著者
角屋 恵 川合 祐貴 井上 登太
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.D3O3087, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】嚥下障害は咽頭期の機能障害だけでなく、呼吸機能低下や免疫力低下など様々な要因により誘発される。慢性閉塞性肺疾患(以下COPD)においても全体の約9%に嚥下障害を認めるという報告がある。今回COPD症例を重症度別に分類し、呼吸機能と嚥下機能との関係について検討を行ったので報告する。【方法】COPD症例119例。COPD症例を重症度別にstage1群(FEV1≧80%)58名、stage2群(50%≧FEV1>80%)41名、stage3群(30%≧FEV1>50%)14名、stage4群(30%>FEV1)6名に分類した。なお平均FEV1はstage1群にて104.32±16.79%、stage2群にて66.15±7.60%、stage3群にて41.30±5.83%、stage4群にて24.70±4.84%であった。年齢、BMI、改定水飲みテスト(以下MWST)、反復唾液嚥下テスト(以下RSST)、頚部胸部聴診法(以下CCA)の5項目に関して、各stage間で比較検討を行うために、統計的手法としてスチューデントのt検定を使用し、p<0.05を有意水準とした。【説明と同意】本研究の内容と意義を説明し、結果の利用に同意を頂いたCOPD症例119例を対象とした。【結果】年齢はstage1群70.76±13.26歳、stage2群72.49±10.10歳、stage3群71.14±14.05歳、stage4群68.33±10.71歳であった。年齢は各stageともに有意差を認めなかった。BMIはstage1群22.83±2.98、stage2群21.59±3.82、stage3群19.81±2.87、stage4群18.57±3.37であった。BMIはstage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には認めなかった。MWSTはstage1群4.82±0.53、stage2群4.80±0.51、stage3群4.71±0.61、stage4群4.33±1.03であり、各stage間は有意差を認めた。RSSTはstage1群4.71±0.70回、stage2群4.65±0.76回、stage3群4.71±0.73回、stage4群4.17±0.75回であり、各stage間に有意差を認めた。CCAはstage1群で20.7%に、stage2群で24.4%に、stage3群で35.7%に、stage4群に50%に気道侵入を認め、stage1-2・2-3間において有意差を認めたが、stage3-4間には有意差を認めなかった。【考察】結果より、呼吸機能低下の進行に伴い嚥下機能も低下していることがわかった。COPDでは頻呼吸や呼吸困難感により吸気時に嚥下が行われたり、咽頭筋の機能・協調障害などによって嚥下障害が生じると言われている。FEV1≧80%の軽症であってもCCAでは全体の2割に気道進入を認めていることから、高齢COPD症例の場合は呼吸機能低下が軽度でも嚥下障害の可能性があることを配慮しなければならないと思われる。COPDは全身性疾患であり、呼吸機能だけでなく嚥下機能も低下し、誤嚥性肺炎の発症のリスクが高くなる。さらに呼吸不全・嚥下障害が悪化することで、栄養摂取量低下や易感染性を招くという悪循環に陥りやすいため、定期的に呼吸状態の評価を行うだけでなく、同時に嚥下機能の評価も行い、適切なケアを行う必要があると思われる。 【理学療法学研究としての意義】COPD症例に対する呼吸リハビリテーションに理学療法士として関わっていく際に、息切れや歩行能力等の評価も必須だが、嚥下障害が出現していないかを考慮し、評価・治療プログラムの立案を行っていく必要があると思われる。
著者
山口 倫直 伊藤 秀隆 鈴木 典子 高橋 猛 井上 登太
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.D3P2548-D3P2548, 2009

