著者
古畑 和孝
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.11-22, 1954

従来の双生児法とはやや観点を異にして, 所謂同一環境において生育したEZ対偶者間において発現して来る性格差異を, その相互関係との関連において研究することを志したものである。<BR>そこで箪者は, 卵生診断の確実な東大附属中学校1年在学双生児20組 (EZ12組・ZZ4組・PZ2組・U K2組) を研究対象として, 学校並びに集団合宿生活での行動観察, 種々の性格診断法を併用して, 各対の性格特徴を把捉し, その差異を検出することに努めた゜<BR>その結果, 従来の諸研究が, いずれも性格における高度の類似を強調しているにも拘らず, その社会的契機を重視していく限りにおいては, 案外差異を見出したし, 諸テストの結果でも, ZZに比すればやや類似しているとはいえ, A・B間に可成りの開きがみられた。而も大凡の傾向としては, その開きの大小, 反応の一致慶の高低が, 性格差異評価の一資料たり得ると解せられる。<BR>ところで, その差異の原因としては, 固より先ず, 身体的. 生理的条件が考えられるべきであろうし, 事実, 一般的にみて, 身体的差異の大なる対に, 性格差異も亦大なる傾向が認められ, その差小なる対は, 性格差異も小であつた。<BR>それ以外に差因の原因を求めるならば, 心理学的な環境的要因として, 相互依存関係との関連において, 多少とも兄弟的取扱いを受け, 又自らもかかる意識を有するところから成立する兄-弟的な関係が考えられる。そしてこれ等の明確な対においては, 矢張り差異が比較的顕著である。<BR>この関係の表出を計つた困難な課題解決場面での実験の結果によつて, 危機的場面での行動的特性として, 一般的にみて, 主導的一従属的関係が看取され, 加えてその相互関係における協力一競争関係について若干の知見を得た。<BR>EZにおける相互依存関係は, 性格における間柄的関係として問題になつたものであるが, これはZZに比するならば, 一般には意思疎通も円滑・良好であり, 所謂双生児共同体意識をも見出し得た。が, この"二人なるが故に"の特徴は, 両者が全く平等. 対等な関係としてあるのではなく, 寧ろ先にも見た如く, 多少とも相倚り (B) 相倚られる (A) 関係ににおいてあるようである。其の他, この間が極く自然的・円滑である対から, 何らかの摩擦・抵抗を感ずるような対に至るまでの存在や, その原因, 或いは同一視の問題等についても考察を進めた。<BR>最後に, 教育的見地から, 今後この観点からの研究の推進のためにも, 一・二の点に簡単に触れておきたい。<BR>EZが, 遺伝質同一とされているところからも明らかなように, 心的構造の下層部においては, 極めて高度の一致を示すのは当然である。が, 現実の生活においては, 遺伝的な規定に因りつつも, "上層部の世界が意識的には優勢を占め, 自らの行動を統御し, 主権性を担つている"(6) ことを思うならば, EZにおける兄一弟的関係が, 一その行動面において, Aの主導的Bの従属的な傾向への分化に導いていつたことは, 望ましい性格の形成を考慮するに当つても, 充分注目せられてよいであろう。この意味でも, EZにおける性格差具は, 今後大いに追究されてよかろう。<BR>EZにおける主導一従属的関係は, 知的要因によつて規定されるとの論があるようである。(8) 確かに対象双生児について, その学業成績や知能検査結果をみても, 現象的にはそうである。成績の相対的によい方は, 主導的とされる者に, 大体相当しているからである。<BR>が, 遺伝質同一の仮定が正しく, 身体的器質的条件が特に具るところないならば, 主導的であり成績の良好な者は, 多くはA児で易るところからみても, 主導的一従属的関係の成立が, 逆に学業成績などにも影響を及ぼしているのではなかろうかとの推論も可能であろう。とに角, 一般に, 学業成績と心的構えとの連関を考察するに当つても, この種研究が一つの素材を提供することが期待される。<BR>これ等, 問題の今後の展開のために, その一二を指摘するだけでも, 一層充実した精細な実証的研究を, 長期に亘り, 発達史的に続けることが必至と思われる。そうする時はじめて, ここに提供された問題も, 進展するかもしれないであろう。<BR>稿を終るに臨み, 終始懇篤な指導を忝けなうした指導教官三木安正教授はじめ諸先生方, 並びに直接材料蒐集其の他に援助を与えられた嘱託木村幸子氏, 附属学校関係各教官に対し, 謹んで感謝する。
著者
葛谷,隆正
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, 1955-07-15

