著者
箸本 健二 武者 忠彦 菊池 慶之 久木元 美琴 駒木 伸比古 佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.33-47, 2021 (Released:2021-03-02)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本稿は,立地適正化計画の実施主体となる332市町村へのアンケート調査を通じて,立地適正化計画の導入意図,施策の概要,実施上の課題を分析・検討した.その結果,多くの地方自治体が,政策の理念や必要性には理解を示している一方で,主に経済的理由から都市機能の誘導は限定的な施策にとどまる.また,ローカルな政治的文脈への配慮から,都市機能の集約化や強制力を伴う居住誘導の導入にも慎重な姿勢を崩していない.立地適正化計画をコンパクトシティ実現の切り札と位置づける国と,さまざまな制約条件の下で実施可能な事業を優先せざるを得ない地方自治体との温度差は,現時点では大きいといわざるを得ない.
著者
箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
地理学評論 Ser. A (ISSN:00167444)
巻号頁・発行日
vol.71, no.4, pp.239-253, 1998-04-01 (Released:2008-12-25)
参考文献数
17
被引用文献数
5 3

本研究では,首都圏に展開する同一チェーン99店舗のコンビニエンスストア(CVS)を,商品群の売上に基づいて七つの店舗類型に分類し,その空間分布の特徴を把握するとともに,店舗類型を規定する要因を考察した.対象店舗の商品群別POSデータを用いて因子分析を行い,CVSの売上を説明する因子として,外出先購入因子,菓子飲料因子,他業態代替因子,生活雑貨因子,酒類関連因子の5因子を抽出した.次に,この5因子の店舗別因子負荷量を用いて対象店舗のクラスター分析を行い,分析対象とした99店舗のCVSを7類型に分類した.本分析を通じて,CVSには,従来指摘されてきたような時間的な補完機能を中心とする利用形態に加えて,品揃えやワンストップショッピング性を評価した他業態代替型の利用形態が存在することが明らかとなった.これは,当該商圏における商店街やスーパーマーケットなど競合する業態の存立状況を反映したものであると同時に,若年層を主体とした新たな店舗選択store choiceパターンの存在を示すものである.さらに,オフィス街や学校の周辺でも夜間人口が多い立地では,昼間に発生する来街者の需要と,居住者による他業態補完型需要とが,同じ店舗で時間帯を分けて発生することを確認した.
著者
荒井 良雄 箸本 健二 長沼 佐枝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,条件不利地域における地理的デジタル・デバイドに対する地方自治体等による政策的対応とそれを利用した地域振興策の実状を調査・把握しようとした.その結果, 1)条件不利地域においてもブロードバンド環境は整備されてきているが,いまだに未整備地区が残存していること, 2)山間地域等では地上波デジタルテレビ放送移行への対応として整備されたケーブルテレビ網がブロードバンド整備にも有効であったこと, 3)情報システムを用いた地域振興では既存情報施設の十全な活用とソフト面での工夫が重要であること,等が判明した.
