著者
河岡 義裕 喜田 宏 堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2000

全世界で2000万人以上のヒトを殺したスペイン風邪のように、新型インフルエンザウイルスの出現派は世界的な大流行を引き起こし、未曾有の大惨事を引き起こす。1997年に香港に出現したH5N1新型インフルエンザウイルスは、18名のヒトに直接伝播し、6名の命を奪った。幸いにもヒトからヒトへと伝播することはなかったが、病原性の強さはスペイン風邪に匹敵するほどであった。近年我々が開発したリバース・ジェネティクス法を用いることで、ウイルス蛋白質に任意の変異を導入し、哺乳類での病原性獲得メカニズムを明らかにすることが可能になった。本研究は、香港で分離されたH5N1ウイルスをモデルとして、トリインフルエンザウイルスがどのようにヒトに病原性を示すようになるのかを分子生物学的に解明することを目的とした。哺乳類に強い病原性を示すウイルス株と弱い病原性を示すウイルス株とのアミノ酸配列を比較すると、それらの間には数箇所しか違いがないことがわかった。各アミノ酸に点変異を導入しウイルスを人工合成することで、どのアミノ酸が哺乳類における病原性発揮に関与しているかを調べた。その結果、RNAポリメラーゼ蛋白質を構成するPB2蛋白質の627番目のアミノ酸の変異(グルタミン酸がリジン)が、トリインフルエンザウイルスが哺乳類で病原性を発揮するために必要であることが明らかになった。
著者
河岡 義裕 堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 大隈 邦夫
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

インフルエンザは毎年のように高齢者やハイリスクグループの超過死亡の原因となっている。また前世紀には3度の世界的大流行を起こし、数千万人もの命を奪った。ワクチンは感染症予防において最も有効な手段のひとつである。現在わが国で使用されているインフルエンザワクチンは不活化ワクチンであり、症状の重篤化は予防できるが、感染そのものの予防には限界がある。米国で承認された弱毒生ワクチンは数アミノ酸が自然変異によって変化した弱毒化ウイルスであり、病原性復帰の危険性が指摘されている。1999年に我々が開発したリバース・ジェネティクス法により、任意に変異を導入したインフルエンザウイルスを人工合成することが可能になった。本研究では、リバース・ジェネティクス法を用いて、より安全かつ効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発を目的とした。今回は、インフルエンザウイルス増殖に必須の蛋白質であるM2蛋白質に欠損変異を導入し、生ワクチン候補株となるかどうかを確認した。M2蛋白質に欠損変異を導入したウイルス株は、培養細胞を用いると親株と同様に効率よく増殖するが、マウスを用いた実験では弱毒化していることが明らかになった。このようにリバース・ジェネティクス法を用いることで、従来の生ワクチンよりも安全なワクチン株の作出が可能になったといえる。今後は、他のウイルス蛋白質にも人工的に変異を導入し、さらに安全で効果的なインフルエンザ生ワクチンの開発に努める。
著者
宮沢 孝幸 見上 彪 堀本 泰介 小野 憲一郎 土井 邦雄 高橋 英司 見上 彪 宮沢 孝幸 遠矢 幸伸 望月 雅美
出版者
東京大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1997

