著者
阿部 修 力石 國男 石田 祐宣 小杉 健二 上石 勲 平島 寛行
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.513-518, 2007-07-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
5

2007年2月14日午前11時過ぎに八甲田山系前岳の北東斜面で発生した表層雪崩について,現地調査および周辺の気象・積雪観測からその発生要因を考察した.その結果,この雪崩は強風により生じた吹きだまりの一部が崩落した可能性があることがわかった.また,今回雪崩があった沢は,典型的な雪崩地形であることがわかった.
著者
和泉 薫 錦 仁
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.461-467, 2002-07-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
21
被引用文献数
1

雪崩を表す言葉が,日本で最初に記載されたのは,1076年に詠われた連歌中でかな文字の「なだれ」であった.日本ではこの平安時代後期頃“なだれ”現象が認識され始めたと推定した.その後室町時代には漢字の「雪頽」が辞書に現れた.これらはいずれも全層雪崩を意味していたと考える.江戸時代中期からは,「アワ」等と呼ばれる表層雪崩が「雪頽」,「ナデ」などの全層雪崩と区別して認識され文書に記載されるようになった.現在一般的に使われている「雪崩」は“なだれ”現象全体を表す言葉であるが,それは明治初頭に国の官林調査で「ナデ」も「アワ」も統一して「頽雪」と書くよう規定したことに由来する.この「頽雪」から現在の「雪崩」までの漢字や書体の変遷には,国が定める当用漢字の変化が大きく関係していることがわかった.
著者
樋口 敬二 渡辺 興亜 牛木 久雄 奥平 文雄 上田 豊
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.32, no.6, pp.129-146, 1970-11-30 (Released:2009-07-23)
参考文献数
38
被引用文献数
1 3

北アルプス, 剱沢圏谷において積雪域の調査を, 1967年5月26日~30日, 7月11日~15日, 9月26日~29日, 10月17日の4回にわたっておこない次のような結果を得た. (1) 9月29日における「はまぐり雪」の面積は, 4778m2で, 質量は0.9×104トンであり, これは, 5月29日にこの一帯に存在した67.5×104トンの1.3%に相当する. (2) コアドリルによる試料サンプリングの結果, はまぐり雪には3年の氷層しかないことがわかった. したがって, はまぐり雪は, 1964年に一度消失または極度に縮小したと考えられるが, そのような変動は, 冬期における雪の蓄積量と夏期の融雪量の変動によって説明できた. (3) 雪渓においても, 涵養域と消耗域とが存在することがわかった。この年における涵養域比は, 0.54であった. (4) 雪渓の氷層を構成する結晶粒は, 1963年に報告されているように大きな単結晶ではなく, 1.5mm以下であった. 結晶粒の結晶主軸の分布は, 表面では方向性をもたないのに, 最下部では, 基盤の最大傾斜の方向につよい集中性を示していた.
著者
土屋 巌
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.178-187, 1976-12-30 (Released:2009-09-04)
参考文献数
29
被引用文献数
1 2

1973, 74年の寒候期に, 東北地方では各地で記録的な豪雪となったが, 日本海に面した山地の極端に大量の積雪現象のあったことが, 1974年4月6日に実施した積雪の航空写真測量によって認められた.飯豊山の北股岳東斜面と御西岳南斜面, 月山南東斜面および鳥海山南斜面について作成した1万分の1積雪深図の中には, 径1km円内の平均が17mになる例もあり, また従来越年性残雪の見られた場所では30mを超え, 一部に50mに達する場合のあることがわかった.40°N付近の東北山地の南東斜面で日当りの良い場所の高度1,400~1,800mでは, 残雪越年臨界量は実測, その他の方法でほぼ30mであると認定できたが, 今回の豪雪は多年性の雪氷の原因となり, 小規模氷河現象発現のもととなった. たとえば, 鳥海山南斜面の “貝形小氷河” は, 45mを超す雪積深を示し, 1974年10月には最深部20m以上で越年し, 1975年夏秋の間に, 2夏継続して残った雪氷は, 大部分氷化して流動現象を発現し, 小型の山岳氷河としての性格を示した.
著者
大丸 裕武 梶本 卓也 小野寺 弘道 岡本 透 関 剛
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.5, pp.463-471, 2000-09-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
13
被引用文献数
1 3