【目的】呼吸機能検査においてスパイロメロリーは簡便でかつ比較的侵襲性の低い検査方法であるが,正確なデータを得るには検査技師の技量のみならず,被験者の協力,努力が必要不可欠である点が挙げられる.さらに測定値にばらつきが出やすいことが問題になっている.6秒量(以下FEV6)は呼気開始時点から最初の6秒間に呼出された気量のことで,努力肺活量(以下FVC)の代用として注目されている.今回我々はFVCの代用としてFEV6の有用性について検討したので報告する.<BR><BR>【方法】計画内容を説明のうえ協力の同意を得た被験者25名(男性14名,女性11名,平均年齢68.5歳)を対象とした.方法は,英国フェラリス社製PiKo-6にてFEV6,FEV1,FEV1/FEV6を測定し,またフクダ電子社製Spiro Sift Sp-750にて肺機能検査を行いFVCの測定を行った.そこでFEV6とFVCとの相関を評価した.統計手法として,ピアソン相関係数をおこないp < 0.05を有意水準として判定した.<BR><BR>【結果】Piko-6によるFEV6測定値とSpiro Sift Sp-750によるFVC測定値との相関を評価した結果,相関係数r = 0.838と高い相関を示した.<BR><BR>【考察】FVCの測定は肺気量分画を測定するとき以上に被験者の協力,努力が必要で,特に閉塞性換気障害を有する場合,胸腔内圧の上昇から引き起こされる循環動態の変化から,胸部不快感や稀に失神などの危険性も孕んでいる.呼出努力の時間を6秒間に限定することにより合併症のリスクが減少すると考えられる.また閉塞性換気障害が高度な場合,呼出の終末に近づくに従い呼気流速が著しく低下してスパイロメーターの測定感度を下回る状態が続くことがあり,結果として測定終了点が不明確になることも少なくない.この測定終了点の明確さにおいてもFEV6はFVCに比べ測定値のばらつき少ないと言える.<BR>PiKo-6はFEV6の測定に機能を絞った安価な測定機器であり,従来のスパイロメーターと比較して小型・軽量で持ち運びに便利な上,操作も安全かつ簡便で検査者による測定値の差が出にくい利点がある.今回の結果から,PiKo-6によりFEV6の測定を行うことでFVCの代用としての有用性が示唆された.FEV6の採用により測定時間が大幅に短縮され,限られた時間内により多くの検査やスクリーニングが可能になると思われる.さらに,ベッドサイドや訪問リハビリなど様々な場面,様々な職種における簡便な呼吸機能評価が可能になることが期待される.<BR><BR><BR>【まとめ】Piko-6によるFEV6測定値とスパイロメーターによるFVC測定値との相関を評価した.その結果,相関係数r = 0.838と高い相関が認められた.FEV6はFVCよりも簡便でかつ安全に施行でき,検査者による測定値の差が出にくい特徴がありFVCの代用としてのFEV6の有用性が示唆された.FEV6は呼吸器疾患,特にCOPDなどの閉塞性換気障害に対して有効な評価方法であり,今後の呼吸リハビリテーションの発展への貢献が期待される.
著者
井上 登太 鈴木 典子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.45-49, 2007-04-27 (Released:2017-04-20)
参考文献数
8

嚥下障害を示す症例においては,高い機能を保持している症例では上肺・中肺野異常影を示すものが多く,誤嚥性肺炎を診断困難にする要因の一つといえる.誤嚥性肺炎の胸部単純レントゲン診断においては,ADL,摂食食態,嚥下機能の評価にも注目する必要性がある.
著者
井上 登太
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.238-244, 2011-12-28 (Released:2016-07-05)
参考文献数
18

高齢化に伴い老人性肺炎,誤嚥性肺炎の増加は非常に大きな問題とされている.嚥下食の問題として,一般的に使用されている増粘剤やゼリーの特徴の理解が必要であり,病態の問題として,誤嚥性肺炎の4病態それぞれ発生原因・治療方法が異なることを覚えておく必要がある.さらに,リスク管理として,多くの全身的要因により影響され慢性的経過をとることが多いことを忘れず,全身状態・評価環境と摂食環境を併せた総合的な判定が重要である.これらを踏まえ,多職種の協力とチーム内の認識統一,本人・家族の希望,社会的状況,残存機能を踏まえた指導内容の決定,予防,早期治療のため地域啓発,医療・介護職の知識・技術の啓発を含む包括的呼吸嚥下リハビリテーションが進められている.
著者
出口 裕道 井上 登太 鈴木 典子 伊藤 秀隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.D0485, 2006

