著者
中下 留美子 鈴木 彌生子 林 秀剛 泉山 茂之 中川 恒祐 八代田 千鶴 淺野 玄 鈴木 正嗣
出版者
The Mammal Society of Japan
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.43-48, 2010-06-30
参考文献数
20

2009年9月19日,乗鞍岳の畳平(岐阜県高山市)で発生したツキノワグマ(<i>Ursus thibetanus</i>)による人身事故について,加害個体の炭素および窒素安定同位体比による食性解析を行った.体毛の炭素・窒素安定同位体比は,他の北アルプスの自然個体と同様の値を示した.さらに,体毛の成長過程に沿って切り分けて分析を行った結果についても,過去2年間の食性履歴において残飯に依存した形跡は見られなかった.当該個体は,観光客や食堂から出る残飯等に餌付いた可能性が疑われていたが,そのような経歴の無い,高山帯を生息圏の一部として利用する個体である可能性が高いことが明らかとなった.<br>
著者
淺野 玄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.4, pp.111-113, 2016-12-22 (Released:2017-06-09)
参考文献数
3

公共事業として行われる傷病鳥獣救護事業では,「種の保存法」で国内希少野生動植物種(国内希少種)に指定された傷病個体が救護されることがある。「種の保存法」の目的から,野生復帰は不可能と判断された国内希少種の傷病個体は,種の保存に資さない限りは致死が認められていないものと解釈される。野生復帰不可能な国内希少種を保護している傷病鳥獣救護施設では,種の保存を目的とした保護増殖や生物多様性保全を目指した啓発普及などに野生復帰不能な個体を活用する努力が行われているが,予算,人手,飼養設備などには限界がある。また,増え続ける野生復帰不能な国内希少種は,傷病鳥獣救護事業や保護増殖活動そのものを圧迫するだけではなく,終生飼養される個体の福祉やQOLの低下などが現実問題として生じている。苦痛が大きかったり致死が明らであったり,獣医学的にも福祉の観点からも安楽殺処分が最善の策であると結論づけざるを得ない事例や,同時多発的に傷病が発生した場合のトリアージなどについても,国内希少種の傷病個体の取り扱いに関して明確な指針は整理されていないのが現状である。野生復帰不可能な希少種に関わる課題について整理を行い,未来思考的に保全と福祉の両立に配慮したガイドラインの整備が求められている。
著者
松山 亮太 淺野 玄 鈴木 正嗣
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.59-63, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
8

これまでに著者らは,タヌキ(Nyctereutes procyonoides)-イヌ(Canis lupus familiaris)間におけるセンコウヒゼンダニ(Sarcoptes scabiei)の交差感染の有無を明らかにすることを目的に,これらの宿主動物に由来するセンコウヒゼンダニ集団について遺伝学的研究を実施してきた。その結果,タヌキ-イヌ間の交差感染に関する遺伝学的証拠を得ることができた。しかし同時に,狭い調査地域においてセンコウヒゼンダニ集団が2つの遺伝的グループに明確に区分されることも明らかとなった。この現象が生じた要因を考察すると,「イヌや野生動物の移動によりダニの移入が生じた可能性」,「センコウヒゼンダニの行動生態に原因がある可能性」,「宿主-センコウヒゼンダニ間の相互作用により,センコウヒゼンダニの遺伝的差異が形成された可能性」が考えられた。それぞれの可能性を検証するには,疫学研究やセンコウヒゼンダニの生態学的研究に加え,disease ecologyの枠組みの中で研究を行う必要がある。
著者
淺野 玄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.5-8, 2010 (Released:2018-05-04)
参考文献数
6

安楽死とは,苦痛がない,または苦痛が最小限の死である。わが国では動物愛護管理法で動物の人道的な殺処分に関する規定がなされているが,対象は家庭動物,展示動物,産業動物(畜産動物),実験動物などの人の飼養に関わる動物であり,野生動物の殺処分について定める法律は整備されていない。しかし,現実的には,被害軽減のための個体数調整,特定外来生物の防除,野生動物救護,調査・研究などにおいて,野生動物の殺処分が必要な場面は多い。野生動物の命を奪うにとの精神的ストレスや処分に対する社会的圧力に耐え,安楽殺処分に対する説明責任を果たすためには,動物への苦痛が最小限の方法を実施することが不可欠である。今後,野生動物の適切な安楽殺処分のためのガイドラインの整備や優れた人材の育成が望まれる。
著者
池田 敬 野瀬 紹未 淺野 玄 岡本 卓也 鈴木 正嗣
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.141-149, 2022 (Released:2022-08-10)
参考文献数
33

