著者
岸 拓弥 廣岡 良隆
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.86-91, 2007

[目的] 糖尿病は、虚血性心疾患だけでなく心不全患者においても多く合併している疾患である。しかし、心不全の発症進展における糖尿病の影響には不明な点も多い。今回の目的は、糖尿病を有する場合と有さない場合での心不全の発症進展の違いについて検討した。<BR>[方法] 2002年1月から2004年8月で、678名の心不全入院患者を早朝空腹時血糖 (FBS) 126mg/dl以上を複数回確認された糖尿病群 (DM group, n=128) とそれ以外の非糖尿病群 (NDM group n=550) に分け、背景・経過を比較した。<BR>[結果] 年齢、性別、喫煙、高脂血症、高血圧、虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、内服内容、NYHAクラスおよびBNP値には両群問で有意な差は認められなかった。DM群はbody mass indexが有意に高く、冠動脈多枝疾患と蛋白尿を有する症例が有意に多かった。また、退院後1年以内の心不全による再入院率がDM群でNDM群に比し有意に高かった (44%vs 25%, p<0.01) 。再入院の理由は、コントロール不良の高血圧と虚血性心疾患がDM群でNDM群に比し有意に高かった。心エコーでの左室収縮能や左室径には両群間で有意な差は認められなかったが、E/A比は有意にDM群で低く (0.56±0.10vs 0.78±0.11, P<0.05) 、deceleration timeも有意に延長していた (262±11msec vs 224±15msec, P<0.01) 。<BR>[結語] 糖尿病を有する心不全では有さない場合に比べて、左室拡張能が低下していることが多く、心不全による再入院率が高いことが示唆された。糖尿病の治療が心不全の進展・繰り返す再入院を予防することにつながる可能性がある。
著者
大内 尉義
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.31-41, 2002-01-30 (Released:2009-10-16)
参考文献数
30

女性の卵巣機能は50歳をはさむ約10年間で急激に低下し、女性ホルモン、特にエストロゲンが欠乏することにより種々の病的状態が起こる。これには、いわゆる更年期障害と、更年期から数年ないし10年を経て発症が増加する動脈硬化性疾患、骨粗音症があげられる。また、脂質代謝異常、高血圧、肥満なども閉経後の女性で頻度が増加し、動脈硬化の発症を促進する因子となる。これらのことを背景に、閉経前の女性では動脈硬化性疾患の発症頻度は男性に比べかなり低いが、閉経後次第に増加し、70歳代後半では性差はほぼ消失する。さらにエストロゲン投与によって動賑硬化性疾患の発症が抑微されることはよく知られた事実であるが、これはエストロゲンに抗動脈硬化作用があるためと考えられている。エストロゲンの抗動脈硬化作用は種々の実験モデルにおいて証明されているが、その機序は、脂質代謝、凝固系、糖代謝、血圧などの動脈硬化危険因子を改善することによる間接作用と血管壁に対する直接作用に分けられる。後者に関しては、血管壁構成細胞である血管内皮細胞、平滑筋細胞にはエストロゲン受容体 (ER) が存在するが、エストロゲン/ER複合体は転写因子として働き、エンドセリン、一酸化窒素などの血管作動物質や細胞増殖、細胞死に関係する種々の遺伝子の発現調節を行うことにより、内皮依存性血管拡張反応を増強し、血管平滑筋細胞の増殖、遊走を抑制、さらに血管内皮細胞のアポトーシスを抑制する。また、カルシウム拮抗作用による内皮非依存性血管拡張反応も惹起する。以上のように、閉経に伴う女性ホルモンの欠落が循環器疾患を初めとする種々の疾病の性差の原因となっているが、欠落した女性ホルモンを薬剤として投与する治療法をホルモン補充療法 (hormone-replacement therapy;HRT) という。すなわち、女性ホルモン (エストロゲンまたはエストロゲン+プロゲステロン) を薬剤として投与することにより、閉経後女性の病的状態を改善、また予防する効果が期待されるのである。HRT は、動脈硬化はもとより閉経に伴う骨粗音症、高脂血症、高血圧の原因療法になりうる治療法として、高齢社会を迎えたわが国でも今後さらに一般化すると考えられ、婦人科だけでなくすべての臨床医が知っておくべき治療法になりつつある。しかし、動脈硬化性疾患の治療および一次、二次予防における HRT の臨床的意義はなお確立したとは言い難く、そのメリットとデメリットおよび患者のニーズををよく勘案する必要がある。
著者
鈴木 信 秋坂 真史 野崎 宏幸
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器管理研究協議会雑誌 (ISSN:09147284)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.184-189, 1995-02-01 (Released:2009-10-15)
参考文献数
27

