著者
竹森 幸一 三上 聖治 仁平 將
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.157-162, 2001-10-25 (Released:2009-10-16)
参考文献数
17

2000年に、全都道府県から抽出した195市区町村の主として老人保健事業で測定された40歳から69歳の女性9696名の血圧値を資料として、水銀血圧計については偶数の、自動血圧計については0から9の末尾の平等性を検討し、次の結果を得た。1) 水銀血圧計で測定された6560名の最高および最低血圧値は、奇数を除いた偶数の平等性はともに否定され (それぞれχ2=772、p<0.001、χ2=1855、p<0.001) 、末尾に0が多いことが示された。2) 自動血圧計で測定された2919名の最高および最低血圧値は、末尾0から9の平等性は否定された (それぞれχ2=53.4、p<0.001、χ2=72.9、p<0.001) 。最高、最低血圧値ともに末尾は奇数より偶数が多いことが示された (それぞれχ2=36.6、p<0.001、χ2=384、p<0.001) 。3) 1985年調査と2000年調査の測定値について、最高、最低血圧値の末尾0と0以外の偶数の割合を比較した結果、末尾0の割合が最高血圧が41.1%から33.7%、最低血圧が45.5%から41.4%と2000年調査の方が減少していた。血圧分類は140-159mmHg、90-99mmHgのように末尾0が境界になっていることから、測定値の末尾0の割合の違いが高血圧の有病率に影響を与えるものと考えた。
著者
樗木 晶子 長弘 千恵 金 明煥 小林 大佑 小車 莉絵子 福田 直行 中田 亜希子 香川 智啓 長家 智子
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.28-33, 2005-01-31 (Released:2009-10-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1

38℃と41℃という湯温の違いが入浴時の高齢者の呼吸・循環動態へ及ぼす影響を以前報告した。この変化が高齢者に特有なものか否かを検討するため今回は12人の健常高齢者 (男性5人、女性7人、平均年齢 : 70±5歳) と12人の健常若年者 (男性6人、女性6人、平均年齢 : 23±3歳) を対象に、湯温41℃の入浴で、血圧、脈拍、pressure-rate product (収縮期血圧と心拍数の積、PRP) 、酸素飽和度、鼓膜温の変化を計測した。高齢者では収縮期血圧は入浴中有意な変化はなかったが、出浴後は若年者に比べ低下傾向が強かった。拡張期血圧は両群とも入浴中から低下し出浴後もそれが続いた。脈拍は両群とも入浴中上昇し、出浴後は入浴前より低下し、両群間に変動の差はなかった。PRPは高齢者は入浴直後に上昇したが、若年者は出浴直後に上昇し出浴後安静1時間の問に入浴前より低下した。酸素飽和度は高齢者のほうが出浴後長時間経過したときの低下がみられた。鼓膜温は若年者より高齢者の方が上昇傾向を示したが有意差は得られなかった。高齢者と若年者では入浴時の呼吸・循環動態の変化が異なることが明らかとなった。
著者
馬場 みちえ 板並 智子 一木 真澄 畝 博
出版者
The Japanese Association for Cerebro-cardiovascular Disease Control
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.75-80, 2007

目的 : 要介護4・5の重度の要介護状態になるリスク要因を明らかにすることである。<BR>対象と方法 : 福岡県Y町において症例対照研究を実施した。症例群は介護保険の要介護4と5の高齢者 (以下、要介護者群) 62人、対照者群は健常高齢者あるいは要支援の高齢者から性、年齢をマッチさせ、1 : 1の割合で無作為に抽出した。2001-2002年に聞き取り面接調査を行い、要介護状態になった原因疾患、既往歴・治療歴、基本健康診査受診回数、生活習慣、性格、趣味などの情報を得た。さらに、過去の血圧値と降圧薬服用状況、および実際の基本健康診査受診歴について、1989年~1993年の基本健康診査データを参照した。<BR>結果 : 要介護状態になった原因疾患は、脳血管疾患が41.9%、認知症27.4%、大腿骨骨折12.9%の順であった。要介護に関連する要因では、糖尿病治療歴のある者ではオッズ比は3.54 (95%CI : 1.07-11.76, p<0.05) と有意に高く、高血圧治療歴のある者ではオッズ比が0.82とリスクの上昇がみられなかった。そこで、要介護者群と対照者群の高血圧症の頻度およびその治療状況を過去の基本健康診査データ (1989-1993年) に遡って22ペアについて比較した。既に治療中である者も含めた高血圧症の数は、要介護者群が14人 (63.6%) 、対照群が8人 (36.4%) であり、要介護者群に高血圧症が多かった (p<0.05) 。そのうち降圧薬を服用している者は、要介護者群では4人 (28.6%) 、対照者群では4人 (50.0%) であり、要介護者群に高血圧症でありながら治療を受けている者が少なかった。また実際の基本健康診査受診歴 (45ペア) では、要介護者群に受診回数が少なかった。<BR>結論 : 要介護者群では、高血圧症の者が多いにもかかわらず、高血圧症への認識や治療へのコンプライアンスが悪く、また基本健康診査の受診回数も少なかった。定期的に健康診査を受けることは、人々の高一血圧への認識や治療へのコンプライアンスを高めることにつながり、重度の要介護状態になることを予防していることが示唆された。
著者
岸 拓弥 廣岡 良隆
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.86-91, 2007