本研究はベトナムに棲息する各種食肉類(ネコ目)から、レトロウイルスを分離・同定し、既知のレトロウイルスとの比較において、レトロウイルスの起源の解析を試み、さらにレトロウイルスの浸潤状況を把握し、我が国に棲息する野生ネコ目も含めたネコ目の保全に寄与することを目的とする。本年度はホーチミン市近郊およびフエ市近郊で2回野外調査を行い、ハノイ農科大学で研究成果発表を行った。さらに、台湾においても家ネコの野外調査ならびに学術講演を行った。まずホーチミン市近郊の家ネコおよびベンガルヤマネコより採血を行い、血漿中のネコ免疫不全ウイルス(FIV)、ネコ巨細胞形成ウイルス(FSV)に対する抗体およびネコ白血病ウイルス(FeLV)のウイルス抗原を調べた。FeLVは家ネコ、ヤマネコともに陽性例は見られなかった。FIVは家ネコの22%が陽性であったが、ヤマネコには陽性例はなかった。FSVは家ネコの78%、ヤマネコの25%が陽性であった。次いで家ネコの末梢血リンパ球からFIVの分離を試み、6株の分離に成功した。env遺伝子のV3-V5領域の遺伝子解析から、5株がサブタイプCに、1株がサブタイプDに属することが明らかとなった。サブタイプCはカナダと台湾で流行していることが報告されている。今回の結果からホーチミン市近郊のFIVは、カナダや台湾から最近持ち込まれたか、もともと日本を除くアジアでサブタイプCが流行していた可能性が考えられた。アジアでのFIVの起源を明らかにするためには今後、ベトナム、台湾以外のアジア諸国のFIVの浸潤状況調査とザブタイピング解析を進める必要があると思われる。また、今回レトロウイルス以外のウイルス感染疫学調査から、ネコヘルペスウイルス1型、ネコカリキウイルス、ネコパルボウイルスの流行が明らかとなった。特に、ネコパルボウイルスでは今まで報告のない新しいタイプの株(CPV-2cと命名)を分離した。
著者
村上 晋 堀本 泰介
出版者
日本ウイルス学会
雑誌
ウイルス (ISSN:00426857)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.161-170, 2017-12-25 (Released:2018-10-24)
参考文献数
25

これまでインフルエンザウイルスには,人の季節性インフルエンザウイルスや鳥インフルエンザウイルスなどが含まれるA型からC型が知られていた.最近,これらとは性質が異なり,ウシをはじめとする家畜に感染するD型インフルエンザウイルスの存在が米国で報告された.これまでの疫学調査によって,D型インフルエンザウイルスは日本を含む世界中で流行し,特にウシの呼吸器病症候群を引き起こす原因ウイルスの一つであることが明らかとなってきた.本稿では,D型インフルエンザウイルス発見の経緯,流行状況,ウイルス性状について解説するとともに,日本におけるD型インフルエンザの流行状況について紹介する.
著者
村上 晋 堀本 泰介 河岡 義裕
出版者
日本DDS学会
雑誌
Drug Delivery System (ISSN:09135006)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.616-626, 2009 (Released:2010-02-16)
参考文献数
65

インフルエンザウイルスのリバースジェネティクスの確立により,ウイルス蛋白質を任意に改変した変異ウイルスの作製が可能になった.そういった変異ウイルスは,現在のインフルエンザの基礎研究において欠かすことのできない有用なツールとして活用されている.また,応用面においても,現在備蓄が進んでいるH5N1プレパンデミックワクチンには本法を用いて作製された弱毒変異ウイルスが用いられている.今後,変異ウイルス作製技術は,インフルエンザの次世代ワクチンの開発にも大いに貢献することが期待される.一方,リバースジェネティクスを用いた外来性エピトープや外来性遺伝子を発現する組換えインフルエンザウイルスの構築により,効果的な免疫応答を惹起する多価ワクチンや遺伝子治療用デリバリーベクターへの応用が考えられている.現時点では,組換えウイルスの安定性,発現性,増殖性などの問題点を改善する必要性が指摘されているものの,インフルエンザウイルスベクターの持つ数多くの利点を活かすべく実用化を目指したさまざまなアプローチが展開されている.
著者
堀本 泰介 田代 眞人
雑誌
臨床と微生物 = Clinical microbiology (ISSN:09107029)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.439-445, 1996-07-25
参考文献数
26
著者
堀本 泰介 福田 奈保 岩附(堀本) 研子 GUAN Yi LIM Wilina PEIRIS Malik 杉井 俊二 小田切 孝人 田代 眞人 河岡 義裕
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.303-305, 2004-03-25
被引用文献数
1

