著者
木村 武二 堂前 雅史
出版者
東京大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1990

1.雄マウスの性誘引因子:雄の包皮腺の分泌物中、分泌後に変化を受けて生成される有効物質の候補として50種以上の揮発性物質を同定し、また、その多くが排出尿に混入して排出されることが確認された。これによって、性誘引因子の化学的解析への展望が開かれた。2.休止期(明期)における雌マウスの性的反応:休止期における、雄の匂いへの反応には、他の雌個体の存在と、自身の交尾経験とが必要であり、活動期(暗期)とは反応性が異なることが明かとなった。3.雄マウスの父性行動:雄マウスの育児行動の発現には交尾経験が最重要であり、妊娠雌との同居や雌の出産を目撃することは、雌や新生児との直接的接触を妨げた条件下では効果を持たないことが明かとなった。4.生育環境がマウスの行動発達にもたらす影響:段階的に複雑化した環境に単独または複数のマウスを離乳時から入れ、諸行動の発達を比較した。その結果、環境の複雑化(豊富化)は、複数で生育したマウスにおいては探索行動の発達を促進したが、単独飼育群では豊富化の影響が見られないことが分かり、物的環境と社会環境との相互作用の重要性が明かとなった。5.ヤマネの冬眠開始機構:ヤマネの冬眠開始には低温の他に食物の不足が重要な要因である事が確認された。さらに、高温下でも、餌の制限によって低体温状態が誘起されるという、興味ある事実が明かとなった。6.野生齧歯類のコミュニケ-ション:アカネズミ及びヒメネズミは共に尿マ-キングをコミュニケ-ションに利用しているが、利用の仕方に種差があり、それには生態的な違いが反映されていることを示唆する結果が得られた。
著者
堂前 雅史 廣野 喜幸 佐倉 統 清野 聡子
出版者
和光大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

聞きとり調査では、主として、死生観に関する知識のいくつかについて、生産・流通・受容過程の情報を収集した。まず、日本では、脳死問題が現れる以前に「三徴候説」のような死の基準は法的には一定せず、むしろ法曹界は医者に一任することをもってよしとする傾向があったことが示唆された。以上より、1.死に関しては法律家による専門的知識の生産があったとしても、それが流通・受容過程に乗ったのではない、2.科学に関する事項に関しては、料学者による知識が法律家よりも優位に立って流通するシステムになっている、3.脳死概念登場以前は、むしろ一般の想定が法曹家の世界に流入したと見るべきことが判明した。次に、中国伝統医療では、生きている者のみであり、死にゆく者は除外されつづけた。よって、東洋医学では、死の判定基準を医者が設ける発想すら希薄であった.また、緻密な世界観・生命観に裏打ちされた中国伝統医学が日本に入る際、背後の生命観は捨象され、純粋に技術として吸収された。したがって、4.科学技術が受容される際は、技術のみを導入し、背後の科学思想を拒否することが可能であること、また、5.科学知識は人々の嗜好によって受容が拒否される、6.一般市民にただ科学知識を注入してもサイエンス・リテラシーは向上しない可能性があることが分かった。今日の科学技術においても、一般人を科学知識の生産者と見なしうる場合がある。しかし、こうした「素人理論」の流通機構は整備されていない。そこで、本研究では、吉野川可動堰問題を対象に、一般市民が科学知識の生産・流通に成功した例を分析し、7.一般市民の科学知識生産を促すシステムが整備される必要があることを明らかにした(廣野)。また、そうしたシステム整備の具体的提言として、8.市民科学がもたらす「公共空間の科学知識」媒体の必要を唱え、大学紀要の利用を提唱した(堂前)。