著者
多川 斉 一色 高明 山門 実
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.398-402, 1978-04-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
18

急性単球性白血病はときに低カリウム血症を伴うことが知られている.われわれもその1例を経験し,低カリウム血症の発生機序を検討した.症例は61才,女,発熱,リンパ節腫脹,出血傾向,肝脾腫あり.白血球10.1万,単球様白血病細胞が末梢血で89%,骨髄で92.6%を占めた.血清Kは常2.9mEq/l以下.リゾチーム活性は血清357,尿3111μg/m1と高値であつた. VCMP療法3クールにて完全寛解となつた.リゾチーム活性は血清,尿ともに著減したが,血清Kは低値のままであつた.カリウム負荷により尿中K排泄が増加し,またナトリウム摂取を制限しても尿中K排泄が減少しないことから,近位尿細管あるいはHenle係蹄におけるカリウム再吸収の抑制が示唆される.トリアムテレン投与に対する反応は正常であり,遠位尿細管のNa・K交換部位はintactと判断された.また,血漿レニン活性,アルドステロン値が正常であり,スピロノラクトンが無効であることから,レニン・アルドステロン系の関与は否定された.以上から,崩壊した単球に由来する大量のリゾチームが近位尿細管で再吸収されたために,その部位のカリウム再吸収機構に傷害を与え,カリウム喪失をきたしたものと結論した.なお,その他の尿細管機能の異常は随伴しなかつた.