著者
福嶋 祐介 木本 二郎 原 正栄 小林 敏夫 酒井 隆市 石丸 民之永 八戸 剛志
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.399-403, 2003-07-15
被引用文献数
2

長岡市よりの委託を受けて,新しい地下水節水型の消雪パイプの有効性を確認し実用化を図るために,長岡市道にて消雪パイプの実証試験を行なった.このプロジェクトは産・官・学の協力の下でおこなわれ,現場実験は実質的に平成15年1月15日に始まった.消雪パイプは極めて有効な除排雪システムではあるが,地下水を用いることで地盤低下,地下水位減少に伴うくみ上げの困難,歩行者に対する散水など,さらに消雪パイプを普及させるためには困難も多い.本実証試験は,降雪強度計を用いて降雪量を測るとともに,インバータで揚水ポンプを制御して,必要最小限の散水を行なおうとする新型の消雪パイプである.この消雪パイプの有効性を確認するため,流量計,水位計,圧力計などを取り付け,これらからの出力をADSLを介してサーバーにデータを蓄積し,いつでもデータを利用可能なシステムとした.また,現地にはデジタルカメラを3台取り付け,画像データもインターネットを介して閲覧可能にした.このことで,1月15日から3月31日まで1分間隔(画像データは10分間隔)で保存するようにした.それ以外にADSLを介して制御パラメータの変更もできる.データはまだ十分な解析を行なっていないが,ここに2003年冬季分の成果を示すことにした.
著者
菊地 勝弘
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.659-662, 2007-11-15
被引用文献数
1

北海道倶知安町の「風土館」に2005年12月から常設展示されているニセコ着氷観測所で実験に使用されたと思われるゼロ式艦上戦闘機(通称:ゼロ戦)の右主翼の発見に端を発した観測所の全容や,実験機の真偽については既に紹介してきた.また,実際に行われた主翼の摺動式防氷装置の実験結果や,中谷宇吉郎が主導したニセコ着氷観測所と孫野長治が主導した手稲山頂の北海道大学雲物理観測所についても考察されている.しかし,U.N.Limitedや中谷宇吉郎雪の科学館に保存されているアルバム,またその他の資料を見比べて,ニセコ観測所での転進台からの九六式の落下事故や,それに関連した九六式の左右の主翼の欠落は何を意味しているのかといった,これまで報告されてこなかった実験機のその後の疑問について検討してみた.
著者
大野 宏之 横山 宏太郎 小南 靖弘 井上 聡 高見 晋一 WIESINGER Thomas
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.225-231, 1998-05-15
被引用文献数
17 13

気象庁で使用されているRT-1, RT-3, RT-4型の転倒桝降水量計について,固体降水に対する捕捉率を新潟県上越市において2寒候期にわたり観測した.捕捉率の計算に必要な真の降水量は,WMO「固体降水の比較観測に関する国際組織委員会」が定めた方法に準じて推定した.観測の結果,固体降水の捕捉率はいずれの降水量計でも風速が強いほど減少し,風速4mにおいては無風時の60%程度であった.減少の程度は,RT-3, RT-1, RT-4の順で大きかった.準器に着雪が発生するなど,国際組織委員会が定めた方法は,北陸地方の降雪の特性には必ずしも良く対応していない点があることが観察された.
著者
福嶋 祐介 大澤 範一
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.357-369, 2007-05-15
被引用文献数
1

本州日本海側の豪雪地帯ではその雪の量にも係わらず比較的温暖である.このため,2月から3月にかけては,全層雪崩が多発し,人家に被害を及ぼしたり,道路の閉塞を伴う災害が発生する.このような全層雪崩についてはこれまで多くのモデルが開発されている.しかし,これらのモデルは実際に起こる雪崩をかなり簡略化したり,雪玉の運動に置き換えたりするモデルである.本研究では流体力学の基礎方程式を元にこれを斜面に対して直交方向と流れ方向に積分して,全層雪崩の基礎方程式を求めた.さらに,構成関係式を加えて,雪崩のシミュレーションを可能にするモデルを構築した.この中で,雪の取り込み係数と離脱係数の評価が重要であることを示した.
著者
杉森 正義 川本 義海 本多 義明
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.179-189, 2005-03-15

1945年(昭和20)の地方新聞の記事から,同年寒候期の雪および雪と社会との関わりを調べた.年最大積雪深は161cmで,当時では既往5位,現在では7位である.歴史的には,太平洋戦争の末期で,社会状況は現在からみると異常なものであった.収録の対象は,雪に関係する記事すべてとし,145件あった.記事の特性を調べるため,地域,雪との関係(雪の記事とした根拠),内容,記事のヒーロー,および記事の動機の5個の軸項目で整理し,さらに軸項目間のクロス集計をとった.雪との関係の割合は,雪害発生(6.2%),雪害予防(4.8%),雪対策(35.2%),で,他は雪が介在または背景の記事であった.内容分類では,鉄道,居住地および道路,農業,林業の順で多かった.記事の中で注目を集める誰かをヒーローとすると,地域住民,行政,児童生徒の順であった.記事の動機は,勤労奉仕,事実の報道,職務精励の順であった.以上から,鉄道や農業などの雪対策において,地域住民や児童生徒の勤労奉仕が賞賛されているパターンのものが多く,雪の記事は当時の社会状況を強く反映していることがわかった.また,本報告の解析方法により今の雪問題の議論との接点ができた.
著者
白樫 正高
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.159-167, 1994
被引用文献数
9