著者
武者 忠彦 箸本 健二 菊池 慶之 久木元 美琴 駒木 伸比古 佐藤 正志
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000278, 2018 (Released:2018-06-27)

中心市街地再生論の転換低未利用不動産の増加を実態とする地方都市中心市街地の空洞化に対しては,商業振興や都市基盤整備の名目で,これまでも夥しい額の公共投資がなされてきたが,その成果はきわめて限定的であった.こうした現状に対して,近年は中心市街地再生をめぐる政策を批判的に検討し,空洞化を是認する論調も強まっているが,政府は2014年に策定した「国土のグランドデザイン2050」において「コンパクト+ネットワーク」モデルを提示しているように,人口減少や財政難,低炭素化を背景としたコンパクトシティの文脈から,中心市街地再生の立場を継続している.もっとも,政府が掲げるコンパクトシティ政策は,土地利用と施設立地の効率化を追求した中心市街地への機能と人口の〈再配置論〉であり,どうすればそのような配置が可能になるのか,そのような配置にして生業や生活が成り立つのか,そこで望ましい社会や経済が形成されるのか,といった議論は各地方都市の「マネジメント」に丸投げされているといってよい.都市マネジメントの可能性:事例報告からの示唆では,地方都市にはどのようなマネジメントの可能性があるのか.これまでの中央主導による補助事業に依存した開発志向型の再生手法が,ほとんど成果を生み出せず,もはや依存すべき財源もないという二重の意味で使えない以上,基礎自治体や民間組織のようなローカルな主体が中心市街地という場所の特性を見極め,未利用不動産を利活用して戦略的に場所の価値を高めることが不可欠となる.その際には,高齢化,人口流出,共働き世帯の増加,公共交通網の縮小など,地方都市固有の文脈をふまえることも必要である.本シンポジウムで報告する未利用不動産の活用事例からは,以下の2つの可能性が示唆される.第1に,PPP/PFIや不動産証券化などの市場原理を導入して介護施設や商業施設を開発した事例のように,「低未利用状態でも中心市街地であれば新たな投資スキームを導入することで価値が見出される」という可能性である(菊池報告,佐藤報告).第2に,都市的環境にありながら相対的に地代の安い未利用不動産では,リノベーションによって新規参入者の経営が成立し,賑わいが生まれ,そこに新しい社会関係が構築されるというように,「中心市街地で低未利用状態だからこそ価値が生まれる」という可能性である(久木元報告,武者報告).とはいえ,これによってすべての地方都市が再生にむけて動き出すわけではない.各都市の立地や人口のポテンシャルを考慮すれば,どこかに〈閾値〉はあるはずであり,選択可能な戦略も異なってくる(箸本報告,駒木報告).未利用不動産の利活用と新しい幸福論本シンポジウムで議論する未利用不動産を切り口とした中心市街地再生論は,同じ再生を目的としながらも,かつてのような国の補助事業に従って計画されたエリア包括的な再生論とは異なる.未利用不動産を利活用を通じて,それぞれの主体が中心市街地という場所の特性をあらためて構想し,商業やオフィスの機能に限らず,居住,福祉,子育てなどの機能を取り込みながら,周辺エリアの価値を高めていく.それは単なる商業振興でもなく,都市基盤整備でもない,個別物件の再生から戦略的に考える都市マネジメントの視点である.こうして再構築される中心市街地での生活風景が,かつての百貨店や商店街が提供した「ハレの場」や郊外における「庭付き一戸建て」に代わる幸福論となり得るのか,コンパクトシティの成否はこの点にかかっているように思われる.
著者
箸本 健二
出版者
早稲田大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、地方都市の中心市街地活性化が直面する諸問題のうち、(1)郊外型SCへの行政の対応、(2)ホームページを用いた情報発信、(3)タウンマネジメントをめぐるセクタ間の対立を検討した。(1)については、群馬県太田市と栃木県佐野市を対象とした分析を行い、消費の流失を阻止すると同時に、税収と雇用の確保するため、大規模モールの進出を自治体が事実上「誘致」している点を指摘した。(2)については、大阪市42商店街の34サイトを分析し、買回り品を中心とする商店街が広域情報発信や電子商取引機能を重視するのに対して、最寄り品を中心とする近隣型商店街は地域情報の発信機能を重視すること、自治体のIT対応補助金が導入時期を規定していることなどを明らかにした。(3)については、広島県呉市で実態調査を行い、専任のTMを常駐させることが、新規創業者の定着に大きな効果を持つこと、既得権者である旧来の商業者との調整を図る機関が必要であること等を指摘した。
