著者
服部 圭祐
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.212-214, 2016

要旨:症例は75 歳女性.原付バイク運転中に乗用車と接触事故にて近医救急搬送された.搬送時右肩腫脹,強い圧痛が認められた.単純CT で右鎖骨骨折あり入院となったが徐々に右上肢虚血症状を伴い,造影CT で右鎖骨骨折に伴う胸郭出口部の鎖骨下動脈および腋窩動脈閉塞と診断され当院紹介された.来院時意識清明で右橈骨動脈・上腕動脈ともに触知せず冷感・しびれを訴えるために緊急血行再建術,骨修復術の方針とした.鎖骨下切開で腋窩動脈をテーピングし,鎖骨下動脈遠位部まで剝離した.損傷部位を縦切開すると,鎖骨と第一肋骨の間で挟まれた部位で内膜が解離し閉塞していた.内膜を摘除し,中枢・末梢へ血栓除去したあと,内膜の固定を行い,外膜を直接縫合した.そのあと鎖骨骨折部を整形外科で修復し手術終了とした.経過は良好で,CT で動脈の開存と末梢の良好な造影を認めた.
著者
塚田 亨 徳永 千穂 酒井 光昭 南 優子 佐藤 幸夫 榊原 謙
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.743-747, 2014 (Released:2014-04-29)
参考文献数
7

要旨:肺動脈原発腫瘍は極めて稀な疾患であり,未治療の場合は予後1.5 カ月ともいわれる悪性の疾患である.症例は62 歳女性.咳嗽と血痰を主訴に受診.造影CT で肺動脈肉腫と診断,左右肺動脈はほぼ腫瘤に占拠され突然死の可能性が高いと判断し手術適応とした.麻酔導入後に心停止となり,緊急開胸し人工心肺を開始,主肺動脈から右肺動脈に嵌頓した腫瘍を摘出,肺動脈は馬心膜で再建した.左肺気管支の断端の確保も可能であり人工心肺離脱後に左肺全摘を施行し腫瘍を完全に摘出した.病理組織より左肺動脈内膜肉腫と診断,腫瘍断端は陰性であった.術後補助化学療法については明確なプロトコールがないことより選択しなかった.現在術後36 カ月が経過しているが,再発を認めず外来で経過観察中である.左肺動脈原発血管内膜肉腫に対して,肺動脈再建・左肺全摘術を行い術後36 カ月の生存期間を得た.肺動脈原発血管内膜肉腫の予後改善のためには,完全切除をめざした積極的な手術が有効と考えられた.
著者
古川 博史
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.97-101, 2012-04-25 (Released:2012-04-26)
参考文献数
11

【目的】末梢血管外科手術におけるデンプン由来吸収性局所止血材アリスタAHの使用効果に関して,血液製剤由来フィブリン糊止血材の使用効果と比較検討したので報告する.【方法】症例は2008年1月~2009年12月までの当科における末梢血管外科手術症例25例を対象とした.アリスタAH使用群(A群)10例,血液製剤由来フィブリン糊止血材(ベリプラストP)使用群(B群)15例で,ASOに対する下肢血行再建術がA群6例,B群10例,人工血管シャント造設術がA群4例,B群5例であった.止血材の使用方法は,血管吻合後止血材を吻合部に適量散布し,数分間用手圧迫を行った.両群間で術中,術後成績,合併症に関して比較検討を行った.【結果】術中出血量はA群で平均30.5 ml,B群で平均83.0 mlとA群で少ない傾向にあった.術後の主な合併症はA群で創の発赤1例,滲出液の貯留1例,肝機能障害1例で,B群では誤嚥性肺炎1例,腎機能の悪化1例であった.創傷治癒遅延および創感染は両群で認めなかった.また発熱の遷延化や吻合部仮性瘤の形成,出血による再手術例は認めなかった.末梢血管病変に対する手術症例では,両群とも下肢造影CTにて全例人工血管の良好な開存を確認することができた.人工血管シャント造設症例でも両群ともに穿刺にて問題なく血液透析を行うことが可能であった.【結論】アリスタAHは末梢血管外科手術における血管吻合部への補助的な止血材として従来の血液製剤由来の止血材とほぼ同等の効果が得られ,さらに術後成績に影響を与えず,合併症の少ない十分な効果が期待できる止血材であると考えられた.
著者
林 忍 渋谷 慎太郎 大久保 博世 市野瀬 剛 下河原 達也 長島 敦 尾原 秀明 北川 雄光
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.831-835, 2014 (Released:2014-08-25)
参考文献数
6

