著者
萩原 綾乃 笠原 諭 髙橋 香央里 川口 潤 一戸 達也
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.325-331, 2020-10-31 (Released:2021-02-28)
参考文献数
20

成人期の発達障害は診断されないまま見過ごされているケースも存在し,就業や日常生活,周囲とのコミュニケーションに支障をきたすために生きづらさを感じている患者も多い.今回,口腔内の慢性疼痛治療のために当院に来院した患者で,診察時の様子から発達障害が疑われて精神科医への紹介を行ったところ,注意欠如・多動症(ADHD)と診断された症例を経験したので報告する.患者は50歳女性.下顎右側第二大臼歯の慢性疼痛を主訴に来院し,筋筋膜性歯痛の診断下に疼痛治療を開始した.診察室内では落ち着きがなく会話を順序立てることが困難で,破局的思考が強かった.口腔内処置時には,感覚過敏や指示の伝わりにくさも認めた.数カ月を経過しても疼痛治療への理解や協力が得られず,正確な疼痛評価も困難であったため,発達障害を疑い精神科医へ紹介した.患者はADHDと診断され,ADHD治療薬による薬物療法が開始された.現在,落ち着きのなさや会話を順序立てることの困難は徐々に改善傾向にあり,今後の疼痛治療への積極的な参加と疼痛改善が期待される.本症例のように,隠れた発達障害が治療の障害になっていることもある.適切な治療を行うためには,専門医への受診を促し,連携を図ることが重要であると示唆された.
著者
奥田 みのり 一戸 達也 金子 譲
出版者
THE JAPAN SOCIETY FOR CLINICAL ANESTHESIA
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.156-159, 2001-04-15 (Released:2008-12-11)
参考文献数
4

市販の未開封局所麻酔薬バイアル,全身麻酔薬バイアルおよび輸液ボトルのゴム栓の無菌性と,消毒用アルコール綿によるゴム栓清拭の意義について検討した.また,これらの薬剤が菌によって汚染された場合にどのような発育を示すのかについても観察した.バイアルのカバーを取り除いた直後のゴム栓には,細菌および真菌が検出されなかった.しかし,アルコール綿で清拭した後では,20%に真菌の集落が検出された.リドカインバイアルにstaphylococous aureusならびにCandidaalblcansを播種したところ,生菌数は経時的に減少した.しかし,プロポフォールバイアルや輸液ボトルに播種された菌は24時間以降有意に増加した.
著者
櫻井 学 宮脇 卓也 一戸 達也
出版者
朝日大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

鎮静薬,麻酔薬の鎮静・催眠作用はGABA受容体を介したものと考えられているが,鎮静薬,麻酔薬には中枢でのアデノシンを増加させる作用もある.本研究では,アデノシンによる神経伝達物質調整作用の健忘効果に与える影響を評価した.鎮静深度が浅い状態にアデノシンの前駆物質であるアデノシン三リン酸を投与すると鎮静作用とともに健忘効果が増強された.また,深鎮静時にアデノシン受容体の拮抗薬であるアミノフィリンを投与すると,鎮静効果とともに健忘効果も拮抗された.このことから,アデノシン受容体の刺激は鎮静効果の増強とともに健忘効果を増強し,アデノシン受容体の拮抗は鎮静効果と健忘効果を拮抗することが示された.
著者
髙橋 香央里 笠原 諭 福田 謙一 一戸 達也
出版者
日本口腔顔面痛学会
雑誌
日本口腔顔面痛学会雑誌 (ISSN:1883308X)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.85-90, 2021

