著者
久場 敬司 木村 彰方
出版者
秋田大学
雑誌
若手研究(スタートアップ)
巻号頁・発行日
2007

新規ACE ファミリー分子であるアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)はアンジオテンシンII を分解してレニン-アンジオテンシン系を負に調節し、心血管機能の制御などに関与する一方で、SARS(重症急性呼吸器症候群)ウイルスの受容体であるとともに、急性肺傷害において肺保護作用を発揮する。しかしながら、その肺保護作用の分子細胞メカニズムは不明であった。本研究課題において、私たちはACE2 の発現が酸化ストレスにより制御されることを見出し、遺伝子改変マウスを用いた解析からアンジオテンシンを介したマクロファージの活性化が重要であることを明らかにした。さらに酸化ストレスによる酸化リン脂質の産生を介した自然免疫シグナルの過剰な活性化が、SARS のみならず高病原性H5N1 インフルエンザによるARDS/急性肺傷害の病態発症に重要であることを見出した。実際にSARS などに加えて幅広い原因によるARDS/急性肺傷害の患者検体の肺病理組織においても酸化リン脂質の産生が認められた(Cell, 2008)。これらの成果は、SARS、急性肺傷害の治療のみならず幅広い疾患の病態解明、新しい治療法の開発に貢献することが期待される。
著者
笹月 健彦 上川路 信博 MCMICHAEL An JONES Sarah 木村 彰方 白澤 専二 MCMICHEAL An
出版者
九州大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1993

HLA多重遺伝子族による「免疫制御」の分子機構の解明を目的に、ヒトにおける免疫応答のモデルとして、B型肝炎ワクチン接種者における免疫応答性の個体差、アレルギー性疾患のモデルとしてスギ花粉症、さらに分子レベルでの制御機構の解明のためにHLA結合ペプチドの解析を行い以下の知見を得た。B型肝炎表面抗原(HBsAg)上の2個のT細胞エピトープ、HBs16-31とHBs81-99を、合成ペプチドおよびHBsAg特異的T細胞株を用いて同定した。HBs16-31は高いまたは低い抗体価を示したワクチン接種者から得られた5個のHBsAg特異的T細胞株全てに認識された。一方、HBs81-99は高い抗体価を示したワクチン接種者に由来する2個のT細胞株によってのみ認識された。HBsAgに対する抗体価は、ワクチン接種者のHBs81-99に対するPBLsの増殖反応に強く相関したが(r=0.47)、HBs16-31対するPBLsの増殖反応との間には有意の相関が認められなかった。従って、HBs81-99は、HBsAgに免疫されたヒトにおいて、抗HBs抗体産生に重要な役割を担っていると考えられた。スギ花粉症は、スギ(Cryptomcria japonica)花粉によって引き起こされるI型アレルギー疾患である。これまでに、PCR-SSOP法によるHLA-DNAタイピングを行い、本疾患とHLAクラスII対立遺伝子との相関を解析した結果、HLA-DPA1^*02022、及びDPB1^*0501対立遺伝子によってコードされるHLA-DP5抗原の頻度が、スギ花粉症患者集団において有意に増加していることを明らかにした。さらに、HLA-DP5抗原が、本疾患の病因に直接寄与しているか否かを検討するために、HLA-DP5(DPA1^*02022/DPB1^:0501)陽性の3名の患者より、スギ花粉抗原(CPAg)特異的T細胞株を樹立した。このスギ花粉抗原特異的T細胞株が、HLA-DP5により抗原提示を受けているかを、HLA-DP5抗原を発現したL細胞トランスフェクタントを用いて解析し、患者末梢血中に疾患と相関のあるHLA-DP5拘束性のCPAg特異的T細胞が存在することが明らかとした。さらに、主要スギ花粉アレルゲンであるCrj1の全長をカバーする32種のオーバーラッピングペプチドを合成し、その中にHLA-DP5拘束性のTh2を誘導するペプチドを1種同定した。