1997年に人から分離されたH5N1インフルエンザウイルスの赤血球凝集素(HA)に対する単クローン性抗体を,DNA免疫法を利用して作製した.これらの抗体を用いて,H5型ウイルスのHA抗原性を解析したところ,1997年および2003年に人から分離されたH5N1ウイルスの間で抗原性がかなり異なることがわかった.
著者
伊藤 壽啓 喜田 宏 伊藤 啓史 大槻 公一 堀本 泰介 河岡 義裕
出版者
鳥取大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1999

1997-1998年にかけて香港において鶏由来高度病原性インフルエンザウイルスがヒトに伝播し、18名の市民が感染し、うち6名を死に至らしめた。このウイルスはいずれの株も鶏に対しては一様に全身感染を引き起こし、高い致死性を示したが、哺乳動物に対する病原性では明らかに2つのグループに区別された。すなわちグループ1は50%マウス致死量(MLD_<50>)が0.3から11PFUの間であり、もう一つのグループ2はMLD_<50>が10^3以上であった。この成績から鶏由来高度病原性インフルエンザウイルスの哺乳動物に対する病原性にはウイルス蛋白の一つであるヘマグルチニンの開裂性に加えて、さらに別の因子が関与しているものと推察された。一方、野生水禽由来の弱毒インフルエンザウイルスを鶏で継代することにより、弱毒株が強毒の家禽ペストウイルスに変異することが明らかとなった。この成績は自然界の水鳥が保有している弱毒のインフルエンザウイルスが鶏に伝播し、そこで受け継がれる間に病原性を獲得し得る潜在能力を保持していること、また鶏体内にはそのような強毒変異株を選択する環境要因が存在することを示している。また、この過程で得られた一連の病原性変異株はインフルエンザウイルスの宿主適応や病原性獲得機序のさらなる解明のための有用なツールとして今後の研究に利用できる。そしてそれはプラスミドから変異インフルエンザウイルスを作出可能なリバースジェネティクス法の併用によって、さらに確実な研究成果が期待されるであろう。現在はその実験系を用いた人工ウイルスの作出に成功しており、今後、最終段階である感染実験による病原性獲得因子の解析を計画している。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸 高田 礼人 安田 二郎 下島 昌幸
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

人畜共通新興再興感染症は人類の脅威である。特に、H5N1 高病原性鳥インフルエンザの世界的な蔓延とヒトへの感染は、インフルエンザの新たな世界的大流行(パンデミック) を危惧させている。本研究では、こういった世界情勢を鑑み、H5N1 ワクチン開発のための基礎研究を実施した。その結果、不活化ワクチン製造のためのシードウイルスの発育鶏卵ならびにMDCK 細胞における増殖基盤を明らかにし、その知見をもとに高増殖性シードウイルスの作出に成功した。本成果は、今後のインフルエンザワクチン開発におおいに貢献することが期待される。
著者
堀本 泰介 前田 健 川口 寧 杉井 俊二 土屋 耕太郎 五藤 秀男 田島 朋子
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

