著者
長谷川 眞理子
出版者
認知神経科学会
雑誌
認知神経科学 (ISSN:13444298)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3+4, pp.108-114, 2016 (Released:2017-03-25)
参考文献数
14

【要旨】ヒトの心理や行動生成の仕組みも、ヒトの形態や生理学的形質と同様に進化の産物である。ヒトの持つ技術や文明は、この1万年の間に急速に発展し、とくに最近の100年ほどの間には、指数関数的速度で変化している。しかし、ヒトの脳の基本的な機能が生物学的に獲得されたのは、霊長類の6,500万年にわたる進化の中で、ホモ属の200万年、そして私たちホモ・サピエンスの20万年の進化史においてである。進化心理学は、ヒトの進化史に基づいて、ヒトの心理や行動生成の仕組みの基盤を解き明かそうとする学問分野である。近年の行動生態学や自然人類学の知識を総合すると、ヒトという種は、他の動物には見られないほど高度に社会的な動物である。ヒトの社会性や共感性の進化的基盤は、もちろん、類人猿が持っている社会的能力にあるのだが、ヒトのこの超向社会性の進化的起源を解明するには、ヒトが類人猿の系統と分岐したあと、ヒト固有の進化環境で獲得されたと考えられる。ヒトには、他者の情動に同調して同じ感情を持ってしまう情動的共感と、他者の状態を理解しつつも、自己と他者とを分離した上で、他者に共感する認知的共感の2つを備えている。これらは、ヒトの超向社会性の基盤である。人類が他の類人猿と分岐したのは、およそ600万年前である。そのころから、地球の環境は徐々に寒冷化に向かい、とくにアフリカでは乾燥化が始まった。その後、およそ250万年前からさらに寒冷化、乾燥化が進む中、人類はますます広がっていく草原、サバンナに進出した。そこにはたくさんの捕食者がおり、食料獲得は困難で、食料獲得のための道具の発明と、密接な社会関係の集団生活が必須となった。この環境で生き延びていくためには、他者を理解するための社会的知能が有利となったに違いない。しかし、ヒトは、「私があなたを理解していることを、あなたは理解している、ということを私は理解している」というように、他者の理解を互いに共有する、つまり、「こころ」を共有するすべを見いだした。それが言語や文化の発達をうながし、現在のヒトの繁栄をもたらしたもとになったと考えられる。

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長谷川眞理子(2016)「進化心理学から見たヒトの社会性(共感)」『認知神経科学』、18(3・4)、pp.108-114。https://t.co/Dx82DVJoHr
https://t.co/L7i1jeKcic
『進化心理学から見たヒトの社会性(共感)』 (長谷川眞理子) など読みながら。 https://t.co/FaZDvwh3QR 一緒にいたくない人といるくらいなら、という感じでしょうか。便利になって協力し合う必要が無くなればそりゃあ。
@sagitta_Iuminis 優しさはえこひいきとイコールだから難しいところ、また鳥や人以外の哺乳類にも見いだせるから。 進化心理学で叶慧君がツィートした優しさという概念は互恵的利他行動モデルがあたるかな( ´-` ).。oO 着眼点はいい( *˙ω˙*)و https://t.co/2DIM0LtviJ
@_Erich_Fromm @tkmpkm1_mkkr 長谷川真理子先生の比較的近年の日本語のとか。 https://t.co/hBG3R9Cttv
シャーデンフロイデ(他人の不幸は蜜の味)は、なぜ人間に養われたシステムなんだろ?
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