著者
松浦 友紀子 伊吾田 宏正 宇野 裕之 赤坂 猛 鈴木 正嗣 東谷 宗光 ヒーリー ノーマン
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.61-69, 2016 (Released:2016-07-01)
参考文献数
19
被引用文献数
2

野生動物管理のための個体数調整捕獲が各地で行われているが,十分な成果を上げている例は少ない.その要因の一つとして,野生動物管理者や捕獲の担い手の育成不足があげられる.そこで,野生動物管理の担い手像を考えるシンポジウムを2015年2月14日に札幌で開催したので,その内容を報告する.シンポジウムでは,イングランド森林委員会で国有林のシカ類管理を統括しているノーマン・ヒーリー(Norman Healy)氏が,英国の野生動物管理者の教育システム,シカ猟認証制度(Deer Stalking Certificate)の概要及びシカ類を資源利用して得た収入を森林管理に還元する仕組み等について基調講演を行った.北海道の取組みについては,人材育成の必要性は認識されていたものの,狩猟者の育成にとどまり十分には為されてこなかった実情について報告した.また,現状ではニホンジカ(Cervus nippon)の個体群管理の目標達成が困難であること,その要因として実行体制と人的資源の欠如があることを指摘した.さらに,今後のニホンジカ管理においては,趣味の狩猟者である「ハンター」と,個体数調整捕獲に職業として従事する「カラー」を明確に区分し,カラーを捕獲プログラムの中で活用する体制を作る必要性を指摘した.これらを踏まえて,具体的な人材育成の取り組みとして,2015年度から開始が予定される新しいシカ捕獲認証について話題提供をした.この認証制度は,イングランドのDeer Stalking Certificateをモデルとしながら日本向けに改善したものである.以上から,捕獲をコーディネートできる人材やカラーなど,日本の野生動物管理を担う人材育成の仕組みを提案した.
著者
中下 留美子 鈴木 彌生子 林 秀剛 泉山 茂之 中川 恒祐 八代田 千鶴 淺野 玄 鈴木 正嗣
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-48, 2010-06-30
参考文献数
20

2009年9月19日,乗鞍岳の畳平(岐阜県高山市)で発生したツキノワグマ(<i>Ursus thibetanus</i>)による人身事故について,加害個体の炭素および窒素安定同位体比による食性解析を行った.体毛の炭素・窒素安定同位体比は,他の北アルプスの自然個体と同様の値を示した.さらに,体毛の成長過程に沿って切り分けて分析を行った結果についても,過去2年間の食性履歴において残飯に依存した形跡は見られなかった.当該個体は,観光客や食堂から出る残飯等に餌付いた可能性が疑われていたが,そのような経歴の無い,高山帯を生息圏の一部として利用する個体である可能性が高いことが明らかとなった.<br>
著者
松山 亮太 淺野 玄 鈴木 正嗣
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.59-63, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
8

これまでに著者らは,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)-イヌ(Canis lupus familiaris)間におけるセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)の交差感染の有無を明らかにすることを目的に,これらの宿主動物に由来するセンコウヒゼンダニ集団について遺伝学的研究を実施してきた。その結果,タヌキ-イヌ間の交差感染に関する遺伝学的証拠を得ることができた。しかし同時に,狭い調査地域においてセンコウヒゼンダニ集団が2つの遺伝的グループに明確に区分されることも明らかとなった。この現象が生じた要因を考察すると,「イヌや野生動物の移動によりダニの移入が生じた可能性」,「センコウヒゼンダニの行動生態に原因がある可能性」,「宿主-センコウヒゼンダニ間の相互作用により,センコウヒゼンダニの遺伝的差異が形成された可能性」が考えられた。それぞれの可能性を検証するには,疫学研究やセンコウヒゼンダニの生態学的研究に加え,disease ecologyの枠組みの中で研究を行う必要がある。
著者
池田 敬 白川 拓巳 鈴木 正嗣
出版者
Association of Wildlife and Human Society
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.13-20, 2018 (Released:2018-10-04)
参考文献数
30

We compared the attractiveness of five baits (mineral salt, corn, hay cube, rice bran, and Japanese cedar cutting seedling) to sika deer (Cervus nippon) and wild boar (Sus scrofa). We conducted four feeding experiments using camera traps from August 16 to November 19, 2017. To evaluate the attractiveness of the five baits, we counted the number of animals photographed per hour for each bait. We then evaluated the appearance patterns of deer and boar to feeding sites and clarified the influence of the appearance of each mammal on other mammal. Deer strongly preferred mineral salt (P < 0.001), while boar preferred rice bran (P < 0.01). In addition, deer and boar showed similar appearance patterns. To capture only deer, mineral salt would be the most effective bait.
著者
池田 敬 野瀬 紹未 淺野 玄 岡本 卓也 鈴木 正嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.141-149, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
33

