20 0 0 0 OA フィロウイルス

著者
高田 礼人
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.197-208, 2012-12-25 (Released:2013-10-22)
参考文献数
93
被引用文献数
1

フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)はヒトを含む霊長類に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られている.ワクチンおよび抗ウイルス薬は実用化されていない.近年,ウイルス増殖過程におけるフィロウイルス蛋白質の様々な機能およびウイルス蛋白質と宿主因子との相互作用が明らかになってきた.また,霊長類以外の動物のフィロウイルス感染およびヨーロッパにおける新種のフィロウイルス発見などの報告により,フィロウイルスの宿主域・生態に関する研究も新たな展開をみせている.本稿では,フィロウイルスに関する基礎的な知見と最近の話題を紹介する.
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2016-04-01

エボラウイルスは、ヒトまたはサルに急性で致死率の高い感染症(エボラ出血熱)をひき起こす病原体である。現在のところ、ワクチンや治療薬は実用化されていないが、2014年の西アフリカでの大流行と欧州や米国を含めた他国への拡散によって、予防・治療法開発が急務となった。中和抗体による受動免疫および既存の化合物が緊急的に用いられたが、実用化には大きな課題が残されている。(1)これまでに作製された治療用抗体は全てZaireウイルス特異的であり他の種のエボラウイルスには効果が無い。(2)投与された化合物の有効性がサルモデルで確認されていない事に加え、それらは細胞内で作用するウイルスポリメラーゼ阻害薬であるため、大量投与に伴う副作用が大きい。そこで、本研究では全てのエボラウイルス種に有効な抗体療法開発に繋がるマウスモノクローナル抗体の作出を試みると共にエボラウイルスの細胞侵入を阻害する新規化合物を探索し、エボラ出血熱治療薬の実用化を目指す。エボラウイルス(Zaire species)の表面糖蛋白質(GP)の遺伝子をゲノム内に組み込んだ増殖性の水疱性口炎ウイルスに感染させ回復したマウスに、エボラウイルス(Sudan species)のGPを持つウイルス様粒子を腹腔内投与してブーストする方法によって、昨年度得られた交差中和活性を示すモノクローナルIgG抗体2クローンおよびIgM抗体1クローンのエピトープ解析を行った。その結果、IgG抗体2クローンは既存の交差反応性中和抗体とエピトープを競合した。IgM抗体クローンは、異なるエピトープを認識すると予想されたため、IgG化し、エボラウイルス感染ハムスターモデルで受動免疫による効果を調べたが、治療効果は認められなかった。他方、fusion loopを認識する交差反応性抗体とGPとの結合構造の解析に着手し、Fabの結晶解析を終了し、GP-抗体複合体の電子顕微鏡による観察に成功した。
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2008

ウイルス感染症の対策として、ワクチン接種による予防が最も一般的であり効果が期待される。ワクチンは生ワクチンと不活化ワクチンに分類されるが、生ワクチンは安全性の問題、不活化ワクチンは免疫原性の弱さの問題が、それぞれ短所として挙げられ、双方の短所を克服した安全で効果的なワクチンの開発は困難である。特に、生ワクチンは短期間で作出することが不可能であるため、発生頻度が増している新興感染症に対して迅速に対応するためには、不活化ワクチンの効率的な開発および接種法の改良が求められる。本研究では、ウイルス感染に広く認められる抗体依存性感染増強現象(ADE)に着目した。この現象は、ウイルスが抗体を利用してマクロファージや樹状細胞等の抗原提示細胞に効率よく感染するためのメカニズムであると考えられている。本研究では、この抗体の特性を利用して抗原提示細胞に目的の不活化ワクチン抗原を効率よく取り込ませるための手法を開発し、液性免疫および細胞性免疫の両方を誘導する安全なアジュバントとしての抗体の可能性を探る。不活化ウイルス抗原として、ショ糖密度勾配遠心によって精製したエボラウイルスのウイルス様粒子をウイルス表面糖蛋白質に特異的なADE抗体、中和抗体およびどちらの活性も示さないモノクローナル抗体とそれぞれ混合し、マウスの皮下または腹腔内接種して、経時的に血清中の抗体応答を解析し、異なる性質を持つこれらの抗体の間に差が認められるか否かを解析したが、明らかな差は認められなかった。
著者
河岡 義裕 堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 大隈 邦夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