To reduce the population size of sika deer, efficient operation of snare traps is necessary. However, there have been few studies on the sika deer’s response to snare trap capture. We aimed to compare sika deer’s vigilance behavior and stay time at the trap sites before and after snare trap captures. We also monitored the frequency of appearance at trap sites and in the surrounding area. This study was conducted from August 2019 to February 2020 to collect data on the vigilant behaviors, stay time, and frequency of appearance in photographs. We found that vigilance behavior during the capture phase was higher than before the capture phase and remained high afterwards. Although the frequency of appearance in photographs at the capture sites was highest before the capture phase, no significant differences were detected in the frequencies at the surrounding sites throughout the study period. This result indicates that it would be desirable to relocate snare traps and bait from trap sites to the surrounding areas after capturing sika deer in the target area. Consequently, it is possible that snare traps can continue to be used to capture sika deer and effectively reduce their population.
著者
島村 咲衣 安藤 正規 鶴田 燃海 永田 純子 淺野 玄 大橋 正孝 鈴木 正嗣 小泉 透
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.55-65, 2020 (Released:2020-02-14)
参考文献数
47

近年,日本各地でニホンジカ(Cervus nippon)による林業被害や森林生態系への影響が報告されている.狩猟者の減少や高齢化によって捕獲努力量が伸び悩む中でも森林への被害を軽減させるために,例えば北米において考案されている,オジロジカ(Odocoileus virginianus)母系集団の強い定住性を利用したLocalized Management法のような,被害防除に効果的な個体数調整手法の適用を検討していく必要がある.しかし,ニホンジカ地域集団内の母系集団の規模がオジロジカと同様であるかは不明であり,本手法の適用の可否は不明である.さらに,既存のマイクロサテライトマーカーによってニホンジカの母系集団を検出できるか否かも明らかになっていない.そこで本研究では,ニホンジカ母系集団の検出を目指してマイクロサテライトマーカーの解析能力を検討し,空間的な遺伝構造の検出可能スケールについて検討した.国内4地域(北海道,静岡,岐阜,宮崎)で捕獲された計251個体(胎子63個体を含む)を解析に用い,マイクロサテライトマーカー17座の遺伝子型を決定した.遺伝子座ごとの対立遺伝子数(Na)は3~18となり,オジロジカの値と比較して少ない傾向にあった.個体識別能力の指標PID-siblingを算出した結果,本研究では多型性の高い上位4座を用いて個体識別が可能であった.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性を評価するため,全集団平均の遺伝子分化係数(G’ST),各集団のNa,対立遺伝子数の期待値およびヘテロ接合度の期待値を算出した.地域集団間および地域集団内の遺伝的多様性はどちらも低い傾向がみられた.地域集団間および地域集団内において,STRUCTUREを用いた遺伝構造解析では,北海道および宮崎の集団は明瞭にそれぞれ独立のクラスターが構成されるものの,中部(静岡・岐阜間)の遺伝構造は不明瞭になるケースが確認された.一方で,地域集団内の遺伝構造(母系集団)は検出されなかった.胎子63個体を使っておこなった母性解析では,胎子を妊娠していた真の母親を推定できた確率は約20%にとどまった.本研究では,北海道,中部および宮崎の地域集団間の遺伝構造を明瞭に検出できたが,地域集団内の母系集団は検出できなかった.そのため,サンプル数のもっとも多かった静岡集団においても,Localized Managementの適用が可能な個体群であるとは断定できなかった.それは,各マイクロサテライトマーカーの多型が少ないことが原因であり,日本国内のニホンジカが過去に経験した個体数の減少によるボトルネック効果を反映していると考えられた.
著者
淺野 玄 國永 尚稔
出版者
岐阜大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2014-04-01