要旨:【目的】下肢静脈瘤にはさまざまな愁訴があるが,そのなかでも浮腫を訴える患者は少なくなく,QOL 低下を招く一因となっている.浮腫を伴う下肢静脈瘤患者を対象とし,水分代謝調節作用を有する漢方薬である五苓散(ごれいさん)の臨床的有用性について検討した.【方法】自覚的に浮腫を伴う(CEAP 分類C3 以上)下肢静脈瘤患者22 例に対し,弾性ストッキングに併用して五苓散を12 週間投与した.五苓散投与前後で下肢周囲径(膝蓋骨上周囲径,下腿最大周囲径,外踝周囲径),自覚症状(浮腫,痛み,冷え,倦怠感,しびれ,瘙痒感,こむら返り)Visual Analogue Scale(VAS),静脈瘤重症度および臨床検査値(凝固系,炎症反応,一般,血圧)の評価を行った.【結果】五苓散投与後において下肢周囲径はいずれも有意に減少した.また,自覚症状VAS,静脈瘤重症度も有意な改善を認めた.各臨床検査値については変化を認めなかった.【結論】浮腫を伴う下肢静脈瘤の治療において,弾性ストッキングを併用し五苓散を投与することは浮腫を改善し, 患者の愁訴を軽減する可能性が示唆された.
著者
杉本 貴樹 北出 貴嗣 野村 佳克
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.433-437, 2008-04-25 (Released:2008-05-14)
参考文献数
10
被引用文献数
2

下大静脈フィルター(IVCF)の肺血栓塞栓症(PTE)に対する予防効果とフィルターの合併症について検討した.過去 4 年間に静脈血栓塞栓症に対しIVCF留置を行った27例を対象とした.適応は,1;PTEを発症し再発により致死的となり得る例,2;深部静脈血栓症(DVT)の血栓浮遊例,3;DVTの原因病変に対する手術例,4;抗凝固・線溶療法不能な浮遊DVT例,とした.治療は,適応 1 の12例には,組織プラスミノゲンアクチベータ(t-PA)によりPTEの改善を得た後,残存するDVTに対しIVCFを留置した.適応 2 の 6 例は,IVCF下に線溶療法,血栓摘除術を行った.適応 3 の 5 例は,IVCF下に原疾患(腹部腫瘍 3 例,多発骨折 2 例)の手術を行った.適応 4 の 4 例は,脳出血,悪性腫瘍例に対するIVCF留置であった.留置後の評価は胸・腹部X線,心・静脈エコー,CTにて定期的に行った.【結果】適応 1 の 2 例,適応 3 の 1 例で一時留置型IVCFに多量の血栓が認められた.フィルター転位のない 1 例では血栓溶解療法にて血栓が消失したが,転位のあった 2 例では血栓溶解がなく,手術的にIVCF摘出を行った.全体として平均追跡期間22カ月で,この 3 例を含めPTEの発症,再発を認めず,永久留置型IVCFではフィルターに起因する合併症を認めなかった.【結論】IVCFはPTE予防のため有用であった.一方,一時留置型はその柔軟性のため転位によりフィルター内血栓形成の原因となることもあり,注意深い観察を要する.
著者
軽部 義久 井元 清隆 鈴木 伸一 内田 敬二 伊達 康一郎 郷田 素彦 初音 俊樹 南 智行 橋山 直樹 坂本 哲
出版者
特定非営利活動法人 日本血管外科学会
雑誌
日本血管外科学会雑誌 (ISSN:09186778)
巻号頁・発行日
vol.16, no.5, pp.645-651, 2007-08-25 (Released:2007-08-28)
参考文献数
16
被引用文献数
1 3

感染性大動脈瘤はきわめて重篤な疾患であり, 診断, 治療等問題点が多い. われわれの経験例について検討した. 対象は2000年 1 月から2005年12月に当院で経験した 7 例の感染性大動脈瘤. 年齢は59~76歳, 男性 5 例, 女性 2 例. 病変大動脈は胸部(TAA)3 例, 胸腹部(TAAA)2 例, 腹部(AAA)2 例で, 仮性瘤形成を含む破裂例は 4 例であった. 細菌培養では術前血液から 1 例にKlebsiella pneumoniaを, 術前心嚢水から 1 例にStaphylococcus aureusを, 術中検体からStaphylococcus aureus, Staphylococcus capitisを 1 例ずつ, 術後血液から 1 例にSalmonellaを検出した. 前述の術後診断 1 例を除き術前より抗生剤投与を開始した. 手術は入院11.7 ± 8.2(0~21)日で施行した. TAA 2 例に自己動脈パッチによる大動脈形成術, 1 例に瘤切除・人工血管置換 + 大網充填術, TAAA 2 例に対して瘤切除・大伏在静脈グラフトによる腹部分枝再建・腋窩-大腿動脈間バイパス術, AAAには 1 例に瘤切除・人工血管置換, 腹部大動脈閉塞をきたした 1 例に腋窩-大腿動脈間バイパス術を施行した. 術後に白血球数やCRPが正常化した後も抗生剤を長期投与した. 合併症はTAAA症例 1 例に肺炎, 下行結腸穿孔を認めた. 在院死亡はTAAA症例で術後脊髄麻痺, 肝膿瘍, 敗血症を合併した 1 例のみであった. 自己組織による大動脈再建, 大網充填法等部位や形態に応じた術式選択と術前後の十分な抗生剤投与という基本戦略で感染性大動脈瘤治療を行い, 7 例中 6 例を救命した.