インフルエンザは毎年のように高齢者やハイリスクグループの超過死亡の原因となっている。また前世紀には3度の世界的大流行を起こし、数千万人もの命を奪った。ワクチンは感染症予防において最も有効な手段のひとつである。現在わが国で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、症状の重篤化は予防できるが、感染そのものの予防には限界がある。米国で承認された弱毒生ワクチンは数アミノ酸が自然変異によって変化した弱毒化ウイルスであり、病原性復帰の危険性が指摘されている。1999年に我々が開発したリバース・ジェネティクス法により、任意に変異を導入したインフルエンザウイルスを人工合成することが可能になった。本研究では、リバース・ジェネティクス法を用いて、より安全かつ効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発を目的とした。今回は、インフルエンザウイルス増殖に必須の蛋白質であるM2蛋白質に欠損変異を導入し、生ワクチン候補株となるかどうかを確認した。M2蛋白質に欠損変異を導入したウイルス株は、培養細胞を用いると親株と同様に効率よく増殖するが、マウスを用いた実験では弱毒化していることが明らかになった。このようにリバース・ジェネティクス法を用いることで、従来の生ワクチンよりも安全なワクチン株の作出が可能になったといえる。今後は、他のウイルス蛋白質にも人工的に変異を導入し、さらに安全で効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発に努める。
著者
喜田 宏 伊藤 壽啓 高田 礼人 岡崎 克則 河岡 義裕
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

シベリアの水禽営巣地ならびに北海道で採取した野鳥の糞便からインフルエンザウイルスを分離し、シベリアに営巣する水禽が様々なHA亜型のインフルエンザウイルスを保持していることを明らかにした。NPならびにH5HA遺伝子の系統進化解析の結果、1997年に香港のヒトとニワトリから分離された強毒H5N1インフルエンザウイルスの起源がこれらの水禽類にあることが判った。したがって、今後ヒトの間に侵入する新型ウイルスのHA亜型を予測するため、シベリア、アジアを含む広範な地域で鳥類インフルエンザの疫学調査を実施する必要がある。北海道のカモから分離した弱毒H5N4ウイルスを用いて強毒H5N1ウイルス感染に対するワクチンを試製し、これが有効であることを示した。そこで、疫学調査で分離されるウイルスは新型ウイルス出現に備え、ワクチン株として系統保存する計画を提案した(日米医学協力研究会2000、厚生省1999)。中国南部のブタにおける抗体調査の結果から、H5ウイルスの感染は少なくとも1977年から散発的に起こっていたことが判明した。一方、H9ウイルスは1983年以降に中国南部のブタに侵入し、その後ブタの間で流行を繰り返していることが判った。
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
若手研究(A)
巻号頁・発行日
2004

これまでに、エボラウイルスなどの新興感染症は世界の限られた地域でしか認められていないが、昨今の急激な国際化による人の移動および動植物の輸出入に伴い、それらの疾病の原因病原体が他国に拡散する可能性が高まっている。さらに近年、エボラウイルスのような致死率の高い出血熱ウイルスがバイオテロリズムの手段として使用される危険性が高まっており、対策を講じる必要がある。しかし、ウイルス性出血熱に対する効果的な医療手段はほとんどなく、予防・治療法を開発する事が急務となってきた。これまでに申請者は、エボラウイルスZaire株の表面糖蛋白質(GP)分子はウイルスの感染性を中和する抗体および増強する抗体の両方の標的である事を証明した。そこで、エボラウイルスの病原性の強さと感染増強抗体との関わりを調べるために、病原性の非常に強いZaireウイルスと病原性の比較的弱いRestonウイルスの間で、感染増強抗体誘導能を比較した。ZaireウイルスとRestonウイルスGPに対するマウスの抗血清をそれぞれ作成し、血清中の感染増強活性および中和活性を調べたところ、中和活性には殆ど差が無かったのに対して、感染増強活性はZaireウイルスの血清の方が優位に高かった。これは、感染増強抗体が結合できる抗原決定基の種類と数が両ウイルスの間で異なることを示している。また、この感染増強活性は主に血清中のIgG2a抗体によるものであることが示唆された。以上の成績より、エボラウイルスのGP分子そのものの感染増強抗体誘導能がウイルスの病原性と関連があることが示唆された。(注)実際のエボラウイルスを用いた実験は、Heinz Feldmann博士の協力でカナダの国立研究施設Canadian Science Centre for Human and Animal Healthで行った。
著者
喜田 宏 伊藤 壽啓 梅村 孝司 藤田 正一 前出 吉光 中里 幸和 高田 礼人 岡崎 克則 板倉 智敏
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1996