ブタ用多価組み換えウイルス生ワクチンを開発するためには、まずベクターウイルスの選択を検討しなければならない。この目的に合うベクターウイルスとしては、(1)ブタに感染するが病原性の弱いもの、あるいは確実に弱毒化されているもの、(2)比較的サイズの大きな複数の外来性の遺伝子の挿入が可能なもの、(3)外来抗原を長期間発現可能な持続感染性のもの、が理想的であると考えられる。本研究では、この条件に合うものとしてブタサイトメガロウイルス(Porcine Cytomegalovirus : PCMV)のベクター化を考えた。その基礎知見の獲得のため、PCMVのゲノム構造および主要蛋白質の性状解析を実施し、以下の研究成果を得た。(1)PCMVゲノムDNAの制限酵素切断プロファイルを明かにし、切断断片のクローニングに成功した。(2)ヘルペスウイルスの主要遺伝子である主要ゲノムの転写複製に必須であるDNAポリメラーゼ遺伝子、粒子形成に必須であるカプシッド蛋白遺伝子、細胞レセプターへの結合に関与する糖蛋白質gB遺伝子、およびこれら周辺の遺伝子クラスターの同定、塩基配列を決定した。(3)これら主要遺伝子の分子系統解析の結果、PCMVはベータヘルペスウイルス亜科、特にヒトヘルペスウイルス6型および7型と非常に近縁なウイルスであることを発見した。(4)いくつかの必須遺伝子の発現実験により蛋白質の分子構造解析、あるいは免疫性状などについて検討した。(5)PCMV感染の有無を判定する高感度で特異性の高いMCP遺伝子配列に基づくPCR法を確立した。さらに、濾紙乾燥血液をこの方法に応用した。これらの成果は、細胞性・液性免疫の誘導や組み換えワクチン作製に関する基礎的な情報を提供するのみならず、今後、獣医畜産学および豚の臓器を利用した異種移植に関する臨床医学の発展に大きく貢献するものと考えられる。
著者
川口 寧 前田 健 堀本 泰介 見上 彪 田中 道子 遠矢 幸信 坂口 正士
出版者
名古屋大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2000

本研究の目的は'bacterial artificial chromosome (BAC) systcm"を用いてヘルペスウイルスの簡便な組み換え法を開発することによって、新しいワクチン開発、遺伝子治療ベクターの開発、基礎研究を著しくスピードアップすることにある。本研究課題によって得られた結果は以下の通りである。ヘルペスウイルスで最も研究が進んでいる単純ヘルペスウイルス(HSV)の組み換え法の確立をBAC systemを用いて試みた。外来遺伝子の挿入によって影響がでない部位であるUL3とUL4のジャンクション部位にLoxP配列で挟まれたBACmidが挿入されたHSV全ゲノムを大腸菌に保持させることに成功した。大腸菌よりHSVゲノムを抽出し培養細胞に導入したところ、感染性ウイルス(YK304)が産生された。また、YK304とCre recombinase発現アデノウイルスを共感染させることによって非常に高率にYK304 genomeよりbacmidが除去されたウイルス(YK311)が得られた。YK304およびYK311は培養細胞において野生株であるHSV-1(F)と同等な増殖能力を示した。さらに、マウス動物モデルを用いた解析によりYK304およびYK311がHSV-1(F)と同等の病原性を示すことが明らかになった。以上より、YEbac102は、(i)完全長のHSV-1 genomeを保持し、(ii)bacmidの除去が可能であり、(iii)野生株と同等な増殖能および病原性を保持する感染遺伝子クローンを有していることが明らかになった。大腸菌の中で、実際に任意の変異をウイルスゲノムに導入する系を確立した。RecAを発現する大腸菌RR1にHSV全ゲノムを保持させた(YEbac103)。YEbac103内で、RecA法に従って、ICP0遺伝子に3つのアミノ酸置換を導入することに成功した。また、RecAを発現するトランスファープラスミドを構築し、RR1を用いずに、RecA negativeの大腸菌YEbac102内で、ICP34.5部位に変異を導入することに成功した。YEbac102、YEbac103と確立した組み換え系は、HSVの基礎研究、ワクチン開発、ベクター開発に多目的に有用であると考えられる。またこれらの系は他のヘルペスウイルスにも応用可能である。
著者
見上 彪 前田 健 堀本 泰介 宮沢 孝幸 辻本 元 遠矢 幸伸 望月 雅美 時吉 幸男 藤川 勇治
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は猫に対する安全性、経済性、有効性全てに優れる多価リコンビナント生ワクチンを開発・実用化することである。以下の成績が得られた。1.我々は猫ヘルペスウイルス1型(FHV-1)のチミジキナーゼ(TK)遺伝子欠損株(C7301dlTK)の弱毒化とそのTK遺伝子欠損部位に猫カリシウイルス(FCV)のカプシド前駆体遺伝子を挿入した組換えFHV-1(C7301dlTK-Cap)の作出に成功した。C7301dlTK-Capを猫にワクチンとして接種した後にFHV-1とFCVの強毒株で攻撃したところ、猫は両ウイルスによる発病から免れた。しかし、FCVに対する免疫応答は弱かった。2.そこで、更なる改良を加えるために、FCVカプシド前駆体遺伝子の上流にFHV-1の推定gCプロモーターを添えた改良型組換えFHV-1(dlTK(gCp)-Cap)を作出した。培養細胞におけるdlTK(gCp)-Capのウイルス増殖能はC7301dlTKとC7301dlTK-Capのそれと同じであった。dlTK(gCp)-CapによるFCV免疫抗原の強力な発現は関節蛍光体法及び酵素抗体法にて観察された。加えてdlTK(gCp)-Capをワクチンとして接種した猫は、C7301dlTK-Cap接種猫と比較した場合、FCV強毒株の攻撃に対してその発症がより効果的に抑えられた。3.猫免疫不全ウイルス(FIV)のコア蛋白(Gag)をコードする遺伝子をFHV-1のTK遺伝子欠損部位に挿入したC7301ddlTK-gagを作出し、In vitroでその増殖性や抗原の発現を検討した。この2価ワクチンは挿入した外来遺伝子の発現産物が他の蛋白と融合することなく、自然の状態で発現するように改良されたリコンビナントワクチンである。培養細胞での増殖性は親株であるC7301とほぼ同じであり、イムノブロット解析により、C7301ddlTK-gagは前駆体Gagを発現していた。
著者
矢部 貞雄 中山 幹男 山田 堅一郎 北野 忠彦 新井 陽子 堀本 泰介 増田 剛太 見藤 歩 田代 眞人
出版者
The Japanese Association for Infectious Diseases
雑誌
感染症学雑誌 : 日本伝染病学会機関誌 : the journal of the Japanese Association for Infectious Diseases (ISSN:03875911)
巻号頁・発行日
vol.70, no.11, pp.1160-1169, 1996-11-20
参考文献数
17
被引用文献数
7 14

