著者
金 珉智 小原 愛子 權 偕珍 下條 満代
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.7, pp.40-49, 2019

本稿では、既存の研究等を用いて特別支援教育における制度・政策の変遷について国際的比較を行い、日本の特別支援教育における課題を見出すことを目的とする。学校教育法の一部改正により、2007年からこれまでの特殊教育が変わり、特別支援教育が本格的に実施された。特別支援教育は、日本を含め、世界各国で障害者の権利に関する条約を基に実施されている。日本では、インクルーシブ教育を行うための人的・物的な環境整備等が十分に行われず、理念が先走ったインクルーシブ教育導入への危険性があり、特別支援教育の先進国であるイギリスとイタリアの例を参考にしながらインクルーシブ教育の現状を丁寧に分析していく必要がある。一方、障害児に対する特別支援教育の制度及び政策は、国によって体制が異なるとはいえ、インクルーシブ教育を目指す目標は同一であり、学びの場である学校は特別支援教育の制度において中心的機能をしていることが示された。
著者
下條 満代 照屋 晴奈 島内 梨沙 天久 亜衣奈
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.9, pp.52-65, 2020

小中学校の通常学級に在籍する多くの児童生徒が学習上または生活上の支援を必要としているとされている。太田・井上・金(2018)は,日本における SLD傾向のある児童生徒へ指導・支援方法を典型化して課題を明らかにした。しかしながら,いまだ通常学級において,支援を要する児童生徒は増加している。そこで本研究では,諸外国におけるSLD傾向のある子どもに対する指導・支援に関する文献を収集し,その傾向について明らかにすることを目的とした。その結果,先行研究において日本では指導・支援の中心が,児童生徒にとって学習しやすくする事前の工夫を行うものであるのに対し,諸外国では学習自体を楽しむための児童に対する心理面へのアプローチや,多様な感覚を通して学べるようにする等,学び方の工夫が中心となっていることが明らかとなった。このように,個の特性に応じた学習方法の提供や児童生徒のモチベーションを上げる等の心理面へのアプローチを伴う指導・支援は,SLD傾向の児童生徒だけでなく,学習意欲のない児童生徒や不登校など,様々な背景をもった子どもに対して効果的な指導法となりうるのではないか。そして,個の特性に応じた学習方法を提供することは昨今求められているインクルーシブ教育の実現に繋がるであろう。
著者
下條 満代 照屋 晴奈 權 偕珍
出版者
一般社団法人 Asian Society of Human Services
雑誌
トータルリハビリテーションリサーチ (ISSN:21881855)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.39-50, 2020

In order to form a symbiotic society in Japan and to realize inclusive education, which is an idea to learn together regardless of disability, it is urgent to actively hire teachers with disabilities even at school. However, since research on faculty with disabilities is said to have been conducted since the fiscal year 2019 onward, the actual situation has been investigated. And the current situation and issues regarding the employment of faculty with disabilities are almost unclear.Therefore, in this study, based on the viewpoint of improving the QOL (Quality of Life) of teachers with disabilities, we analyze the previous studies related to the employment of persons with disabilities at schools in Japan, and clarify the current situation and academic issues regarding the employment of teachers with disabilities. As a result of the analysis, many previous studies have been found in the area of "employment stability", but they also point out the current situation and it was revealed that further studies are needed. Moreover, in the "physical and mental health" area and the "life stability" area, there were very few cases applicable, and it became clear that research was not progressing.
著者
下條 満代
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.8, pp.67-81, 2020

現在日本の教育現場においては,教員の多忙化や児童生徒の問題行動の増加等が問題とされている。その解決策として「地域とともにある学校」である「コミュニティ・スクール(学校運営協議会を設置した学校)」が設置されている。しかしながら,コミュニティ・スクールの全国的な導入率には差があり,人的・物的資源や体制等についても実態がさまざまである。本研究は,文部科学省の答申等を中心とした文献研究を中心に地域コミュニティの再定義を行い,その地域コミュニティの教育資源としてのコミュニティ・スクールの役割と課題について明らかにすることを目的とした。本研究により,コミュニティ・スクールは地域との連携という学校運営(スクール・ガバナンス)の面においては成果を挙げているが,教職員の勤務負担軽減等の学校支援(ソーシャル・キャピタル)の面においては課題があることが示唆された。よって,今後,コミュニティ・スクールが持続可能なシステムとして推進していくためにも,予算の確保や地域の教育資源としての人材育成等が重要である。
著者
船越 裕輝 照屋 晴奈 下條 満代 鳩間 千華
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.8, pp.30-39, 2020

