著者
花岡 陽子 山本 寛 飯島 勝矢 大賀 栄次郎 神崎 恒一 大内 尉義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.444-449, 2005-07-25 (Released:2011-03-02)
参考文献数
16

症例は76歳女性. 抗生剤 (CEZ, PIPC) が無効な不明熱に対する精査目的で2002年6月第1回入院. 39℃に至る発熱, CRP上昇, 汎血球減少を認めた. 貧血については, 骨髄穿刺で赤芽球癆と診断された. 原因の特定に至らないまま, 1カ月後に胆嚢腫脹, 胆道系酵素の上昇を認め, 胆嚢穿刺を行ったところ発熱は軽快, その後赤芽球癆も軽快し退院となった. しかし2003年4月, 再び発熱, CRP上昇, 汎血球減少を認めたため第2回入院. 検索の結果, 脾腫・異型リンパ球の出現とともに骨髄穿刺の所見からびまん性大細胞型B細胞リンパ腫 (骨髄浸潤) の診断に至った. 高齢者は典型的な症状を示しにくく, 発熱のみを主症状とする節外性の悪性リンパ腫の場合には, 他疾患との鑑別がきわめて困難である. 高齢者の不明熱においては血液悪性腫瘍, とくに悪性リンパ腫が潜在している可能性を念頭におき, 精査を行うことが必要と考えられた.
著者
大内 尉義 鳥羽 研二
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.469-471, 2000-06-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

高齢者の機能評価分類によるケアが生命予後や機能予後を改善するという報告においても, 痴呆や重症者の除外がされている. 本研究の目的は, 複数疾患を併せ持つ後期高齢者全体を評価する手法の開発である. 東大病院, 老人保健施設, 療養型病床群, 在宅看護症例を対象に老年症候群という自他覚症候の加齢変化を調査した. 老年症候群は, 加齢変化のないもの, 65歳以上から漸増するもの, 後期高齢者に著増するものの3群に分かれた. この分類を Geriatric Scale と名付け, Age Norm を再考した. 在宅, 施設介護では後期高齢者に著増する, うつ, 尿失禁, 低栄養, 椎体骨折など一群の症候群が多く, 自宅復帰の阻害要因であった.
著者
大田 秀隆 本多 正幸 山口 泰弘 秋下 雅弘 大内 尉義
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.627-631, 2012 (Released:2013-03-04)
参考文献数
8
被引用文献数
2 2

プロトンポンプ阻害薬であるランソプラゾール長期内服によるcollagenous colitisが原因となった,慢性に持続する水様下痢症の一例を報告する.症例は75歳女性.ランソプラゾール(30 mg/日)内服開始後より水様性下痢および体重減少が持続し,上部・下部消化管内視鏡・便中脂肪精査・消化管シンチが施行されたが,上部消化管内視鏡で萎縮性胃炎を認めた以外に異常所見は認められず,以後2年以上にわたり慢性的な下痢が持続していた.2011年5月末より,下痢症状に加え,歩行障害・意識障害が出現し,原因精査および加療目的に入院となった.入院後,薬剤性の下痢を疑ってランソプラゾールを中止しファモチジン(20 mg/日)に変更,中止後数日で下痢は軽快消失しており,同剤によるcollagenous colitisが原因として疑われた.下部消化管内視鏡による病理組織検体からcollagenous colitisの所見を認め,確定診断に至った. collagenous colitisは特に高齢女性に多いことがわかっている.原因不明の難治性下痢症として放置されることが多く,長期間持続する下血を伴わない水様下痢が主症状であり,腹痛・体重減少・低蛋白血症を伴うこともある.これらの症状は,通常は原因薬剤の中止のみで数日~数週で症状は改善し治癒するが,放置されたまま原因不明の下痢症として扱われている場合も多い.これら慢性的な下痢症状は,高齢患者のADLを著しく低下させ,また介護者による負担をも増やすことになる. 今回の症例のように確定診断には,その他の原因疾患の除外・下部内視鏡検査正常所見・下部消化管内視鏡による大腸粘膜生検が必須であるが,確定診断に至る前にcollagenous colitisを念頭に,原因となる薬剤を中止してみることが重要であると考えられ,ここに報告する.
著者
荻原 俊男 森本 茂人 中橋 毅 島本 和明 松本 正幸 大内 尉義 松岡 博昭 日和田 邦男 藤島 正敏
出版者
一般社団法人 日本老年医学会
雑誌
日本老年医学会雑誌 (ISSN:03009173)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.396-403, 1994-05-25 (Released:2009-11-24)
参考文献数
24
被引用文献数
9 8

本邦における高血圧専門家が老年者高血圧の治療方針に関していかなる考え方をしているかについてアンケート法によりその実態を把握することを目的とした. 治療対象について50%の専門家は年齢の上限を考慮しないとしたが, 残り50%は80歳まで, あるいは85歳までを上限としている. 治療対象血圧値は収縮期血圧は60歳代160mmHg以上, 70歳代160~170mmHg以上, 80歳代では170~180mmHgと高齢者程治療対象血圧は上昇, 拡張期血圧は90~95mmHg以上とするものが大部分を占めた. 降圧目標は60歳代では150/90mmHg未満, 70~80歳代では160/90mmHg未満とするものが多く, 80歳代では170~180/95~100mmHg未満と高めに設定するものが20数%あった. 用いる降圧薬ではCa拮抗薬を第一次薬とするものが大部分でありACE阻害薬がこれに次いだ. 一方, サイアザイド, β遮断薬, α1遮断薬を第一次薬とするものは少数であった. 合併症を有する場合の降圧目標や選択降圧薬は疾患によりきめ細かく考慮され, 脳梗塞慢性期, 閉塞性動脈硬化症, 腎障害合併症は70歳代, 80歳代で154~159/89~90, 160~164/90~91mmHgとやや高め, 脳出血慢性期, 虚血性心疾患, 糖尿病, 高脂血症では各々152~153/88, 158~159/89mmHgとやや低めに設定している. Ca拮抗薬はいずれの合併症にもよく用いられ, とくに腎障害, 閉塞性動脈硬化症で高頻度に用いられる. 腎障害ではACE阻害薬が用いられる頻度が低い. β遮断薬は虚血性心疾患で用いられる以外は一般的に用いられない. サイアイド, α1遮断薬は一般的に合併症のある場合にあまり用いられていない. 本邦においても長期介入試験によりこれらを正当化する証明が待たれる.
著者
大内 尉義
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.31-41, 2002-01-30 (Released:2009-10-16)
参考文献数
30

