- 著者
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丹下 和彦
- 出版者
- 関西外国語大学
- 雑誌
- 研究論集 (ISSN:03881067)
- 巻号頁・発行日
- vol.97, pp.111-123, 2013-03
本篇は、古来作者以外の人間の手になる改竄の痕が著しいと見なされ、現代に至るまで多様なテクスト校訂の対象となっている。しかしディグル校訂のOCT版を底本とする本稿は底本の示すところを対象とする作品解釈を専らとし、テクスト校訂の問題には立ち入らない。 本篇には一貫した人物像を結べない登場人物が多い。とつぜん変心するメネラオス、曖昧な言動に終始するアキレウス、さらには直前まで死を厭う姿を見せながらとつぜん変心して犠牲死を受け入れるイピゲネイアがそれである。これは作者の人物造形力の弛緩と、その結果としての人物像の破綻であるとしか言いようがない。ただイピゲネイアの「決心」は、そうした人物像や劇の問題点を一挙に解消する力を持っており、またそれと同時に劇にエンターテインメント性を付与する役割を果たしている。