以上18民族に対する学生層及び成人層の態度に関する所見を要約すると次の通りである。(i)好意度の順位と各順位の度数分布状況から18民族を分類すると次の6型式が得られる。第1型式と第6型式とは著るしい好悪に対するstereotyped attitudeがあるものと考えられ、第3型式及び第4型式は各個人に於て好悪の評価に著しい個人差があって、未だ好悪の態度におけるstereotyped tendencyは見られない。第2、第5の型式は前二者の中間型と見られ、全体的に言えば十分なstereotyped attitudeは形成されるに至っていないが、ある程度の固定化傾向を示していると思われる。(ii)各型式の主要特長を述べてみると、(イ)第1、第6の型式の特長-第1型式では接触源が多面的且つ豊富であり、従って理由根拠もその数が多く、各理由条項において凡て好ましいものと評価される。自国民を除いて成人層も学生層も共にドイツ人、フランス人、イギリス人に対してこの第1型式の範疇に於て評価しているが、之は明治初期以来約百年間に亘り凡ゆるマス・コミュニケーションによって浸みこまれた我が国民の彼等諸民族に対する凡ゆる面に於ける卓越性のために根強く喰いこんだ彼等への先進民族観、優秀民族観、逆に言えば彼等諸民族への自己民族の根深い民族的劣等感racial inferioity complexに由るのであると考えられる。アメリカ人に対しては成人層は依然前述の事情により更には太平洋戦争(第二次世界大戦)及びその後のアメリカ人との急激な直接的接触を通して益々彼等を優等視することが強化されるに至ったことにより圧倒的に好意度が高くなっていると思われる。併し学生層では成人層とはその米人観に於て著しく異った排米教育を受け、戦後の日本の歩みが彼等によって束縛され支配され利用されていると感じ、特に政治的に経済的に操られていると感ずるところから、成人層のもっているうな好意的なstereotyped attitudeは崩壊しつつあると考えられる。特に国際的にも米国がその平和政策に於てどちらかと言えば失敗しつつあるとの印象が強く、その為愈々米人への不信を強めていると思われる。
著者
斉藤,誠一
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.33, no.4, 1985-12-30

The purpose of this study was to investigate the relationship between pubertal growth and sex-role formation. In a first study, a sex-role scale for early adolescents, containing 9 masculine items and 6 feminine items, was constructed. In a second study, recognition and acquisition of masculine traits and feminine traits were related to variables concerning pubertal growth. The main results were as follows: 1)Height had little influence on either recognition or acquisition of masculine traits and feminine traits. 2)Mature boys showed significantly higher level of masculine trait acquisition than immature boys. 3)Both boys and girls who were satisfied with the important parts of their bodies showed significantly higher level of masculine and feminine trait acquisition. 4)It was found in both males and females that the level of acquisition of masculine traits and feminine traits were associated with some of the variables concerning pubertal growth, without recognition of them.
著者
柏木,恵子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, 1999-06-30

子どもの価値は普遍・絶対のものではなく, 社会経済的状況と密接に関連している。近年の人口動態的変化-人口革命は, 女性における母親役割の縮小と生きがいの変化をもたらし, 子どもをもつことは女性の選択のひとつである状況を現出させた。子どもは"授かる"ものから"つくる"ものとなった中, 子どもの価値の変化も予想される。本研究は, 母親がなぜ子を産むかその考慮理由を検討し, 子どもの価値を明らかにするとともに, 世代, 子ども数, さらに個人化志向との関連を検討することによって, 子どもの価値の変化の様相の解明を期した。結果は, 子どもの精神的価値として社会的価値, 情緒的価値, 自分のための価値が分離され, さらに子ども・子育てに関連する条件依存, 子育て支援の因子も抽出された。子どもの価値はいずれも世代を超えて高く評価されているが, より若い世代, 有職, 子ども数の少ない層では, その価値が低下する傾向と条件依存傾向の増大が認められた。家族のなかに私的な心理的空間を求める傾向-個人化志向は, 世代を超えて強く認められたが, 若い世代, 有職, 子ども数の少ない層でより強まる傾向が認められ, さらに, 子どもを産むことへの消極的態度と関連していることも示唆された。この結果は, 人口革命と女性のライフコースと心理との必然的関連, また子産みや子育てに関わる家族および社会規範との関連で論じられた。
著者
田中,敏
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.29, no.4, 1981-12-30

