著者
金沢 吉展
出版者
明治学院大学心理学部付属研究所
雑誌
明治学院大学心理学部付属研究所年報 = Annual Report of the Meiji Gakuin Institute for Psychological Research (ISSN:18827241)
巻号頁・発行日
vol.12, pp.53-65, 2019-07

心理療法の終結に関する研究においては,中断に関する研究が多く,効果的な終結に関する研究は少ない。後者の研究からは,終結時には終結行動と呼ばれる一定の行動が見られ,これらの行動と心理療法の効果との間に関連が見られることが報告されている。一方中断に関する研究においては,当初はクライエントのデモグラフィック要因に注目した研究が多く行われてきたが,最近の研究においては中断の定義の不明確さが指摘され,また,作業同盟,セラピスト- クライエント関係,そしてその関係に関わるセラピスト-クライエントの両者が中断に影響を与えていることが示されている。加えて,セラピストとクライエントの間には,心理療法の目標や期間等について認識の違いがあることが示されており,こうした認識の違いが中断に影響していることが示唆されている。最後に,これらの研究から得られる実践上の示唆と今後の研究上の課題について論じた。
著者
金沢 吉展 岩壁 茂
出版者
明治学院大学心理学会
雑誌
明治学院大学心理学紀要 = Meiji Gakuin University bulletin of psychology (ISSN:18802494)
巻号頁・発行日
vol.23, pp.137-147, 2013-03-30

日本の心理臨床家が臨床家を志した当初の動機および現在臨床業務に取り組む動機について,日本語版「心理臨床家の成長に関する調査票」(DPCCQ-J)の自由記述回答を基に検討した。「臨床家になる元来の動機や理由とその動機をもった時期」に対する116名の回答と「現在心理臨床業務を行う動機」に対する115名の回答を,グラウンデッド・セオリー法と合議的質的研究法に基づく質的分析法により分析した。当初の動機としては,他者貢献への意欲が最も多く,次いで,心理学,心理療法,あるいは心の働きに対する知的・職業的好奇心が挙げられた。現在の動機にも他者を援助することへの意欲が最も多く挙げられたが,32.1%の回答は回答者自身にとっての臨床業務の意義について述べたものであった。業務上あるいは経済的な必要性も当初の動機・現在の動機ともに少なからずみられた。臨床家の教育訓練にどのような課題が示唆されるかについて論じた。
著者
金沢 吉展
出版者
明治学院大学心理学部付属研究所
雑誌
明治学院大学心理学部付属研究所年報 = Annual Report of the Meiji Gakuin Institute for Psychological Research (ISSN:18827241)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.33-41, 2018-07

日本の心理職にとって長年の懸案であった法的資格である公認心理師法が制定された。しかしこの法律および関連する制度について,海外の同種の資格と比較すると様々な課題が指摘される。公認心理師に求められる知識・技術,ならびに業務の定義が曖昧であることにより,今後の混乱が懸念される。資格試験受験資格が大学院修了ではなく学部卒も含まれていること,資格更新制度が採用されていないことは,資格制定の目的である一般市民の保護に資するのか,疑問が提示される。卒後教育が必要であることは当然であるが,全国で充実した卒後教育を受けられるようなシステム作りが必要である。法的資格取得後の公認心理師の質向上について,関連する学会や職能団体が果たす役割は大きいと言える。
著者
中村 光 岩永 可奈子 境 泉洋 下津 咲絵 井上 敦子 植田 健太 嶋田 洋徳 坂野 雄二 金沢 吉展
出版者
THE JAPANESE ASSOCIATION FOR MENTAL HEALTH
雑誌
こころの健康 : 日本精神衛生学会誌 (ISSN:09126945)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.26-34, 2006-12-30

本研究の目的は, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動に影響を及ぼす要因を明らかにすることであった。ひきこもり親の会 (セルフヘルプグループ) に参加している家族153名から自記式質問紙による回答を得た。その結果, 以下のことが明らかにされた。(1) 家族の85.6%がひきこもり状態を改善するために相談機関を必要としている。(2) 精神疾患に対する偏見が家族の受療行動を阻害する可能性がある。(3) 相談機関の存在や所在地を知っていることが, 家族の受療行動を促進する可能性がある。(4) 家族にとって保健所や精神保健福祉センター, 電子メールによる相談は利用しにくく, 反対に電話相談は利用しやすい可能性がある。(5) ひきこもり状態にある本人が相談機関来所を拒否すると, 家族の受療行動を阻害する可能性がある。調査結果の検討を通して, ひきこもり状態にある人を持つ家族の受療行動を促進する方法が議論された。