これらの結果より、HLA-DP5は、CPAgに対するIgE抗体産生をヘルプすることにより、本疾患の病因に直接寄与していることが示唆された。主要組織適合性複合体(MHC)クラスI結合ペプチドが、MHCクラス1分子における-アミノ酸残基の違いにより如何に影響されるかを調べるために、3つのHLA-A2サブタイプ(HLA-A^*0204,A^*0206,A^*0207)分子に結合したペプチドを抽出し、そのアミノ酸配列をアミノ酸配列分析機により解析し、昨年度までに、各アリル特異的結合ペプチドモチーフは第2および第9残基目の主要なアンカー部位において大きく異ることを明らかにした。さらに、上川路がD.Hunt教授を訪問し、個々のHLA結合ペプチドの解析に必須の質量分析を用いた微量ペプチドの分析法に関する最新の情報を得て、質量分析機により各アリルにおける18の自己ペプチドのアミノ酸配列を同定し、それぞれの相対的なシグナル強度は、正確にこれらペプチドモチーフを反映していることが確認された。ペプチドモチーフの違いとHLAクラスI分子一次構造の違いとの関連を理解する為に、既に報告されているHLA分子の結晶構造をもとにcncrgy minimizationによるペプチド-HLA複合体のコンピューターモデリングを行った。これにより各アリル間のペプチドモチーフの違いはHLA分子の高次構造の違いにより説明できた。また、McMchacl教授らとの共同研究として、HLA-B27サブタイプの結合ペプチドの構造を解析を行った。強直性脊椎炎との強い相関の認められるHLA-B^*2704と相関の認められないHLA-B^*2706に関して、結合ペプチドの解析を行い、HLA-B^*2704結合ペプチドが、やはり強直性脊椎炎との強い相関の認められるHLA-B^*2705と同じく、2残基めがアルギニンである事が明らかになった。これらの結果は、HLA結合ペプチドレパートリーのサブタイプ間における精妙な違いを示すと共に、サブタイプ間での疾患感受性の差異の分子レベルでの理解を可能とし、今後、これらのHLAと相関のある疾患の抗原ペプチドの予測に大きく寄与すると考えられる。
著者
矢崎 義雄 永井 良三 平岡 昌和 中尾 一和 多田 道彦 篠山 重威 木村 彰方 松原 弘明 川口 秀明
出版者
東京大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1993

(A)心機能に重要な遺伝子の心筋特異的な発現調節機構の解明心肥大のメカニズムについては、培養心筋細胞のin vitroストレッチ・モデルを用いた解析により心筋内アンジオテンシンIIの動態とMAPキナーゼ等の細胞内リン酸化カスケードを介する機序および、心筋内レニン・アンジオテンシン系が心筋細胞の肥大と間質の繊維化を惹起することが明らかとなった。また、心筋で発現するサイトカイン(IL-6)、ホルモン(ANP,BNP,レニン・アンジオテンシン)、Kチャンネル、カルシウムポンプなどの遺伝子の虚血・圧負荷・Ca・甲状腺ホルモンなどの外的負荷や病態時における発現調節機構・転写調節機構を明らかにした。さらに、心筋細胞分化を規定する遺伝子を解明するため、すでにマウスで単離した心筋特異的ホメオボックス遺伝子C_<SX>をプローブとしてヒトC_<SX>を単離したところ、マウスC_<SX>遺伝子とアミノ酸配列が非常に類似しており、種をこえて保存されていることが明らかとなった。(B)心筋病変形成の素因となる遺伝子の解明日本人の肥大型心筋症患者で心筋βミオシン重鎖遺伝子に計14種のミスセンス変異を同定し、このうち13種は欧米人と異なる変異であった。47多発家系中11家系については心筋βミオシン重鎖遺伝子との連鎖が否定され、日本人における本症の遺伝子的不均一性を示すと考えられた。心肥大を有するミトコンドリア心筋症患者ではロイシンtRNA遺伝子の点変異、多種類の遺伝子欠失を検出した。さらに、日本人の拡張型心筋症においてHLA-DR遺伝子と、QT延長症候群で11p15.5のHRASとD11S922と、それぞれ相関が認められた。