ウイルスの病原性発現機構を宿主側の要因を詳細に解析することによって究明することを目的とした。そのため、ウイルス感染によって誘発される宿主細胞由来病原性因子の検出を試みた。インフルエンザウイルス感染発育鶏胚の奨尿膜を超音波破砕し、その可溶性画分をニワトリの静脈内に注射した。ニワトリは汎発性血管内凝固により数分以内に斃死した。この致死活性はヘパリンを静脈内に前投与することによって抑制されたことから、本因子は血液凝固に関与する物質と推定された。陰イオン交換体を用いた高速液体クロマトグラフィーおよび塩析法によって病原性細胞因子を濃縮精製する系を確立し、粗精製致死因子をマウスに免疫して、モノクローナル抗体11クローンを作出した。ニワトリの鼻腔内にインフルエンザウイルス強毒株と弱毒株を実験感染させ、経過を追及した。強毒株はウイルス血症を起こしたが、弱毒株はウイルス血症を起こさなかった。すなわち、強毒株を接種したニワトリでは全身臓器の血管内皮細胞でウイルス増殖が起こり、血管炎を招来した。強毒株の標的が血管内皮細胞であることが明らかになった。損傷した血管内皮細胞から血液凝固因子ならびにサイトカインが放出された結果、汎発性血管内血液凝固を起こし、ニワトリを死に至らしめるものと結論した。この成績はインフルエンザウイルス感染鶏胚奨尿膜から抽出した細胞因子がニワトリに血管内凝固を起す事実と一致する。汎発性血管内血液凝固症候群は様々なウイルス感染症で認められる。したがって、この細胞因子はインフルエンザのみならず他のウイルス感染症においても病原性発現に重要な役割を果たすものと考えられる。ウイルス感染症の治療法を確立するため、本致死因子をコードする遺伝子を同定する必要がある。
著者
高田 礼人
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.61-70, 2015-06-25 (Released:2016-02-27)
参考文献数
22
被引用文献数
1 3

フィロウイルス(エボラウイルスおよびマールブルグウイルス)はヒトを含む霊長類に重篤な出血熱をひきおこす病原体として知られている.ワクチンおよび抗ウイルス薬は実用化されていない.しかし,2014年に西アフリカで起きた大規模なエボラ出血熱の流行によって,予防・治療法の実用化に向けた動きは加速されるとともに,未承認ながら幾つかの治療薬が感染者に投与された.本稿では,エボラウイルスに対するワクチンおよび治療法開発のための研究と現状を紹介する.
著者
高田 礼人
巻号頁・発行日
2015-07-18
著者
高田 礼人
出版者
北海道大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2007

フィロウイルスは霊長類に重篤な出血熱を引き起こし、その致死率は90%近くに及ぶこともある。マクロファージや樹状細胞および肝細胞はウイルスの生体内における標的細胞であり、これらの細胞への感染が病原性発現に関与していると考えられている。フィロウイルスの表面糖蛋白質GPはこれらの細胞に発現しているC型レクチンと結合してウイルスの侵入効率を上げることが知られている。本研究では、フィロウイルスのプロトタイプであるマールブルグウイルス(MARV)のC型レクチン介在性細胞侵入機構について、病原性の異なる2つの株を用いて解析を行った。MARVのGPを持つシュードタイプウイルスを、ヒトのガラクトース型C型レクチンhMGLまたは樹状細胞に発現するC型レクチンDC-SIGNを発現させたK562細胞に接種し、フローサイトメーターを用いてGFP陽性のウイルス感染細胞数から各細胞に対する感染価を測定した。霊長類に強い病原性を示すAngola株のGPを持つシュードタイプウイルスは、比較的弱い病原性のMusoke株のGPを持つものよりもレクチン発現細胞への感染性が高いことが判明した。また、547番目のアミノ酸(Angola株 : グリシン、Musoke株 : バリン)がレクチン介在性の細胞侵入効率を決定していることが明らかとなった。MARVの病原性とレクチン発現細胞への感染性との間に相関が見られたことから、C型レクチン介在性の細胞侵入効率はMARVの病原性に関与する因子の一つである可能性がある。同定された547番目のアミノ酸は細胞への吸着に重要とされているレセプター結合領域とは離れているが、fusion peptideの近傍である。したがって、レクチン介在性細胞侵入において、このアミノ酸がfusion peptideが露出するための立体構造変化や膜融合活性に重要であることが示唆された。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人畜共通新興再興感染症は人類の脅威である。特に、H5N1 高病原性鳥インフルエンザの世界的な蔓延とヒトへの感染は、インフルエンザの新たな世界的大流行(パンデミック) を危惧させている。本研究では、こういった世界情勢を鑑み、H5N1 ワクチン開発のための基礎研究を実施した。その結果、不活化ワクチン製造のためのシードウイルスの発育鶏卵ならびにMDCK 細胞における増殖基盤を明らかにし、その知見をもとに高増殖性シードウイルスの作出に成功した。本成果は、今後のインフルエンザワクチン開発におおいに貢献することが期待される。
著者
高田 礼人
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.117-124, 2006 (Released:2006-10-13)
参考文献数
16

