著者
河岡 義裕 堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 大隈 邦夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

インフルエンザは毎年のように高齢者やハイリスクグループの超過死亡の原因となっている。また前世紀には3度の世界的大流行を起こし、数千万人もの命を奪った。ワクチンは感染症予防において最も有効な手段のひとつである。現在わが国で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、症状の重篤化は予防できるが、感染そのものの予防には限界がある。米国で承認された弱毒生ワクチンは数アミノ酸が自然変異によって変化した弱毒化ウイルスであり、病原性復帰の危険性が指摘されている。1999年に我々が開発したリバース・ジェネティクス法により、任意に変異を導入したインフルエンザウイルスを人工合成することが可能になった。本研究では、リバース・ジェネティクス法を用いて、より安全かつ効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発を目的とした。今回は、インフルエンザウイルス増殖に必須の蛋白質であるM2蛋白質に欠損変異を導入し、生ワクチン候補株となるかどうかを確認した。M2蛋白質に欠損変異を導入したウイルス株は、培養細胞を用いると親株と同様に効率よく増殖するが、マウスを用いた実験では弱毒化していることが明らかになった。このようにリバース・ジェネティクス法を用いることで、従来の生ワクチンよりも安全なワクチン株の作出が可能になったといえる。今後は、他のウイルス蛋白質にも人工的に変異を導入し、さらに安全で効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発に努める。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人畜共通新興再興感染症は人類の脅威である。特に、H5N1 高病原性鳥インフルエンザの世界的な蔓延とヒトへの感染は、インフルエンザの新たな世界的大流行(パンデミック) を危惧させている。本研究では、こういった世界情勢を鑑み、H5N1 ワクチン開発のための基礎研究を実施した。その結果、不活化ワクチン製造のためのシードウイルスの発育鶏卵ならびにMDCK 細胞における増殖基盤を明らかにし、その知見をもとに高増殖性シードウイルスの作出に成功した。本成果は、今後のインフルエンザワクチン開発におおいに貢献することが期待される。
著者
堀本 泰介 前田 健 川口 寧 杉井 俊二 土屋 耕太郎 五藤 秀男 田島 朋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ブタ用多価組み換えウイルス生ワクチンを開発するためには、まずベクターウイルスの選択を検討しなければならない。この目的に合うベクターウイルスとしては、(1)ブタに感染するが病原性の弱いもの、あるいは確実に弱毒化されているもの、(2)比較的サイズの大きな複数の外来性の遺伝子の挿入が可能なもの、(3)外来抗原を長期間発現可能な持続感染性のもの、が理想的であると考えられる。本研究では、この条件に合うものとしてブタサイトメガロウイルス(Porcine Cytomegalovirus : PCMV)のベクター化を考えた。その基礎知見の獲得のため、PCMVのゲノム構造および主要蛋白質の性状解析を実施し、以下の研究成果を得た。(1)PCMVゲノムDNAの制限酵素切断プロファイルを明かにし、切断断片のクローニングに成功した。(2)ヘルペスウイルスの主要遺伝子である主要ゲノムの転写複製に必須であるDNAポリメラーゼ遺伝子、粒子形成に必須であるカプシッド蛋白遺伝子、細胞レセプターへの結合に関与する糖蛋白質gB遺伝子、およびこれら周辺の遺伝子クラスターの同定、塩基配列を決定した。(3)これら主要遺伝子の分子系統解析の結果、PCMVはベータヘルペスウイルス亜科、特にヒトヘルペスウイルス6型および7型と非常に近縁なウイルスであることを発見した。(4)いくつかの必須遺伝子の発現実験により蛋白質の分子構造解析、あるいは免疫性状などについて検討した。(5)PCMV感染の有無を判定する高感度で特異性の高いMCP遺伝子配列に基づくPCR法を確立した。さらに、濾紙乾燥血液をこの方法に応用した。これらの成果は、細胞性・液性免疫の誘導や組み換えワクチン作製に関する基礎的な情報を提供するのみならず、今後、獣医畜産学および豚の臓器を利用した異種移植に関する臨床医学の発展に大きく貢献するものと考えられる。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。