本研究の目的は,児童の発話において文節末尾に高頻度に出現するところの2つの停滞現象-「添音」と「強調」-の機能的分析にあった。次の仮説が検証された。仮説(1):添音は困難な発話を援助する機能をもつ。仮説(2):強調は添音の代替現象のひとつである。実験1では,小学1年生と小学4年生が対象とされ,仮説(1)を検証するため発話課題の困難度が変化させられ,また仮説(2)を検証するため場面操作によって添音の発生頻度が変化させられた。その結果,(a)発話課題の効果は得られず,仮説(1)は支持されなかったが,(b)添音の発生が抑制された公式場面では強調が増加し,逆に,添音の発生が促進された親密場面では強調は減少して,しかも添音と強調を合わせた発生率は,この種の発話停滞現象への等価な効果が保証されている両場面間で有意差を示さなかった。したがって,添音と強調の相補的分布が証明され,仮説(2)が支持された。
著者
熊野 道子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.456-464, 2002
被引用文献数
1

この研究の目的は,自己開示の状況的要因の1つで,自己開示のきっかけとなる要因である尋ねることに着目し,自ら進んでの自己開示と尋ねられての自己開示の相違を検討することである。315名の大学生を開示内容が社会的に望ましい場合(159名)と社会的に望ましくない場合(156名)に分け,自ら進んで開示する場合と尋ねられて開示する場合のそれぞれに,自己開示の程度,動機,開示後の気持ちについて回答を求めた。その結果,以下のことが明らかになった。(1)開示程度については,開示内容が社会的に望ましくない場合は,自ら進んでより尋ねられて開示する程度が高かった。(2)開示動機については,自ら進んで開示する場合は感情性を動機として開示が行われやすく,尋ねられて開示する場合は規範性を動機として開示が行われやすかった。(3)開示後の気持ちについては,不安といった否定的な感情では,自ら進んで開示する場合も尋ねられて開示する場合も,統計的有意差が認められなかった。一方,肯定的な感情では,自ら進んで開示する場合は安堵感が高く,尋ねられて開示する場合は自尊心が高かった。
著者
清河,幸子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, 2007-06-30

本研究では,他者との協同の中で頻繁に生じると考えられる,自分自身での課題への取り組み(試行)と他者の取り組みの観察(他者観察)の交替が,洞察問題解決に及ぼす影響を実験的に検討した。具体的には,Tパズルを使用し,(1)1人で課題に取り組む条件(個人条件),(2)20秒ごとに試行と他者観察の交替を行いながら2人で課題に取り組む条件(試行・他者観察ペア条件),(3)1人で課題に取り組むが,20秒ごとに試行と自らの直前の試行の観察を交互に行う条件(試行・自己観察条件)の3条件を設定し,遂行成績を比較した。また,制約の動的緩和理論(開・鈴木,1998)に基づいて,解決プロセスへの影響も検討した。その結果,試行と他者の取り組みの観察を交互に行うことによって,言語的なやりとりがなくても,解決を阻害する不適切な制約の緩和が促進され,結果として,洞察問題解決が促進されることが示された。その一方で,試行と観察の交替という手続きは同一であっても,観察対象が自分の直前の試行である場合には,制約の緩和を促進せず,ひいては洞察問題解決を促進することにはならないことが明らかとなった。
著者
平山,るみ
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, 2004-06-30