著者
和田 崇 荒井 良雄 箸本 健二 山田 晴通 原 真志 山本 健太 中村 努
出版者
県立広島大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2011-04-01

本研究では,日本の諸地域における通信インフラを活用した情報生成・流通・活用の実態を,いくつかの事例分析を通じて解明した。まず,通信インフラ整備の過程を地方行政再編とデジタル・デバイドの2つの観点から把握・分析した。そのうえで,医療と育児,人材育成の3分野におけるインターネットを活用した地域振興の取組みを,関係者間の合意形成と連携・協力,サイバースペースとリアルスペースの関係などに着目して分析した。さらに,地方におけるアニメーションや映画の制作,コンテンツを活用した地域振興の課題を指摘し,今後の展開可能性を検討した。
著者
箸本 健二 駒木 伸比古
出版者
日本都市地理学会
雑誌
都市地理学 (ISSN:18809499)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.1-19, 2009-03-15 (Released:2020-04-08)
参考文献数
22

本稿は,1都7県に立地する287 店舗のコンビニエンスストアを,POS データに基づく販売特性からタイプ分類した上で,平日と週末での販売特性の差異を把握し,その背景にある地理的要因を検討する.分析の結果,287 店舗のコンビニエンスストアは7つの店舗類型に区分できる.各店舗類型を規定する因子は,主として外出先因子(昼間人口),家庭内因子(夜間人口),他業態代替因子(競合状況)の3因子である.また7つの店舗類型は,国道16 号線の内側に卓越する5類型と,外側に卓越する2類型に大別され,国道16 号線を挟んで店舗類型が大きく変化している.次にPOS データを平日・週末に分け,各別に店舗類型を作成すると,含まれる店舗は変化するものの,店舗類型そのものは平日と週末とでほぼ共通している.平日と週末とで属する類型が異なる店舗は,来街者の数や質が平日と週末で大きく異なるオフィス街や学校・駅周辺に多く分布する.
著者
箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2012, 2012

地方都市の中心市街地における大型店の撤退問題は,1990年代の半ばから顕在化するようになり,その後,全国的に拡大しつつある.こうした店舗の廃店・撤退は,小売業やその経営に深く参画する金融資本の立場からすれば致し方のない事業縮小であり,経営の合理化のために不可避と位置づけられている.しかし,地方都市の視点に立てば,中心市街地のランドマークであり,集客施設の核となってきた大型店の撤退は,中心市街地の求心力低下をもたらすだけでなく,小売販売額の争奪をめぐる都市間競争からの脱落に直結しかねない.このため,大型店の跡地問題は,深刻な商店街の地盤沈下と相俟って,地方都市が直面する喫緊の課題となっている.本研究は,このような状況をふまえ,地方都市における大型店撤退の実態を整理するとともに,跡地利用が直面している課題や行政の政策的対応を明らかにすることを目的とする. 本研究では,中心市街地に大型店が立地する可能性を持つ市町村合併前(1995年)人口20,000人以上の自治体(もしくはこれらを含む合併自治体)を対象に,1)1995年~2011年の間の大型店撤退事例の有無,2)事例ごとの撤退経緯の詳細,3)撤退跡地の現況,4)大型店撤退・跡地利用に関する政策的対応,5)国の中心市街地活性化政策との連携,などを主な質問項目とするアンケート調査を実施した.アンケート調査は,平成24年2月に全国849市町村を対象として郵送留置方式で実施し,626自治体から有効回答を得た(回収率73.7%).分析の結果,1)中心市街地に大型店が立地する自治体の約半数で大店法規制緩和(平成2年)以降に大型店の撤退が見られること,2)大型店の撤退が中心市街地の吸引力低下に直結する事例が多いこと,3)複雑な権利関係や負債の影響で撤退跡地の再利用が遅れる事例が多く,中心市街地の活性化に深刻な影響を与えていることなどが明らかとなった.口頭発表では,より詳細な調査結果に基づき,大型店撤退の実態と跡地利用が直面する課題を検討する.