To reduce the population size of sika deer, efficient operation of snare traps is necessary. However, there have been few studies on the sika deer’s response to snare trap capture. We aimed to compare sika deer’s vigilance behavior and stay time at the trap sites before and after snare trap captures. We also monitored the frequency of appearance at trap sites and in the surrounding area. This study was conducted from August 2019 to February 2020 to collect data on the vigilant behaviors, stay time, and frequency of appearance in photographs. We found that vigilance behavior during the capture phase was higher than before the capture phase and remained high afterwards. Although the frequency of appearance in photographs at the capture sites was highest before the capture phase, no significant differences were detected in the frequencies at the surrounding sites throughout the study period. This result indicates that it would be desirable to relocate snare traps and bait from trap sites to the surrounding areas after capturing sika deer in the target area. Consequently, it is possible that snare traps can continue to be used to capture sika deer and effectively reduce their population.
著者
伊吾田 宏正 松浦 友紀子 八代田 千鶴 東谷 宗光 アンソニー デニコラ 鈴木 正嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.103-109, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
13
被引用文献数
2

2014年の鳥獣保護管理法の改正により,条件付きでニホンジカ(Cervus nippon)の夜間銃猟が可能となったが,実施にあたっては,入念な計画,戦略,戦術が不可欠であり,無計画,無秩序な夜間銃猟はシカの警戒心を増大させ,むしろ捕獲を困難にする可能性が懸念される.そこで,効果的な夜間銃猟実施のための基礎情報を収集することを目的に,夜間のシカ狙撃に多数の実績を持つホワイトバッファロー社において,夜間を含む狙撃の実射訓練に参加した.2016年8月5日から7日まで,3日間でのべ約10.0時間の射撃場における射撃訓練及び試験,のべ約4.5時間の移動狙撃訓練コースにおける射撃訓練,のべ約4.5時間のシカ実験区におけるシカ狙撃実習,のべ約2.5時間の主に装備に関する室内講義,のべ約1.5時間以上の質疑応答を含む,合計約23時間以上の訓練を受けた.サウンドサプレッサー,光学スコープを装着したヘヴィーバレルの5.56 mm口径のライフルを用いて,100 m以下の様々な距離の標的およびシカを狙撃した.夜間狙撃はシカ管理の最終手段であり,射手はシカ個体群の警戒心を増大させないように,群れを全滅させることが求められる.そのためには,群れの全てのシカの脳を迅速に狙撃すべきであるが,それには徹底的な訓練が必要である.今後,我が国で夜間銃猟を安全かつ効果的に推進していく上で,捕獲従事者に高度な射撃技能ならびに野生動物管理に関する総合的な知識・技術を修得させるためのプログラムの構築が不可欠である.
著者
高橋 裕史 梶 光一 吉田 光男 釣賀 一二三 車田 利夫 鈴木 正嗣 大沼 学
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.45-51, 2002 (Released:2008-07-23)
参考文献数
13
被引用文献数
8

洞爺湖中島において移動式シカ用囲いワナの一種であるアルパインキャプチャーシステム(Alpine Deer Group Ltd., Dunedin, New Zealand)を用いたエゾシカ Cervus nippon yesoensis の生体捕獲を行った.1992年3月から2000年2月までに,59日間,49回の捕獲試行において143頭を捕獲した.この間,アルパインキャプチャーの作動を,1ヶ所のトリガーに直接結びつけたワイヤーを操作者が引く方法から,電動式のトリガーを2ヶ所に増設して遠隔操作する方法に改造した.その結果,シカの警戒心の低減およびワナの作動時間の短縮によってシカの逃走を防止し,捕獲効率(捕獲数/試行数)を約1.1頭/回から3.5頭/回に向上させることができた.
著者
島村 咲衣 安藤 正規 鶴田 燃海 永田 純子 淺野 玄 大橋 正孝 鈴木 正嗣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
47

近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.
著者
寺尾 愛也 日野 貴文 鈴木 正嗣 近藤 誠司 吉田 剛司
出版者
Association of Wildlife and Human Society
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.41-50, 2016 (Released:2017-06-17)
参考文献数
24