本研究は,学校教育法の改正により,盲・聾・養護学校を特別支援学校へ移行した,2007年から2019年までに発表された研究論文を対象に聴覚障害教育の現状と課題を明らかにする。その観点として,聴覚障害教育におけるインクルーシブ教育推進の課題を観点に明らかにしたい。更に,新学習指導要領における聴覚障害教育の自立活動の現状と課題も明らかにすることを目的とした。その結果,多くの研究で「教師の専門性の課題」が指摘されていた。また,新学習指導要領が目指す「主体的・対話的な深い学び」を推進するためには,聴覚障害教育において自立活動は重要な領域となるが,そこでも教師の専門性の課題があることが分かった。今後,聴覚障害教育現場において,IEATなどの尺度を用いてインクルーシブ推進の現状を客観的に評価しながら,目の前にある課題や成果を明確に評価することが解決の1つに繋がるのではないかと考える。
著者
矢野 夏樹 下條 満代 權 偕珍
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.6, pp.86-92, 2019

自閉スペクトラム症(ASD)は、限局された興味関心や常同的・反復的な行動と社会的コミュニケーションや社会的相互作用の障害によって特徴づけられる神経発達症群の中の一つである。ASD者の就労しようとした際、対人関係にニーズを抱え、最終的に離職してしまうというケースが非常に多い。ASD者の就労を支援するためには、学校教育段階からのキャリア教育と職場でのASDに対する特性の理解に基づくマネジメントが必要となる。キャリア教育と職場でのマネジメントの双方を効果的に連続させていくためには一貫したアセスメントに基づいた個々人の特性把握を行わなければならない。そこで、本研究では、ASD者の特性と就労状況について概観し、キャリア教育に基づいて、学校教育段階から就労を見据えた実態把握と支援について考察した。韓, 沼館, 呉屋ら(2018)が開発したScale C<sup>3</sup>をはじめとして評価尺度に基づいた、社会的コミュニケーションについての支援や自身のこだわりについて自己理解を深めることが重要である。
著者
下條 満代 照屋 晴奈 大城 政之
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
Journal of Inclusive Education
巻号頁・発行日
vol.6, pp.56-64, 2019

次期学習指導要領(2017年3月公示)において文部科学省は、「社会に開かれた教育課程」を重視すると示し、各学校における「カリキュラム・マネジメント」の確立や、幼・小・中・高等学校の教育課程との連続性を重視した。そこで本研究では「カリキュラム・マネジメント」について文献研究を行い、その観点から特別支援学校と特別支援学級、ついては知的障害者教育の教育課程を中心に、課題について明らかにすることとした。結果として、①カリキュラム・マネジメントの定義及び内容の具体化(体系化)、②特別支援教育における教育課程編成及びカリキュラム・マネジメントの具体化の2点の課題が明らかとなった。特に後者に関し「特別支援学校」「特別支援学級」と大きな枠組みで捉えるのではなく、今後は各教育現場に合わせた教育課程編成及びカリキュラム・マネジメントの内容の具体化を図る必要があると考える。また、知的障害者教育についてはその障害特徴により、より独自性が求められるため現時点の定義や抽象的な内容で述べることが難しい。次期学習指導要領の移行期間である今だからこそ、更なる具体化が早急に必要であることが考えられる。
著者
照屋 晴奈 矢野 夏樹 下條 満代 韓 昌完
出版者
一般社団法人 アジアヒューマンサービス学会
雑誌
ジー
巻号頁・発行日
vol.5, pp.53-60, 2018

韓・沼館・呉屋(2018)が開発したScale for Coordinate Contiguous Career (Scale C<sup>3</sup>)は、学校や職場において観察することのできる、対象者の実態把握に関連する評価項目を仮説に基づいて、構造化した尺度である。本研究では、Scale C<sup>3</sup>自己評価用(高校生版)を作成し、Cronbach's α係数を用いて尺度の信頼性の検証を行った。また、得られたデータから生徒の傾向や現時点における尺度の有用性について考察することを目的とした。信頼性の検証結果、全項目及び全領域でα>0.700となり、高い信頼性が確認された。特に全項目においては、α=0.972と非常に高い値となり、尺度全体の信頼性が検証された。また、パス解析を用いた検証にて、「パーソナリティ」から「キャリア」の「人間関係形成能力」「自己理解・自己管理能力」を媒介し、「課題対応基礎能力」「キャリアプランニング能力」に影響を与える可能性があることが示された。カットオフ値についてもその結果から、協力校の生徒の傾向も見ることができた。Scale C<sup>3</sup>を使用し、学校や職場において、観察する対象者の実態を構造的に捉えることのできる可能性があることが示された。今後は、教員の客観的評価ができるScale C<sup>3</sup>を含め、データを増やしカットオフ値の設定や、パス解析にて様々な仮説モデルを検証していくことが求められる。