著者
久場 敬司 木村 彰方
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

新規ACE ファミリー分子であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はアンジオテンシンII を分解してレニン-アンジオテンシン系を負に調節し、心血管機能の制御などに関与する一方で、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスの受容体であるとともに、急性肺傷害において肺保護作用を発揮する。しかしながら、その肺保護作用の分子細胞メカニズムは不明であった。本研究課題において、私たちはACE2 の発現が酸化ストレスにより制御されることを見出し、遺伝子改変マウスを用いた解析からアンジオテンシンを介したマクロファージの活性化が重要であることを明らかにした。さらに酸化ストレスによる酸化リン脂質の産生を介した自然免疫シグナルの過剰な活性化が、SARS のみならず高病原性H5N1 インフルエンザによるARDS/急性肺傷害の病態発症に重要であることを見出した。実際にSARS などに加えて幅広い原因によるARDS/急性肺傷害の患者検体の肺病理組織においても酸化リン脂質の産生が認められた(Cell, 2008)。これらの成果は、SARS、急性肺傷害の治療のみならず幅広い疾患の病態解明、新しい治療法の開発に貢献することが期待される。
著者
久場 敬司
出版者
秋田医学会
雑誌
秋田医学 (ISSN:03866106)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.69-78, 2015-11-30
著者
久場 敬司
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.53, no.7, pp.665-670, 2021-07-15 (Released:2022-07-19)
参考文献数
26
著者
久場 敬司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.151, no.3, pp.94-99, 2018 (Released:2018-03-10)
参考文献数
14
被引用文献数
1 1

心不全のシグナル伝達における転写,エピゲノムなどmRNA合成の制御機構について多くの知見が蓄積されてきた一方で,mRNA分解などmRNA代謝制御の解析は未だ十分とはいえない.CCR4-NOT複合体は酵母からヒトまで保存されたタンパク質複合体であり,遺伝子発現調節因子として転写調節,mRNA分解,タンパク質修飾など多彩な機能を持つ.近年,CCR4-NOTが発生,細胞分化や癌,炎症に寄与することが報告されているが,私達はCCR4-NOT複合体を新規の心機能調節因子として単離した.最近CCR4-NOT複合体のmRNA poly(A)鎖の分解活性が心臓の恒常性維持に重要であることを解明し,RNA分解の新しい生物学的意義を見出した.Cnot3はAtg7 mRNAに結合し,mRNAポリA鎖の分解,翻訳抑制を介してp53誘導性の心筋細胞死を阻止する.興味深いことに,poly(A)鎖の分解不全の状態では,Atg7がp53と結合し核内で協調的にp53標的の細胞死遺伝子の発現を誘導することが分かった.さらに,mRNAの分解を介したエネルギー代謝制御によっても心筋の恒常性維持に寄与することも明らかになりつつある.mRNAのpoly(A)鎖分解は,心臓のエネルギー代謝,細胞死のコントロールなど心機能調節にかかわる遺伝子発現制御の新たな制御相であることが考えられた.
著者
久場 敬司 湊 隆文 韮澤 悟 佐藤 輝紀 山口 智和 渡邊 博之 今井 由美子 高橋 砂織
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学会年会要旨集 第93回日本薬理学会年会 (ISSN:24354953)
巻号頁・発行日
pp.3-P-314, 2020 (Released:2020-03-18)

Angiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) is a negative regulator of the renin-angiotensin system, critically involved in blood pressure regulation, heart function, lung injury, or fibrotic kidney disease. Recombinant human ACE2 protein (rhACE2), currently clinically evaluated to treat acute lung failure, is a glycosylated protein, requiring time- and cost-consuming protein production in mammalian cells. Here we show that the B38-CAP, a carboxypeptidase derived from Paenibacillus sp. B38, is a novel ACE2-like enzyme to decrease angiotensin II levels in mice. Comparative analysis of protein 3D structures revealed that B38-CAP homologue shares structural similarity to mammalian ACE2 without any apparent sequence identity, containing the consensus HEXXH amino acid sequence of the M32 peptidase family. In vitro, recombinant B38-CAP protein catalyzed the conversion of angiotensin II to angiotensin 1-7, as well as other known ACE2 target peptides, with the same potency and kinetics as human ACE2. Treatment with B38-CAP reduced plasma angiotensin II levels and suppressed angiotensin II-induced hypertension, cardiac hypertrophy and fibrosis in mice. Moreover, continuous infusion of B38-CAP inhibited pressure overload-induced pathological hypertrophy, myocardial fibrosis, and cardiac dysfunction in mice, without any overt toxicity of liver and kidney. Our data identify the bacterial B38-CAP as an ACE2-like carboxypeptidase, which exhibits ACE2-like functions in vitro and in vivo. These results indicate that evolution has shaped a bacterial carboxypeptidase to a human ACE2-like enzyme. Bacterial engineering could be utilized to design improved protein drugs for hypertension and heart failure.
著者
佐藤 輝紀 久場 敬司
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.153, no.4, pp.172-178, 2019 (Released:2019-04-11)
参考文献数
41