1985年から1995年にかけて, 主に東南アジアからの入・帰国者でデングウイルス感染が疑われる症例について, 血清学的診断及びRT-PCRによるデングウイルス遺伝子の同定を行い, 輸入感染症としてのデングウイルス感染の重要性を検討した. デング熱を疑われて検査依頼のあった不明熱患者は173例であった. その内77例がデングウイルス2型抗原に対してペア血清によるHI抗体価の有意上昇, あるいは単一血清で320倍以上のHI抗体価を示したことから, デングウイルス感染と診断された. 一方, ペア血清で4倍以上の抗体価の上昇が認められた15例については, 3例で回復期の抗体価が80倍以下, また12例では回復期が160倍と低かったため, いずれもデングウイルス感染が疑われたが確定診断は不可能であった. 患者の旅行・滞在先の地域別では, タイが39名と最も多く, 続いてフィリピン15名, インド13名, インドネシア9名であった.<BR>HI試験では, デング患者血清は日本脳炎ウイルス (JEV) 抗原との問に異常に高い交差反応が見られたが, IgM-Capture ELISA法ではこのような交差を認めなかった. 一方, JEV感染患者血清ではデングウイルス2型に対するHI試験での交差はほとんど認められず, デングウイルス感染備のJEV抗原に対するHI交差反応は一方向的なものであることが明らかとなった. またデング熱患者血清について, デングウイルス1~4型のE~NS2領域に対する各プライマーを用いてRT-PCRを行ったところ, 第三病日以内の血清3例からデングウイルス1型の遺伝子が, また第4病日の血清1例からデングウイルス2型の遺伝子が検出された.
著者
岩附 研子 堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