著者
箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000249, 2018 (Released:2018-06-27)

調査目的と課題設定中心市街地における未利用不動産の増加は,主に中心市街地における事業用不動産の供給過多と,個人商店の住居化とが輻輳する形で引き起こされる都市問題であり,地方都市における都市再生の阻害要因となっている.その一方で,地方都市中心市街地の未利用不動産を定量的に把握できる公的資料は存在しない.そこで本シンポジウムのメンバーは,中心市街地における未利用不動産の現状と各自治体の政策的対応を把握するため,全国846市町(東京都区部,政令指定都市を除く1995年時点で人口2万人以上の都市,あるいはその合併市町)を対象とするアンケート調査を2014年に実施した.主な調査内容は,中心市街地における低利用不動産の概況と自治体の対応,ダウンサイジング政策の導入状況,まちづくり会社の有無と機能であり,最終的に553自治体(65.3%)から有効回答を得た.なお,本調査結果の一部は,日本地理学会2015年春季大会および経済地理学会金沢地方大会で報告している.地方都市における未利用不動産の増加中心市街地を代表する,事業用不動産,個人商店,公共施設という3タイプの不動産に関して,未利用不動産化の進行状況を10年前(2004年)との比較で質問した結果,「増加している」「やや増加している」と回答した自治体の比率は,個人商店(空き店舗)で80.8%,事業用不動産(大規模商業施設,オフィスビル,ホテル,病院等)で47.3%,公共施設(公的セクタが所有し,利活用が進んでいない施設)で22.1%に達した.一方で「(未利用不動産が)もともと存在しない」と回答した自治体の構成比は,事業用不動産で4.3%,公共施設でも14.6%に過ぎず,多くの自治体が中心市街地に未利用不動産を抱え,その増加に直面している現状が把握できる.またこの結果を人口規模別に見ると,人口規模が小さな自治体ほど個人商店(空き店舗)と公共施設に関して増加傾向を回答する比率が高まる.滞る政策的対応これに対して,地方自治体の多くが有効な対応策を採れてはいない.まず,民間の未利用不動産(空きビル・空き店舗)の利活用に向けた経済的支援に関しては,「特に支援していない」と回答した自治体が最も多く(37.7%),次いで「家賃補助や家賃減免」が36.8%で続いている.逆に,経済的負担や事業リスクが大きい「自治体による建物・底地の買い上げ」は1.3%に留まり,予算規模の限界から自治体が独自で取り得る対応には限界があることを示唆している.その一方で,中心市街地のダウンサイジングを政策目標に掲げた自治体は極めて少ない.中心市街地のダウンサイジングを「実施した」あるいは「具体的な計画を策定中」とする自治体は全体の6.1%にすぎず,80%近い自治体が「検討したことはない」と回答するなど,撤退戦略を政策目標とすることの難しさを示唆している.補助金を含む公的資金の調達が厳しい状況下において,事業の遂行に不可欠となるのがREITなど不動産投資主体による民間ベースの資金調達チャネルである.しかし,不動産投資主体による不動産取引を支援する部署・相談窓口を持つ自治体は1.3%に過ぎず,87.7%の自治体は民間ベースでの資金調達を支援する手段や情報収集を講じていない.結論と展望以上の結果は,日本の地方都市において,オフィスや小売商業を中心とする旧来型の経済活動が縮退し,事業用不動産や空き店舗の増加が未利用不動産を増加させる現状を示している.こうした状況の下で,経済拡大期の典型的な「活性化」手法であった再開発事業や公共事業を導入可能な中心市街地は事業採算性の点でおのずと限定される.地方都市がその持続を図るためには,無秩序な郊外開発に歯止めをかける一方で,中心市街地の未利用不動産を再利用する資金調達手段,中期的な採算性を確保できる事業計画,そして都市計画を含めた地方自治体の支援スキームが重要となる.【参考文献】箸本健二,2016.地方都市における中心市街地空洞化と低利用不動産問題,経済地理学年報62-2, 121-129.追記.本研究は,科研費基盤B(課題番号25284170, 代表者:箸本健二)の成果の一部である.