著者
木村 彰方
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.438-449, 2018-04-15 (Released:2019-05-09)
参考文献数
10
著者
沼野 藤夫 GRANDOS Juli PARK Y.B HOFFMAN Gray REYESーLOPEZ ペドロエー ROSENTHAL Ta ARNETT Frank MECHRA N.K. SHARMA B.K. PREEYACHIL C SUWANWELA Ni 角田 恒和 能勢 真人 松原 修 木村 彰方 長沢 俊彦 西村 泰治 CHARAOENWONGSE P. REYES-ROPEZ P.A. GRANDOSE J. PEDRO A Reye FRANK C Arne YACOV Itzcha N.K Mehra B.K Sharma NITAYA Suwan Y.B Park
出版者
東京医科歯科大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

高安動脈炎は非特異性血管炎であり、その成因は不明で、我国では難病の1つに指定されている。長年の研究の結果、この血管炎の発生に自己免疫機序の関与が示唆されるが、まだ十分解明されるまでには至っていない。本症は、臨床的にもいくつかの特徴が明らかにされており、(1)若年女性に多発し、(2)アジア諸国に多く、欧米に少ない種属差が知られている。我々は、本症の成因に遺伝要因の関与を想定し、現在までにHLA A24-B52-DR2のhaplotypeが本症患者に有意に高い頻度で出現していることを確認し、この事実がアジア諸国に多発する本症の謎と解きあかす鍵と考えられた。なぜならばB52の高い出現頻度を示しアジア諸国、アメリカインディアン、南米と本症の多発地域とが一致するからである。その後の検索で南米、韓国、インド等に於いても、本症患者にB-5 or B-52が有意に高い頻度を示すことが明らかにされてきている。そこで本症の病態につき国際研究を開始したが、この国際比較に於いていくつかの新しい事態が明らかにされた。その1つは、各国によって男女比が異なることである。我国では、女性が圧倒的に多い事実に対して西方にゆくに従って、その比率が減少し、イスラエル、トルコでほぼ6:4の割合までにゆくことである。もう1つは種属によりその臨床病態が異なり、我国では上行大動脈より大動脈弓部にかけての病変が多いのに対し、インド、タイ、南米(メキシコ、ペル-)ではむしろ腹部大動脈に病変が多いという差が明らかにされた。特にインド等では腹部大動脈に限局した患者もかなり認められた。このことから病態の分類に腹部大動脈の病変のみを含めた新しい体系を国際間で取り決め、この新分類に従った患者の実態を目下明らかにしつつある。このことはHLAの研究に於いても新たな展開を開かしめた。我々の研究に於いてHLA B-39の存在が健康日本人に比し有意に高い統計上の成績が得られたが、実数はわずか10名に満たぬ程であった為に放置しておいたが、そのDNAレベルの研究から、本症患者にのみ認められるB-39-2という新しいタイプの存在が発見された。そしてこのB-39は南米や東南アジア諸国に於いてはB-52より高い出現頻度を示しており、B-39と連鎖不平衡を示す遺伝要因が改めて注目されるようになっている。目下、各国に於いてB-39の出現頻度とその臨床病態との比較が新たなテーマとして取り上げられ、目下検討が成されつつある。このDNAレベルの解析は、各国より送ってもらった血液にて当大学で目下行いつつある。
著者
笹月 健彦 松下 祥 菊池 郁夫 木村 彰方 榊 佳之
出版者
九州大学
雑誌
一般研究(B)
巻号頁・発行日
1985