雪を水と混合してポンプ・管路系により輸送する技術を除雪に応用することは昭和47年ごろから研究されているが,現在まで実用に供された例の報告は,昭和58年に敷設された当時の国鉄福井駅の線路除雪設備があるのみであり,未だ技術開発の途上にある.雪は水より密度が小さく,互いに付着して塊を作りやすいことから,雪水混合体の流れの挙動は石炭や鉱石の水力輸送に見られる通常の固液二相流とは異なる.それゆえ,圧力損失の予測や固体の分率の計測・制御に対する既存の方法がそのままでは適用し難い.本稿では,筆者らのこれまでの研究により得られた,雪水二相流の流動特性についての理解と計測・制御技術を概説する.
著者
生頼 孝博 山本 英夫 岡本 純 伊豆田 久雄
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.189-197, 1984
被引用文献数
6 1

早強ポルトランド・セメントを土に混合することによる凍上及び解凍沈下抑制効果を調べるために, 開式の室内凍上・解凍沈下実験を行った.供試体は藤の森青粘土に種々の割合でセメントを混合し, 3種類の荷重で圧密しつつ一週間養生して作製した.拘束応力が小さい場合には吊り下げ式凍結装置を用い, 拘束応力が地下数10mに相当する場合には開式凍結・解凍試験装置を用いた.<BR>凍上量は, セメント混合比<I>W<SUB>cs</SUB></I> (炉乾土に対する重量比) で10%程度セメントを加えることにより急激に減少し試料土のみの場合の1/8~1/4になるが, それ以上<I>W<SUB>cs</SUB></I>を大きくしても若干の凍上は残るという結果を得た.未凍結土の動水抵抗増加による凍上抑制効果について, 実測した透水係数を用いて検討を行ったがその効果は小さく, セメント混合による吸水能力の低下が凍上抑制の主因であると推察された.<BR>一方, 解凍沈下は試料土のみでは2%程度凍結前よりも沈下するが, セメント結合に起因する土粒子同志の結合力の増加により, <I>W<SUB>cs</SUB></I>=8%程度で沈下は無くなりそれよりも大きい<I>W<SUB>cs</SUB></I>では若干の浮上となった.<BR>以上のことから, 藤の森青粘土のような土の場合, <I>W<SUB>cs</SUB></I>=10%程度のセメント混合は凍上及び解凍沈下抑制において有効な方法であることが, 室内実験において確認された.
著者
田澤 博
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.1-3, 1949

寒地農業は未完成の農業であり, 幼稚な農業である。幼稚なメセに内地の大人の眞似をしだマセた農業である。自然環境の異る所で, 僅々50年, 俄造りに格構すけられた農業である。從て現在寒地農業が直画している問題は極めて多いが, 技術的に觀ただけでも非常に多い。元來農業は技術的に幼稚で差支えないもののように羅され勝であるが, 事實は全く異りているもので, 現在の農業は殆ど郷を除いては全くの經驗農業でしかない。沿革の淺い寒地農業が實績に於て暖地農業に著しい遜色を感するのは固より當然の事である。併し寒地農業は輓近科學の發達しつつある今日に於て其の改良を餘儀なくされているのと, 自然條件が不利と考えられているだけに痛切に, 科學の力が要望されて居り, 寧ろ此の點恵まれた實情にあることは事實である。私共が北海道に住んでいて北海道農業が内地農業を凌駕する時期の到來が案外早いのではないかと考えているのは此の爲である。北海道農業は物理學, 氣象學, 低温科學等の協力を相當歡迎しているが, 之を積極的忙導入する過程に入つたならば其の躍進は火を見るよりも瞭かである。科學導入の農業は恐らく北海道農業が内地農業よりも一足先に完成するであろう。農業は現在の段階に於て一鷹は完成の域に達していると考えられている。之は農學から観た見方である。今後の進歩は徐々で一應は行詰つたとも云える。而も農業にはなお著しい豊凶があり, 不時の災厄も兔れ難い。残され左改良進歩は他の科學によつて未知の世界を開拓する外にはあるまい。人爲的に天氣を變える事だつて全く不可能とは云い切れない今日, 農業の凶作を人工で防ぐことだつて決して不可能だとは思えない。堂々たる農業技術者が技術の權威を誇り乍多も自然的災厄に對しては極めて卑屈であり, 斷念的なのは斯の方面の知識に乏しく, 飴りにも自然の力を恐れ過ぎ敬遠し過ぎている事に基因していると思う。茲に學問の分科制度の缺陥が見られる。私は寒地農業の諸問題の解決には先す離れ過ぎている物理學, 氣象學, 工學, 化學等の農業えの接近を張く強調したいのである。農象以外の科學者は農業を知らないという理由の下に農業えの協力を喜ばない風があるが, 我々は一般の學者に農業を知つて貰わないでも協力を受けたや問題が澤山ある。夫々專門の學者の助言や應用に對する僅かの指示が如何に大きい効果を實際に齎すか想像以上で, 寒地農業の諸問題は實に之等諸學者の支援に期待する處の多いものである。以下殆ど項目に止まるかも知れないが, 記して各位の御批判と御認識を得たいものと考える。