著者
井上 史雄 宇佐美 まゆみ 武田 拓 半沢 康 日高 水穂 加藤 和夫 今村 かほる
出版者
明海大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2003

本研究では、日本海側に分布する諸方言の地理的年齢的動態に着目して、総合的な実態調査を行った。線状の地域で年齢別にことばを調べて図化する「グロットグラム」(地理×年齢図)の手法は、日本方言学が独自に開発した、世界に誇るべき新技法である。本研究では、共同の現地調査により、日本海側のことばの動きを明らかにし得た。第1年度は、異なった機関に属していた研究者が、多様な研究手法を統一する手法について打合せを行った。また、各自がこれまで実施してきた調査との連続性を図るために、各地で継続調査を行なった。また全体調査の項目選定のための準備調査を行った。各分担者の調査地域を調整し、調査時期・調査技法の統合も行った。第2年度には、日本海ぞいの多数地点でグロットグラム(地理×年齢図)のための実地調査を行った。調査員としては、分担者および方言研究の経験のある協力者(小中高の教師)や大学院生・ゼミ生が参加した。データは調査終了後すぐにコード化した。各分担者のデータを統合し、配布した。第3年度には、グロットグラムのための実地調査を継続し、計画地点のデータを得た。分担を決めて、グロットグラムの図を作成した。集計に各分担者のもとのパーソナルコンピュータを利用することにより、グロットグラムも迅速に作製できた。日本海側各県で新方言・気づかない方言の使用状況に顕著な地域差がみられた。以前の調査の結果と対比することにより、太平洋側との様相の違い、東京からの影響の違いなどを確認できた。関連テーマの資料を合わせて年末に報告書を作成し、国内の方言研究者、言語変化の研究者に配布した。これにより、今後の関連調査の解説に役立つことと期待される。また成果の一部は夏の方言学国際会議(カナダ)で発表した。
著者
岩城 裕之 友定 賢治 日高 貢一郎 今村 かほる
出版者
呉工業高等専門学校
雑誌
萌芽研究
巻号頁・発行日
2006

1 医療現場での方言をめぐる問題に地域差がみられること各地でのアンケートや臨地調査によって、方言を巡る問題に地域差があることが明らかとなった。具体的には、富山の場合、県内のごく狭い範囲で、体調を表す重要な語について使用・不使用があったり、意味が異なる場合が存在することが分かった。一方、青森では多くの語が難解であり、医療場面で想定されるすべての語彙、表現の記述が必要となることが明らかとなった。2 方言データベースの作成と公開青森、広島、富山、飛騨のデータを収録した方言データベースを作成、公開した。いわゆる聞き取りにくい方言について、検索する際に想定されるいくつかの入力パターンを調査し、いずれのパターンでも適切な候補を表示できるようなシステムを構築した。方言研究者であれば一定のルールの中で記述するが、医療関係者などの非方言研究者は、必ずしもそうではないことに配慮したためである。結果的に、使いやすい方言辞書を追求することとなった。また、現地で収録した音声を加工し、データベースの多くの語や一部の文例について、クリックすることで音声を聞くことができるようになった。揺れのある入カパターンから適切な候補を見つけ出すことのできる方言辞書やデータベースは、ほとんど前例がなく、ユニークな成果であると思われる。3 コミュニケーションマニュアルの作成青森県津軽において、いくつかの定型的問診場面を取り上げ、方言による対話例を作成した。しかし、共通語の問診と異なり、いわゆる日常の挨拶や雑談をはさむことが「方言的」であったため、マニュアルにはなじまないと考えられ、今後も研究を重ねていく必要があると思われる。
著者
今村 かほる
出版者
弘前学院大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

遠藤熊吉は昭和4年の著作の中で、既に「共通語」という用語を用いた。また、方言の存在や価値を認めた上で、国語教育の目指すべき対象は「標準語」であるとした。戦後の方言と共通語の教育は、遠藤熊吉が理論的背景となった昭和29年の「標準語教育論争」をきっかけに方言をなおしたり、なくしたりするものという位置づけに変化がおこった。これからの方言の教育は、コミュニケーションツールとしての方言に注目すべきである。