著者
岩崎 直子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.52-61, 2000

性的被害の実態と, 被害者および周囲の人々へのサポートに関するニーズを調べるため, 大学生を中心とした男女学生277名を対象に, 質問紙調査を実施した。さまざまな性的被害に関して具体的な行為を提示し, 調査実施時点までの被害経験率を調べたところ, 女性の74.0%および男性の25.0%が何らかの被害経験を持ち「レイプ既遂」の被害率は3.4%であった。そのすべてが「友人・知人」「恋人」などの「顔見知り」から被害を受けた"date/acquaintance rape (DAR)"の被害者であり, 社会に蔓延する"real"rape像にはあてはまらないことがわかった。一方, 被害者を身近でサポートする重要な他者 (=SOs) は, 時に自らも被害の影響を受けることが知られているが, 回答者の約3割は, 自分の身近な人が性的被害経験を持つSOsであった。そのうちの7割以上が自分自身のためにも「何らかのサポートが必要である」と感じていた。これらの結果から, 今後の調査研究と被害者支援の方向性について考察した。

1 0 0 0 OA 児童虐待

著者
池田 由子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.4-9, 2001-06-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10

児童虐待防止法が2000年5月に国会を通過し, 同年11月に施行されてから, 児童虐待の報告数は激増したが, 同時に児童相談所等の関係機関が接触しているにもかかわらず, 被害児が殺され, あるいは重篤な障害を残す事例が報告されるようになった。わが国の児童虐待の現状と問題点をさぐるため, 電話相談, 保健所, 児童相談所, 大学病院の現場で虐待を取り扱っている専門家にその現状, 問題点の報告を求めた。 また, 全体として今後の問題として虐待の定義, 範囲をはっきりすること, 法医学の関与の必要なこと, カルト宗教における児童虐待に注意を払うことなどにつき述べた。
著者
浮田 徹嗣
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.49-57, 1997-06-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
21

本稿では, アメリカにおける司法心理学者の活動を紹介し, 司法におけるアセスメントに認められる「人間に関わる現象を能力に還元して説明する傾向」を指摘した。わが国では, 司法心理学は心理学の中でも特殊な領域で, 心の健康に関わる臨床家一般にとってはなじみの薄い分野という印象がある。一方, アメリカでは司法心理学は, 心の健康の専門家にとっては密接な関係のある分野となっている。たとえば, 処遇に対する子どもの同意能力, 治療に対する精神障害者の同意能力, 知的障害者の意思決定能力などに関わる判定について, 活発に議論されている。このような議論の多くは, いわゆる個人主義の価値観によって立つもので, 関係という視点から検討されることはほとんどなかった。しかし, 能力というものは関係を通してはじめて現れるものであるから, その社会的文脈が無視されるべきではない。個人主義を心理学に単純に当てはめることが一面的な把握にすぎないことを認識していることは, 重要である。たとえば, 臨床の場でおこなわれているアセスメントは個人の能力の判定であると同時に, 実は他者との関係のあり方の判定である。記号論的にいえば, 人間の行動の意味は, 個人に内在するものではなく, 関係の中に創られるからである。このような認識は, 司法心理学の分野だけではなく, 広く, 心の健康に関する領域全般についても重要なことである。人間に関する現象を理解するためには, 現象の原因を追究し個人の能力に還元するような視点だけではなく, 関係という視点から意味や目的を問うことが必要だからである。今後の心の健康の科学には, 「個体能力」と「関係」のふたつの視点を止揚する新たな視点が必要である。そして, その新たな視点をつくるのは, ある意味では, 西欧の価値観から比較的自由でいられるわが国の臨床家の使命ではないだろうか。
著者
北山 修
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.12-16, 1989-11-15 (Released:2011-03-02)
参考文献数
3
著者
大野 喜美子
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.14, no.2, pp.14-24, 1999-11-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
10

造形活動による児童の心の発達促進という視点から, 小学校児童243名に「家族に対する自由イメージ描画」「自分に対する自由イメージ描画」の実践をした結果を報告する。「家族イメージ」が攻撃的, 自己否定的なものは, 保護者の放任, 過度の進学熱, 欲求不満, 父母の離婚を経験している。明るいものは安定した家庭である。「自己イメージ」も攻撃的, 自己否定的なものは保護者の放任, 過度の進学熱, 学校不適応, 母親の超多忙などの児童である。幸福感に満ちているものは進学塾などの時間に追われることなく, 自分のペースで生きている。「自由画に表現できない児童」もいるが, かれらは背後に大きな問題を抱えている。年々, 攻撃的, 暴力的, 自己否定的なものや, 表現できない児童が増加している。これらは児童を取りまく環境の変化に影響されている。特に過度の学歴偏重, 女性の社会進出に対する支援態勢の無さによる児童へのしわ寄せがある。
著者
宗像 恒次
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.48-57, 1994-06-10 (Released:2011-03-02)
参考文献数
9
著者
坂本 真士 田中 江里子 影山 隆之
出版者
日本精神衛生学会
雑誌
こころの健康 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.44-53, 2006-12-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
28

本研究では, 自殺の新聞報道のされ方について検討するため, 代表的な全国紙 (朝日, 毎日, 読売各紙) を取り上げ, 「ネット自殺」以降に自殺を報じた記事の内容を分析した。具体的には, 上記3紙朝夕刊を対象とし, 2003年2月11日からの1年半を調査期間とした。新聞記事検索データベースを使用し, 検索語を「自殺」として, 検索語が見出し, 本文, キーワード, 分類語のいずれかに含まれている記事を抽出した。その後, 記事の見出しから, 明らかに自殺報道ではないと判断でぎる記事を除外し, さらに記事の内容から, 自殺未遂, 自殺と判断できないもの, 海外で起きた自殺などを分析対象から除外した。最終的に分析の対象となったのは, 2, 334件の記事であった。諸外国の自殺報道のガイドライン, さらに, 日本の先行研究を参考に, 記事の評価基準を作成した。本稿では, 掲載箇所および文字数, 見出し, 自殺の手段の記載, 遺書および自殺の原因・動機について報告した。分析の結果, 記事の平均文字数は各紙とも300字程度であったが, 標準偏差が大きかった。また, 見出しに「自殺」という文字がある記事は50.8%, 記事本文中で自殺の手段に言及しているものは92.5%, 単純化した原因・動機について記載されていたのは24.8%の記事であった。さらに報道されていた自殺の手段を見ると, 多い順に, 飛び込み, 総首, ガス, 飛び降りであったが, この順は実際の手段別自殺件数とは異なっていた。これらの結果から, 以下の5点が問題点として指摘された。ニュースバリューのある自殺が報じられるので, 報道が自殺全体の実態を反映していないこと, 詳細な手段が報じられることが多く, 自殺の模倣を招く危険性があること。自殺の原因・動機が単純化して報道されやすいため, 実際の原因・動機が伝わっていない可能性があり, 自殺に対し一面的な見方を人々に植え付けてしまい, 自殺を合理化してしまう可能性があること, である。