本研究の最終目標である野生化アライグマとマングースに対する経口避妊ワクチンの実用化は、本申請研究期間で完了できるものではないが、今回得られた知見の概要は以下の通りである。アライグマでは、卵透明帯蛋白の塩基配列と立体構造を参考に合成した3種類のペプチドに対する抗ウサギ血清において、抗体産生誘導および誘導抗体の種特異性が確認され、これらがワクチンの抗原候補として有力であることが示された。マングースでも同様に、卵透明帯蛋白の塩基配列をもとに合成した2種類のペプチドに対する抗マングース血清において、抗体の持続期間や誘導抗体の生体抗原認識能が確認され、両ペプチドのワクチン抗原としての有用性が示された。
著者
淺野 玄 的場 洋平 池田 透 鈴木 正嗣 浅川 満彦 大泰司 紀之
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.s・ix, 369-373, 2003-03-25
被引用文献数
6 28

1999-2000年に北海道で捕獲されたメスのアライグマ(Procyon lolor)242個体について,胎盤痕または胎子を分析して繁殖学的特性を調査した.捕獲個体の齢構成は,0歳69個体(29%), 1歳71個体(29%)および2歳以上102個体(42%)であった.1歳の平均妊娠率は66%で,2歳以上の平均妊娠率96%と比べて有意に低値であった.一腹産子数は1頭から7頭で,平均産子数は1歳で3.6頭,2歳以上では3.9頭であった.平均産子数には1歳と2歳以上とで有意差は認められなかった.北海道の移入アライグマの繁殖期は,2月が交配のピークで3月から5月が出産期であると推定された.しかし,7月に2頭の妊娠個体が確認されたことから,夏期にも繁殖することが明らかとなった.北海道のアライグマの繁殖ポテンシャルは北米における報告と同程度であり,個体数増加の主要因であると考えられた.夏期の箱罠捕獲における0歳獣の捕獲圧は,1歳以上の個体と比較して相対的に低いことが示唆された.移入アライグマの個体数を減少させるためには,個体数が多い0歳獣の捕獲圧を高める必要があり,効率的な捕獲方法の検討が求められる.
著者
松本 郁実 高島 一昭 山根 剛 山根 義久 岡野 司 淺野 玄
出版者
動物臨床医学会
雑誌
動物臨床医学 (ISSN:13446991)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.13-17, 2011-03-20 (Released:2012-04-04)
参考文献数
17

(財)鳥取県動物臨床医学研究所は鳥取県中西部において保護される傷病野生鳥獣の治療を行っており,今回過去10年間に搬入された傷病野生鳥獣のうち,タヌキに注目して疥癬罹患状況の調査を行った。タヌキの保護要因としては,交通事故が原因と思われる骨折や外傷が多くみられたが,疥癬に罹患したタヌキも2003年に初めて搬入され,その後も2005年2頭,2006年5頭,2007年4頭,2008年2頭の計14頭が搬入された。月別でみると,タヌキの搬入頭数は3月と9月に多く認められたが,疥癬罹患タヌキはそれらとは少しピークがずれた晩春や秋から冬にかけて搬入された。また,岐阜大学応用生物科学部の野生動物管理学研究センターに搬入された疥癬罹患タヌキの傾向と比較したところ,当研究所および岐阜県の当該施設において,搬入された疥癬罹患タヌキは2008年までは似た形で推移した。
著者
淺野 玄
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.25, no.2, pp.67-70, 2020-06-23 (Released:2020-08-24)
参考文献数
22
被引用文献数
1 1

野生動物における動物福祉に関する法律や規則の整備は,家畜や実験動物に比べて遅れているといっても過言ではないだろう。日本野生動物医学会では,野生動物の福祉や倫理の現状と課題についての議論を重ね,「野生動物医学研究における動物福祉に関する指針」(2010)を策定している。しかし,野生動物福祉に関する近年の国際動向の変化などから,現在の指針の改定が求められていた。本学会が対象種とする野生動物は,魚類から哺乳類まで多種に及ぶだけでなく,研究・飼育動物実験・飼育展示・傷病鳥獣・教育・愛玩飼育などの取り扱いの状況も多様である。そのため,対象とする野生動物の種や取り扱いの状況によらない基本的な指針を策定した後,分類群や取り扱い状況に応じた個別のプロトコルを順次策定する予定である。改定にあたっては,国内外の関係学術団体や教育・研究機関との連携も必要だろう。
著者
中村 幸子 岡野 司 吉田 洋 松本 歩 村瀬 豊 加藤 春喜 小松 武志 淺野 玄 鈴木 正嗣 杉山 誠 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.15-20, 2008-03
被引用文献数
2