本研究の目的は,批判的思考の態度構造を明らかにし,それが,結論導出過程に及ぼす効果を検討することである。第1に,426名の大学生を対象に調査を行い,批判的思考態度は,「論理的思考への自覚」,「探究心」,「客観性」,「証拠の重視」の4因子からなることを明らかにし,態度尺度の信頼性,妥当性を検討した。第2に,批判的思考態度が,対立する議論を含むテキストからの結論導出プロセスにどのように関与しているのかについて,大学生85名を用いて検討した。その結果,証拠の評価段階に対する信念バイアスの存在が確認された。また,適切な結論の導出には,証拠評価段階が影響することが分かった。さらに,信念バイアスは,批判的思考態度の1つである「探究心」という態度によって回避することが可能になることが明らかにされ,この態度が信念にとらわれず適切な結論を導出するための重要な鍵となることが分かった。
著者
小塩 真司
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.280-290, 1998
被引用文献数
2

本研究の目的は, 自己愛傾向と自尊感情との関わりを検討すること, そしてその両者が, 青年期における友人関係とどのように関連しているのかを検討することであった。自己愛人格目録(NPI), 自尊感情尺度(SE-I), 友人関係尺度が265名(男子146名, 女子119名)に実施された。NPIの因子分析結果から, 「優越感・有能感」「注目・賞賛欲求」「自己主張性」の3つの下位尺度が得られた。NPIとSE-Iとの相関から, 自己愛は全体として自尊感情と正の相関関係にあるが, 特に「注目・賞賛欲求」はSE-Iと無相関であり, SE-Iの下位尺度との関係から, 高い自己価値を持つ一方, 他者の評価に敏感であり, 社会的な不安を示すといった特徴を有していることが明らかとなった。これらの結果は, NPIの妥当性を示す1つの結果であると考えられた。また, 友人関係尺度の因子分析結果から, 友人関係の広さの次元と浅さの次元が見出され, その2つの次元によって友人関係のあり方が四類型された。この友人関係のあり方とNPI, SE-Iとの関係が分析された。結果より, 広い友人関係を自己報告することと自己愛傾向が, 深い友人関係を自己報告することと自尊感情とが関連していることが明らかとなった。このことから, 青年期の心理的特徴と友人関係のあり方とが密接に関連していることが示唆された。
著者
谷村 圭介 渡辺 弥生
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.3, pp.364-375, 2008
被引用文献数
1

本研究は,(1)ソーシャルスキルの自己認知と他者評定との関係,(2)自己の印象とソーシャルスキルとの関連,(3)ソーシャルスキルの自己認知と実際の行動との違いを明らかにすることを目的とした。質問紙によって113名の大学生を2つのグループに分け,ソーシャルスキル高群10名,低群10名(それぞれ男性5名・女性5名ずつ)を研究対象者とした。研究対象者は実験室で初対面の人物と対面し,「関係継続が予期される初対面場面」として共同作業場面を実験場面とし,実験を行った。そのやりとりの内容は,ワンウェイミラーを通して観察した。その結果,ソーシャルスキルの自己認知は他者評定とかなり一貫していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は他者評定によっても高く評定されていた。また,相手の人に対してよい印象を与えていると自負していることがわかった。ソーシャルスキルの高い者は初対面場面において,質問などをすることによって会話を展開,維持する傾向にあることがわかった。また,相手が異性であるか,同性であるかということが行動に影響を及ぼしたことが推測された。
著者
櫻庭,隆浩
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, 2001-06-30

本研究は, 『援助交際』を現代女子青年の性的逸脱行動として捉え, その背景要因を明らかにするものである。『援助交際』は, 「金品と引き換えに, 一連の性的行動を行うこと」と定義された。首都圏の女子高校生600人を無作為抽出し, 質問紙調査を行った。『援助交際』への態度(経験・抵抗感)に基づいて, 回答者を3群(経験群・弱抵抗群・強抵抗群)に分類した。各群の特徴の比較し, 『援助交際』に対する態度を規定している要因について検討したところ, 次のような結果が得られた。1)友人の『援助交際』経験を聞いたことのある回答者は, 『援助交際』に対して, 寛容的な態度を取っていた。2)『援助交際』と非行には強い関連があった。3)『援助交際』経験者は, 他者からほめられたり, 他者より目立ちたいと思う傾向が強かった。本研究の結果より, 『援助交際』を経験する者や, 『援助交際』に対する抵抗感が弱い者の背景に, 従来, 性非行や性行動経験の早い者の背景として指摘されていた要因が, 共通して存在することが明らかとなった。さらに, 現代青年に特徴的とされる心性が, 『援助交際』の態度に大きく関与し, 影響を与えていることが明らかとなった。
著者
工藤,与志文
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, 1997-03-30