[目的] 糖尿病は、虚血性心疾患だけでなく心不全患者においても多く合併している疾患である。しかし、心不全の発症進展における糖尿病の影響には不明な点も多い。今回の目的は、糖尿病を有する場合と有さない場合での心不全の発症進展の違いについて検討した。<BR>[方法] 2002年1月から2004年8月で、678名の心不全入院患者を早朝空腹時血糖 (FBS) 126mg/dl以上を複数回確認された糖尿病群 (DM group, n=128) とそれ以外の非糖尿病群 (NDM group n=550) に分け、背景・経過を比較した。<BR>[結果] 年齢、性別、喫煙、高脂血症、高血圧、虚血性心疾患、弁膜症、不整脈、内服内容、NYHAクラスおよびBNP値には両群問で有意な差は認められなかった。DM群はbody mass indexが有意に高く、冠動脈多枝疾患と蛋白尿を有する症例が有意に多かった。また、退院後1年以内の心不全による再入院率がDM群でNDM群に比し有意に高かった (44%vs 25%, p<0.01) 。再入院の理由は、コントロール不良の高血圧と虚血性心疾患がDM群でNDM群に比し有意に高かった。心エコーでの左室収縮能や左室径には両群間で有意な差は認められなかったが、E/A比は有意にDM群で低く (0.56±0.10vs 0.78±0.11, P<0.05) 、deceleration timeも有意に延長していた (262±11msec vs 224±15msec, P<0.01) 。<BR>[結語] 糖尿病を有する心不全では有さない場合に比べて、左室拡張能が低下していることが多く、心不全による再入院率が高いことが示唆された。糖尿病の治療が心不全の進展・繰り返す再入院を予防することにつながる可能性がある。
著者
大内 尉義
出版者
社団法人 日本循環器管理研究協議会
雑誌
日本循環器病予防学会誌 (ISSN:13466267)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.31-41, 2002-01-30 (Released:2009-10-16)
参考文献数
30

女性の卵巣機能は50歳をはさむ約10年間で急激に低下し、女性ホルモン、特にエストロゲンが欠乏することにより種々の病的状態が起こる。これには、いわゆる更年期障害と、更年期から数年ないし10年を経て発症が増加する動脈硬化性疾患、骨粗音症があげられる。また、脂質代謝異常、高血圧、肥満なども閉経後の女性で頻度が増加し、動脈硬化の発症を促進する因子となる。これらのことを背景に、閉経前の女性では動脈硬化性疾患の発症頻度は男性に比べかなり低いが、閉経後次第に増加し、70歳代後半では性差はほぼ消失する。さらにエストロゲン投与によって動賑硬化性疾患の発症が抑微されることはよく知られた事実であるが、これはエストロゲンに抗動脈硬化作用があるためと考えられている。エストロゲンの抗動脈硬化作用は種々の実験モデルにおいて証明されているが、その機序は、脂質代謝、凝固系、糖代謝、血圧などの動脈硬化危険因子を改善することによる間接作用と血管壁に対する直接作用に分けられる。後者に関しては、血管壁構成細胞である血管内皮細胞、平滑筋細胞にはエストロゲン受容体 (ER) が存在するが、エストロゲン/ER複合体は転写因子として働き、エンドセリン、一酸化窒素などの血管作動物質や細胞増殖、細胞死に関係する種々の遺伝子の発現調節を行うことにより、内皮依存性血管拡張反応を増強し、血管平滑筋細胞の増殖、遊走を抑制、さらに血管内皮細胞のアポトーシスを抑制する。また、カルシウム拮抗作用による内皮非依存性血管拡張反応も惹起する。以上のように、閉経に伴う女性ホルモンの欠落が循環器疾患を初めとする種々の疾病の性差の原因となっているが、欠落した女性ホルモンを薬剤として投与する治療法をホルモン補充療法 (hormone-replacement therapy;HRT) という。すなわち、女性ホルモン (エストロゲンまたはエストロゲン+プロゲステロン) を薬剤として投与することにより、閉経後女性の病的状態を改善、また予防する効果が期待されるのである。HRT は、動脈硬化はもとより閉経に伴う骨粗音症、高脂血症、高血圧の原因療法になりうる治療法として、高齢社会を迎えたわが国でも今後さらに一般化すると考えられ、婦人科だけでなくすべての臨床医が知っておくべき治療法になりつつある。しかし、動脈硬化性疾患の治療および一次、二次予防における HRT の臨床的意義はなお確立したとは言い難く、そのメリットとデメリットおよび患者のニーズををよく勘案する必要がある。