フィロウイルス科に属するエボラウイルスは中央および西アフリカで散発的な流行を繰り返している感染症の原因ウイルスである.このウイルスはヒトを含む霊長類に重篤な出血熱を引き起こす.その致死率は極めて高く,時には90%に達する.この非常に強い病原性発現のメカニズムには不明な点が多いが,エボラウイルスの表面糖蛋白質が重要な役割を演じている事が示唆されている.
著者
高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

現在までに多くのウイルス感染症は予防、制圧されてきたが、エイズ、ヘルベス、インフルエンザあるいはエボラ出血熱等の感染症に対する効果的な治療法は未だ確立されていない。本研究の目的は特定のアミノ酸配列をもつ合成ベプチドによってウイルスの感染を選択的に阻害する方法を開発する事である。pSKANファージディスプレイシステムを用いて、現在までにインフルエンザウイルス蛋白質に特異的に結合するファージを選択した。また、エボラウイルスの表面糖蛋白をプラスミドから発現させ、精製する事に成功した。これを用いて、この糖蛋白に特異的に結合するファージを選択した。さらに、エボラウイルス糖蛋白の幹部に存在する螺旋状部位が機能的に重要である事が判明したので、その部位と同様のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを作成し、エボラウイルス表面糖蛋白でシュードタイプした豚水泡性口炎ウイルスを用いてウイルス感染性中和試験を行った。その結果、約80%のウイルスの侵入が阻止された。この成績は、この合成ペプチドがエボラウイルス表面糖蛋白の立体構造の変化をさまたげ、その侵入を特異的に阻害したためと考えられる。また、エボラウイルスの糖蛋白に対して誘導される抗体の中には、ウイルスの感染性を増強するものがあり、エボラウイルスの強い病原性に関わっている事が示唆された。したがって、この抗体が認識するエピトープを解析し、そのアミノ酸配列をもつ合成ペプチドを感染個体に投与すれば、抗エボラウイルス薬として有効であるかもしれない。
著者
喜田 宏 YAMNIKOVA Sv 河岡 義裕 高田 礼人 岡崎 克則 SVETRANA Yam デメネフ V. ヤムニコバ S. ルボフ D.K. 伊藤 壽啓
出版者
北海道大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1995

平成7〜9年夏、カムチャッカ半島南端付近、ハバロフスク郊外のアムール河流域ならびにサハ自治共和国内のレナ河流域において水禽の糞便および湖沼水3,000検体を採取した。8年にはレナ河流域北緯63度30分のコベイスキー地区で採取した約900検体の水禽糞便からインフルエンザウイルスH4N6亜型19株、H4N9亜型1株、H11N1亜型1株、H11N6亜型2株、H11N9亜型8株を分離した。9年にはコベイスキー地区で採取した水禽糞便120検体およびヤク-ツク(北緯62度)で採取した鴨の糞便72検体からは各々H4N6亜型1株およびH3N8亜型5株が分離された。一方、レナ河流域北緯65度00分〜64度36分の四十諸鳥地域で採取した水禽糞便約1,400検体と湖沼水20検体からはウイルスが分離されなかった。カムチャッカ半島ならびにアムール河流域で採取した水禽糞便からインフルエンザウイルスは分離されなかった。以上の成績は、鴨の営巣湖沼がレナ河流域北緯63度付近に存在することを示唆する。平成8年と9年の10月に北海道宗谷地方において採取した480検体の水禽糞便材料からインフルエンザウイルスH1N1亜型、H5N3亜型、H5N4亜型、H6N1亜型、H6N7亜型、H8N1亜型、H8N3亜型、H9N2亜型ならびにH11N9亜型各1株を分離した。平成8年度および9年度にレナ河流域および北海道の水禽糞便から分離したインフルエンザウイルスのNP遺伝子の系統進化解析を実施した。その結果、調べた分離株すべてが新型インフルエンザウイルスの発生地である中国南部を含むアジア大陸に分布するウイルスの系統に属することが判明した。以上の成績は、新型インフルエンザウイルスの抗原亜型を予測するために、シベリアの水禽営巣地におけるインフルエンザウイルスの分布をさらに解明する必要があることを示している。
著者
喜田 宏 岡崎 克則 迫田 義博 河岡 義裕 高田 礼人 伊藤 壽啓
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