1999年4月21日, 岩手県岩手郡松尾村籐七温泉付近の斜面で幅約100m長さ約300mの全層雪崩が発生した.雪崩が発生した斜面は谷地形の発達が悪い地すべり滑落崖で, アバランチシュートなどの常習的な雪崩の発生を示唆する地形は見られなかった.この雪崩は発生斜面における雪食地の拡大と堆積地における亜高山帯林の破壊という景観変化を伴っていた.空中写真判読と現地調査の結果, 同様の景観変化は八幡平の稜線部の鏡沼付近においても, 1986年頃に起きたことが明らかになった.これまで雪崩災害の報告が少かった八幡平地域においても, 頻度は低いものの比較的大規模な全層雪崩が発生していると考えられる.
著者
佐藤 清一 国包 勝栄
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.19-21, 1979-03-31 (Released:2009-09-04)
参考文献数
2
被引用文献数
1

岩木山 (1625m N40°39', E140°18') の東南斜面, 高度1,100~1,470mにあって冬の北西季節風の風かげになる大沢には, 吹きだまり型1年性雪渓がある.雪渓の調査を1974年, 1975年, 1976年に行ない次の結果を得た.1) 1974年8月20日における大沢雪渓は質量230kgであり, 8月21日に消滅した.2) 1975年7月16日における雪渓は標高1,160~1,403mの間にあり, 質量は6,100tであった.この雪渓は8月1日に480tとなり, 8月6日に消滅した.3) 1976年7月29日における雪渓は標高1,290~1,360mの間にあり, 質量は90tであった.これは1975年8月1日に存在した雪渓の20%に相当する.この雪渓は8月2日に消滅した.4) 7月下旬の融雪速度は積雪深で20cm/day, 水当量で120kg/m2・dayである. 2年雪は存在せず, 雪渓は全体が消耗域にある.
著者
関口 辰夫 丸井 英明 秋山 一弥
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.65, no.4, pp.377-387, 2003-07-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
23

平成12年6月18日,新潟県浅草岳でブロック雪崩災害が発生し4名の犠牲者を出した.ブロック雪崩は,浅草岳山頂北西側のヤスノ沢右支谷上流部,地すべり滑落崖の稜線付近で発生した.崩落した雪崩ブロックは筋状地形に沿って流下し,斜面下方の雪渓で犠牲者を直撃した.災害発生直後に撮影された空中写真の判読によれば,災害発生斜面の周辺では,ブロック雪崩が発生している斜面やブロック雪崩発生の可能性が高い斜面が多数みられた.判読されたブロック雪崩はいずれも災害発生斜面と同様に遷急線上から発生し,見通し角が30~42°,到達距離が90~350mとなり,到達距離や見通し角は,既往の全層雪崩や表層雪崩の見通し角や到達距離と同程度であった.また,周辺のブロック雪崩発生の可能性が高い斜面に存在する残雪の多くは,遷急線直上部に位置し,クラックやオーバーハングの形態がみられた.これらのブロック雪崩発生斜面やブロック雪崩発生の可能性が高い斜面の特徴から,ブロック雪崩は残雪が融雪やグライドにより遷急線から崩落して発生したと推定される.また,これらの斜面の多くは全層雪崩頻発斜面にみられる筋状地形が存在し,しかも,デブリ中に削剥物が多数混在していることからブロック雪崩は全層雪崩と同様に地形形成作用の一部を担っていると考えられる.これらを総合すると,調査地におけるブロック雪崩の発生過程は,以下の四つの段階を経るものと考えられる.すなわち,第一段階;降雪と積雪,第二段階;クラックの形成とグライドの発生,第三段階;全層雪崩の発生,第四段階;ブロック雪崩の発生,である.
著者
対馬 勝年 木内 敏裕
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.349-356, 1998-09-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

氷の摩擦が結晶面によって変わり,(0001)面が摩擦最小になることに着目し,氷の結晶面をコントロールすることによって,より滑る高速スケートリンクの開発を試みた.天然の氷筍が巨大単結晶になることに注目し,4800個の点滴装置をもつ氷筍育成装置が試作された.単結晶の氷筍1200本から(0001)面を切り出した.その氷片3.6万枚を,ショートトラックリンクに張り付けた.テストスケートによる滑走テストを行った.動摩擦係数は張り付け前のリンクに比べ22%も減少したことから,高速スケートリンクになったことが確認された.
著者
荒川 政彦
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.147-154, 2005-03-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
7