HLAと連鎖した免疫抑制遺伝子(Is遺伝子)の発現とその医学生物学的意義を明らかにするために、Is遺伝子により支配される免疫低応答性の細胞レベル,分子レベル,および遺伝子レベルでの解析を進め、以下のような成果をおさめた。まず溶連菌細胞壁抗原(SCW),あるいは日本住血吸虫抗原(Sj)に対する免疫応答機構の細胞レベルでの解析を行なった。T4ヘルパーT細胞と抗原提示細胞の間の相互作用はHLA-DRにより遺伝的に拘束されているのに対し、T8サプレッサーT細胞による免疫抑制現象は、抗DQ単クローン抗体により阻止された。これにより、HLA-DR分子が免疫応答遺伝子の遺伝子産物として機能しているのに対し、HLA-DQ分子は免疫抑制に重要な分子であり、Is遺伝子の直接の遺伝子産物であることが示唆された。さらにSCWに対する低応答ハプロタイプであるDw2と,Sjに対する低応答ハプロタイプであるDw12のDQw1β鎖のアミノ酸配列の異同を検討し、【β_1】ドメインの高司変領域の違いにより、免疫抑制遺伝子の機能的相違がもたらされていることを示した。また、HLAと連鎖したスギ花粉抗原特異的Is遺伝子が抗原特異的サプレッサーT細胞を介して、IgE免疫低応答性を支配し、スギ花粉症に対する低抗性をもたらしていることを明らかにした。また、らい腫型らしい(LL)の感受性を支配する遺伝子がHLAと連鎖していることを示し、さらに、LL型らい患者より、らい菌抗原特異的サプレッサーT細胞の存在を証明した。LL型らい患者のらい菌抗原に対する非応答性がサプレッサーT細胞によりもたらされていることが示唆された。このように、ヒトにおける外来抗原に対する免疫応答の遺伝子支配が詳細に解明され、抗原特異的免疫調節機構におけるHLA-クラス【II】分子の役割りが明らかにされた。これらの研究成果は原因不明の難治性疾患の病因解明に資するものであり、さらに疾患の予防および治療への道を拓くものと期待される。
著者
笹月 健彦 平山 兼二 木村 彰方
出版者
九州大学
雑誌
がん特別研究
巻号頁・発行日
1986

家族性大腸ポリポ-シス患者由来のポリ-プ30例,大腸癌20例および非遺伝性大腸癌20例を対象として、正常粘膜,ポリ-プ,癌におけるがん遺伝子の発現および種々のプロ-ブを用いたヘテロザイゴシティ消失(LOH)の検索を行なった。調査し得た全例において、cーmyc遺伝子の発現は正常粘膜,ポリ-プ,癌の順に増加しており、その逆にcーfos遺伝子の発現は減少していた。このことよりcーmycは細胞増殖に、cーfosは細胞分化に密接に関与すると推定された。以上の傾向は遺伝性,非遺伝性いずれの大腸癌においてもみられた。家族性大腸ポリポ-シス由来の大腸癌においては、第5,6,12,15,17,22染色体に、20〜50%の症例でLOHが検出された。非遺伝性大腸癌を対象とした場合にも第5,6,15,17,22染色体に10〜30%の症例でLOHがみられた。また本症ポリ-プにおいても、低頻度ながら第12,17,22染色体のLOHが検出されたことより、LOHは遺伝性ー非遺伝性いずれの大腸癌においても特異的な事象ではないが、家族性大腸ポリポ-シスではやや高頻度であり、種々のがん化機構への感受性がより高まっていると推定された。本症多発家系(16家系)構成員を対象として、種々のプロ-ブを用いたRFLP解析を行ない、Mortonの遂次検定法による連鎖検定を進行中であるが、密な連鎖の報告があったCllpllを含めて、有意の連鎖を証明できたものはない。しかし,最大ロッド値が正の値をとるマ-カ-は、第1,5,11,22染色体に各1個、第12染色体に4個見出しており、更に検索を進めている。また本症との連鎖が示唆されていたHLAについては、患者群,り罹同胞対,家系構成員を対象とした解析により、連鎖を否定した。種々の単クロ-ン抗体を用いた組織染色結果より、がん関連抗原(sidlyl Le^など)の発現が、本症患者の正常粘膜では、正常人組織に比して多く認められるため、生化学的にはがん化過程が既に進んでいると思われた。