In Japan, the use of firearms to culling in areas surrounding the main road would be an effective option to control overabundant deer. This culling practice is linked to the laws and regulations regarding road and traffic; however, wildlife managers lack knowledge of these laws and regulations. We have identified Japanese regulations and conditions, and have focused on problems and prospects of the existing laws on sharpshooting, which was practiced at the National Route 453 in Shikotsu, Hokkaido, as a model case. Under these laws and regulations, strict safety control by blocking traffic and attending to public interests for culling is required in order to engage in culling around the road. However, the Road Law and Road Traffic Law do not specifically support road usage for culling intended for wildlife population control. Consequently, those laws require a viewpoint of wildlife management to solve conflicts that occur in and around the road.
著者
淺野 玄 的場 洋平 池田 透 鈴木 正嗣 浅川 満彦 大泰司 紀之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.s・ix, 369-373, 2003-03-25
被引用文献数
6 28

1999-2000年に北海道で捕獲されたメスのアライグマ(Procyon lolor)242個体について,胎盤痕または胎子を分析して繁殖学的特性を調査した.捕獲個体の齢構成は,0歳69個体(29%), 1歳71個体(29%)および2歳以上102個体(42%)であった.1歳の平均妊娠率は66%で,2歳以上の平均妊娠率96%と比べて有意に低値であった.一腹産子数は1頭から7頭で,平均産子数は1歳で3.6頭,2歳以上では3.9頭であった.平均産子数には1歳と2歳以上とで有意差は認められなかった.北海道の移入アライグマの繁殖期は,2月が交配のピークで3月から5月が出産期であると推定された.しかし,7月に2頭の妊娠個体が確認されたことから,夏期にも繁殖することが明らかとなった.北海道のアライグマの繁殖ポテンシャルは北米における報告と同程度であり,個体数増加の主要因であると考えられた.夏期の箱罠捕獲における0歳獣の捕獲圧は,1歳以上の個体と比較して相対的に低いことが示唆された.移入アライグマの個体数を減少させるためには,個体数が多い0歳獣の捕獲圧を高める必要があり,効率的な捕獲方法の検討が求められる.
著者
高橋 裕史 梶 光一 吉田 光男 釣賀 一二三 車田 利夫 鈴木 正嗣 大沼 学
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.45-51, 2002-06-30
被引用文献数
6

洞爺湖中島において移動式シカ用囲いワナの一種であるアルパインキャプチャーシステム(Alpine Deer Group Ltd., Dunedin, New Zealand)を用いたエゾシカ Cervus nippon yesoensis の生体捕獲を行った.1992年3月から2000年2月までに,59日間,49回の捕獲試行において143頭を捕獲した.この間,アルパインキャプチャーの作動を,1ヶ所のトリガーに直接結びつけたワイヤーを操作者が引く方法から,電動式のトリガーを2ヶ所に増設して遠隔操作する方法に改造した.その結果,シカの警戒心の低減およびワナの作動時間の短縮によってシカの逃走を防止し,捕獲効率(捕獲数/試行数)を約1.1頭/回から3.5頭/回に向上させることができた.
著者
中村 幸子 岡野 司 吉田 洋 松本 歩 村瀬 豊 加藤 春喜 小松 武志 淺野 玄 鈴木 正嗣 杉山 誠 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.15-20, 2008-03
被引用文献数
2

Bioelectrical impedance analysis(BIA)によるニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)(以下,クマ)の体脂肪量FM測定法確立を試みた。クマを横臥位にし,前肢および後肢間の電気抵抗値を測定した。その値をアメリカクロクマに対する換算式に当てはめ,クマのFMを求めた。2005年9月から翌年の1月までの間,飼育下クマを用いて体重BMおよびFMを測定したところ,BMとFMの変動は高い相関(r=0.89)を示した。よって,秋のBM増加はFM増加を反映していること,ならびにBIAがクマのFM測定に応用可能であることが示された。飼育クマの体脂肪率FRは,9月初旬で最も低く(29.3±3.3%),12月に最も高い値(41.6±3.0%)を示した。彼らの冬眠開始期までの脂肪蓄積量(36.6kg)は約252,000kcalに相当し,冬眠中に1,900kcal/日消費していることが示唆された。一方,2006年6月から11月までの岐阜県および山梨県における野生個体13頭の体脂肪率は,6.9〜31.7%であった。野生個体のFRは飼育個体に比較して低かった。BIAを用いて,ニホンツキノワグマの栄養状態が評価でき,この方法は今後彼らの環境評価指標のツールとしても有用であると思われる。