著者
箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2018年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.000247, 2018 (Released:2018-06-27)

問題の所在中心市街地における空洞化の進行は,今日,日本の地方都市が共通して直面する課題の一つである.地方都市の中心市街地で顕在化している事業用不動産の遊休化(未利用不動産化)と,その跡地・後施設をめぐる利活用の停滞は,こうした課題を象徴する事象といえる.2013年6月に,経済産業省産業構造審議会中心市街地活性化部会は「中心市街地の再活性化に向けて」という提言を取りまとめ,全国の地方都市の多くが中心市街地問題に直面していること, 問題の背景に人口減少と高齢化の悪循環が存在することを指摘した上で,地方都市の中心市街地が居住と経済の両面にわたる「まち」としての機能を今後も維持するためには喫緊の対応が必要であると指摘している.コンパクトシティ政策が内包する課題日本の地方都市では,高度経済成長以降,商業・サービス業や全国企業の支店に代表されるオフィス機能が中心市街地における経済活動の中核を担ってきた.しかし1990年代以降,これらの事業所は地方都市の中心市街地から着実に減少し続けている.一方で,この問題に対する国や地方自治体の政策は必ずしも奏功していない.コンパクトシティを政策理念に掲げ,中心市街地への都市機能の再集中を試みた改正まちづくり3法(2006年制定)や改正都市再生特措法に基づく立地適正化計画(2014年)も,高止まりする中心市街地の地価,郊外住民の反発,根強い大手商業資本の郊外志向,自治体間での利害相反など,ローカルな政治・経済の文脈に起因する阻害要因の前に足踏みを重ねることが多い.そもそも,現在のコンパクトシティ政策は,総じて国・地方自治体の財政難や人口減を前提とする機能の再配置論に留まっており,中心市街地にどのような社会や経済活動を構築するかというマネジメントの視点が欠落している場合が多い.このことが,とりわけ地方都市におけるコンパクトシティ政策の大きな停滞要因となっていると考えられる.地方都市の新たな中心市街地マネジメントの方向性 中心市街地における商業やオフィスの減少は,関連する事業所サービス業や飲食サービス業などの事業機会を縮小させ,事業用不動産の遊休化を加速させてきた.中心市街地で増加する未利用不動産は,地方都市の厳しい経済状況を表象していることは疑いない.その一方で,中心市街地に存在するまとまった規模の未利用不動産は,地方都市の新たなマネジメントを進める上で潜在的な資源とも評価できる.その理由の1つは,PPP/PFIあるいは不動産証券化を通じた介護施設,商業施設などの開発事例が示すように,中心市街地は,適切な投資スキームさえ選択できれば,立地特性を活かした収益事業を再生する余地が残されているからである.残る1つは,地価最高点に近い古い物件を利用することで,賑わいや新しい社会関係の構築など中心市街地が持つ潜在的資源の利用と,地代負担力の低い新規参入者の経営持続性との両立を図れるからである.本シンポジウムの構成以上の問題意識をふまえて,本シンポジウムでは,まず全国調査を通じて未利用不動産の現状分析を行い,その再事業化へ向けたスキームを,大きく①市場原理を導入した再生手法や政策対応(不動産証券化,PPPなど),②ボトムアップ型の再生手法(リノベーションなど)に大別する.その上で,おのおののスキームに関して具体的事例の紹介と評価を行い,各々の可能性と課題を議論したい.付記.本研究は,科研費基盤B(課題番号16H03526,代表者:箸本健二)の助成を受けたものである.