雪氷のフィールドを地球から太陽系の惑星・衛星にまで広げた時に現れる雪氷学の新たな研究課題を総称して宇宙雪氷学と呼ぶ.この課題の一つに土星の衛星系が持つサイズと平均密度の正の相関関係がある.この関係は,衛星の衝突集積時に起こる衝突分別過程で説明できる.この分別過程は,氷衛星の岩石含有率の差に起因する衝突破壊強度の違いにより引き起されると考えられる.
著者
島田 亙 古川 義純
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.64, no.3, pp.249-257, 2002-05-15 (Released:2009-08-07)
参考文献数
17
被引用文献数
1

過冷却水から成長する氷結晶は,最初は薄い円盤状に成長するが,やがて形態不安定を起こし,以後は樹枝状結晶として成長する.これらの氷結晶は厚さが非常に薄いため二次元的に扱われてきたが,現実の結晶は三次元である.そこでマッハツェンダー干渉計を用いて氷結晶の成長を“その場”観察した.得られた干渉縞から三次元的な形態を解析し,また形態不安定発生機構,円盤状・樹枝状の成長機構を調べた.円盤状結晶は二枚の基底面で挟まれており,基底面の成長が「界面キネティクス」によって律速されているのに対し,側面は「熱拡散」で律速されていた.また,形態不安定発生の臨界値は半径ではなく厚みであり,発生する揺らぎも円周上ではなく厚み方向の形状が先に非対称になることがわかった.一方,樹枝状結晶は一枚の平らな基底面と高次の曲面で構成されており,樹枝先端の成長速度は「熱・物質拡散」と「界面張力」を考慮した普遍法則と一致するが,先端曲率半径は一致しなかった.従って,過冷却水から成長する氷結晶の形態を理解するためには,上記の二要素に「界面キネティクス」を加えた三要素すべての考慮が必要であることが明らかになった.
著者
鈴木 啓助
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.185-196, 2000-05-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
107
被引用文献数
4 4

雪氷学会で最も新しい分科会である雪氷化学分科会の設立の経緯についてまとめるとともに, わが国の研究者による雪氷化学研究について紹介する.しかし, 氷コアの化学と南極における雪氷化学の研究例については言及していない.雪氷化学は地球環境科学として今後ともその研究の重要性が増大すると考えられる.そこで, 本稿では降雪-積雪-融雪-河川水の水循環の流れに沿って雪氷化学研究を概説し, 今後の課題についても提起する.
著者
石川 守 斉藤 和之
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.68, no.6, pp.639-656, 2006-11-25 (Released:2009-08-07)
参考文献数
136
被引用文献数
1

北半球全陸地の約6割に分布する凍土は,地球上最大規模の雪氷現象であり,様々な時空間規模での気候・水循環過程に関与していることは想像に難くない.しかしこれまで水文・気象学分野では凍土過程はブラックボックスとして取り扱われることが多かった.地球温暖化問題の顕在化を受け,これからは凍土過程に焦点を当てるとともに,凍土と水文・気象・気候学的現象との関わりを解明していくような研究を推進する必要がある.このような学際的な研究分野を創出するのに必要な知見として,本稿では凍土の構造や定義,活動層変動,活動層の水熱循環特性,活動層―大気間相互作用,流域規模から全球規模までのモデルを用いた凍土分布,などの研究成果をレビューする.将来的には,観測とモデルが有機的に結びつくような研究体制の構築が強く望まれる.これには,モデルを意識した広域的な観測体制を確立することや,観測で解明されつつあるプロセスを最適にモデル化することなどが含まれる.
著者
古川 巖
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.19, no.2, pp.50-53, 1957 (Released:2009-09-04)