新型ウイルスの亜型予測に資するため、鳥類および動物インフルエンザウイルスの疫学調査を実施した。ロシア、モンゴル、中国および北海道で、渡りカモの糞便3,987検体を採取し、亜型の異なるインフルエンザAウイルス212株を分離した。宮城県のブタからH1N2ウイルスを分離した。北海道大学を含む動物インフルエンザセンター5機関で25株のH9ウイルス株を交換し、解析を共同で開始した。渡りカモのウイルス遺伝子を比較解析したところ、日本で分離されたH9インフルエンザウイルスと1996年に韓国でニワトリに被害をもたらしたウイルスが近縁であった。1995~1999年に中国のニワトリから分離されたH9N2ウイルスの遺伝子解析の結果、渡りカモのウイルスと異なる亜群に分類され、ノイラミニダーゼに欠損が認められた。内部蛋白遺伝子は1997年の香港の強毒H5N1ウイルスに内部蛋白遺伝子を供給したH9N2ウイルスの系統とは異なった。香港のブタ、カスピ海のアザラシの抗体調査を行い、インフルエンザウイルスが感染した成績を得た。インフルエンザウイルスの異種動物間伝播機構を明らかにするため、ニワトリ雛の気嚢継代によって得たニワトリ馴化株の遺伝子再集合体を作出し、ニワトリ肺における増殖性を調べた。HA遺伝子を入れ替えた遺伝子再集合体の増殖性に変化はなく、他の因子が関与することが示唆された。新型ウイルスの出現に備え世界の動物インフルエンザの疫学調査とワクチン候補株を系統保存・管理するプロジェクトをWHOに提案し、各国とのネットワーク形成に支援が得られることになった。
著者
谷口 剛 伊藤公人 五十嵐 学 村上 悌治 高田 礼人 原口 誠
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告数理モデル化と問題解決(MPS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2006, no.135, pp.185-192, 2006-12-22

インフルエンザウイルスにおける抗原変異の規則性を発見するために,アミノ酸残基の共変異を解析する共変異とは,タンパク質を構成するアミノ酸残基のうち〆複数の位置のアミノ酸が共に置換する現象である.従来からアミノ酸残基の共変異を解析する手法がいくつか提案されていたが,それらの手法では進化の過程における分岐や時間的関係が考慮されていなかったそこで,これらの問題を解決するために,進化系統解析によって得られる系統樹を利用する手法を提案する.過去40年間のH3N2亜型インフルエンザウイルスのHAタンパク質を対象とし,共変異の検出を行い,その結果を示す,また,共変異は時代と共に変化するため,共変異の変化を検出するための手法を提案する.The influenza viruses undergo antigenic drift to escape from antibody-mediated immune pressure. In order to predict possible structural changes of their molecules in future, it is important to analyze the patterns of amino acid substitutions in the past. In this paper, we present a new method to extract the sets of residue positions which were involved in correlated mutations. We also discuss a method to detect changes of correlation among co-evolving residues.
著者
高田 礼人 堀本 泰介
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

インフルエンザウイルスは、表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって様々な亜型に分けられる。現在まで、インフルエンザワクチンは主にウイルスHAに対する血中抗体を誘導することを目的としてきた。しかし、現行の不活化インフルエンザワクチンは抗原性が異なるHA亜型のウイルスには全く効果がない。本研究の目的はこれを克服し、全てのA型インフルエンザに有効な免疫法を検討する事である。これまでに、ホルマリンで不活化したインフルエンザワクチンをマウスの鼻腔内に投与すると、様々な亜型のウイルスに対して交差感染防御が成立することを明らかにした。これにはウイルス表面糖蛋白質に対する亜型特異的中和抗体以外の免疫応答が関与していると考えられた。免疫したマウスのB細胞を用いてハイブリドーマを作出した結果、ウイルス蛋白質に対するIgAおよびIgG抗体を産生するハイブリドーマクローンが多数得られる事が判った。これらの中には様々な亜型のウイルスに交差反応性を示す抗体があった。H1、H2、H3およびH13亜型のHAをもつウイルスに交差反応性を示す中和抗体が得られたため、そのエピトープを同定した結果、このモノクローナル抗体はHAがレセプターに結合する領域の近傍を認識する事が明らかとなった。この領域の構造は亜型に関わらず類似性が高いため、交差反応性を示すことが推測された。これらの結果は、全ての亜型のウイルスに対する抗体療法の可能性を示唆している。また、今後同様に免疫したマウスから得られた交差反応性を示すIgA抗体を用いて血清亜型に関わらずに様々なウイルスに対する交差感染防御のメカニズムを解析する。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。