著者
上村 博昭 箸本 健二
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2014, 2014

<b>1.はじめに</b><br> これまで,流通地理学,農業地理学,漁業地理学などの研究において,小売業・卸売業の流通・配送システム,製造業における部品の供給体制,第一次産業での農水産物の出荷・流通システム等が明らかとなってきた.このような大規模流通システムの一方で,小規模な事業体は直売所などローカルレベルでの流通・販売を行う傾向にある.しかし,ローカルな市場は相対的に小規模であるから,事業規模を拡大するには,近在の都市部,あるいは大都市圏への流通・販売の展開が模索される.この際,都市部へ進出する事業者には,大規模流通への対応,ないしは大都市圏で独自のマーケティング活動を行うことが必要となる. <br> 実際,近年では農商工連携など行政施策の展開もあって,離島や農山村など,経済活動に関して条件不利性を持つ地域の主体が,都市部への流通・販売を模索する動きがみられる.離島には本土と比べて流通面での不利性があるため,大規模流通システムへの対応,ないしは都市部でのマーケティング活動への障壁は大きいと考えられる.しかし,こうした事業活動のなかには,都市部に一定の販路を確保し,継続的な取引(流通・販売)に至った事例がみられる.そこで本報告では,こうした事例を採りあげて,条件不利地の中小事業者が,如何にして都市部への流通・販売を行い得たのかという点を,事業モデルをふまえながら議論する.本研究の分析にあたり,2013年6月と9月にヒアリング調査を実施したほか,事例事業の資料分析を行った. <br><b>2.対象事例の概要 </b><br> 本報告の事例は,島根県隠岐郡海士町のCAS事業である.海士町は,松江から約60km北方にある離島であり,島内に空港はなく,フェリーで3時間程度を要する.海士町では,2000年代初頭から地域振興政策が展開されてきた.本報告の事例であるCAS事業は,その一環として2005年度から開始された.海士町では,以前から鮮度の低下による魚価低迷を課題とし,食品冷凍技術であるCAS(Cell Alive System)を導入して流通圏を拡大することが試みられた. <br> このCAS事業は,発行済株式の9割以上を海士町役場が保有する(株)ふるさと海士が担っている.CAS事業の事業内容は,海士町内の漁業者,養殖業者から仕入れた水産物(主にケンサキイカと岩ガキ)のCAS凍結加工,ならびにCAS加工品の販売である.行政施策とリンクした事業活動であるため,海士町外での委託製造や,海外産,島外産の安価な加工原料の仕入れなどはみられず,海士町産の原料,海士町内での加工が原則となっている. <br> CAS事業の2012年度における年間販売額は,約1億2千万円である.このうち,レストランや直売所など,(株)ふるさと海士内の部門間移転を除く対外的な販売額は,約1億620万円(88.5%)で,CAS事業を開始した2005年度の約4倍にあたる.こうした事業拡大の背景にあるのが,都市部への流通・販売である.2012年度の販売金額(社内の部門間移転を含む)でみると,総販売額の6割強(約7,200万円)を関東で販売するなど,島根県外での販売額が全体の82.2%を占めている. <br><b>3.本研究の知見</b> <br> CAS事業は,離島でCAS凍結加工を行っているため,大都市に向けて流通・販売する際,フェリーの欠航リスク,輸送コストが課題となる.前者の欠航リスクについては,鳥取県境港市に大口取引先へ供給する加工品を保管する倉庫を確保することで対応するとともに,後者の輸送費には,大手運送業者のY社を使うことで対応した.Y社は,離島料金を取っていないため,輸送コストは島根県内の本土と同一であるため,課題は克服できた.ただし,Y社も海士町からの輸送にフェリーを使うため,欠航リスクは避けられず,(株)ふるさと海士は本土側に倉庫を必要とした.<br>都市部での流通・販売に向けたマーケティング戦略としては,大手のスーパーマーケット・チェーンなど低い仕入価格,大ロットかつ安定的な供給を求める小売主体はマーケティングの対象とせず,相対的に高い卸売価格を許容し,大量供給を求めない中小の飲食店や高級スーパーとの取引を戦略的に模索した点に特徴がある.さらに,(株)ふるさと海士の経営幹部が取引関係にある飲食店のイベントに参加するなど,人的関係の構築を含めたマーケティング活動を展開してきた. <br> 一方で,(株)ふるさと海士の経営は,海士町役場の支援を前提としている.加工施設・設備は町役場の所有で,指定管理者制度で委託されているほか,毎年の補助金投入によって,黒字経営が維持されている.そのため,民間資本による事業活動と本事例とを.同列で論じることはできない.しかし,公的資本による事業活動であっても,事業活動である以上,マーケティング,流通・販売への対応が必要となる.