Two groups of peak incidence of sudden cardiac death (SCD) are apparent in the general population : one type due to myocarditis and cardiomyopathy found mainly in patients in their teens and twenties and the other stemming from ischemic heart diseases seen in patients in their fifites and sixties.Ninety percent of SCD results from tachyarrhythmias such as ventricular tachycardia and fibrillaton, the mechanism being ventricular ectopic beats induced by ischemia, autonomic nervous disorders, physical exercise, mental stress, mineral imbalances and unexpected drug effects, based upon substrate abnormalities of myocardium.In experimental models using rabbits, ventricular tachycardia and fibrillation (VT, VF) are observed immediately after marked bradyarrhythmias, such as sinus arrest and AV-block induced by brain injury and marked physical and / or mental aggression.Ventricular tachyarrhythmias, ventricular tachycardia, and fibrillation could not be seen in rabbits decorticated at the site of the hypothalamic region, suggesting that the hypothalamus has an important role in producing ventricular tachycardia and fibrillation, and is influenced by brain injury and marked aggression. Severe stresses are most likely to be associated with sudden cardiac death.Behavior patterns in humans may also be associated with SCD. Odds ratios for competitive behavior typical of type A behavior pattern (TABP) are 6.4 in ischemic heart disease (IHD) and 1.6 SCD, the former being much higher than the latter. The frequency of TABP is high among Okinawan centenarians who have not experienced IHD, and for this reason, there are some doubts whether TABP is truly a risk factor for IHD and SCD. There are two types of TABP : “self-assertive type” which include competitiveness and impatience ; and “persistent personality” characterized by “workaholic” tendencies. The role of TABP as a risk factor for SCD and IHD can be better clarified by analyzing the different components of TABP. We have tried to develop a primary screening system for SCD by combination of ECG, radiography, physical examinations, and personal history and have successfully identified in most cases at risk for SCD based on these criteria. There were a few cases that were negative but subsequently experienced SCD causes of which could not be determined by autopsy. The sensitivity of this system may be increased by detection of local gradients by VCG and / or late potential (LP) using signal averaged ECG (SAE).
著者
伊藤 一輔 斎藤 克治 中里 京 甲谷 哲郎 北畠 顕
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器管理研究協議会雑誌 (ISSN:09147284)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.201-206, 1996-02-01 (Released:2009-10-15)
参考文献数
12

家庭血圧計の使用実態を調査した。ついで家庭血圧測定に伴う臨床的問題点のうち, 家庭血圧計の種類別での精度と医師測定血圧値と家庭血圧値の比較を検討した。家庭血圧計の実態調査は, 高血圧外来通院者172名中家庭血圧計を所持していた137名 (所持率80%) で行った。血圧計の種類は上腕用が約9割をしめた。使用動機は自分で血圧値を知りたいが約半数, 医師の勧め30%の順で, 測定頻度は毎日定期的が約半数, 症状のある時が約20%であった。測定時間帯は起床後~朝食前が約4割, 就寝前と朝食後~昼食前が約3割であった。家庭血圧値と医師測定血圧値の比較では, ほぼ等しいが約半数のみで, 外来血圧値の方が高いが35%, 家庭血圧の方が高いが18%であった。家庭血圧への信頼と有用性は, 極めて高かった。つぎに, 家庭血圧計の精度を上腕用, 手首用, 指用でダブルステソスコープ法にて英国高血圧学会の基準で41名で検討した。その結果, 上腕用は基準をクリアーしたが, 指用と手首用はクリアーできなかった。最後に高血圧患者20名で, 医師測定血圧値と家庭血圧値の比較を, 治験薬投薬後2週毎に8週間で検討した。その結果, 両者がほぼ等しいのは30%であり, 医師測定血圧値が常に高い例と当初医師測定血'圧値が高いが経過により等しくなる例が, 共に35%あった。以上より, 血圧値の判断には, 医師測定血圧に加えて家庭血圧値を参考にすることが重要と考えられたが, 家庭血圧測定にあたっては, きちんとした家庭血圧計の使用法の指導が必要と考えられた。
著者
青木 伸雄 中村 美詠子
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器管理研究協議会雑誌 (ISSN:09147284)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.121-124, 1996-10-30 (Released:2009-10-15)
参考文献数
2

生存率が過用される分野は非常に多く, 例えば, 種々の慢性疾患患者についての病型別, 重症度別, 治療法別の生存率の評価, あるいは生活指導別 (危険因子介入状況別) の生存率の評価を行うことができる。生存率の種類としては, (1) Cutler-Ederer法, Kaplan-Meier法, Coxの重回帰型生命表法などの “生命表理論” に基づく生存率, (2) 粗生存率 (直接法 : 一定の観察期間後の生存者数を観察開始時の対象者数で割ったもの。消息不明をすべて死亡とみなす最小生存率, すべて生存とみなす最大生存率, 分析の対象からすべて除外する推定生存率とに細分される), (3) 相対生存率 (死亡については全死亡を扱う場合に, 粗生存率を期待生存率で割ったもの) などがある。いずれの場合も, 対象者の選び方を厳密にしておくことが大切であり, 消息不明・脱落者の取扱い方は特に明確にしておく必要がある。観察期間が短い場合には, 図1より推測されるように, 生存者あるいは死亡者として分析対象に含める者は研究の目的, 対象と方法により異なってくることに特に注意する必要がある。