College students numbering 206 were examined on their beliefs of the movement of sunflowers, and 112 students who had the false belief participated also in the experiment. The subjects were asked to read the science text which explained the facts that contradicted their beliefs in the following three conditions : (a) the photosynthetic rule was instructed, and the contradictory facts were referred to as examples of the rule ; (b) the photosynthetic rule was instructed, but the facts were referred independently from the rule ; and (c) only the facts were presented. The subjects were then put to some reading comprehension tests. The frequencies in the occurrence of belief-dependent misreading (BDM) on the tests were analysed. The following results were obtained : (1) There were less BDMs in the condition of the rule and example than in the other two conditions ; (2) there were no less BDMs in the condition of the rule and facts than in the condition of the facts only. There findings suggested that the instruction in the relation of the rule and example was useful in order to avoid BDM.
著者
松本,じゅん子
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, 2002-03-31

本研究では,大学生を対象に,悲しい時に聴く音楽の性質や,聴取前の悲しみの強さと音楽の感情的性格による悲しい気分への影響を調べた。予備調査の結果,悲しみが強い場合ほど,暗い音楽を聴く傾向が示され,悲しみが強い時に悲しい音楽を聴くと悲しみは低下するが,悲しみが弱い時に悲しい音楽を聴くと悲しみが高まる,または変化しないことが予測された。実験1,2の結果,音楽聴取後の悲しい気分は,音楽聴取前の悲しみの強さにかかわらず,聴いた音楽によって,ほぼ一定の強さに収束した。結果的に,非常に悲しい時に悲しい音楽を聴いた場合,音楽聴取後の悲しい気分は低下し,やや悲しい時には変化しないことが示唆された。つまり,悲しい音楽は,悲しみが弱い時には効果を及ぼさないが,非常に悲しい気分の時に聴くと悲しみを和らげる効果があり,状況によっては気分に有効に働くことが推察された。
著者
木村,晴
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, 2004-06-30

不快な思考の抑制を試みるとかえって関連する思考の侵入が増加し,不快感情が高まる抑制の逆説的効果が報告されている。本研究では,日常的な事象の抑制が侵入思考,感情,認知評価に及ぼす影響を検討した。また,このような逆説的効果を低減するために,抑制時に他に注意を集める代替思考方略の有用性を検討した。研究1では,過去の苛立った出来事を抑制する際に,代替思考を持たない単純抑制群は,かえって関連する思考を増加させていたが,代替思考を持つ他3つの群では,そのような思考の増加は見られなかった。研究2では,落ち込んだ出来事の抑制において,異なる内容の代替思考による効果の違いと,抑制後の思考増加(リバウンド効果)の有無について検討した。ポジティブな代替思考を与えられた群では,単純抑制群に比べて,抑制中の思考数や主観的侵入思考頻度が低減していた。しかし,ネガティブな代替思考を与えられた群では,低減が見られなかった。また,ネガティブな代替思考を与えられた群では,単純抑制群と同程度に高い不快感情を報告していた。代替思考を用いた全ての群において,抑制後のリバウンド効果は示されず,代替思考の使用に伴う弊害は見られなかった。よって,代替思考は逆説的効果を防ぎ効果的な抑制を促すが,その思考内容に注意を払う必要があると考えられた。
著者
萩原 俊彦 櫻井 茂男
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.1-13, 2008

本研究の目的は,大学生の職業選択に関連すると考えられる"やりたいこと探し"の動機を明らかにし,その動機の自己決定性と進路不決断との関連を検討することであった。まず,どの程度自己決定的な動機で職業選択に関わる"やりたいこと探し"をしているかを測定する尺度を作成し,信頼性と妥当性を検討した。尺度項目の因子分析の結果から,やりたいことを探す動機として,非自己決定的な「他者追随」,自己決定性においては中間的な「社会的安定希求」,自己決定的な「自己充足志向」の3因子が抽出され,尺度の信頼性と妥当性が確認された。作成された"やりたいこと探し"の動機尺度を用いて,"やりたいこと探し"の動機の個人差と進路不決断との関連を検討したところ,"やりたいこと探し"の動機のうち,非自己決定的な動機である「他者追随」が相対的に高い非自己決定的動機群は,進路不決断の面で問題を抱えている可能性が示唆された。本研究で得られた結果は,現代青年のキャリア意識として広く支持されている"やりたいこと"志向と職業選択との関連を検討する上で意義があると考えられる。
著者
関 計夫 三隅 二不二 岡村 二郎
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究 (ISSN:00215015)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.1-12,61, 1969