Apelinは内因性のAPJ受容体アゴニストであり,生体内に広く発現し,血管拡張作用,心筋収縮力増強,体液調節,代謝の制御,心血管系の発生,骨格筋の再生など多くの生理機能を有することが解明されてきた.高血圧,心不全,肺高血圧,動脈硬化など心血管系病態に対するApelinの改善効果について多くの研究がなされてきたが,近年サルコペニアや加齢性疾患における役割が注目されている.Apelinの薬理作用のひとつにレニン-アンジオテンシン系(RAS)との相互作用があるが,これまでの私たちの研究成果から,アンジオテンシン変換酵素2(ACE2)の制御を介して,RASを負に調節することで心不全病態を改善することが明らかになってきた.また近年,第2のAPJ受容体リガンドElabela/Toddlerが心臓発生に不可欠なホルモンとして同定され,Apelinと同様にElabelaが心機能維持,心保護効果の薬理作用を有することが明らかになってきた.心不全パンデミックとよばれ,心不全患者が年々増加している一方で,その病態解明ならびに治療方法の開発はいまだ十分とは言えない.Apelinは強心作用と心保護効果を併せ持つことから新規カテゴリーの心不全治療薬候補であり,今後ApelinあるいはAPJ受容体アゴニストが新しい心不全治療薬として発展することが期待される.
著者
今井 由美子 久場 敬司
出版者
医学書院
雑誌
呼吸と循環 (ISSN:04523458)
巻号頁・発行日
vol.61, no.7, pp.650-655, 2013-07-15

はじめに 急性呼吸窮迫症候群(acute respiratory distress syndrome;ARDS)は,敗血症,胃液の誤嚥,多発外傷,ウイルス感染症など多様な要因によって引き起こされるが,その病態は,好中球,マクロファージなどの炎症細胞の浸潤,びまん性肺胞損傷(diffuse alveolar damage;DAD),サイトカインの過剰産生,肺血管透過性の亢進による肺浮腫に特徴づけられる1).ARDSの定義は,従来は1994年の北米・ヨーロッパARDSコンセンサス会議(American-European Consensus Conference on ARDS;AECC)で提唱されたものが使われていたが2),2012年に同AECC定義の見直しが行われ,ベルリン定義(Berlin Definition)として発表された3).ベルリン定義では,重症度に関して,酸素化を指標に,“軽症”(200mmHg<PaO2/FIO2≤300mmHg),“中等症”(100mmHg<PaO2/FIO2≤200mmHg),“重症”(PaO2/FIO2≤100mmHg)に分類している.さらに“重症”ARDSの定義には,胸部X線所見の重症度,呼吸機能(コンプライアンス≤40ml/cmH2O),ならびに呼気終末陽圧(positive end-expiratory pressure ≥10cmH2O)や補正分時呼気量(corrected expired volume per minute(≥10l/min)といった患者の生命維持に必要となる人工呼吸の換気パラメーターの設定が含まれている.meta-analysisではこの重症度分類は生命予後と良く相関することが示されている.これまでARDSの治療薬の開発を目指して精力的な研究がなされてきたにもかかわらず,現在のところ重症ARDSの生命予後の改善に繋がる有効な治療薬はなく,重症ARDSの救命は困難を極めている. 新型肺炎(SARS),H5N1鳥インフルエンザをはじめとした重症新興呼吸器ウイルス感染症は,ヒトに重症ARDSや多臓器不全をはじめとした非常に重篤な疾患を引き起こす.特にH5N1鳥インフルエンザのヒトでの死亡率は60%にも及び,主要な死因はARDSである4).また2003年に発生したSARSでは半年の間に8,000人が感染し,うち800人が死亡したが,死因の大部分はARDSによるものであった5).このようなウイルス感染症はいったん重症化するとワクチンや抗ウイルス薬はもはや無効となり,有効な治療法がない.現在ウイルス感染で引き起こされる重症ARDSの病態の解明,治療法の開発が重要な課題となっている.ウイルスの増殖には宿主因子が不可欠であるが,ウイルスが侵入した宿主細胞では,様々なウイルス・宿主相互作用が引き起こされる.ウイルス感染に対して宿主細胞ではインターフェロンによる抗ウイルス応答をはじめとした自然免疫が誘導されるが,一方で自然免疫の過剰な応答は肺組織の過剰炎症を引き起こし,ARDSの重症化に繋がる.私達はこれまで,マウスARDSモデル用いてウイルス性のARDS,非ウイルス性のARDSに共通して関与している分子病態として,ダメージ関連分子パターン(damage associated molecular patterns;DAMPs),レニン・アンジオテンシン系,ならびにケモカインCXCL10とその受容体CXCR3の役割について報告してきたので,これらの研究成果を中心に最近のARDS研究について述べたい.