著者
二塚 信 衛藤 光明 内野 誠
出版者
一般社団法人日本衛生学会
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.78, pp.23002, 2023 (Released:2023-07-14)
参考文献数
21

Even today, more than 60 years after the discovery of Minamata disease, many controversies continue to arise from various viewpoints. Recently, Dr. Shigeru Takaoka has published a book entitled “Minamata Disease and the Responsibility of Medical authorities” as a summary of his and colleagues’ previous works in which he presented their objections to past academic theories. We, who were also engaged in this research at Kumamoto University, would like to address some substantial viewpoints. Drs. Nishimura and Okamoto clarified why a series of cases that were clearly Minamata disease were found only in the Minamata plant from late 1950 to 1975, even though many acetaldehyde plants have been operating in Japan for many years. Dr. Takaoka ignored this very important issue and we point out the lack of reliability of his data from their health examination of “10,000” people. From the pathology perspective, Dr. Takaoka mis­understood the location and plasticity of neurons. From a clinical viewpoint, he mentioned the poor evidence for the characteristics and courses of the patients’ clinical symptoms.
著者
牛島 佳代 北野 隆雄 二塚 信
出版者
The Japanese Society for Hygiene
雑誌
日本衛生学雑誌 (ISSN:00215082)
巻号頁・発行日
vol.58, no.3, pp.395-400, 2003-09-15 (Released:2009-02-17)
参考文献数
17
被引用文献数
2 2

Objectives: To clarify the needs and to consider establishing a social support system for patients with Minamata disease (MD), or methylmercury poisoning, by investigating their health and socioeconomic conditions.Methods: The total number of people certified as having MD in May 1999 by the Kumamoto and Kagoshima Prefecture Government Committees on MD was 2265. We sent two questionnaires to 917 individuals who were surviving at that time, which corresponded to 40.5% of the total number of MD patients. The first survey sought information on the individual's health-seeking behavior, and the second survey was about their socio-economic conditions and requirements for welfare and medical care in the future.Results: The average age among male patients was 68.0±13.2yrs (n=477) and that among female patients was 71.2±13.0yrs (n=440). The response rates were 45.7% (n=416) for the first questionnaire and 38.6% (n=354) for the second questionnaire. Among the MD patients, 71.7% judged their health condition to be ‘bad’ or ‘very bad’, and 97.4% received medical treatments that included acupuncture or moxacautery and massage. Regarding the activity of daily living (ADL), which includes ‘communicating’, ‘walking’, ‘eating’, ‘use of toilet’, ‘dressing’ and ‘taking a bath’, the rates of ‘independent’ were relatively low among those under 49yrs and those over 75yrs compared with the other age groups. Many individuals emphasized that they had anxiety about their health and health care in the future.Conclusion: We concluded that the quality of life (QOL) of MD patients was low. It is important to consider developing a social support system for MD patients.
著者
二塚 信
出版者
一般社団法人 日本農村医学会
雑誌
日本農村医学会雑誌 (ISSN:04682513)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.938-949, 1998-03-30 (Released:2011-08-11)
参考文献数
16

近年農業の機械化は急速に進展し, 水田, 畑作ともに乗用化, 多機能化, 多条化がはかられている. 本研究班では主として水田9機種, 畑作13機種の乗用型農業機械の騒音及び手腕系振動, 座席振動についてISO等国際標準に基づく測定法によって測定した. その結果, 乗用機械の実稼動時の騒音は少なからず日本産業衛生学会の許容基準を上回り, 聴覚障害のリスクが高いことが判明した. 手腕系振動は乗用型農業機械では振動レベルは低いが, 携帯型摘茶機などは高値を示した. 他方, 座席振動は現行の操作時間ではISOの許容曝露限界を上回るケースは例外的であるが, 長期的な健康影響を考慮するとき, 疲労・能率減退限界2時間を下回る機種が少なくなく, 機械の工学的改善が必要だと思われた. 作業者の健康影響については, 乗用型農業機械の長期間操作者では高周波帯域の聴力低下が明らかで, 臨床的に騒音性難聴と診断され得る症例がみられた.今後農業経営規模の拡大, あるいは法人・会社組織化による農業機械のオペレータの専属化の進行は必至だと思われる. 本学会として, 農業機械の騒音及び振動の測定及び評価を組織的・体系的に行なう必要があり, 本研究班として健康障害予防の観点から今後の医学的, 衛生工学的対策の提言を試みた.
著者
上田 厚 二塚 信 上田 忠子 有松 徳樹 上野 達郎 永野 恵 野村 茂
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業医学 (ISSN:00471879)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.32-44, 1984-01-20
被引用文献数
2