I. Problem.<BR>This study is one of the action-research projects of the development of student baseball team activities in Kyushu University. The purpote of this study is to analyse their interpersonal relations and to make deveop the human relations in team activities.<BR>II. Subjects.<BR>Subjects are 16 members of baseball team in Kyushu University. They need not always to have special ability for baseball. The team is composed of those who want to play baseball, even if their ability isnot specially fitted to it.<BR>III. Ist ent; Study of the relationship between the individual motor fitness and ability of sociol adjustment.<BR>(1) Motor fitness and ability of baseball. The general motor fitness test was given to 14 members. Tie test consists of six factors, namely, strength, power, abillty, flexibility, endurance and balance.<BR>The rank order from the first to the fourteenth was made by the results of this test. At the some time, the batting rank order was made by the batting achievement of last year. The rank correlation between the order of motor ability and batting order was 0.174 except one who was the 12th in the motor fitness and the 3rd in the batting order-a very hard worker and a typical overachiever.<BR>By the results of questionair which was conducted to the members partiepating in the first camp training this year, it was found:<BR>(a) During five days of the camp training 63% of all members felt the existenc of the cohesiveness of the group as a whole.<BR>(b) Some 80% of all members began to have friendship each other.<BR>(c) Some 70% became awars of the progress of their achievement.<BR>(d) 54% suffered from conflicts between the academic studies and team activities.<BR>(2) Interview survey The aim of this study was to inquire more personally about the same items as that of the above mentioned question. Its results were as follows;<BR>(a) Tho drgree of the cohesiveness of the team as a whole was high.<BR>(b) There were many members who felt that the schedule of the 2nd camp training was too tight.<BR>(c) It was found that each member called each other with nick-name.<BR>(d) They had much interest in the discussion sessions, held twice during the camp training.<BR>(e) Only one member displayed sometimes an agressive behavior. He was sometimes late at the open hour of the camp training. In accordance with the results of the Scciogram as will be described later, he was an isolate.<BR>(3) Sociometric survey.<BR>The sociometric survey was carried out on the last day of the 1st and the 2nb camp training. The formulae of question were as follows:<BR>Among your team members,<BR>(1) Whom would you want to go to a tea shop with?<BR>(2) Whom would you want to take lodgings with?<BR>(3) Whom do you like best?<BR>(4) Whom would you like as your partner of your experiment?<BR>Its results were as follws:<BR>(a) The frequency of the choice increased 0.75 for each person in the 2nd camp training, in comparison with the 1st camp training. The results may be interpretated in this way that the camp training had a good influence on the development of the human relations in team activities.<BR>(b) Those who had the feeling of inferiority enjoyed a very little popularity.<BR>(5) The 3rd Experiment.<BR>A study of res lying the conflicts between the academic studies and team activities.<BR>(1) By the results of the pre-test, it was found that all members felt, more or less, conflicts, between academic studies and team activities.<BR>(2) Introducing the persuasion as a means of resolving the conflicts.<BR>The content of persuasion was as follows;<BR>At the 1st step, the President of baseball club announced at the presence of all members of baseball team to the effect that: Even if there are some negative aspects in baseball team activities at present time, the experience of club activities will be very much helpful in the light of the whole life experiences,
著者
生月,誠
出版者
日本教育心理学協会
雑誌
教育心理学研究
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, 2003-12-30

本研究では,視線恐怖を主訴とする被験者の,視線恐怖軽減のメカニズムを解明することが目的である。実験1では,言語反復を含むリラクゼーションによる脱感作の手続きを,実験2では,拮抗動作法による脱感作の手続きを用いた。いずれも,自己視線恐怖より,他者視線恐怖の軽減に効果的であり,distractionが視線恐怖軽減の重要な要因となることが示唆された。また,自己視線恐怖は自己の視線に関する独特の認知を伴っており,認知変容のための手続きである自己教示訓練が効果的であったと考えられる。