Bioelectrical impedance analysis(BIA)によるニホンツキノワグマ(Ursus thibetanus japonicus)(以下,クマ)の体脂肪量FM測定法確立を試みた。クマを横臥位にし,前肢および後肢間の電気抵抗値を測定した。その値をアメリカクロクマに対する換算式に当てはめ,クマのFMを求めた。2005年9月から翌年の1月までの間,飼育下クマを用いて体重BMおよびFMを測定したところ,BMとFMの変動は高い相関(r=0.89)を示した。よって,秋のBM増加はFM増加を反映していること,ならびにBIAがクマのFM測定に応用可能であることが示された。飼育クマの体脂肪率FRは,9月初旬で最も低く(29.3±3.3%),12月に最も高い値(41.6±3.0%)を示した。彼らの冬眠開始期までの脂肪蓄積量(36.6kg)は約252,000kcalに相当し,冬眠中に1,900kcal/日消費していることが示唆された。一方,2006年6月から11月までの岐阜県および山梨県における野生個体13頭の体脂肪率は,6.9〜31.7%であった。野生個体のFRは飼育個体に比較して低かった。BIAを用いて,ニホンツキノワグマの栄養状態が評価でき,この方法は今後彼らの環境評価指標のツールとしても有用であると思われる。
著者
小林 恒平 淺野 玄 羽田 真吾 松井 基純
出版者
日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 Supplement 第29回日本霊長類学会・日本哺乳類学会2013年度合同大会
巻号頁・発行日
pp.235, 2013 (Released:2014-02-14)

近年,野生動物の個体数管理の手法として,繁殖の成功に不可欠な物質を標的とした抗体を産生し,繁殖を抑制する避妊ワクチンが注目されている.避妊ワクチンの野外適用には,効率的に多数の個体に投与できること,種特異性が高く他種動物に影響がないことが求められる.我々はこれまで,卵子の周囲に存在し精子の結合部位となる透明帯について,ブタのアミノ酸配列に基づく合成ペプチドをニホンジカに投与し,ブタ透明帯に特異的な抗体を産生されることを示した.本研究では我々が同定したニホンジカ透明帯のアミノ酸配列に基づいて透明体を模した合成ペプチドによる抗体産生を試みた. エゾシカ透明帯のアミノ酸配列の中で,種特異性が期待され,精子との結合に関与すると考えられるエピトープを基に,18アミノ酸残基からなる合成ペプチドを設計した.設計した合成ペプチドにキャリア蛋白(KLH)を結合したものをウサギに免疫し,抗体を作成した.免疫は 2週間間隔で4回行い,1回につき合成ペプチド 100 μ gとアジュバンド(TiterMax) 100 μ lを投与し抗血清を得た.合成ペプチドに対する抗体の透明帯への結合能およびその特異性を検証するために,合成ペプチド投与によるウサギへの免疫によって得られた抗血清を一次抗体として用い,ニホンジカ,ウシおよびブタの卵巣の凍結切片を用いた免疫染色を行った. 産生された抗体は,ニホンジカの透明帯を認識し結合する事が明らかになった.一方,ウシおよびブタの透明帯に対する結合は認められず,種特異性が示された. 本研究で用いたニホンジカ透明帯の一部の配列に基づく合成ペプチドは,ニホンジカの透明帯に特異的に結合する抗体の産生を誘導することがわかった.また,ウサギへの投与で透明帯に結合する抗体が得られたことから,ウサギを用いた抗体作成と免疫染色による機能検査が,避妊ワクチンの候補抗原の選択に有用であることがわかった.
著者
伊藤 英之 遠藤 千尋 山地 明子 阿部 素子 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
Japanese journal of zoo and wildlife medicine (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.79-84, 2005-09

タカ目の多くの種は他の多くの鳥類と同様に外部形態から性判別をすることが困難である。この問題は, タカ目に関する生態学の研究を妨げ, 保存のための計画を作製することを困難にする。そのため, タカ目における性判別方法の開発が望まれていた。我々は, CHD1WとCHD1Zの遺伝子間のイントロンの長さの違いを利用する方法を用いて, 日本に生息する8種類のタカ目において, 性判別を試みた。今回用いた方法は, これまでに開発された他の性判別方法よりも容易で迅速に行うことができる。また, 今回調査したすべての種において性判別が可能であった。さらに, わずかなサンプルから抽出したDNAからでも性判別が可能であり, この方法が野生個体/集団の研究に適用することが可能であることが示唆された。結論として, この研究において用いた方法は, タカ目の性判別に非常に有用であり, 希少なタカ目の将来の保全に大きな価値があると考えられた。
著者
翁 強 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.67, no.6, pp.603-605, 2005-06-25
被引用文献数
2 8