<b>症例の概要</b>:40歳,女性.左側下顎第一小臼歯部に相当する舌側縁のピリピリ感に対して,薬物療法について説明したところ,過去の経験から薬物療法の実施に理解が得られなかった.そこで,舌側縁が歯に触れてしまうという訴えに対し,ソフトタイプのオーラルアプライアンスを作製したが,効果は装着時のみであった.<br>症状が長期に渡っていたことや,診察中に注意欠如多動性障害(ADHD)の行動所見を認めたためADHD尺度によるスクリーニング検査を行ったところADHDの可能性が示された.患者の希望もあり精神科医へ加療を依頼したところ,身体症状症と混合型ADHDの診断がなされた.診断により,日常生活で自覚している自責感が減り薬物療法を受け入れることが可能となり抗うつ薬の内服により疼痛軽減の効果が得られて経過良好である.<br><b>考察</b>:舌痛症患者の中には難治性を呈することもあり歯科領域を超えた加療も必要となることがある.本症例ではADHDスクリーニングを行い,医科への紹介となった.今回の結果から今後も難治性を呈する舌痛症患者の評価の一つとして検討していく必要性が考えられた.<br><b>結論</b>:舌痛症の診断をしていくうえでADHDスクリーニングを今後検討していく必要性及び精神科医との連携が重要であると思われた.
著者
武者 篤 一戸 達也 新谷 誠康 布施 亜由美 鈴木 奈穂 福島 圭子 大串 圭太 五味 暁憲 黒田 真右 辻野 啓一郎 横尾 聡
出版者
一般社団法人 日本障害者歯科学会
雑誌
日本障害者歯科学会雑誌 (ISSN:09131663)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.154-159, 2018

<p>mTOR阻害剤のエベロリムス(アフィニトール<sup>®</sup>)は結節性硬化症に伴う腎血管筋脂肪腫に有効であるが,口腔粘膜炎が高頻度に発症することが報告されている.今回,エベロリムスの内服治療を行うことになった結節性硬化症患者の口腔管理を経験したので報告する.</p><p>患者は20歳,男性.既往として結節性硬化症,知的能力障害,てんかん,腎血管筋脂肪腫がある.腎血管筋脂肪腫に対する治療としてエベロリムス10mgを内服開始するにあたり,泌尿器科主治医より歯科受診を勧められ当施設を受診した.口腔粘膜に異常所見は認めないが清掃状態は不良であり,頰側転位している上顎左側第二小臼歯鋭縁による口腔粘膜炎発症が懸念された.第二小臼歯の予防的な抜歯と定期健診および口腔衛生指導を行うこととした.頰側転位している第二小臼歯は6カ月後に抜去した.その後数回にわたり口腔清掃不良の時期と一致して軽度な口腔粘膜炎(grade 1)の発症があったものの食欲減退はなく,重篤な口腔粘膜炎発症によるエベロリムスの減量や中止にいたることはなかった.抜歯後も継続して月1回の定期健診を行っているが,口腔粘膜炎が重篤化することはなく,エベロリムス内服治療へ影響することはなかった.</p><p>本症例は口腔粘膜炎を最小限に抑えることができ,重篤な口腔粘膜炎が原因の内服治療の中止や腎血管筋脂肪腫の増大を起こすことなく経過している.これは主治医との連携と,定期健診や口腔衛生指導が適切に行えたことによると考えられた.</p>
著者
福田 謙一 笠原 正貴 西條 みのり 林田 眞和 一戸 達也 金子 譲
出版者
日本臨床麻酔学会
雑誌
日本臨床麻酔学会誌 (ISSN:02854945)
巻号頁・発行日
vol.25, no.7, pp.696-701, 2005 (Released:2005-11-29)
参考文献数
4
被引用文献数
1

歯科治療行為による知覚神経障害は決して少なくない. 歯科領域の知覚神経障害は, 日常生活で容易に不快感を認識できるため, 患者を長期にわたって苦しめることがあり, 医事紛争に発展するケースもある. ここでは, 東京歯科大学水道橋病院歯科麻酔科・口腔顔面痛みセンターに通院している知覚神経障害患者のうち, 発症が医原性で医事紛争に発展した症例のなかから5症例 (症例1: インプラント埋入, 症例2, 3: 根管充填処置, 症例4, 5: 抜歯処置) を取り上げ, 歯科治療後知覚神経障害による医事紛争の現状と歯科臨床における問題点について報告した. 歯科治療における事前説明や事後対応は, いまだ十分に確立されていないのが現状であった.