著者
深川 宏樹
出版者
一般社団法人 日本物理学会
雑誌
日本物理学会誌 (ISSN:00290181)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.34-38, 2017-01-05 (Released:2017-12-28)
参考文献数
13

物理法則の中には「ある汎関数に停留値を与える現象が起こる」と言い表せるものがあり,これらの総称を変分原理と呼ぶ.良く知られた例は,解析力学で教えられるハミルトンの原理である.散逸のない系の運動方程式は,作用汎関数に対する停留値問題を解くことで求まる.散逸のない完全流体に対しても,各流体粒子に付随した物理量の時間発展を見るラグランジュ描像では,質点系と同様にして運動方程式を得る.一方,空間に固定された点での物理量の時間発展を見るオイラー描像では,変分原理で完全流体の運動方程式を得るには,ラグランジュ座標が補助場として必要である.この定式化が通常の変分原理とは異なるため,補助場を巡って様々な議論がなされた.我々は,この定式化が「評価汎関数に停留値を与える最適制御を求める」という最適制御理論の枠組みの中にあることを見出した.物理系を制御入力のある力学系(制御系)とみなし,作用汎関数を評価汎関数とみなせば,最適制御理論はハミルトンの原理の自然な拡張となる.これを用いれば,完全流体の速度場は制御入力に,ラグランジュ座標は制御される状態変数に,ラグランジュ座標と速度場の関係は制御関数に,それぞれみなせる.次に,散逸のある物理系について述べる.粘性流体では粘性により力学的なエネルギーが熱エネルギーに不可逆的に変換され,単位時間あたりの散逸されるエネルギーの量は散逸関数で表される.これを考慮に入れた変分原理にオンサーガーの変分原理があり,ソフトマター分野では広く使われている.ただし,この変分原理では,散逸関数が二次形式に限られるなどの制限がある.我々は,オンサーガーの変分原理とは異なる方法として,先ほどの制御理論による枠組みを拡張して,散逸関数に制限がなく,より一般的な系を記述できる変分原理を提案した.散逸系ではエントロピーの時間発展は,他の物理量の時間発展に依存するが,エントロピーの値は他の物理量と時間の関数では与えられない.このような依存関係を非ホロノミック拘束条件と呼び,系を非ホロノミック系と呼ぶ.我々は,非ホロノミック系の最適制御問題を定式化し,これを散逸系に適用することで,散逸系の運動方程式を導出した.通常,ナビエ・ストークス方程式は,運動量保存の式に,圧力や応力の具体的な式を代入して導出される.さて,ネーターの定理によると,系に連続な対称性が存在すれば,これに対応する保存則が存在する.例えば,空間並進対称性は運動量保存則を,空間回転対称性は角運動量保存則をそれぞれ導く.したがって,物理系の運動方程式は保存則を導く対称性を満たすことが要請される.また,運動方程式が偏微分方程式で与えられた場合には,系の時間発展は初期条件と境界条件に依存し,物理系では境界値問題が良設定になることが求められる.更に,マクロな系では,エントロピーの時間発展が熱力学第二法則を満たす必要がある.我々は,物理系を制御系とみなしたときに,制御関数,汎関数,拘束条件を先に述べた物理系が持つ制約に矛盾しないように定める方法も与える.本稿の前半では,我々の変分原理を質点系の例で説明し,後半では,ニュートン流体や粘弾性体の運動方程式の導出をする.我々の方法は,既存の散逸系の変分原理にあった汎関数に課せられた制限がなく,より複雑な系の運動方程式の導出ができる.

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私の変分原理に対する信仰心を物理学会誌で解説しているので、見てくださいね。 https://t.co/NvgsBdM7il

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