い草農民は,収穫期に短期間ながら高濃度,以後の畳表製織工程により年間を通じ比較的低濃度の染土じん暴露を受ける.染土は,遊離けい酸含量15〜25%の粘土性の粉体で,収穫時にい草泥染として用いられる.い草農民には,約20年間の作業によりその20%にじん肺所見が認められるようになるが,そのX線写真上の症度や肺機能障害の程度は比較的軽度の者が多く,一般に,い草作業者のじん肺は比較的予後の良いものとされている.このことは,染土の生体作用に関する実験的研究によっても裏付けられているが,作業環境の改善はこの10年間でようやく着手された段階であり,作業者が裸手にて発じん源たる乾燥束を取り扱う作業形態よりみて,い草農民の染土じん吸入量は相当量に達しているものと思われ,今後の作業の状況如何ではより重篤な症例の出現する可能性は否定できない.また,かかる緩徐な線維形成をきたす粉体の吸入によるじん肺について長期にわたって追跡した例はほとんどみられない.かかる見地より,著者らは,1970年に調査されたい草農民の対象者を,1980年に再び健診し,この10年間の胸部X線写真所見およびその他の呼吸器所見の変化の様態を観察し,それが作業者の粉じん暴露の実態といかなる関連を持つかを検討した.対象者は男子51名(58.6±5.3歳),女子37名(54.4±38歳)で,前回と同様,胸部X線直接撮影,BMRCによる問診,肺機能検査,その他の内科的検査で,胸部X線像については,同一対象者の前回と今回の写真をともに,1978年版じん肺標準写真(労働省)を参照して同時に読影した.1980年のX線像では,12階尺度1/0以上が,男子49.0%,女子62.2%に認められ,1970年(男子25.5%,女子21.6%)に比し有意な増加を示した(p<0.01).所見は,小粒状影を混えるが不整形陰影を主とし,中下肺野に強く認められた.また,尺度の進展例は男子62.7%,女子67.6%であった.呼吸器自覚症状の有症率は,男子43.1%,女子41.4%で,前回と今回で有意な差異をみないが,男女ともにぜい鳴の有症率が増加の傾向にあった.肺機能検査では,男子19.6%,女子18.9%に一秒率の低下をみ,より深部気管支領域の障害を示す%MMFの低下(80%以下)を,男子51.0%,女子40.5%に認めた.X線写真有所見者やその進展例に,必ずしも,肺機能異常や呼吸器自覚症状有症率が高い傾向は認められないが,これらのおのおのの検査の有所見者は,正常者に比し,い草経営面積,年間畳表生産量あるいは染土じん暴露指数〔Exposure Index=(い草面積×年数)+1/5(年間畳表生産枚数×年数)〕が高値を示し,有症率と作業量との関連か認められた.これらの成績よりみて,以下の3点がい草農民のじん肺に関し重要であると思われる.1)い草作業者のじん肺の本態は,染土じんの吸入,沈着に伴う,とくに細気管支領域および肺胞壁の炎症性病変を主とするもので,さらに,い草自体の有機じんとしての関与も無視しえないものがある.2)い草作業者のじん肺の進展性はそれほど著しいものではないが,作業者には,X線写真上のじん肺所見のみならず,肺機能低下や呼吸器自覚症状が広範に出現し,さらに,それらの有症率には染土じん吸入量との関連が認められる.3)一般に,い草作業者の呼吸器障害の程度や頻度は,女子に高い傾向を認めるが,これは,とくにこの10年間のい草労働に占める女子の労働配分の相対的な上昇に対応している.したがって,本研究により,い草農民のじん肺所見は,畳表製品化作業に伴う長期の染土じん吸入に起因するものであり,今後とも,定期的なじん肺健診と適切な粉じん環境の衛生工学的改善が必要とすることが示唆された.