インフルエンザウイルスの核外輸送に関わるNS2蛋白質のN末側に、蛍光標識蛋白質(Venus)を組み込み、蛍光標識組換えウイルスの作製を行った。このウイルスを培養細胞(Madin-Darby Canine Kidney細胞)に感染させ、共焦点顕微鏡を用いてタイムラップス解析を行ったところ、NS2蛋白質が一度核内に集積した後、一気に核外に放出される映像をリアルタイムでとらえることに成功した。本研究で得られた蛍光標識組換えインフルエンザウイルスは、NS2蛋白質の細胞内輸送を解明する有効なツールとなることが期待できる。
著者
塩田 邦郎 高橋 英司 遠矢 幸伸 明石 博臣 高橋 英司 前田 健 宮沢 孝幸 塩田 邦郎 堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1999

ネコ免疫不全ウイルス(FIV)は、後天性免疫不全症候群(エイズ)様症状のネコから分離され、ヒト免疫不全ウイルスと同じくレトロウイルス科レンチウイルス属に分類される。本研究はFIV感染防御上大きな役割を担っていると考えられるCD8陽性細胞およびNK細胞を中心に、そのphenotypeと抗FIV活性を解析することを目的としている。当該研究期間において以下の項目について研究を行い、新たな知見を得た。1.NK細胞マーカーの解析:ネコFcγRIII-Aの膜貫通型分子のクローニングとネコCD56抗原のバキュロウイルス組換え発現に成功した。CD56についてはモノクローナル抗体(MAb)も作製した。2.CD8α+β-or low細胞群の解析:ネコCD3εを組換え発現させた蛋白を抗原としてMAbを作製し、FIV増殖抑制活性を有するCD8α+β-or low細胞群のフローサイト解析に用いた。その結果、当該細胞群はT細胞系であると考えられた。3.ネコCD2の性状解析:免疫応答において重要なT細胞表面抗原CD2のネコホモローグをクローン化してその塩基配列を決定した。解析したcDNAには1008塩基対の翻訳可能領域が含まれており、336アミノ酸をコードし、その配列は他の動物と46〜57%の相同性を有していた。さらに、抗ネコCD2MAbを作製したところ、得られた抗体はネコCD2のEロゼット形成を阻止し、フローサイトメトリーによるネコ末梢血中のCD2陽性細胞の検出に有用であることが示された。4.ネコCD11aの抗体作製:CD2と同様、免疫応答に重要な接着分子CD11aのネコホモローグのcDNAをバキュロウイルスにより組換え発現させ、抗ネコCD11aMAbを作製した。T細胞の活性化に伴うCD11aの発現量増加が認められ、ネコ末梢血中の活性化T細胞の解析に有用であった。
著者
高田 礼人 堀本 泰介
出版者
北海道大学
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2004

インフルエンザウイルスは、表面糖蛋白質ヘマグルチニン(HA)およびノイラミニダーゼ(NA)の抗原性によって様々な亜型に分けられる。現在まで、インフルエンザワクチンは主にウイルスHAに対する血中抗体を誘導することを目的としてきた。しかし、現行の不活化インフルエンザワクチンは抗原性が異なるHA亜型のウイルスには全く効果がない。本研究の目的はこれを克服し、全てのA型インフルエンザに有効な免疫法を検討する事である。これまでに、ホルマリンで不活化したインフルエンザワクチンをマウスの鼻腔内に投与すると、様々な亜型のウイルスに対して交差感染防御が成立することを明らかにした。これにはウイルス表面糖蛋白質に対する亜型特異的中和抗体以外の免疫応答が関与していると考えられた。免疫したマウスのB細胞を用いてハイブリドーマを作出した結果、ウイルス蛋白質に対するIgAおよびIgG抗体を産生するハイブリドーマクローンが多数得られる事が判った。これらの中には様々な亜型のウイルスに交差反応性を示す抗体があった。H1、H2、H3およびH13亜型のHAをもつウイルスに交差反応性を示す中和抗体が得られたため、そのエピトープを同定した結果、このモノクローナル抗体はHAがレセプターに結合する領域の近傍を認識する事が明らかとなった。この領域の構造は亜型に関わらず類似性が高いため、交差反応性を示すことが推測された。これらの結果は、全ての亜型のウイルスに対する抗体療法の可能性を示唆している。また、今後同様に免疫したマウスから得られた交差反応性を示すIgA抗体を用いて血清亜型に関わらずに様々なウイルスに対する交差感染防御のメカニズムを解析する。
著者
堀本 泰介 五藤 秀男 高田 礼人
出版者
東京大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2002