それは子供の頃のことである.降りたての真白い雪を食べてみたくてしかたがなかった.一と握りの雪をみつめていると, あわてるように母が寄ってきて「雪の中には虫がいるから食べてはいけないよ」と云った.母は, かなり怖ろしい語気で虫のいる訳を話しつづけたようだったが, 話の内容はおぼいていない.真白い雪.こんなきれいの雪の中に虫なんかおるものか, 雪山へ登って水がほしいときなどには雪をすくって食べる.そのたび毎に「虫なんかいない」と心の中で, 母に言訳をしながら食べている.-これは大人になった今でもそうである.
著者
福沢 章
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.88-90, 1958

昨年の12月から今年3月にかけて, 雪崩事故を新聞記事から拾い, その時の天候を調べてみると低気圧が通過した後の強風や, 猛吹雪中に起ったものが多い, 天気の鮮しい解説は別の機会にゆづりたいが, その天気図を集録して見た. ( ) 内は死亡者・負傷者数.
著者
中井 専人 熊倉 俊郎
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.31-43, 2007-01-15
参考文献数
22
被引用文献数
2 1

2005/2006冬季は広範囲にわたり多量の降積雪が観測され,「平成18年豪雪」と命名された.12月から1月前半にかけて寒気が断続的に南下し,これに伴って強い降雪が続いた.この冬季のうち2005年12月から2006年2月までについて,10分間隔の気象庁全国合成レーダーデータを使用し,北海道,東北,北信越および中国地方の降雪分布を解析した.解析期間中は4地方とも降水系が入れ替わりながら継続的に出現し,特に線状降雪雲は期間を通して多く見られた.寒気南下の著しかった期間には渦状降雪雲が多く,その後これと入れ替わるように前線等による降雪が増加した.解析期間全体について積算した降雪は特定の地域に集中する分布を示した.北信越地方において降雪分布に最も寄与したのは線状降雪雲で,山沿いから内陸地域に集中する分布を示した.渦状降雪雲と前線などによる降雪は,平地周辺の降雪に多く寄与した.津南から奥只見にかけての降雪の集中については上越近辺の山地の影響が相関解析から示唆された.
著者
前 晋爾
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.107-113, 1975-09-30 (Released:2009-07-23)
参考文献数
8

純度の高い氷多結晶内に, 局所的照射を行い, 結晶粒内および粒界内に独立の内部融解像, すなわちチンダル像を形成し, その形態を観測した.結晶粒界に形成したチンダル像は, その形態が結晶粒内チンダル像と異なっていた.結晶粒内チンダル像には, perturbationを持たない円盤型チンダル像, あるいはperturbationのwave numberが6のチンダル像が存在するが, この実験で観測された粒界内チンダル像のperturbationのwave numberの最小は12であった.樹枝状になったチンダル像の樹枝間の角度を測定すると, 粒界内チンダル像では15°の倍数であることがわかった.この結果は底面に平行な樹枝間の角度が60°であることとかなり異なっているが, 粒界内チンダル像の形態はHiguchiにょって単結晶内で発見された, 底面に直交するチンダル像の形態と良く似ている.とがった先端をもつ粒界内チンダル像のperturbationの発生について, 粒内チンダル像と比較して論じた.
著者
松下 拓樹 権頭 芳浩
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.355-365, 2000-07-15
被引用文献数
2 2

雨氷発生の気候学的な地域特性を調べるため, 長野県を解析対象地域として, 雨氷発生日の特定を行い, その年平均日数の地域分布を求めた.<BR>雨氷は, 過冷却の雨滴が地物などにあたり氷になる着氷現象の一種で, 上空暖気層 (気温0℃以上) で雪片が融解して雨滴となり, それが地表付近の寒気層で冷されて過冷却の雨滴 (気温0℃以下の降水) となり発生する (melting ice process).その他, 大気全層の気温が0℃以下の場合 (supercooled warm rain process) でも発生することがあるが, ここではmelting ice processのみを対象とした.<BR>高層資料から上空暖気層の有無を, AMeDAS資料から地表付近の寒気層と降水の有無を調べ, 二つの気象条件を満たす日を雨氷発生日と定義した.過去20冬季 (1979年11月~1999年4月) について調べた結果, 雨氷の発生は3月に最も多く, 次いで12月に多いことがわかった.また, 最近6年間は雨氷発生日数が少ない傾向にある.<BR>次に, 地形因子値を用いた重回帰分析から, 年平均雨氷発生日数のメッシュマップを得た.その結果, 年平均雨氷発生日数は長野県中部と東部で多いことがわかった.特に標高との関係が強く, 山岳地域や高原地域で多くなる傾向が得られた.一方, 北部と南部の低標高地域では少ない傾向にある.
著者
前田 博司
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.383-387, 2007-05-15