【はじめに】末期癌患者に対する理学療法においてその意義は(1)疼痛と苦痛の緩和 (2)ADLの拡大 (3)精神的な援助と報告されている。また、注意点・問題点として(1)過度の体力消耗の助長 (2)具体的理学療法ゴールが定めにくい (3)患者の入院生活の中での精神的不安定性などが考えられる。今回、末期肺癌患者を担当することとなり、その時に感じたことなど考察を加えて報告する。<BR>【症例】71歳女性。数十年来重症糖尿病にて入退院されたのち呼吸苦にて受診、肺腺癌との診断にて14~18週余命と診断され、Best Supportive Careを選択された。<BR>【経過】本症例において、一日複数回訪室、院内チームアプローチ、家族を含めての理学療法指導を終始一貫して行った。終末期ケア目標として、可能なうちの積極的な外泊、それが達成された後、車椅子での散歩と設定した。経過中、患者‐家族間の関係が粗悪となるも、医師の介入と家族へのケア目標の提示にて関係回復が見られ、最期は家族の積極的介護のなか死去された。<BR>【考察】終末期患者において入院生活中の体力運動能力低下と疾患進行、死への恐怖による苛立ちは日一日大きくなっていく場面を観察する。それが家族にぶつけられることは多く、その結果家族の介護疲れ、介護拒否が見られることは少なくない。また、病状変化と精神的変動は終末期患者においてその他理学療法施行患者に比して明らかに大きく、医療介護職員を困惑させることも多い。経過中本症例において家族との関係悪化に遭遇し、家族に対し医師より具体的な患者との関わり方法を提示することで関係が回復する場面にも立ち会ったことより、終末期患者をもつ家族において患者との関わりの中での困惑、無力感によるストレス蓄積を観察することができた。患者の長期的予後を正確に見据え治療ケアの方向を統一するための医師を中心としたチームアプローチ、患者の病状・精神変化・残された運動能力を正確に把握したうえでのゴールの設定・変更、家族の心の変化をも踏まえたアプローチにより、最終的に家族の積極的介護を得られ、その中で患者の臨終を迎えられたものと考える。また、入院時寝たきりであった患者に対し、過度の体力消耗に留意した積極的運動指導により立位動作車椅子移乗動作が可能となり、最期まで理学療法を継続することで得られた能力を維持していくことが可能であり、終末期において長期的に体力運動能力低下が予測される症例であっても理学療法が大きな意義を持つことが示唆された。<BR>
著者
井上 登太 鈴木 典子
出版者
一般社団法人 日本呼吸ケア・リハビリテーション学会
雑誌
日本呼吸ケア・リハビリテーション学会誌 (ISSN:18817319)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.50-56, 2007-04-27 (Released:2017-04-20)
参考文献数
12

誤嚥を評価するスクリーニング法としては簡便であり,かつ低コスト・普遍性が高い等の条件を満たすものが望ましい.これらを満たす誤嚥評価項目として,むせ・咳,SpO2の低下,呼吸パターン変化,HRの変化,血圧変化,胸部呼吸音,頸部聴診法に注目し,これらの結果を同一症例のVF(嚥下造影検査)の結果と比較し評価した.その結果,呼吸音,頸部聴診法が,それぞれ93.2%,89.5%と高い感度を示した.しかしながら頸部聴診法に関しては,21.1%の症例におき偽陽性を示す結果となった.症例が元来もつ呼吸雑音,心雑音,頸動脈雑音が偽陽性出現を助長している可能性が示された.介護看護の場において簡便なこれらの聴診法を用いることにより,随時,臨床の場で嚥下状態が推測されうる.