2001年10月に交通事故により死亡した野生タヌキ1頭を収集した.本個体は年齢査定により4.5歳と判定された.外生殖器は雌型を示したが, 外陰部より大きな陰核がペニス様に突出していた.内生殖器は精巣と子宮の形状を呈した.精細管内にセルトリ細胞のみが存在し, 精子形成は認められなかった.PCR法によりY染色体上にある性決定領域(SRY)の単一バンドを増幅した.以上の結果より, 本例のタヌキは雄性仮性半陰陽と診断された.
著者
岡野 司 村瀬 哲磨 淺野 玄 坪田 敏男
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.11, pp.1359-1364, 2004-11-25
被引用文献数
2 25

本研究では,犬精液の凍結保存方法を再検討した.4頭のビーグル犬より精液を採取し,混合,遠心濃縮後再度精漿(第3分画)を加えることにより目的の精子濃度を持つ濃度調整精液を作成した.濃度調整精液あるいは原精液を,トリスークエン酸-グルコース希釈液で希釈し,4℃まで冷却し(冷却),次いでグリセロールを添加した同希釈液で2次希釈した.4℃で平衡した後(グリセリン平衡),液体窒素中に保存した.最終精子濃度が一定(1.0×10^8/ml)で最終希釈倍率が2.5〜10倍となるように凍結した場合および最終希釈倍率を一定(6倍)とし,最終精子濃度を0.25〜2.5×10^8/mlとした場合のいずれも凍結融解後における精子性状に有意な影響を及ぼさなかった.一方,0〜26時間の冷却後に1時間のグリセリン平衡をした場合,冷却時間が2および3時間において精子性状が良好であった.また,冷却時間を3時間とし,0〜4時間グリセリン平衡して凍結した場合,融解後の精子性状に有意差は認められなかった.以上のことから,犬精液の凍結保存において,使用した範囲内ではいずれの精子濃度あるいは希釈倍率でも精液を凍結保存できること,および精液の冷却時間を十分に設ける必要があるが,グリセロールの平衡時間は特に設ける必要のないことが示唆された.
著者
金城 政勝 源 宣之 杉山 誠 伊藤 直人 淺野 玄 金城 政勝
出版者
琉球大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

エマージング感染症の多くの病原体は野生動物や昆虫と共存し、自然界で密やかに感染環を形成している。そこで本研究では、野生動物や吸血昆虫から種々の病原体や抗体を検出して、わが国に既に侵入しているあるいは侵入する恐れのある新たなウイルス性感染症をいち早く補足し、それらの予知法を考察しようとするものである。最終年度である本年度は、岐阜及び西表島での昆虫採集を引き続き行い、それらからのフラビウイルス(日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルス)遺伝子の検出を試みた。また、蚊由来培養細胞C6/36細胞を用いてウイルス分離も試みた。1)岐阜及び西表島における蚊の採取:本研究期間内において、最終的に20,919匹及び40,423匹の蚊がそれぞれ岐阜及び西表島で採取された。岐阜で採取された蚊のうち最も多かったのはイエカ属(80.0%)で、ハマダラカ属(17.2%)がそれに続いた。一方、西表島では、クロヤブカ属(62.7%)及びヤブカ属(32.7%)の蚊が大きな割合を占めた。2)RT-PCR法を用いた蚊からのフラビウイルス遺伝子の検出:同一のプライマー・セットを用いて日本脳炎ウイルス、ウエストナイルウイルス、ダニ脳炎ウイルス及びデングウイルスの遺伝子を検出することができるRT-PCR法により、685プール(1プール50匹、計29,966匹)の蚊からウイルス遺伝子の検出を試みた。しかしながら、目的の増幅産物を得ることができなかった。以上にことから、上記のウイルスは岐阜及び西表島に高度に浸潤していないことが示唆された。3)蚊由来培養細胞を用いたウイルス分離:C6/36細胞に接種した599プールのうち、34プールが明瞭な細胞変性効果(CPE)を発見した。このうち西表島のヤブカ属のプールから分離されたCPE発現因子について各種生物性状を調べたところ、上記ウイルスとは異なるフラビウイルスであることが示唆された。今後、このウイルスの哺乳動物に対する病原性等を詳細に検討する予定である。