インフルエンザウイルスが細胞に感染すると、細胞内で多数の子孫ウイルスが短時間で複製され、細胞外に放出される。この時、ウイルス感染に伴う細胞応答、つまり様々な細胞性因子がこの一連の過程を制御している。本研究では、それらの細胞性因子を同定し、解析することを目的とした。その成果は、効果的で副作用のない新しい抗インフルエンザウイルス薬の開発につながると考えられる。本研究では、その新しい解析方法として、自己発動性組み換えインフルエンザの応用を考えた。つまり、感受性細胞のcDNAをランダムに組み込んだ組み換えインフルエンザウイルスを構築し、それを非感受性細胞に接種した時のウイルスの増殖を指標にし、感染を制御する細胞性因子を同定しようという試みである。つまり、その場合に、ウイルスに組み込まれたcDNAを同定することにより、細胞性因子の同定が可能になる。昨年度のパイロット実験では、耐性細胞上で増殖を再獲得した組み換えウイルスを選択することはできなかった。そこで本年度は、新たに変異誘導剤ICR191を用いて、ウイルス感染耐性CHO細胞株を72クローン樹立した。さらに、人の肺組織由来のcDNAを新規に購入し、それを用いて組み換えウイルスを再度調整した。これらを、耐性細胞に接種した結果、残念ながら増殖を再獲得するような細胞株は得られなかった。その原因が、耐性細胞株側にあったのか、組み換えウイルス側にあったのかは現時点では不明である。
著者
堀本 泰介
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2002

本研究では、リバース・ジェネティクス法により人為的に多段階の弱毒化を施し、さらに1つの粒子中に現在人で流行中の三種類のHA遺伝子(A/H1,A/H3, B)を同時に組み込んだHA重複組み換えウイルスワクチンの開発を最終目的とする。このワクチンは現在用いられている三種類のウイルスHAを混合した不活化ワクチンに比べ、接種量の制限が排除され、体内の抗原量を増すのみならず、粘膜免疫、細胞性免疫をも誘導できるため優れた免疫効果が期待される。さらに、間違いなく安全性、経済性にも優れる。この組み換えワクチンを作製する前提として、二種類以上のHA遺伝子があるいはキメラHA遺伝子がウイルス中に組み込まれる必要がある。そこでまずA型HIウイルスとB型ウイルスのキメラ遺伝子を構築し、その感染性ウイルス粒子への取込みを検討した。その結果、A型ウイルスHAのN末側シグナル領域より上流(3'非コード領域を含む)とC末側トランスメンブレン領域より下流(5'非コード領域を含む)をB型ウイルスHAに入れ換えたA/BキメラHA遺伝子が効率良く感染性ウイルス粒子中に取り込まれることを発見した。さらに、この組み換えウイルスは、B型野生株の攻撃に対して高い防御効果が認められた。これらの成績から、HA遺伝子のパッケージングおよびHA蛋白質の相互機能性についての情報が獲得でき、今後のHA組み換えウイルスの構築に大きく貢献する。現在、各種HA組み換え体の構築を進めている。