著者
鈴木 淳 井上 麻夕里
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.177-188, 2012-09-15 (Released:2019-09-01)
参考文献数
59
被引用文献数
1

造礁サンゴの石灰化について,特に溶存無機炭素の役割に着目し,これまでに提唱されている石灰化メカニズムをレビューした。サンゴの石灰化は造骨細胞と骨格に挟まれた間隙の,いわゆる石灰化母液で進行する。石灰化の進行には,この石灰化母液にカルシウムイオンと溶存無機炭素(特に炭酸水素イオン)が適切に供給される必要があり,石灰化の阻害因子となる水素イオンが適切に除去されなければならない。造骨細胞に存在する炭酸脱水酵素は溶存無機炭素の供給に寄与していると考えられる。サンゴの石灰化機構の解明は,いまだ道半ばであり,今後の一層の研究の進展が待たれる。サンゴの石灰化メカニズムの解明は,その海洋酸性化影響を評価する上でも重要である。
著者
吉村 寿紘 井上 麻夕里
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.81-99, 2016-05-15 (Released:2018-10-25)
参考文献数
101
被引用文献数
1 1

カルシウムは海水の主成分元素であり,生体必須元素でもある。化学風化で岩石から溶け出したカルシウムは土壌で動植物に利用され,河川や地下水に運搬されて,最終的には海に注ぎ,そこで炭酸カルシウム,リン酸カルシウムなどの固体として多様な生物に利用される。海洋におけるカルシウムの挙動は炭素循環と密接に関連しており,現代と過去の地球環境変動の理解にとって欠かせない。カルシウム安定同位体比の高精度測定が可能となって20 年弱が経過した。本総説では,海洋に関連する各リザーバーの同位体組成とそれを駆動する生物学,化学,地球化学的な反応過程について,現代と過去のカルシウム循環を紐解くツールとしての役割とともに概説する。
著者
智原 睦美 福嶋 彩香 川幡 穂高 鈴木 淳 井上 麻夕里
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.64, 2017

<p>熱帯域における過去の気候変動に関する情報は、全球的な気候システムを理解する上で重要である。しかし、熱帯域における気象観測データは少なく、1950年以前からの連続的なデータはほとんど存在していない。そこで本研究では西太平洋に位置するフィリピンのサンゴ骨格試料についてSr/Ca比の分析を行い、約2ヶ月の時間分解能で1778年から1890年までの過去110年分に相当する海水温を復元した。Sr/Ca比の測定にはICP-OESを使用し、測定誤差は0.5%未満であった。今回の発表では、サンゴ骨格中のSr/Ca比から復元した海水温の記録とその時系列解析に基づき、西太平洋周辺の海水温と気候イベントとの関係について考察していく。</p>
著者
諏訪 僚太 中村 崇 井口 亮 中村 雅子 守田 昌哉 加藤 亜記 藤田 和彦 井上 麻夕里 酒井 一彦 鈴木 淳 小池 勲夫 白山 義久 野尻 幸宏 Ryota Suwa Takashi Nakamura Akira Iguchi Masako Nakamura Masaya Morita Aki Kato Kazuhiko Fujita Mayuri Inoue Kazuhiko Sakai Atsushi Suzuki Isao Koike Yoshihisa Sirayama Yukihiro Nojiri 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所 九州大学付属天草臨海実験所 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 琉球大学大学院理工学研究科 琉球大学大学院理工学研究科 東京大学海洋研究所 琉球大学熱帯生物圏研究センター瀬底研究施設 産業技術総合研究所 琉球大学 京都大学フィールド科学教育研究センター瀬戸臨海実験所 国立環境研究所地球環境研究センター Seto Marine Biological Laboratory Field Science Education and Research Center Kyoto University Amakusa Marine Laboratory Kyusyu University Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Graduate School of Engineering and Science University of the Ryukyus Graduate School of Engineering and Science University of the Ryukyus Ocean Research Institute The University of Tokyo Sesoko Station Tropical Biosphere Research Center University of the Ryukyus Geological Survey of Japan National Institute of Advanced Industrial Science and Technology(AIST) University of the Ryukyus Seto Marine Biological Laboratory Field Science Education and Research Center Kyoto University Center for Global Environmental Research National Institute for Environmental Studies
出版者
日本海洋学会
雑誌
海の研究 (ISSN:09168362)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.21-40, 2010-01-05
参考文献数
102
被引用文献数
3

産業革命以降の二酸化炭素(CO_2)排出量の増加は,地球規模での様々な気候変動を引き起こし,夏季の異常高海水温は,サンゴ白化現象を引き起こすことでサンゴ礁生態系に悪影響を及ぼしたことが知られている。加えて,増加した大気中CO_2が海水に溶け込み,酸として働くことで生じる海洋酸性化もまた,サンゴ礁生態系にとって大きな脅威であることが認識されつつある。本総説では,海洋酸性化が起こる仕組みと共に,海洋酸性化がサンゴ礁域の石灰化生物に与える影響についてのこれまでの知見を概説する。特に,サンゴ礁の主要な石灰化生物である造礁サンゴや紅藻サンゴモ,有孔虫に関しては,その石灰化機構を解説すると共に,海洋酸性化が及ぼす影響について調べた様々な研究例を取り上げる。また,これまでの研究から見えてきた海洋酸性化の生物への影響評価実験を行う上で注意すべき事項,そして今後必要となる研究の方向性についても述べたい。The increase of the atmospheric carbon dioxide (CO_2) concentration after the industrial revolution caused global climate change. During the last several decades, coral reef ecosystems have been devastated by the mass-scale coral bleaching events caused by abnormally high seawater temperature in summer. In addition, increased atmospheric CO_2dissolves in the ocean, acts as an acid and finally decreases the pH level of seawater. This phenomenon, known as ocean acidification, is now being considered as a future threat to the calcifying organisms in coral reef ecosystems. In this review, we summarize basic backgrounds of ocean acidification as well as its potential impacts on coral reef calcifiers. Together with the distinctive mechanisms of calcification among specific groups, we review the impacts of ocean acidification on major reef-builders such as scleractinian corals, calcareous red algae and reef-dwelling foraminifera. Finally, we point out some recently-recognized problems in acidified seawater experiments as well as the future direction of this research field.
著者
井上 麻夕里 中村 崇 田中 泰章 鈴木 淳 横山 祐典 川幡 穂高 酒井 一彦 Nikolaus Gussone
出版者
一般社団法人日本地球化学会
雑誌
日本地球化学会年会要旨集
巻号頁・発行日
vol.65, 2018

<p>本研究ではサンゴの骨格成長における褐虫藻の役割を明らかにするために、褐虫藻有りと無しのポリプ試料を作成し、温度、塩分、pCO2を調整した水槽で飼育した。飼育実験の後、ポリプ骨格について6種類の化学成分を分析した。その結果、海水のpH指標とされているU/Ca比についてのみ、褐虫藻有りと無しの間に有意な差が見られた。これは、褐虫藻有りのサンゴ体内のpHが上昇していることを示しており、これにより褐虫藻と共生関係にあるサンゴは骨格成長が早いことが分かった。</p>