている人は,自己卑下的な認知をしている人と同じくらい精神的に不健康であることが明らかになった。
著者
名取,洋典
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, 2007-06-30

本研究では,指導者のことばがけが少年サッカー競技者の「やる気」におよぼす影響について,ことばがけに対する「理由認知」と「感情」という認知的側面との関連から検討した。特に,技術指導のための,目標と合致した基準に沿ったことばがけが,高い競技水準にある競技者の動機づけを高めるためにも有効であることを明らかにすることを目的とした。14の強豪チームに所属する267名の小学5,6年生を対象に,成功場面・失敗場面×肯定的な言語的フィードバック・否定的な言語的フィードバックの4つの練習状況を描いた図版とシナリオ文を提示し,「やる気」の変化量および認知的側面の測定を行った。分散分析の結果,否定的なフィードバックに比べ肯定的なフィードバックにより「やる気」が高まることが示された。認知的側面との関連では,ことばがけに対して「教授的理由」と捉えることで「安堵感情」が高まり,「やる気」が高まることが示された一方で,失敗した際の肯定的なフィードバックについてはこの関連がみられなかった。以上の結果から,競技者の動機づけを高めるのに,指導者が目標に合致した基準に従ったフィードバックを行うことの有効性が示唆された。
著者
榊原,彩子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.52, no.4, 2004-12-30

絶対音感の発達には臨界期が存在し, 6歳を超えると絶対音感習得が困難であることが指摘されている。加齢にともなう変化が絶対音感の習得可能性を減じていると考えられるが, 本研究では年齢の異なる幼児(2歳児4名, 5歳児4名)に対し, 同一の和音判別訓練法による絶対音感習得訓練を実践して彼らの絶対音感習得過程を縦断的に明らかにし, 年齢によって習得過程の様相も異なるのか調べることで, 加齢にともなう変化を検討した。音高という属性に「ハイト」と「クロマ」の2次元があるという考えに従えば, 絶対音感とはクロマの特定能力であり, その習得とはクロマの参照枠形成とみなせる。訓練課題のエラーから聴取傾向を記述すると, 習得過程中, 年少児は早い段階でクロマに着目し, 全体的にクロマ次元を重視した聴取傾向を示したのに対し, 年長児はクロマ次元の利用が少なく, 一貫してハイト次元に依存した聴取傾向を強く示した。加齢にともなう変化として, クロマ次元に依存する傾向が減じ, 逆にハイト次元に依存する傾向が増すという変化が示唆され, クロマの参照枠形成である絶対音感習得が, 加齢により不利になる様が示された。
著者
卜部,敬康
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, 1999-09-30

本研究の目的は,授業中の私語の発現程度とそこに存在している私語に関するインフォーマルな集団規範の構造との関係を検討することであった。中学校・高校・専門学校の計5校,33クラス,1490名を対象に質問紙調査が実施され,私語に関するクラスの規範,私的見解および生徒によって認知された教師の期待が測定された。私語規範の測定は,リターン・ポテンシャル・モデル(Jackson,1960,1965;佐々木,1982)を用いた。また,調査対象となった33クラスの授業を担当していた教師によって,各教師の担当するクラスの中で私語の多いクラスと少ないクラスとの判別が行われ,多私語群7クラスと少私語群8クラスとに分けられた。結果は次の3点にまとめられた。(1)多私語群においては少私語群よりも相対的に,私語に対して許容的な規範が形成されていたが,(2)生徒に認知された教師の期待は,クラスの規範よりはるかに私語に厳しいものであり,かつ両群間でよく一致していた。また,(3)クラスの私語の多い少ないに拘わらず,「規範の過寛視」(集団規範が私的見解よりも寛容なこと)がみられた。これらの結果から,私語の発生について2つの解釈が試みられた。すなわち結果の(1)および(2)から,教師の期待を甘くみているクラスで私語が発生しやすいのではなく,授業中の私語がクラスの規範と大きく関わっている現象であると考察され,結果の(3)から,生徒個人は「意外に」やや真面目な私的見解をもちながら,彼らの準拠集団の期待に応えて「偽悪的」に行動する結果として私語をする生徒が発生しやすいと考察された。