著者
荒井 良雄 箸本 健二 長沼 佐枝
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究では, 地理的位置情報に基づいた携帯電話の各種情報サービスを扱っている. 第1に, NTTドコモのIエリアサービスを例に情報提供サービスを分析し, 現行の地域区分の限界と登録店舗の地理的分布の特徴が把握された. 第2に, 金沢市竪町商店街を事例として, 携帯電話とQRコードを利用したプロモーション活動の実態分析を行い, 画一的な情報発信や商店街そのものへの集客促進に主眼を置いたシステムには限界があることが判明した. 第3に, GPS携帯電話利用の各種セキュリティ・サービスを検討し, その背景には, 高齢者や子供の安全確保に対する関心の高まりがあるが, それは現実の「安全」よりむしろ「安心」に向かっていること等の論点が示された.
著者
箸本 健二
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.1-19, 1996-03-31
被引用文献数
2

最寄品消費財の生産体制は, 市場環境に対して受動的に適応し, 主にマーケティング部門によって多品種化が進められている. しかし, 最寄品消費財は, 価格に占める物流コストの比率が相対的に高く, 多品種多頻度小ロット配送化に伴うコストの吸収が大きな課題となる. これに対して, 情報化あるいは情報システム化は, 受発注やピッキングに要する時間を大幅に短縮して, 一定のリードタイムの範囲で配送可能な空間を拡大し, 多頻度小ロット配送のネックである積載効率の低下を防止する. こうした効果を通じて, 情報システムは物流施設の機能や立地に対して支配的に作用し, その変化を促進する. 一方, 多頻度小ロット配送への移行は, 流通チャネルを垂直に結ぶ情報ネットワークの構築を促進し, 流通業の競争構造は, ネットワークで結ばれたチャネル間の垂直的競争を重視するものへと転換する. 同時に, 技術的・経済的な制約から, メーカーがネットワークの構築を主導するケースが多く, メーカー主導によるチャネル全体の効率化が進行する. また, 情報ネットワークを軸とした物流の効率化が進むにつれて, 輸送ワットと出荷頻度とによる輸送経路の分化が強まる. ビール業界の場合には, ケース出荷とバラ出荷とで物流経路が分かれ, さらに末端配送先の分布や密度を反映した分化が進む.
著者
箸本 健二
出版者
経済地理学会
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.337-351, 2000-12-31
被引用文献数
2

本稿では, 主に情報通信技術の進展とその広汎な普及にともなう社会経済的な影響を, 主に産業空間の変容という視点から整理し, 今後の産業活動における変化の方向性を展望する.経済地理学では, 情報技術(IT)と産業の空間構造との関連をとらえた研究が1960年代後半から進められ, 対面接触の代替, 情報交換における時間距離の短縮効果, 通信コストの削減効果, そして通信回線を産業基盤として評価する研究が主に行われた.さらに, コンピュータのネットワーク化が進んだ1980年代以降は, 企業間提携の進行, 情報財産業の立地特性, テレワークやサテライトオフィスなど労働市場への影響などが新たな研究テーマとされる一方, 企業や都市構造など既存組織の再編成を情報通信技術と関連づけた研究も進んでいる.今日, 情報通信技術を産業モードの変化を加速させる因子として評価する視点が定着しているが, とりわけ重要な要素となるのがインターネット環境の浸透である.インターネット環境の浸透は, コミュニケーションコストの大幅な削減だけでなく, コミュニケーションそのものの急激な拡大をもたらしており, その社会経済的な影響力ははかり知れない.それゆえ経済地理学においても, 今日的な情報通信技術をブラックボックス化せず, 経済の各局面で果たしている役割と産業の空間構造との関係を冷静に検証し, そのモデル化を進める必要がある.