女性の卵巣機能は50歳をはさむ約10年間で急激に低下し、女性ホルモン、特にエストロゲンが欠乏することにより種々の病的状態が起こる。これには、いわゆる更年期障害と、更年期から数年ないし10年を経て発症が増加する動脈硬化性疾患、骨粗音症があげられる。また、脂質代謝異常、高血圧、肥満なども閉経後の女性で頻度が増加し、動脈硬化の発症を促進する因子となる。これらのことを背景に、閉経前の女性では動脈硬化性疾患の発症頻度は男性に比べかなり低いが、閉経後次第に増加し、70歳代後半では性差はほぼ消失する。さらにエストロゲン投与によって動賑硬化性疾患の発症が抑微されることはよく知られた事実であるが、これはエストロゲンに抗動脈硬化作用があるためと考えられている。エストロゲンの抗動脈硬化作用は種々の実験モデルにおいて証明されているが、その機序は、脂質代謝、凝固系、糖代謝、血圧などの動脈硬化危険因子を改善することによる間接作用と血管壁に対する直接作用に分けられる。後者に関しては、血管壁構成細胞である血管内皮細胞、平滑筋細胞にはエストロゲン受容体 (ER) が存在するが、エストロゲン/ER複合体は転写因子として働き、エンドセリン、一酸化窒素などの血管作動物質や細胞増殖、細胞死に関係する種々の遺伝子の発現調節を行うことにより、内皮依存性血管拡張反応を増強し、血管平滑筋細胞の増殖、遊走を抑制、さらに血管内皮細胞のアポトーシスを抑制する。また、カルシウム拮抗作用による内皮非依存性血管拡張反応も惹起する。以上のように、閉経に伴う女性ホルモンの欠落が循環器疾患を初めとする種々の疾病の性差の原因となっているが、欠落した女性ホルモンを薬剤として投与する治療法をホルモン補充療法 (hormone-replacement therapy;HRT) という。すなわち、女性ホルモン (エストロゲンまたはエストロゲン+プロゲステロン) を薬剤として投与することにより、閉経後女性の病的状態を改善、また予防する効果が期待されるのである。HRT は、動脈硬化はもとより閉経に伴う骨粗音症、高脂血症、高血圧の原因療法になりうる治療法として、高齢社会を迎えたわが国でも今後さらに一般化すると考えられ、婦人科だけでなくすべての臨床医が知っておくべき治療法になりつつある。しかし、動脈硬化性疾患の治療および一次、二次予防における HRT の臨床的意義はなお確立したとは言い難く、そのメリットとデメリットおよび患者のニーズををよく勘案する必要がある。
著者
飯島 勝矢 亀山 裕美 秋下 雅弘 大内 尉義 柳元 伸太郎 今井 靖 矢作 直樹 ロペズ ギヨーム 酒造 正樹 山田 一郎
出版者
人工知能学会
雑誌
人工知能学会全国大会論文集 (ISSN:13479881)
巻号頁・発行日
vol.25, 2011

高齢化が進む中で高齢者認知症患者の管理が大きな問題である。また、認知症は高血圧も含めた生活習慣病との関連も注目されていることから、より幅広い病態把握が必要である。今回、我々はもの忘れを主訴とする高齢入院患者を対象に、カフを必要としないウェアラブル血圧センサーを用いて、様々な負荷による血圧短期変動を検討した。認知機能レベルとそれを背景としたストレス感受性の観点からこの血圧センサーの有用性を報告する。
著者
飯島 勝矢 亀山 祐美 秋下 雅弘 大内 尉義 柳元 伸太郎 今井 靖 矢作 直樹 ロペズ ギヨーム 酒造 正樹 山田 一郎
出版者
一般社団法人 人工知能学会
雑誌
人工知能学会論文誌 (ISSN:13460714)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.40-45, 2012 (Released:2012-02-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

An increase in short-term blood pressure (BP) variability is a characteristic feature in the elderly. It makes the management of hemodynamics more difficult, because it is frequently seen disturbed baro-reflex function and increased arterial stiffness, leading to isolated systolic hypertension. Large BP variability aggravates hypertensive target organ damage and is an independent risk factor for the cardiovascular (CV) events in elderly hypertensive patients. Therefore, appropriate control in BP is indispensable to manage lifestyle-related diseases and to prevent subsequent CV events. In addition, accumulating recent reports show that excessive BP variability is also associated with a decline in cognitive function and fall in the elderly. In the clinical settings, we usually evaluate their health condition, mainly with single point BP measurement using cuff inflation. However, unfortunately we are not able to find the close changes in BP by the traditional way. Here, we can show our advantageous approach of continuous BP monitoring using newly developing device `wearable BP sensing' without a cuff stress in the elderly. The new device could reflect systolic BP and its detailed changes, in consistent with cuff-based BP measurement. Our new challenge suggests new possibility of its clinical application with high accuracy.