2005年12月から2006年2月にかけての豪雪で,岐阜県において発生した被害について調査した.この地域では,人的被害は死者4人・重傷49人・軽傷36人,住家被害は全壊なし・半壊2棟・一部破損601棟・床上浸水なし・床下浸水7棟,非住家被害は451棟であった.被害状況は全国的な傾向とは異なり,高齢者の人的被害が特に多いとはいえず,建物の被害数も多かった.しかし,被害の程度は必ずしも甚大ではなかった.
著者
加藤 喜久雄 福田 正己 藤野 和夫
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.131-139, 1982

永久凍土中に存在する様々の氷体の安定同位体特性を明らかにするために, アラスカのバローならびにカナダ北部, マツケンジーデルタ地帯にあるタクトヤクタークにおいてピンゴ, 集塊氷, 氷楔, ツンドラ構造土を形成する氷体から採取した氷試料について酸素同位体組成を測定し, その結果について氷体の形成過程と水の起源との関連について検討した.<BR>氷体はその形成過程と水の起源を反映した独自の安定同位体特性を示し, したがって, 氷体の安定同位体特性から逆にその形成過程や水の起源に関する情報がえられることが明らかになった.また, 同じ種類の氷体について安定同位体地域特性の存在が指摘され, 水の起源のみならず形成過程についても地域により異なる可能性が示された.<BR>研究例のない, 凍上の際の水の動きに伴う安定同位体分別に関して一つの考えを示し, この考えがえられた結果により裏つげられることを示した.<BR>永久凍土中に存在する様々の氷体について, これまでほとんど測定例のなかった, 安定同位体特性の解明を試みた.<BR>連続的永久凍土分布地域に属し, ツンドラ地帯にあるカナダ北部のタクトヤクタークとアラスカのバローにおいて, 1974年7月と1977年7, 8月にピンゴ, 集塊氷, 氷楔, ツンドラ構造土を形成する氷体から試料を採取した.採取した試料について酸素同位体組成 (δ<SUP>18</SUP>O) を測定し, 氷体の形成過程や水の起源などと関連づけて氷体の酸素同位体特性について検討した.<BR>永久凍土中のいくつかの形態の氷体については, 凍上現象により形成されると考えられている.ところが凍上に伴う水の動きと安定同位体の分別作用との関係に関する研究例はない.そこで, 今日までにえられている知識から考えられる凍上により形成されたときの氷体におけるδ<SUP>18</SUP>Oの変動パターンを示した.<BR>ピンゴの氷体は凍上により形成されたと考えられている.そこで, 前述のδ<SUP>18</SUP>O変動パターンをピンゴの氷体におけるその変動パターンと対比したところ, 巨大なイブークピンゴ以外のピンゴのものとは良く一致した.したがって, 凍上に伴う水の動きと同位体分別作用との関係に関する考え方の正当性が示されたといえる.巨大なイブークピンゴについては, かなり大きな水体の凍結が関与しているものと考えられる.<BR>やはり凍上による形成が有力視されている集塊氷については, 凍上によるδ<SUP>18</SUP>O変動パターンとは必ずしも一致しなかった.冬に割れ目が生じ, そこへの流入した水の凍結, この繰り返しによりできたと考えられている氷楔に関して, この考えを支持する多様なδ<SUP>18</SUP>O値の存在がタクトヤクタークにおいて確認された.ところが, 氷楔が境界部凹地の下にあると考えられているツンドラ構造土の氷体では, バローのものにはδ<SUP>18</SUP>O値の多様性は認められなかった.このことは, 同じ種類の氷体について安定同位体地域特性の存在を指摘するものであり, 水の起源のみならず形成過程についても地域により異なっている可能性を示している.<BR>個々の氷体は独自の安定同位体特性を有し, この同位体特性は氷体の水の起源と形成過程を強く反映しており, それゆえ氷体の同位体特性からその水の起源や形成過程に関する情報がえられることが, 本研究で示されたといえる.